『忘れたくても忘れられない』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
忘れたくても忘れられないことは誰にでもある
それはそう思っているから忘れられないんじゃない?
でもやっぱり難しいよね
『忘れたくても忘れられない』
こんな月が綺麗な日はあなたの事を思い出す
いつも私のことを抱きしめてくれた
一緒に色々な所へ行った
私の知らないことをたくさん教えてくれた
毎日が幸せだった
あなたとこの先もずっと一緒にいられると思っていた
でも、それは叶わなかった
あなたのことを忘れようと努力した
でも、あなたより好きになれる人なんていなかった
またあなたに会いたい
もう一度私のことを抱きしめて…
『忘れたくても忘れられない』
好きだったの。
私なんかに振り向いてくれるはずないってわかっていても言わずにはいられないくらいに。
貴方にも忘れられない人がいるって知っていたのに。
私はあの人とは似ても似つかないのに。
あの日、貴方に抱きしめられて優しく口づけされたこと、一生忘れられない。
例え貴方に気持ちがなかったとしても。
歩いてたどり着いた小さな公園には
滑り台が置かれていた。まるで忘れたくても忘れられない思い出を持っている人のようだった。
それは粗大ゴミに出された冷蔵庫のようにも見えた。
2つあるはずのブランコは片側だけしか無く投げ捨てられ、洗濯機の裏へ落とされたくつ下のような存在の仕方をしていた。
水たまりで休息する雀を横目に、ブランコを囲む黄色い手すりに腰をかけた。
ここに来るために歩いてきたわけではないのだ。
ー何でも忘れられる男ー
忘れたくても忘れられない記憶?何もないよ。何故かって?私にはある特殊能力があるからね。忘れたい記憶を忘れる能力がね。
例えば、好きな子に告白して振られるとか、仕事でミスをして上司に怒られるとか、大切な人が亡くなるとか、ありとあらゆる、忘れたいと思った、嫌な記憶を忘れられるのさ。だから、私は、ハッピーで良い思い出しか頭にないんだ。羨ましいだろ。
皆も使いたいだろうからやり方だげ教えて上げる。最初にノートを開いた状態で用意するんだ。次に頭の中で忘れたい記憶を思い浮かべたら、開いたノートの右ページ目を見ながら忘れたい記憶を写つイメージをする。そうしたら、手で右ページにある紙を破いて、丸めて捨てると忘れることか出来るのさ。お陰で、ゴミ箱が溢れるばかりに捨てた紙だらけさ。
ちなみに私は、誰だっけ?
テーマ やわらかな光
月に霧 言葉にならぬ 鎮魂歌
もしもピアノが 弾けたとしても
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西田敏行さんは、私の中でも替えの効かない名俳優で、探偵!ナイトスクープの温かい局長でした。
悲しい時の鼻歌はなんと言えば伝わるのでしょう。
ご冥福をお祈りします。
スーパームーンと呼ばれる満月の夜。雲隠れというには薄いと感じるような膜。霧だろうか。(霧も月も秋の季語らしい。2つ入っちゃった)やわらかな光が満ちていて、彼のよう。お隠れになっていても彼の作品におけるその光は私を照らすのでしょう。
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テーマ 忘れたくても忘れられない
自らの心の醜さを自覚した数々の瞬間
「忘れたくても忘れられない」ほど辛い記憶は
思い出せる限り存在しない。恐らく忘れたのであろう。
球技大会で学年全員にPKを外したところを見られたことも
センター試験の2週間前に振られたことも
信頼していた友達に裏切られたことも。
ん?今こうして羅列できたということは
「忘れたくても忘れられていない」のか。
違う気がする。
「忘れたくても忘れられない」レベルでなくなったのだ。
時間の経過は間違いなくそのレベルを下げてくれるし、
楽しいことで自分をレベルアップさせれば相対的に辛いレベルは下がっていく。
毎日へのログインとレベル上げは大事。
(忘れたくても忘れられない)
忘れたくても忘れられない
明日は来てほしくないな
一生忘れられない日
