『夢が醒める前に』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「夢が醒める前に」
朝、車に乗ったあの人を一目見たいというただそれだけの理由で、毎日決まった時間に家を出る。
今日もあの人と何かお話出来るかなぁとそればかり考えながら登校する。
校舎の中であの愛しい姿を見つける度に誰にも見つからないように飛び跳ねて喜ぶ。
あの人から発せられる言葉全てが鼓膜にこびりつく。
教科書を片手にチョークを黒板に打ち付ける美しい姿に見惚れる。
今日も愛おしかったなぁと幸せを噛み締めながら下校する。
あの人、夢に出てきてくれないなぁと願いながら眠りにつく。
そんな、夢のような3年間だった。
あの人と一緒に行った宿泊学習も、はしゃぐ生徒たちをあの人が嬉しそうに見ていてくれた体育祭も、
あの人が私たちの合唱を聞いて泣いてくれたことも、あの人が傘に入れてくれたことも、
帰り道を一緒に歩いてくれたことも、プレゼントのお返しをくれたことも、手を握ってくれたことも、
頭を撫でてくれたことも、抱きしめてくれたことも、私たちのことを愛おしいと言ってくれたことも、
出会えてよかったと言ってくれたことも、
もしかしたら本当に夢だったのかもしれない。
そう思ってしまうほど、私の3年間は幸せで満ちていた。
あぁ、今が幸せだと分かっていたなら、別れはすぐ来るのだと分かっていたなら、
夢が醒める前に、呆れられるくらいあの人に
「愛しています。」
そう、言えばよかったなぁ。
『夢が醒める前に』
たいへん!たいへん!
急がなくっちゃ!
あの子の夢が醒める前に、
あの子を連れて来なくっちゃ!
美味しいお菓子と楽しいお喋り、
素敵なドレスに愉快な友だち。
あの子が大好きなアップルパイも、
あの子が大好きなレモネードも、
あの子が大好きなものなら何でも揃ってる!
だから早くここに、
あの子を連れて来なくっちゃ!
現実は時に手厳しい。
美味しいお菓子も楽しいお喋りも、
素敵なドレスも愉快な友だちも、
きっと全ては現実にも存在している。
けれどもあの子は、
きっとそこでは、
大好きなものを手にしても健やかに笑えない。
だから早くここに、
あの子を連れて来なくっちゃ。
あの子の夢が醒める前に。
あの子が僕らを忘れる前に。
子どものままの、
あの子をここへ。
テーマ〖夢が醒める前に〗
夢が醒める瞬間は一瞬だった。
[夢が醒める前]なんてなかった。
ふわりと意識が戻ってくる
ゆっくり目が覚め覚醒していく感覚
もう朝か
ため息をひとつ
夢を見ていた
あの子の夢
小さなあの子が天使になったのは
1年前の今日だった
夢の中で記憶より少し大きくなったあの子と
手を繋いで桜を見ていた
ヒラヒラ舞い落ちる花びらを掴もうと
ピョンピョン飛びながら手を左右に揺らし
繋いでいた私の手も少し揺れる
あの子も私も笑っていた
お母さん、どーぞ!と花びらを私の手のひらに乗せてくれた時、目が覚めた
手のひらを見ても、物語のように手のひらに桜の花びらがある訳はなくて
枯れていたと思った涙が一粒
頬を伝った
夢が醒める前に
抱きしめていればよかった
君を待って待って
待ち続けて
君は迎えには来てくない。
君と未来の夢が醒める前に
君とケジメをつけようか。
私はきっと泣いてしまう…。
『僕は怖がりで泣きむしだから支えて欲しい』って
言ってたね。
そんな君は私は支えたいと思って決めていた。
けど私は女の子。
遠距離恋愛や婚約期間が長いと人生の時間がもったいないから。
君は周りにいい顔して見栄張って支えてくれない。
人の職業差別して職場を奪って
幸せを奪っていく親と一緒にいるといいと思う。
私はもうこれ以上待てる自信が持てない
手放したくないなら、君勇気をもって
大事なもの手に入れてください。
と私の心に音をたてて突き刺さる。。。
私はやっぱり孤独だ…
2人きりの小部屋、カタカタと秒針だけが響いている。
緊張してる貴方の顔をじっと見つめていると目の奥が熱く痛くなってくる。
目の前に置かれてるものはぼやけて形が何なのかは分からない。
紙、のようにも見えるし箱、のようにも見える。
だけどそれに意識を向ける事は無かった、ただ貴方だけを見つめている。
