さらさらと閉じきったはずの指から砂が零れ落ちる。
それに気づいた頃には、もう遅かった。
これで、最後にしよう。
あなたの左手の薬指に光るシルバーに、胸の奥で燻っていた恋心をとうとう遠いどこかに置き捨てることを決めた。
ストローを掴む手に合わせて光を反射して煌めくそれがやけに目について、わかっていたことなのに今さら胸が痛む。
あなたに似合うピンクのリップで飾られた唇が弧を描いて、見るからに柔らかそうな手が私のマグカップを握る手に重ねられた。
「君に、結婚式に来てほしいの」
親友としてね、なんてあなた以外に言われたらきっと心から喜べる言葉が添えられる。
引きつりそうになる頬を抑えて、今にも溢れだしそうな涙を堪えて、何よりも嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「ありがとう。私も行きたい」
あなたが心の底から嬉しそうに笑う。
きっと私が知っている中で一番綺麗な薬指の使い方をしたあなたは、何よりも美しくて、何よりも憎らしかった。
これで最後
「基」
針の落ちる音が聞こえそうなほど静寂が支配する部屋に、最愛の名を呼ぶ私の声が響いた。
いつもは月島と呼ぶ私が初めて下の名を呼んだことに驚きを隠せないように、その坊主頭は奥に碧を湛える瞳を見開く。
「はじめ」
確かめるように、その名の温度を味わうようにもう一度音にする。
はい、と柔らかく微笑んで、基が暖かい返事を寄越した。
「あなたに呼ばれるなら、この名も悪くないですね」
昔は嫌いだと言っていた己の名を、慈しむように笑う。
「ね、音之進さん」
そこにあるのはきっと、愛以外の何者でもなかった。
ゴールデンカムイより鯉月です。
君の名前を呼んだ日
君の肩が震える。
しゃくりあげる声は屋根に打ち付ける雨音に掻き消されて、きっと私にしか聞こえていない。
「私じゃ、だめだったんだ」
初めての恋が敗れた君に掛ける言葉が見つからなくて、ただその肩を抱くことしか出来ない。
やさしい雨音に包まれる中、君の頬を濡らす涙を拭った。
やさしい雨音
最近はメイブリックマムにはまってます。
拝啓プロローグよすぎ。
歌