X年前僕が高校生だった頃この日は文化祭だった
準備に追われながらも楽しみにしていた
だが、この日は黒で塗り潰されていく
友人の訃報が飛び出したのだ。
それはそれはおどろいたさ
なんせ僕は前日、学校であいつに当たって
まともな別れもできてなかった
そんなあいつはなんの変哲もなくて相変わらず
わかりやすくて、どこか掴めない
そんなやつだった
僕はいまだに忘れられず毎年この場所に来る
行ったのは俺だった可能性もある
そんなことも時々思う
そんなやつに言われてたさ
「お前は普通って言葉好きよな
けど、俺はその言葉はちょっとキライかな。
普通に縛られて誰かの真似事して
自分押し潰して
何が楽しいのか俺はわからない
だけど好きにしたらいいと思うけど
俺はお前が大変だと思うから言うが、
自由に生きろよ。」
僕は良くことこいつに話聞けよと言われるが
あまり覚えてなかった
けど、これだけは覚えてる
あいつはいつでもどこか心配して
どこか貶してどこか楽しんでいて
どこか苦しそうだった
だけど、僕も病んだりしてそれどころじゃなかった
だから、あいつの思いに気づけなかった
俺は愚かだと何度も悔やんだが
僕はあいつを追いかけるなんてもってのほか
そう思い本日も生きる
あいつの死因は自殺だった
なんの言葉も残さずに急な出来事だったそうで
ご家族もおかしくなっていった
周りのやつだって反応は十人十色だった
だけど、心配する奴はそんないなかった
あいつより僕の方が優れてると
心のどこかで思ってしまった
見てるか知らんけど
お前のせいで強く生かされている
死んだなら少しくらい言葉を残せやバカやろう…
死ぬまで覚えてくれていたのなら、それはもう永遠ですね。
今朝、発熱してしまい仕事を休ませてもらった。と、言っても、俺が自ら休んだと言うより、起きられない俺を心配した恋人が俺の職場に連絡をとってくれていた。
「ご飯、持ってきましたよー」
彼女がトレーを持って寝室に入ってくる。
持ってきてくれたのは、たまご粥とプリンと栄養ゼリー。カットフルーツもある。
「俺、寝ている時に買い物行ってきたの?」
「あ、はい。ガッツリ食べられそうならお野菜蒸しますよ」
「ううん、今あるやつで充分だよ」
お椀に分けて、俺に差し出す。
それを見て俺は少し甘えてみようかなとイタズラ心が生まれた。
俺は口を開けて、少し上を向く。彼女の方に口を差し出す形をとる。
「あーん」
「ふえ!?」
「あーん」
折角ならね、食べさせてもらおうかなと。
「あーん」
「え、え……」
照れもあるのか、どうしようかと挙動不審になる。
「疲れちゃう。はーやーく」
「あ、ごめんなさい」
慌てて彼女はマスク越しにふーふーする。空気がマスクに遮断されたのか、マスクを外してひと口分のたまご粥に向けてふーふーし始める。
――ぱく。
ん!?
もくもくと口を動かす彼女。当たり前の動作に俺まで呆然としてしまった。そして、こくんと飲み込んだ。
「あ!!!」
「あははははははは」
「いや、ごめんなさい、ちょ、笑わないでください」
「あはははは、ふっくくくくく……んふふふふ」
「抑えきれてませんよ!」
ダメだ、完全にツボった。
彼女は真っ赤になりながら慌てている。
「いや、だって、自分で食べる時も、あ、いや、もおぉおぉおぉ!!!」
「あはははははは」
笑い過ぎて、疲れて起こしていた身体を倒した。
「あ、あ、大丈夫ですか……?」
「いや、少し疲れちゃった」
彼女は慌てて立ち上がり、部屋を出ていったかと思えば、居間のソファに置いてあるクッションを持ってきた。
その後、自分の枕も持ってくる。そして、俺の身体を支えながら起こしてくれた。その後、背中にクッションやら枕を挟んだ。
「寄りかかれますか?」
「ありがとう」
枕とクッションを背もたれにした。
そして、もう一度たまご粥を掬い、ふーふーする。
「食べないでね?」
「食べません」
「んふっ……」
「笑うなら食べさせませんよー」
「ごめん、食べさせて」
「はい、あーん」
さっきのやり取りのおかげか、最初の照れはなくなったみたいだった。ちゃんと口元へ運んで食べさせてくれた。
卵の甘さと軽い塩味が美味しい。
「食べられそうですか?」