妙に思考が安定しない、何か突拍子もない事を口走りそうなそんな変な感覚。
手を伸ばせば急に世界が変わってしまうような不安。
貴方の口の動きを見ていても、脳が言葉を理解してくれない。
身体が軽い、ふわふわと飛べそうだなとおかしな事を考えてしまう、何故こんなにも集中出来ないのか。
そんな事すら考えられない、今は目の前の貴方しか見れない。
気付いたらテーブルの上にあったはずのモヤは消えていて秒針の音も別のものに切り替わっていた。
彼の声が鮮明に聞こえ始めた。
あぁ、聞きたい。
聞きたい。
胸糞悪いスマホのアラームがそこで鳴った。
あぁ、今日も聞けなかった。
脳はまだ眠っているのに体も視界もハッキリしているのが苦痛でしかなかった。
今日も君の答えは聞けなかったよ。
もう君の声は聞けないのに、どうして夢の中でまで君は焦らすんだよ。
鼻腔を擽ぐる線香の香りに現実を感じてしまう。
夢が醒めてしまう前に、本当に1度で良いから。
お願いだから、あの日の続きを聞かせてよ。
「ねぇ、」
いつものように柔らかな声色で――なのに困ったような顔をして――話しかけてくれた君をそっと抱きしめる。
この瞳を閉じれば僕は現実に帰ってしまう。
次にいつ夢の世界に戻れるかは分からないから、夢の世界に入れたとしても君に会えるかは分からないから。
温もりのない君の身体に、僕の体温が少しでも移ってほしい。
この時を思い出して、僕に会いたいと願ってほしい。
そんな自分勝手な願いを込めて、僕は君に伝えるのだ。
「また会いたい、きっと会いに来るから」
『夢が醒める前に』
どこか不思議でふわふわした空間に居た
均等に生えている緑の木々の森を潜り抜けた先には
一昨年亡くなったはずの友人が佇んでいた
僕は友人の名を必死に叫んだ
けれど友人は振り返らない
僕に呆れたのかな
友人はこんな僕なんかを庇って道路の先で飛び込んでトラックに引かれた
僕は見た
ばらばらになった友人の体を
血にまみれた僕の手を
それ以降僕は一度も外に出ていない
出れなかった
僕が外に出る度思い出すから
僕は未だ僕を見ない友人に向かって謝りたかった
でも何故か僕の口は全く開かなかった。
ずっと微動だにしない友人が突然口を開いた
『お前は悪くない。俺がやったことだ。』
『…これ。』
友人は振り向いて僕に小さな箱を渡した
そういえば、事故の日は僕の誕生日だったっけ
箱の中には僕が欲しがっていた腕時計が入ってた
いた。
友人は笑いながら言った
『お前が"こっち"に来るのはまだまだ先だよ。馬鹿。』
僕は言いたいこと全て言いそうになった瞬間光が差し込んできた
…夢か
僕は手にどこか身に覚えのある腕時計を持っていた
夢が醒める前に言いたかったけどお前に向かって言うのは先にするよ
「ありがとう。」
僕は晴れやかな気持ちで腕時計を腕につけた。
『夢が醒める前に』
好きだと告げると彼はふわりと笑った。
あれ、びっくりしないんだ。
「もう一回言って。夢が醒める前に」
馬鹿だな。夢じゃないよ。
何度だって言ってやる。
「大好きだよ」
「夢が醒める前に」
夢が醒める前に、一つだけしたい事がある。
あの時、僕を庇って亡くなってしまった最愛の人。
僕は遠くにいたあの人に向かって走り出し、夢が醒めない事を祈る。
あの人の所まで行こうとすると、最愛のあの人は僕から離れようとする。
もう逃がさない。君は僕の物だよ。
そう囁きながら、あの人の唇に熱い口づけをする。
君は可愛い僕だけの物。
絶対に逃さないよ。離れようとも考えないで。僕の事だけ見て、僕の事だけ考えれば良い。
君に選択肢は無いよ。だって、君は僕の物なんだから。
オニロ。
昨日、亡き恋人の夢をみた。
僕は、夢の中で夢と気づかないで、いつものように二人リビングでくつろいでた。
もう二度と訪れない時間だったのに。
せめて、夢が醒める前に、もっとたくさん話をすれば良かった。
『夢が醒める前に』 (夢をみる島)
いつからあるのかわからない島に私がいつからいたのかわからない。誰に教えられたわけでもないのに知っているお気に入りの歌を歌って過ごす変わらない毎日は、誰も来たことのなかった島にやってきた剣士によって少しずつ変わっていった。それまで知ることのなかった島の外の話は彼から初めて聞いたときから何度も思い出している。海の向こうに想いを馳せて、空を自由に飛ぶカモメに憧れるようになった。
