「夢が醒める前に」
朝、車に乗ったあの人を一目見たいというただそれだけの理由で、毎日決まった時間に家を出る。
今日もあの人と何かお話出来るかなぁとそればかり考えながら登校する。
校舎の中であの愛しい姿を見つける度に誰にも見つからないように飛び跳ねて喜ぶ。
あの人から発せられる言葉全てが鼓膜にこびりつく。
教科書を片手にチョークを黒板に打ち付ける美しい姿に見惚れる。
今日も愛おしかったなぁと幸せを噛み締めながら下校する。
あの人、夢に出てきてくれないなぁと願いながら眠りにつく。
そんな、夢のような3年間だった。
あの人と一緒に行った宿泊学習も、はしゃぐ生徒たちをあの人が嬉しそうに見ていてくれた体育祭も、
あの人が私たちの合唱を聞いて泣いてくれたことも、あの人が傘に入れてくれたことも、
帰り道を一緒に歩いてくれたことも、プレゼントのお返しをくれたことも、手を握ってくれたことも、
頭を撫でてくれたことも、抱きしめてくれたことも、私たちのことを愛おしいと言ってくれたことも、
出会えてよかったと言ってくれたことも、
もしかしたら本当に夢だったのかもしれない。
そう思ってしまうほど、私の3年間は幸せで満ちていた。
あぁ、今が幸せだと分かっていたなら、別れはすぐ来るのだと分かっていたなら、
夢が醒める前に、呆れられるくらいあの人に
「愛しています。」
そう、言えばよかったなぁ。
3/21/2024, 5:28:37 AM