『微熱』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
#微熱
振り向けば
あの日の傷が
未だに疼く
幼い恋 真っ直ぐな思い
言葉にならないキモチは
微熱に浮かされ続ける
初恋の中の愛おしいワタシが
そこに在る
【微熱】
会うたび、貴方は格好良くなって私の瞳には映ってしまう。いつの間にか私の頬は熱く朱みを帯びる。だけど、この気持ちが恋なのかただの尊敬なのか今になって分からなくなってた。
どうして?
あんなにも好きが溢れていたのに…。
貴方の心が解らないのが不安なの?
どうせ私なんて好きになってもらえないと思うから?
私はただの実験対象でしかないの?
最近、貴方が格好良く見えるのは貴方が私ではない誰かに心を奪われているからだと思った。
それを考えると私の心は落ち着かない。
貴方の気持ちが知りたいです。
そうすればきっと私のこの気持ちも救われるのだろう。
軽い微熱
軽い発作だ
こんなの全然普通にあること
あんなやつのせいじゃない
わたしがあいつのこと
意識してるなんてあり得ない
少し触れただけなのに
会話しただけなのに
からかわれてるだけなのに
好きなんて訳ないよ
好きになったら負けなんだから
嫌だよこんなの
わたしは認めない
低くもなく高くもなく
微熱。
元気かと言われたら元気で
しんどいかと言われたらしんどい。
微熱。
微熱
何となく体調が悪い。
熱を測ると37度だ。
どうせならもっと高くなって欲しい。
そうしたら堂々と休めるのに。
〚微熱〛
彼とキスをした。
僕は動けなかった、つぎの瞬間。
彼はそこにはいなかった。
「微熱」とかけまして
「隊長発案のクソ作戦により全滅した」と解きます。
その心はどちらも「体調/隊長」が悪い。
【微熱】
熱に浮かされた意識で君の姿を見た
こんな時にしか夢に出てきてくれないなんて酷い人
微熱
「あーなんか熱っぼいな。」
リビングに入ってくるなり、誰に言うでもなく、独り言にしては大き過ぎる声量で夫が言った。
電子体温計を見つけ出し、おもむろに脇に差し込む。
私は撫でてくれと付き纏う犬の背中を優しく撫でてやりながらチラと夫を見た。
ピピッと電子音が鳴り、体温計を引き抜く夫。
「やっぱりかー、三十六度七分。うん、熱があるな、微熱だ。」
夫は満足気にこちらを向き、体温計の先をチラチラ振ってみせる。
私はその姿を見て無性にイライラしてしまった。
この感情に名前を付けたい。
どうせろくな名前にはならないだろうけど。
足元では、犬がまだ私に撫でろと催促し続けている。
お題
微熱
『微熱』
始まりはきっと、微熱みたいな柔い恋だった。
「好きだよ」
自分の口から出た言葉に驚いて、その後すぐに目の前で呆けた顔をしている君を見つめる。
あ、かわいい。じゃなくて。
「……え」
みるみるうちに紅くなるその顔よりも急速度で自分の体温が上がるのを感じた。
「あ、えっと、ちがくて!」
何が違うんだよと言う感じの言い訳を連ねる。
君の顔はまだきょとんとしたままだ。
「私のこと、好きじゃないの?」
「それは好きだよ?」
咄嗟に出た言葉に心の中で頭を抱えた。
いい感じに誤魔化せるところだったじゃん。今。
僕の手と共鳴して震え始めたグラスを放す。
どうにかしないと、と思考を巡らすけれど、出てくるのは浮気男さながらの言葉ばかりだ。
「私も好きだよ」
そんなことを考えていたから、反応が遅れた。
たぶんさっきの君と同じような表情をして君を見つめる。
え、今、何て言った?
「私は君のこと、ラブで好きだよ」
君はどうなの?