島の一番高いところにあるタマゴからかすかに、けれど確かに歌が聞こえてくる。夢も悪夢も目覚めの時が訪れるとすべて忘れてしまうけれど、彼は私のことを覚えていてくれるだろうか。私の思い出や願いや想いはどこへいってしまうのだろうか。
いつものように空は青く雲は白く、風は穏やかに吹いている。もう少しだけ、彼と話がしたかった。
夢が覚める前に。最近悪夢を見るって前にも書いたっけ。覚えてないや。
やっぱり立ち退きと引っ越しの件がストレスになってるんだろうな。さっさと話を進めたいのに相手の反応が遅いのが腹立つ。
最初の対応も気に入らなかったけどその後の対応が遅いのもむかつくんだよな。元々平和的解決は嫌だったけどその思いがどんどん強くなっていく。
昨日はfgoのメインストーリーが更新されて忙しいからこれで終わりで。速くクリアしたい。
夢が醒める前に、君の手を握らせてほしい。
醒めれば二度と触れられない、子ども体温の君の手を。
じんわり、僕の胸も温まるから。
夢現が醒める時、現実の足音を聞く。
それがまるで理想のようなものでも、悪夢でも構わず目は醒めるものだ。
そしてその時には夢の中身など、すっかり忘れてしまっているものなのだ。
あれは一体何だったのだろう。
思い返す時には、もういない。
夢が醒める前に、眠ったまま死にたいっていうのは人間の普遍的な欲求だよな。
死への恐怖は生物共通な気がするので、その辺の虫も同じこと思ってるのかな。
「見事にやらかした『夢見心地から醒める直前』の失態エピソードなら、丁度仕入れて手持ちにあるわ」
某所在住物書きは昼のニュースを確認しながら、ぽつり。それから、長く大きなため息を吐いた。
「最近、家電量販店、ウォーク◯ン見なくなったろ。店員に聞いたら『最近はは皆スマホだし、需要も減って生産終了』と。……シリーズそのもの全部撤退と勘違いしてさ、生産終了機の、近隣他県に残ってた最後の新品1個を、取り寄せてもらうことにしたワケ。
もう夢見心地よ。『間に合った』、『良かった』と」
まぁ、その後は、ネット少し調べてもらえばすぐ分かるわな。物書きは再度息を吐く。
「夢見心地の2日後、ネットで『後継機が去年発売したぞ!』って記事見つけちまったの。
取り寄せキャンセルも、返金も、無理だとさ」
夢心地は夢心地のままの方が、良いよな。物書きは3度目のため息を吐く。
ストップその場の即決。まずスマホで公式からの情報を確認しよう。
――――――
夢が醒める前に緊急地震速報が鳴って、
夢が覚めた直後にはもう揺れてた。
今日の私は、支店長のはからいで、今年度未消化分の有給休暇を使ってた。
理由は酷い睡眠不足と頭の圧迫感だ。ベッドのスプリングマットレスのヘコみと枕の組み合わせが悪かったせいで、ここ2〜3日くらい私は寝たいのに眠れない日が続いてて、
支店長が「1日か2日くらい使って体を休めなさい」って、有給消化を勧めてくれたのだ。
「有給使用が癪ならリモートの在宅ということにしても良い」って。
枕をオーダーメイドで調整してもらって、
ヘコんでるマットレスを逆にして、調整してもらった枕を置いて毛布も整えて、
ちょっと背中、肩甲骨のあたりの高さをハーフタオルケット敷いて調整したら、
頭にかかる圧とか良い具合に減って、すごく久しぶりにぐっすり眠れて、
で、バチクソ久しぶりに夢とか見てたら夢が醒める前に例の地震でスマホに起こされて、
何故か、私の毛布の上で、
先輩のアパートの近所の稲荷神社の、そのまたご近所にある茶っ葉屋さんの看板子狐が、
地震の揺れに驚いて飛び跳ねて、
私の毛布の中に潜り込んできた。
ナンデ(知らない)
どこから入ってきたの。窓もドアも鍵してるよ。なんならカーテンだって閉めてるよ。ここ3階だよ。
どうやって入ってきたの。
「私まだ夢の中なのかな」
枕元のスマホを見ると、ピロンピロン、安否確認と朝のあいさつのメッセが飛び交ってて、
多分これから呟きックスのトレンドも、地震関連で埋まってくるんだろう。
「夢にしては、子狐ちゃんのモフみが、リアル」
