荼毘

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「ポリニヤ」

テーマ「微熱」

ショートショート ユーモアファンタジー

「常に10人体制で動く、1人にならないようはぐれるなよ!」そう言われて育った、雪国ではこれが当たり前だ。だがその日は1人で動きたかった。俺は集団が苦手だしな、とはいえ危ないことも分かってる。
俺は動物の観察が昔から好きだった。いつか動物の生態に迫るカメラマンになるのが夢で、紆余曲折ありながらも友人の協力も経てようやく夢が叶ったんだ。その友人も同じ仕事を志していた、今や命を預けられる仕事仲間だ。本当はその日は1人で狼の観察に行きたかった。俺が観察し続けている狼の群れが稀に見せる狩猟をカメラに納めたかったんだ。1人でなければ狼に気付かれてしまう、いや1人でもなかなか難しいものだ。しかし、いいと言ったんだが、友人が心配性で付いてくることになった。
なんせその群れの狩猟は特別で、類を見ない。1人では危ないんだとさ。友人はいちどその群れの狩猟を見たことがあったんだが、カメラに収めることは出来なかったらしい。俺はその友人からその話を聞いた時、心が躍った、狼の中には川を利用して狩猟する群れがいると言うんだから。カメラマンとしての血が騒いだ。見ないわけにはいかない。だが、友人はどうしてカメラに収められなかったのか、危険だったので離れることしか考えられなかったと言うだけではっきりと答えようとしなかった。まぁ川を利用する狩猟以外にも何かあるのかもしれない、あってもおかしくない、そう思った。そしてそれは正解だった。もうあの場所へ行くことは出来なくなった。その場所は山奥の見渡す限りが雪に覆われている地域にある。そんな雪景色の中、凍らずに流れ続ける川がある。ユーコン川といった。氷点下−40°でもその川がなぜ凍らないのか、俺は知っていた。ポリニヤという領域だからだ。地熱の力によって川の底は暖かい、表面は凍らずに不凍川となる。ポリニヤは動植物にとって重要な場所であり、鳥や哺乳動物が餌を見つけたり、生息地を利用したりする場として知られている。俺の目をつけている狼の群れはこの川を利用して狩猟するようだが、よく考えてみればこの川に寄ってきた動物を狩っているだけのようにも思える。だが、これもまたこの不凍川のある場所でしか見られない特別な狩猟なんだ。本当に特別な狩猟だったんだ。あれはユーコン川にやってくる生半可な動物を捉えるための狩猟じゃなかったのさ。鹿や熊、魚が目当てではない。狩猟によってあれを無力化し自分達の縄張りを守ろうとしていたんだ。あれはバカでかい氷のゴーレムのような見た目をしていた。狼たちはあれを追い払うために川に近づいてきたところを狙って攻撃をしかけていたんだ。だが、それは何度も失敗に終わっている。そばにいた友人はこれを知っていたに違いない、なぜ俺に言わなかったのか。それは単純で見たものを信じられなかったようだ。そのゴーレムと思わしきものは

11/28/2023, 8:29:12 PM