世界が揺れる。
空間をいつもよりゆっくり流れた言葉が、僕の細胞に染み渡る。
頭はパンク寸前だけど、次にしなきゃいけないことはわかった。
僕と同じ少し微熱を持っているかのようなその手を握って、熱を宿した瞳を見つめて、もう一度始まりの言葉を紡いだ。
「ポリニヤ」
テーマ「微熱」
ショートショート ユーモアファンタジー
「常に10人体制で動く、1人にならないようはぐれるなよ!」そう言われて育った、雪国ではこれが当たり前だ。だがその日は1人で動きたかった。俺は集団が苦手だしな、とはいえ危ないことも分かってる。
俺は動物の観察が昔から好きだった。いつか動物の生態に迫るカメラマンになるのが夢で、紆余曲折ありながらも友人の協力も経てようやく夢が叶ったんだ。その友人も同じ仕事を志していた、今や命を預けられる仕事仲間だ。本当はその日は1人で狼の観察に行きたかった。俺が観察し続けている狼の群れが稀に見せる狩猟をカメラに納めたかったんだ。1人でなければ狼に気付かれてしまう、いや1人でもなかなか難しいものだ。しかし、いいと言ったんだが、友人が心配性で付いてくることになった。
なんせその群れの狩猟は特別で、類を見ない。1人では危ないんだとさ。友人はいちどその群れの狩猟を見たことがあったんだが、カメラに収めることは出来なかったらしい。俺はその友人からその話を聞いた時、心が躍った、狼の中には川を利用して狩猟する群れがいると言うんだから。カメラマンとしての血が騒いだ。見ないわけにはいかない。だが、友人はどうしてカメラに収められなかったのか、危険だったので離れることしか考えられなかったと言うだけではっきりと答えようとしなかった。まぁ川を利用する狩猟以外にも何かあるのかもしれない、あってもおかしくない、そう思った。そしてそれは正解だった。もうあの場所へ行くことは出来なくなった。その場所は山奥の見渡す限りが雪に覆われている地域にある。そんな雪景色の中、凍らずに流れ続ける川がある。ユーコン川といった。氷点下−40°でもその川がなぜ凍らないのか、俺は知っていた。ポリニヤという領域だからだ。地熱の力によって川の底は暖かい、表面は凍らずに不凍川となる。ポリニヤは動植物にとって重要な場所であり、鳥や哺乳動物が餌を見つけたり、生息地を利用したりする場として知られている。俺の目をつけている狼の群れはこの川を利用して狩猟するようだが、よく考えてみればこの川に寄ってきた動物を狩っているだけのようにも思える。だが、これもまたこの不凍川のある場所でしか見られない特別な狩猟なんだ。本当に特別な狩猟だったんだ。あれはユーコン川にやってくる生半可な動物を捉えるための狩猟じゃなかったのさ。鹿や熊、魚が目当てではない。狩猟によってあれを無力化し自分達の縄張りを守ろうとしていたんだ。あれはバカでかい氷のゴーレムのような見た目をしていた。狼たちはあれを追い払うために川に近づいてきたところを狙って攻撃をしかけていたんだ。だが、それは何度も失敗に終わっている。そばにいた友人はこれを知っていたに違いない、なぜ俺に言わなかったのか。それは単純で見たものを信じられなかったようだ。そのゴーレムと思わしきものは
その日が近づくにつれ、郡司は段々と落ち着かなくなってきた。
そわそわとした気分のまま、あちらこちらをふらふらふらふら出歩いて、どうしようもない気持ちをどうにもできず、歩き疲れてへとへとになって部屋に戻ってくる。それを何度も繰り返した。
ベッドに寝転んで、寝てしまおうと思えども、神経だけが昂っていて、すぐには眠れずに周囲の生活音が耳に入ってくる。
時折、ケータイが震えるので、逸る気持ちを抑えながらも画面を開くと、それはただの友人からの誘いだった。無視はしないが、がっかりしたのは事実だ。