どうやって入ってきたかも、何故入ってきたかも知らない看板子狐は、カタカタ毛布の中で震えてる。
よく整えられたモフモフを撫でると、その撫でた手やら腕やらに顔を押し付けてきた。
「……夢の中なのかな」
再度呟いて子狐を撫でると、何か思い出したのか、もぞもぞ毛布から出てきて私の机から何かを咥え持って、私のところに戻ってきた。
それは先輩のアパートの近所の稲荷神社の、そのまたご近所の茶っ葉屋さんの、ハーブティーを入れた小さな巾着だった。
「『睡眠不足と伺いました。安眠に効果があるとされているハーブティーの試供品をお送りします』」
ハーブティーにくっついてきた封筒を開けて、便箋を取り出して、バチクソキレイな文字を読む。
「『注文票も同封しましたので、お気に召しましたら、ぜひ数量御記入のうえ、子狐に持たせてやってください』……ちゅーもんひょー?」
カサリ。封筒の中を見ると、これまたバチクソキレイな手書き文字で、それぞれのお茶の効能とオススメのアレンジと、値引き後の価格が書かれてる。
和ハーブのお茶と、漢方根拠のお茶と、それから普通のラベンダーとかカモミールとか。
種類はそこそこ多い。
注文票の一番下には、漢方根拠のお茶のアドバイザーとして、昨日お世話になった病院の、昨日お世話になった漢方医さんの名前が、「夫:」の前置詞をくっつけて、明記されてた。
「昨日の先生と御夫婦だったんだ……」
なるほどね。それで、私の寝不足を知ってたんだ。
まだまだ夢が醒める前のような心地で、あくびしながら子狐のモフみと共に在った私は、グルチャやDMに返信してからお茶用のお湯を沸かしにキッチンへ。
何かおやつが貰えると思ってるらしく、子狐は尻尾をブンブン振って、私にくっついてくる。
お茶は結局和ハーブの1種類と、洋ハーブの2種類を、それぞれ小分けティーバッグで2杯ずつ、
注文票に数字を書いて、子狐に持たせた。
ティーバッグはその日のうちに、昨日お世話になった漢方医さんが届けてくれたけど、
結局、子狐がどうやって私の部屋に入ってきたかは、サッパリ分からずじまいのままだった。
あなたに会えるのはここだけで
あなたを覚えてられるのもここだけで
あなたはいつも待っていたよね
子供には小さな白い部屋
椅子はふたつで机はひとつ
机の上には蝋燭ひとつ
窓はないけど白菊が咲いてて
わたしもあなたも黒い服で
わたしとあなたの誕生日
17歳の誕生日
夢がさめないように
蝋燭が消えないように
あなたはわたしに火をつけた
【テーマ:夢が覚める前に】
愛らしい少女が俺に笑いかけている。
そんな夢を昔から繰り返し見る。
少女は決まって俺の夢に出てくると、開口一番に、遊ぼう、と言ってくる。
どんな遊びが良いか聞くと、必ず返ってくるのが、おままごと。
俺が幼い内はそれの何が楽しいのか分からなくて、他の遊びがしたい、と駄々を捏ねては夢の中で喧嘩をした。
けれども、度々夢に出ては俺を遊びに誘ってくれるのだ。
少女の提案を受け入れておままごとをすると、愛らしくとても楽しそうに笑ってくれる。
いつしかそんな姿が愛おしく思えるようになった俺は、遊びに誘われれば真っ先に、じゃあおままごとするか、と自ら言うようになっていた。
そうして、今日も。
「ケイちゃん、あそぼ?」
「あぁ。じゃあ、おままごとするか」
「やった!おままごと大好き!」
夢に出てくる少女も俺も、夢で会っている間は初めて会った時のまま、幼い姿だ。
でも不思議なことに、俺の心は現実のままなのだ。
現実で身に付けた知識でおままごとをすると、彼女はとても喜んでくれる。
それが嬉しくて何回でも付き合ってしまう。
目が覚める前の短い時間だけど、いつの間にか愛おしい時間になっていた。
「ケイちゃん。ケッコン、しよ?」
目覚める間際になるといつからか、決まってこうして求婚される。
だから、俺はいつも。
「ああ、大きくなったらな」
そう言って彼女の頭を撫でると、そこで目が覚める。
「いでっ」
頭に鋭い衝撃。
「これ!まぁた居眠りしおって!」
畑仕事の合間に小休憩がてら婆ちゃんの話を聞いていたら、どうやら話を聞きながらうたた寝をしていたらしい。
そのせいで拳骨をもらった。
まぁ、こうして拳骨を貰うのはいつもの事だ。