不安そうに俺を見つめる。飲み込むと自然と口角が上がった。
「うん、食べられる。でも、自分で食べようかな」
「え、いいんですか?」
彼女からたまご粥のお椀を受け取った。
「うん。俺が食べた後にうっかり食べちゃったら大変でしょ……んふふ……」
「心配してくれているのは分かるんですけど、なんか腹立ちます」
「ごめん、しばらくツボってると思う」
「むー!」
唇を尖らせている彼女だけれど、彼女の天然的なうっかりに、これ以上にないくらい面白かった。
いや、本当に忘れたくても忘れられない。
おわり
一五四、忘れたくても忘れられない
#忘れたくても忘れられない
幼稚園の父親参観日
仕事のスケジュールを調整して祖父が来てくれた
赤茶色の背広にネクタイをかっちり締めて
どの若いお父さんたちより粋だった
やたらに声や手をかけずに見守られる中
私は誇らしさと共に大きく安堵していた
父がいないことを揶揄われたりしたらなんて
もうすっかり忘れていた
どんな想いでそこにいてくれたのだろう
きっと私が思う以上に色んな事を思ったのではと思う
大人になった今でもこの日の事を思い出す
嬉しかった 誇らしかった 幸せだった
ありがとう おじいちゃん
忘れたくても忘れられない。
金木犀がつれてくる、甘くて切ない想い出。
あの日、僕が先輩にたった二文字だけ返していたら。
あのとき、ちゃんと引き留めておけば。
金木犀の香りは甘い想い出ばかりのはずなのに、それは同時に梅雨の苦しい思い出まで連れてくる。
忘れたくても忘れられない。
…ううん、ちがうね。
忘れたいのに、忘れたくなくて、ぐちゃぐちゃになる。
あの梅雨の日を思い出すから苦しい。なら、先輩とのことぜんぶぜんぶわすれたい。
でも先輩と過ごした金木犀の季節は確かに色鮮やかで、わすれたくない。
先輩。
僕はもう、先輩のいない世界でどう生きればいいのかわからないんです。
─忘れたくても忘れられない─ #97
(トラウマ的な忘れたくても忘れられない思い出がよぎったときには、あーしにたい、と呟いてむりやり記憶に一時的な蓋をしています。よくはないことだとは分かってるけど、これが一番効果あって楽になるんだよなぁ)
「あなたがいつまでも記憶の中にいることがどれほど残酷なことなのか、あなたにも分かってほしいけれど、あなたにとって私の存在は私にとってのあなたの存在ほど大きくないから、会えなくなって数年経ったって平穏で健全なままでいられるのでしょう。
私の世界に比べてあなたの世界は広いから、仮に存在が同じ大きさであったとしても、きっとその数パーセントも占めさせてくれないのでしょう。
あなたの両親と親友と恋人とペットと同僚を殺したのは、そのことが気に食わないという理由です。わざわざ手紙にして伝えたのは、あなたは私の話を遮ることがあるからです。
あなたに殴られてできた傷が消えてしまうのが嫌で、私は瘡蓋を剥がし続けています。あなたに持ち去られたお金が元に戻るのが嫌で、お給料が入金される通帳を変更しました。あなたの罵倒を忘れるのが嫌で、寝る前に復唱することにしています。
私はあなたの何パーセントになったでしょうか」
電灯の音だけ聞こえる。頭の芯が痺れて、思考の全てがボヤけている。縄が手首にくい込んで痛い。何度も読み上げさせられて、喉が渇いてきた。100パーセントです、とまた叫んだけど、水はもらえなかった。
忘れたくても忘れられない
あなたからもらったものを
見ると捨てることができないの…
未練
忘れたくても忘れられない
でも…
次に進む為にあなたに出会い
疎遠になった
ハンドルを握っているけど
動かない車のよう
立ち止まっている
いつ、動き出すのだろう
もう…あなたは去っていったの
それが現実
現実を受け入れられなくて
つらい
あなたは去っていった
忘れたくても忘れられない
何度も何度もリピートしても
変わらない
でも…あなたからもらったものには
愛が確かにあった
愛が愛を運んでる
だから…
目に見えないあなたとわたしは
繋がっている
愛が愛を運んでいるから
忘れたくても忘れられない。いや…何があっても忘れたくない大切な日
それは、俺と妻が結婚する前の事。俺は慣れない高速道路を雨の中、少し緊張しながら彼女を乗せ、彼女の実家へと向かっていた。彼女の両親への結婚のお願いの為に(1泊2日で)