その日はもう、細やかな物音にですら耳が嫌でも反応してしまう。
こんこんと玄関の方からノックが聞こえてくる。遠くの方から「高千穂くんいる?」という声がする。
一気に血流が動き出したのか、一気に熱くなってきた。特に顔の辺りが湯気でも出てるんじゃないかって思うほどに、熱い。
枕に顔を押し付けて、郡司は玄関扉の前にいる彼女に向かって、開いてる、と声を張り上げた。
しばらく間があってから、ほんとだ、というつぶやきが聞こえた。扉を開ける音は聞こえなかった。
床が軋んで、静かな足音が自分の居場所に近づいていく。ふ、と足音が止まった。背後に気配がする。緩慢な動作で郡司は寝転んだ。
心配そうに自分を見下ろす彼女と目が合った
「高千穂くん、どうしたの。風邪引いた? 大丈夫?」
「……いや、何も要らねえ。別に風邪引いたとかじゃねえから」
「ほんと?」
眉根を寄せて彼女は郡司の顔を覗き込んだ。また彼の顔が朱色の染まっていく。気づかわしげに首を傾げる。
「……なら、いいんだけど」
ふうとてのひらを頬にあてながら彼女は溜息をついた。
「あのね、高千穂くん」
きょろきょろと辺りを見回すと、いつの間にか郡司は向こうの隅に立っていた。
「無理しないでね」
「大丈夫だって」
「なら、何でそんなところにいるの」
「それは、まあ、気にすんな」
「気にすんなって言われても……」
困ったように彼女は眉を八の字にした。しばらく、じいっと郡司を見つめていたが、彼は梃子でもそこから動かぬらしいと悟ったようだ。
すっと立ち上がると、音もなく郡司との間を詰めていく。
心臓が早鐘を打つせいで、何だか頭がぽーっとしている郡司は、気づいたときには真正面に彼女が立っていて、思わず出そうになった悲鳴を呑み込んだ。
彼女は手を伸ばすと、てのひらで郡司の両頬を包み込む。あと少しでキスできそうな距離。
「お誕生日、おめでとう。高千穂くん」
そうささやきながら、彼女は手を放して離れていく。
「あのね、プレゼントなんだけど――」
「待ってくれ」
彼女の言葉を遮るようにして、郡司が声を上げた。真っ赤な顔は治っていない。
「あのさ、月読サンにお願いがあるんだけどさ……」
「なあに?」
「……俺のこと、名前で呼んでくんない?」
彼女は目をぱちりと見開いて、それから菫のような可憐な微笑みを浮かべた。
もう一度、手を伸ばして彼の頬にふれる。彼の体温がてのひらに伝わってくる。郡司くん。顔を近づけてささやいた。
湯気でも出ているんじゃないかと思うくらい、郡司の顔が真っ赤っかになった。ぶわっと血流が逆流したようなそんな勢いで、顔が熱くなっていく。心臓がばくばくと動いているを感じる。心臓からこんな音がするなんて、一駅分全力でダッシュしたときぐらいだ。
「郡司くん」もう一度名を読んでから、彼女は照れ臭そうにはにかんだ。「ただ名前を呼ぶだけなのに、とてもとても恥ずかしいね。何でだろ」
ふふ、と口元を抑えたその姿がとても愛おしくて、郡司は彼女を強く抱きしめていた。
微熱
(お題更新のため本稿を下書きとして保管)
2023.11.27 藍
心配で心配で家を訪ねる。
「大丈夫、もうほぼ熱下がったから」
ほぼってことは、下がり切ってないじゃん。
お大事にしてね。
#微熱
体温計が平熱より高い温度を指したことを喜んでしまうような日々の残り物が、まだ生活の端にあるような気がしていた。目を閉じれば眠りにつけるけれど、明日を迎えたくなくてブルーライトを頼った。
一度、二度、三度、目覚めては走り下りる夢を見てついに目を覚ます。夢では何度起きても焦れたのに、動かない体を以て現実感をやっと得る。不適合を露呈させないことが善いことだとするなら、怠惰のレッテルは盾だった。