「だって、婆ちゃん同じ話しかしないじゃんか。もう聞き飽きたよ」
婆ちゃんが俺にする話と言えば、村に伝わる鬼の話か、昔の自慢話ばかり。
それをもう、耳にタコが出来るほど聞いた。
「泣き子様の伝承は子々孫々、語り継がにゃならん」
婆ちゃんは毎度口を酸っぱくしてそう言うが、婆ちゃんの言うナキコ様というのを見たことがない。
そんなものが本当に居るのか疑わしい。
「頭に立派な角が生えた凶悪な鬼なんだろ?そんなん今のご時世に生きてる訳ゃねぇだろ。そんなおっかない鬼が居るって分かったらお国が兵隊連れてやってくらぁ」
そんな軽口を叩いてしまいたくなるほど、疑わしい話だった。
海外では米国の兵隊が巨人を見付けて撃ち殺したという都市伝説があるくらいなのだ。
そんな、如何にも鬼です、という鬼が見つかれば同じ末路を辿ってもおかしくはないはずだ。
案外、鬼も進化して人と同じ姿をしているのかもしれないな。
「そういえば、なんでナキコって言うんだ?」
「それぁなぁ。角の生えた子が産まれたもんだから、岩戸に押し込んだら毎晩のように大声で泣きよる。だから泣き子と呼ばれておった」
いや、そりゃあ誰だって、岩戸に閉じ込められりゃ泣くだろ。
そう思うが、昔の人はそう思い至るよりも遥かに恐怖が勝っていたのかもしれない。
「そんなに怖いもんかねぇ?」
「さぁてね。ほら、休憩はお終いだよ」
尻を引っ叩かれ、急かすように婆ちゃんにそう言われた。
まったく、人使いが荒いんだから。
そうは思うものの、婆ちゃんに付き合うのはそんなに嫌じゃない。
少しだけ話が長くて退屈に思うくらいだ。
畑の手入れをしているといつの間にか日が傾いていて、婆ちゃんは晩御飯の支度をするから、と先に戻っていた。
そろそろ俺も家に戻るか、と立ち上がって伸びをする。
長時間腰を曲げて作業していたせいで腰がミシミシ音を立てて悲鳴をあげる。
畑仕事は腰に来るのが地味に辛い。
だが、こうして地味に辛い思いをしながらも丁寧に手入れしてやると、美味しい野菜ができるのだ。
美味しい野菜を食べた時の嬉しさは何事にも変え難い。
なのでこうして畑仕事の手伝いをちょくちょくやりに来ていた。
農具を纏めてから背負い、帰路に着く。
そろそろ家族も帰って来ているはず。
全員が帰ってくる時間にはご飯が用意されている。
その凄さは子供の頃には分からなかったが、自炊をしたことで実感した。
それがとても有難いことだということも。
「ただいまぁ」
背負っていた農具を下ろしてから、引き戸を開けて中に入る。
いつもならある返事が、ない。
不審に思いながら居間へ入ると、真っ赤に染った装束の少女が居た。
何処か見覚えがある。
繰り返し夢に出てくる、あの少女によく似ているが、夢の中の少女と比べるとかなり大人びている。
歳が俺と同じくらいに見えるほどに成長したらこうなるだろう、と思わせる容姿。
色白で黒髪に紅が映えていて、とても美しい。
「あ、ケイちゃん。おかえり。ケッコンしよ?」
テーマ:夢が醒める前に
気にしていないと言ったらウソかもしれない。
両親が亡くなる前よりは起きたことが衝撃過ぎて記憶があいまいだ。
そのせいかしばらくは己の感情をどのように出せばいいかわからず周りを困らせていたと思う。
中にはあまりに気味悪く思ったのであろう、心無い言葉を浴びせてきた者もいる。
子供大人関係なく。
そんな中でも己の何が気に入ったかわからないが兄と慕う義理の妹ができ、君は優しいと言う唯一の友である少年と一緒にいるようになってから心がほんのりと温かくなっていく。
毎日の小さな幸せが積み重なる。
怒り、笑い、悲しみ、笑う。どこに行くにしてもいつも一緒であった。
心情的なせいで味覚も薄くなっていた上、食も細かった俺は三人で作り食べた握り飯を食べた時ぼろりと気付かずに涙をこぼしていた。
あたふたしてる二人を見て漸く俺が泣いていることに気づいた。
涙のせいもあるのか、はっきりと塩辛く感じたのはこの時が初めてで。
暖かくて、両親が死んだときに泣けなかったのが漸く泣けて心の底からほっとした。
夢が覚める前にとは言わない。
少しでも今を感じ生きていこうと慰めるために両側から抱き着いてくる二人を抱きしめながら心が少し埋まるのを感じた。