ちなみに俺の両親はあっさり彼女との結婚を認めてくれた
同棲中の彼女とアパートを出たのは11時頃の事だった。本当は9時頃にアパートを出る予定だったけれど、二人で録画が溜まっていたドラマを見ていたら遅くなってしまった。
アパートを出発して高速道路に乗ってから2時間程した頃だった。途中のサービスエリアで一緒に、休憩も兼ねて温かい わかめうどんを注文して昼食として食べた。だけど彼女の両親への結婚のお願いの緊張感からか、注文した わかめうどんが美味しく感じられなかった。失礼な話、本当に美味しくなかったかも知れない。
ちなみにこの時以外、そのサービスエリアは年越しの為に家族4人で妻の実家へ行く途中のトイレ休憩としてしか利用しておらず、そこで食事をしたのはその時1度きりなので真相は不明です
30分程で昼食を終えると雨が弱まってきていた。
それから15分程、再び高速道路を走行していた時にラジオで
渋滞情報を耳にして、時間がかかりそうだったから途中で降り、そこからは下道を使って、高速道路を走行する時よりは
緊張感を緩めて彼女の実家まで車を走らせた。その為、当初の到着予定時刻よりも、最終的に彼女の実家への到着時刻が大きく遅れる事になり、到着したのは夕食の少し前でした😓
渋滞を抜けた先の高速道路に再び乗ると言う方法も有りましたが、普段以上の強い緊張感から抜け出したいと言う思いもあってその日は、再び高速道路に乗る事はやめました😅
カーナビを頼りに、少しずつだけど確実に近づく彼女の実家への緊張感から、俺は少し気持ち悪かった。ちなみにその時彼女は、そんな俺の気持ちなんて知らないとでも言いたい様に口を小さく開けて少しヨダレを垂らして寝ていた。その当時は正直
(人の緊張感も知らないで呑気に寝るな)と、起こして言いたい気持ちはありました😅 それから30分程で目を覚まし、あくびをしながら「寝てた?」と言った時は少しイラっとしましたw
彼女の実家へ行く途中、○EON(企業名につき伏せ字)で彼女の両親への手土産として、一番高い菓子折りを買いに寄った。その時には完全に雨は止んでいた。そこで俺達の対応をしてくれたのは、彼女の高校時代のクラスメイトだったみたいで、彼女とそれなりに親しげに話していた
彼女の実家へ到着した時には、外はすっかり暗くなっていた。俺は彼女の実家の横に車を停め、彼女と一緒に家に入った
「ただいま。遅くなってごめん」
俺はこの時、緊張して何と言ったか覚えてません💦
リビングでは彼女の両親がテレビを見ていた。
それから少しして夕食が始まった。その夕食の途中で高校生の彼女の弟が部活から帰ってきて少し会話をした。それからすぐに彼女の弟は机に置いてあったおにぎりを2個食べると、塾へと自転車で行った。ちなみにその日の夕食はステーキでした。
夕食が終わるとそれからは4人の気まずい時間。俺が「お願いがあります」と言おうと思った時、彼女のお母さんが「皆んなで歩きにこ。食後の運動」そう言って4人で彼女の通っていた小学校まで片道15分程のウォーキングをする事に。俺は彼女のお母さんから懐中電灯を借り、4人でのウォーキングが始まった
その道中で彼女のお父さんに話しかけられた
「ステーキどうやった?美味しかったか?」
「はい」
「それは良かった」
そこで会話が終わってしまって気まずく感じた。そこから俺は彼女の両親と少し離れ、彼女と一緒に今日の事を話しながら歩いた。
30分程のウォーキングを終え、程よく汗をかいて帰ってきたら今度は彼女のお父さんから「2人で一緒に風呂入りに行くか」
そう誘われて、俺の運転で、車で片道10分程の温泉施設に向かった。けれど車内で互いに無言の時間が続いて地獄だった。風呂でも会話なんて殆ど無かった。そして風呂上がり。「運転ありがとうな」と言って牛乳を奢ってくれて、一緒に飲んで家まで帰った。それから再び会話は無く、長時間の運転の疲れもあった俺は先に寝る事にし、電気を消して客間に敷かれた布団に入ってウトウトしていた時、客間の襖が小さく開けられて、彼女のお父さんが俺に声をかけてきた
「親としてはまだあの子、人に出すには心配だけど、それでもええか?」