微熱みたいなズレだった。怠いような気分が続いていた。永遠に続くわけじゃない日々に、残量が足りて良かったと思う。
ある朝の事だ。
私は言いようもない寝苦しさにベッドから這い出た後にちょっとした立ち眩みを感じて、朦朧とした頭で温度計を取り出し、熱を測った。
温度計を挟んでいる脇にジリジリと汗が湧き出るのを我慢して、待つ事数十秒。
37.3━━
温度計は微熱を示していた。
さてどうしたものか。
熱は大したことはない。大方身体を冷やして風邪でも少しこじらせたぐらいのモノだ。
しかし身体の方はまさかこの身体で登校しよう等と考えている訳ではあるまいな、と言わんばかりの凄まじい倦怠感でプレッシャーを掛けてくる。
ソンナに辛がって、大袈裟なんだよと、そう身体に言い聞かせても一向に良くならない。
ソレ処か追い打ちを掛ける如く頭痛までもし始める始末だ。
━━別に良いじゃないか。アンナ所に行ってどうする積もりだ?別に学業にそれ程打ち込む訳でもなし、まさか居場所を求めて?……アッハッハ、トンダ笑い話だ……
……迷った末に、学校に休むと連絡を入れる事にした。
家の固定電話の受話器を取り、番号を打つ。
ピッポッ……パッ……
別に仮病という事はない。体調を崩しているのは本当の事だ。
だが学校を休むとなると無意識に何か『罪』の意識が脳裏を掠める。
小学生の頃。
私は一度仮病で休もうとした。
理由は他愛ない、ゲームをしたかったとか、読みかけの本を読みたかっただとか、ソンナ物だ。
実体はない体調不良をでっち上げ、そしてその杜撰な計画は母の超常的な(今考えれば分かって当然だったが、当時は本当に何故バレたのか分からなかった)眼に依ってすぐさま看破されてしまった。
「嘘ついて学校休もうとするなんて!ロクデナシだよアンタは!学校行くのはアンタにとっての仕事なんだよ!責任があるんだよ!」
好きで行ってる訳じゃ無いだとか、じゃあ行くの辞めるかだとか、ソレは厭だとか。
ソンナやり取りをして、結局は学校に行き、帰った後で謝った。
マトモな反論は出来なかった。嘘をつくのは悪いことだと思っていたし、学校に通わないと将来どうなるか分からず、行かないというのは不安だった。
何よりその頃は学校も、人も嫌いでは無かった。
何も考えずに上手く行っていた。
幸運で、幸福だった。
それからは、仮病を訴えようと考えた事はない。
……人を嫌いになって、必然的に学校も嫌いになった今まで。
学校を休む事は悪い事。間違っている事。
そう意識に刷り込まれている。
母には感謝している。
母のおかげで、私は人生に必要不可欠なモラルを身につけられた。私なぞ母が居なければ本当のロクデナシに成り下がっていてもおかしくない。
『━━◯◯高校です』
「あ、◯年◯組━━』
いや、もうロクデナシなのかも知れない。
『要件をどうぞ』
「熱が出ていて━━その……」
途端、眼からツラーッと何かが溢れた。
『あの、どうかしましたか?』
「いや、その、微熱なんですけど━━三十七度なんですけど━━」
母は今の私をどう思うだろう。
どうしようもないプライドと、臓腑にへばりついた劣等感ばかり成長した私を。
人と波長が合わず馴染めなかった私を。
人と関わることが厭で学校に行かない私を。
『あの、本当に━━』
受話器を耳から離して、嗚咽を抑え込む。
今の私はどうしようもなくロクデナシだ。
だってのに、私はもうすぐ大人になって……
私を叱ってくれる人は、居なくなる。
『微熱』
雪が降っている。今はまだ十一月というのに、珍しい事だ。これも地球温暖化の影響なのだろうか。寒いのも冷たいのも苦手なので、できれば雪は降ってほしくないのだが。僕は気象に文句を言いながら、高校までの道をゆっくり歩いた。
