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『微熱』

始まりはきっと、微熱みたいな柔い恋だった。

「好きだよ」
自分の口から出た言葉に驚いて、その後すぐに目の前で呆けた顔をしている君を見つめる。
あ、かわいい。じゃなくて。
「……え」
みるみるうちに紅くなるその顔よりも急速度で自分の体温が上がるのを感じた。
「あ、えっと、ちがくて!」
何が違うんだよと言う感じの言い訳を連ねる。
君の顔はまだきょとんとしたままだ。
「私のこと、好きじゃないの?」
「それは好きだよ?」
咄嗟に出た言葉に心の中で頭を抱えた。
いい感じに誤魔化せるところだったじゃん。今。
僕の手と共鳴して震え始めたグラスを放す。
どうにかしないと、と思考を巡らすけれど、出てくるのは浮気男さながらの言葉ばかりだ。
「私も好きだよ」
そんなことを考えていたから、反応が遅れた。
たぶんさっきの君と同じような表情をして君を見つめる。
え、今、何て言った?
「私は君のこと、ラブで好きだよ」
君はどうなの?
世界が揺れる。
空間をいつもよりゆっくり流れた言葉が、僕の細胞に染み渡る。
頭はパンク寸前だけど、次にしなきゃいけないことはわかった。
僕と同じ少し微熱を持っているかのようなその手を握って、熱を宿した瞳を見つめて、もう一度始まりの言葉を紡いだ。

11/26/2024, 10:00:57 AM