それに俺は迷わず答えた
「同棲して得意不得意も分かりました。それでもこの先も一緒に居たいです」
「変わりもんやなぁ。でも、あの子も同じ事言っとったし。それなら貰ってくれ」
そう言った彼女のお父さんの声はどこか寂しくも嬉しそうな声だった。
「はい」
こうして俺の長い一日は終わった。
忘れたくても忘れられない 作:笛闘紳士(てきとうしんし)
忘れたくても忘れられない
ずっと覚えている。ずっと引きずっている。
中学生の頃、小学生の頃、なんなら幼児の頃の、
いわゆる黒歴史。どうせ私以外誰も覚えてないのに。
みんなそのくらいやらかしてるはずなのに。
分かっていても、ふと思い出すと死にたくなってくる。
だから、過去を振り返る暇もないくらいに今を。
今をただ走って上書き保存したい。
記憶はいつか昇華される。どんな記憶でも思い出に。
忘れたくても忘れられない人。そんなもの経験してみたいよ。皆、泣きながら言うよ。別れたあの人の事が忘れられないの、ってさ。貴重な涙、労力をよくもそんな物に割けるなと、もはや感心すらしてしまうよ。
妬み嫉妬なんて醜いものではない。恋人がいなかったわけでは無いから。でも出会いも別れも、特別な感情は生まれなかった。私の心になんの色も残していかなかった。
……続く
考えてしまう癖がついている。虚を埋めて安心しているのだ。あんなに泣いていたのに今度は自分で自分を傷つけている。哀れだ。
【忘れたくても忘れられない】
忘れたくても忘れられない。
忘れたくても忘れられないのは
お母さんの
冷たい手。
誰かの
触ったっけ?
綺麗な満月には
うさぎが見える。
ここはアキナイ王国、モウカリマッカ通り。
国で最も商売が盛んな場所だ。
あちらこちらで客を呼び込む声が聞こえてきて、とても賑やかだ。
「あらー、今日もここは賑やかですわねー」
そんな騒がしい場所に似つかわしくない、のんびりとした雰囲気をもつ少女がやって来た。
彼女の名前は、オフィーリア=アキナイ。
この国の第一王女であり、やらかい物腰から『やわらかな光』と呼ばれている。
国民にも分け隔てなく接することから、国民から親しまれる人気者だ。
しかし高貴な身分である彼女が、いったいなぜこんな場所にいるのか?
それはこの国の成り立ちに関係している。
この王国は、大昔に商人が起こした国であり、伝統的に『王族は国一番の商人であるべし』と思われている。
そのため王族であるオフィーリアは商売の事を学ぶため、機会を見てはモウカリマッカ通りにやって来るのである。
しかし、ここは百戦錬磨の商人が集まる商人通り。
そんな生き馬の目を抜くような商売をしている人間ばかりいる場所だ。
儲けのためなら危ない橋を渡り、法律すれすれのことも行うことも珍しくない。
オフィーリアは、穏やかな性格でどう見ても商売に向くよう性格ではない
彼女を見た人間は例外なく、『呑気で世間知らずな箱入り娘』といった印象を受けるであろう。
しかし雰囲気に騙されてはいけない
彼女はこう見えて凄腕の商人なのだ。
彼女は海千山千の商人たちを軒並み震え上がらせる伝説の商人。
信じられなければ、彼女の姿を見つけた商人の顔を見るといい。
彼らの顔は、いつもように笑顔であるが、よく観察すれば少しばかりの緊張が垣間見える事だろう。
彼らはオフィーリアがここにやってきた当初、騙そうと近づいた
この国では、王族相手に商売で騙すようなことをしても罪に問われることは無い。
騙される方が悪いのであり、そして騙されるのも勉強になるからである。
よって『世間知らずのお嬢様』にしか見えないお金持ちのオフィーリアは、絶好のカモにしか見えず、数えきれない数の商人が彼女に商談を持ちかけた。
だがあっけなく返り討ち……
すぐに『彼女は手ごわい』という噂はすぐに広がり、かつて光に集まる虫のように群がっていた商人たちも、今では遠巻きに見るばかりである
だが若い商人たちはそうでもない。
彼らは若さゆえに、目の前の大きな儲け話を見ないことは出来ず、虎視眈々と機会を伺っていた。
そして今日もまた、オフィーリアを騙そうと一人の若い商人がやってきた。
◇
「オフィーリア様、綺麗な首飾りをお買いになりませんか?