天気予報で雪が降るとでも言っていたのだろうか。普段なら人通りも少なく閑散としているのに、今はそこかしこに人が行き交っている。一瞬家を出る時間を間違えたのかと思ったほどだった。腕時計の時間を見て、いつも通りの時間だと安心する。そのままいつも通り学校へ向かえばいい。周りは気にすることでもないだろう。そう思っていた時だった。
「すみません、少しいいですか」
後ろから声をかけられ、振り返るとそこにはスーツ姿の女性がいた。所謂リクルートスーツというやつだろうか。この時期まで就活をしているとは大変だなと思いつつ、「何ですか」とぶっきらぼうに返した。
「道が分からなくて……」
「どこに行きたいんですか」
「〇〇というビルです。スマホのナビで確認しながら来たんですが、何故か思ったとおりにたどり着かなくて…八時には着きたいんですけど、間に合いますか…?」
言われて女性のスマホを確認すると、位置情報がうまく取得できていないようで頓珍漢な場所を示していた。なるほどこれはいつになっても辿り着かない。果たしてこの人はその事実に気づいているのかいないのか。きっと後者だろうなと思いながら時間を再確認する。七時三十分。まだまだ時間は大丈夫だ。どうせ学校も早めに来た人たちで賑わっているんだろうし、逆にギリギリに着いたほうがいいかもしれないと思いなおし、目の前に立つ女性に提案をした。
「ここならそこまで遠くないですし、案内しますよ」
「え、でも学校は…」
「始業までまだ時間あるんで。送ってから向かっても十分間に合います」
「じゃあ、お願いします」
少し迷ったようだが、素直に道案内を受け入れ、僕の少し後ろを着いてくる。そのまま、沈黙が続いた。
沈黙を破ったのは、女性の方だった。
「このあたりは普段からこんなに人が多いんですか?」
「…いえ、そういうわけではないですけど。多分雪が降っているので、早めに動いているんじゃないですかね」
「あなたもそうなんですか?」
「いえ、僕は元々この時間に学校に行くので、いつも通りですね」
「…本当に学校は間に合うんです?」
どうやら学校に間に合わないんじゃないかとまだ心配しているらしい。顔を見ると、びっくりするくらい眉が八の字になっている。このままではこの女性の顔が八の字になってしまうんじゃないかとこちらが心配するくらいだった。逆に心配になってしまった僕は、正直に答えることにした。
「誰もいない静かな教室が好きで、早めに行ってゆっくりしてるんですけど、今日は多分早めに来た人で賑わっていそうだから寧ろギリギリに着いたほうが助かるんです」
「そう、だったんですか。良かった……」
女性の顔が八の字でなくなっていた。こちらも少し安心した。ふと、この女性と話している間は周りの喧騒がかき消えているように感じた。せっかくだしこのまま話をするかと、今度はこちらから話を振ることにした。
「今日は、就活とかですか?」
「ええまあ、そんな感じです」
「こんな時期まで就活なんて、大変ですね」
「はは…ですよね…」
「僕も数年後には経験しないといけないのか…」
「でも、あなたなら大丈夫じゃないですか」
「どうしてそう言い切れるんです?」
何故かハッキリとしたその物言いに、少し驚きながら尋ねた。
「だって、初対面の私に親切だし、こうやって話しかけてくれる。時間配分も考えてる」
「時間配分…?」
「しょっちゅう腕時計見てるから」
「そう、ですか?」
結構見られてたんだなと的外れなことを思いつつ、適当な返答しかできなかった。確かに時間を定期的に見る癖はあるが、それが良く見られたことなど一度もなかったのだ。
「自分でやっておいて言うのもなんですが、目の前で時計をしょっちゅう見られるの嫌じゃないですか?この時間が早く終わってくれって思われてるみたいで」
「人によってはそうかもしれないけど、私はそうは思わなかったですよ。それに、時計を見た後、歩行速度がちょっと速くなっていたので、多分良いタイミングの時間に着くように動いてくれてるんだろうなと思って、嬉しかったです」
意外と観察力あるな、この人。そんな人がどうして今もまだ就活しているのか気になったが、実際時間が少しおしているのも確かなので、小さく「ありがとうございます」と言うに留めた。
「着きましたよ」
「ありがとうございます!良かった間に合った……」
スーツの女性は、深々とお辞儀をした。
「就活、頑張ってくださいね」
「本当にありがとうございます…!あなたも学校、楽しんでくださいね」
「…そうします」
そのまま女性は、笑顔でビルの中に入っていった。きっと彼女は内定をもらえるだろう。何故だかわからないが、そんな予感がした。
時間は七時五十分。今からゆっくり歩けば、ちょうどいい時間に学校に着く。そのまま僕は、踵を返した。
なんだろう、雪も降って寒いはずなのに、なぜだか今は少しあつい。
あなたは、自分を大事にしているだろうか。
最近の寒暖差で体調を崩す人も少なくない。
「仕事を休むと迷惑がかかるから」
「これぐらい大丈夫だから」
このような言い訳をしていないだろうか。
疲れの蓄積を、無視していないだろうか。
薬を飲むだけで、誤魔化していないだろうか。
当然だが、自分の面倒は自分で見るしかない。
人任せに出来るのは、子どもと高齢者だけだ。
特別な病気や障害がない限り、大人ならば
自分で自分を理解し、工夫する必要がある。
厳しいようだが、こう書くには理由がある。
社会はあなたを助けてくれるかもしれないが
殆どの場合、会社はあなたを助けてくれない。
始まりは微熱や頭痛等の不調で済んでいても
最終的に、心身に不調をきたしてしまって
社会復帰が難しい人達が数多くいる。
生きる不自由さ、難易度が格段に上がって
生きているのに死んでいるような人もいる。
後悔する前に、気付かなければいけない。
私達は、自分を大事にしなければいけない。
他人を大事にするのは、それからでも良い。
いつも他人ばかり優先してきた優しい人は
それもなかなか難しいかもしれない。
しかし、体のSOSはきちんと聞く必要がある。
誰かに向けていた優しさを
たまには自分にも向けてみよう。
最期まで自分を大事に出来るのは
自分しかいないのだから。
『微熱』
甘くうるんだ瞳が目蓋を押し上げて、
それまで映していた別の世界の物語を
丁寧に溶かしていく。
透明で冷たい空気と温い羽毛布団が絡み合い、
カーテンの隙間からは真っ白な光がはみ出している。
いつも通りの、味気ない1日の最初の一コマ。
昨日より少し多忙な頭は
重力に逆らえず、ぼうっと天井を眺める。
-燻る違和感に気付かないふりをして
学生とサラリーマンで溢れる満員電車の一両目に
私の空間を作るのは目と目を合わせる、それだけのため。
降りる駅のホームで君と。
微熱
お題【微熱】
もう少し、あともう一踏ん張りしたいのに。目の前のディスプレイに映し出されているのは空白の多い書類データ。額に手を当てるとじわり、と奥から滲み出るような微熱が伝わってくる。タイピングへの集中を妨げるそれは普段なら煩わしいことこの上ない。
でも今日に限っては、なんだかちょっと嬉しい。
冷え込みが一段と強まる、息が白み始める、湯船の設定温度を少し上げる、そして風邪が流行り始めるこの時期。この体があらゆるものに負けじと機械のように働くからこそ出る微熱は、生を実感させてくれる。嫌いじゃない。
それはそれとして、会議直前はやめて欲しいかな。