高名な職人がその腕によりをかけた逸品です」
「あら、素敵。
いろいろな物を見たけど、これほど素晴らしい首飾りは見たことが無いわ」
「お褒め頂き嬉しく思います。
私は是非ともあなた様に、この首飾りを付けて頂きたいと思います。
いかかでしょう?」
「素晴らしい提案だわ!
でもお高いんでしょう?」
「お値段は200万Gです」
「まあ!!」
嘘である
確かにこの首飾りは素晴らしい逸品だ。
しかし商品の適正価格は50万G
そこから手数料や輸送費、その他雑費を踏まえても明らかなボッタクリである。
しかしオフィーリアは無知な少女ではない。
彼女は目利きも卓越しており、この首飾りに200万Gの価値は無いことに気づく。
だがそんなことはおくびに出さず、彼女は何も気付かない振りをして会話を続ける。
「あなたお若いのに凄いのね。
こんな高価な商品を扱えるなんて!」
「ありがとうございます」
「でも残念だわ。
この首飾りが欲しいのですけど、あいにく手持ちがありませんの」
「それは残念です。
しかし、私はあなた様のような素敵な女性にこそ、この首飾りを付けて欲しい。
ご希望ならお値引きさせていただきますが……」
「お優しいのね。
では好意に甘えることにしましょう。
私の予算は――」
こうして若い商人は何も気づかぬまま、オフィーリアに値切られていく。
オフィーリアは、巧みに若い商人のほめちぎり、そして狡猾に値引きしていく。
気を良くした商人は気づくことはないまま、商談は進んでいく。
「では、この首飾りは45万Gでお売りするということで」
「ふふふ、こんな素敵な首飾りがお得に買えるだなんて。
今日はなんて良い日なのかしら」
こうして若い商人は最後まで値切られていることに気づかないまま、二人の取引が終わる。
若い商人にとって、この取引は経費などを含めればむしろマイナスである。
だが若い商人は気づかない。
オフィーリアに度々褒められたことで有頂天になった彼は、むしろ得したとさえ思っているであろう。
それこそがオフィーリアの作戦である。
明かに損をしたと分かれば、次から若い商人はオフィーリアに警戒心を抱くだろう。
だが逆に得をしたのであれば、話は別だ。
次も『利益』を得ようと、自慢の逸品を持ってオフィーリアの所までやってくるだろう。
そしてオフィーリアは、また安く商品を買い、商人は儲けたと思って帰っていくのだ……
彼女は、虫の様に自分に寄ってくる商人たちを、焚火の強い火で燃やしつくしたりはしない。
弱い光で殺すことなく、貢物を持ってこさせるのが、彼女のやり方なのだ。
そして弱いとはいえ光、商人たちは少しずつ身が燃えていることに気づかぬまま、買いたたかれていく……
こういう経緯から、商人たちから『やわらかな光』と畏怖され、そして尊敬されているのである。
「朝から幸先が良いわね。
これからどんなものに出逢えるのかしら」
オフィーリアは、先ほど買い上げた首飾りを丁寧に身に着ける。
「さあて、商売の時間よ」
彼女はスキップしながら、雑踏の中に消えていくのであった。