『夜の海』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
一度だけ、真夜中の海に行ったことがある。
暑い夏の夜で、潮風がじっとりとした湿気を含んでいた。裸足になって波打ち際を歩く。少し泥の腐ったような匂いがする、蒸し暑い空気の中で、波に濡れた場所だけが柔らかく涼しかった。
暗い波が揺れる間に、ぼんやりと光るものが沈んでいた。
一昔前の携帯電話の着信ランプ。透明のジップロックに入れられて、波に濡れることもなく、チカチカと明滅を繰り返している。
ジップロックをつまむようにして、水からそれを引き上げる。
間違って携帯電話に指が触れないように、ジップロックを開封し、そのまま逆さにすると、ぽちゃりという可愛らしい音と共に、携帯電話は今度こそ正しく溺れた。
何秒だったか覚えていないが、多分十秒か、あるいは一秒程度だったのかもしれないが、携帯電話は波の中でほんの少しだけ光り、そして音もなく真っ暗になった。
それで、今度こそ全て済んだようだった。
夜の海に潮騒が響いている。
年中夜のここに訪ねてくる者は、そう多くないのだが、最近は──。
「また居る」
本体が浜辺の岩に腰を掛けて、本を読んでいる。
本体のそばに置かれたランプが当たりをぼうっと照らしている。
夜の海を照らすその明かりは、小さな灯台のようにも見える。
素足が思考の海に浸かっているところを見ると、涼みにきているようにも見えるが──。
「ここにある言葉が必要なのか…」
本を読む本体は、ニコニコしていたかと思うと、急にしかつめらしい顔をし、恥じらう顔になったかと思うと、ムンクの叫びのような顔をしている。千変万化という美しい言葉を出すのは引けるので引っ込めるが、面白いほどコロコロと表情が変わる。
このまま放置し続けるのも一興だが、声をかけておこう。
波風に帽子が攫われないよう手を添えて、本体のいるゴツゴツとした岩場へと向かう。
「おい」
「…今良いところなんだけど、何?」
「最近は隨分と良質な言葉がこちらに来るが、根源はそれか」
「素敵な本でしょう」
本体は、本を掲げるとニッコリと微笑んだ。
本体が読むものは思考の海に流れてくるので、内容は知っている。
隠喩と暗喩に満ちた文章で紡がれた物語。
その物語の裏には、幾千の分岐が平然と隠れている。
言葉の表面を撫ぜただけでは、表向きの物語だけしか掴ませない。非常に巧みな仕掛けが施されている。
「高純度な言葉や物語は歓迎だ」
そう言ってやると本体は、嬉しそうに「ヘヘッ」と笑った。
「んー、でもね。偶に読み進めていると、こう、手を掴んだ瞬間にクルっと返されて、違うルートに回されるような感覚がするんだよね。でも、時折コッチって強く引っ張られる時があるし…ピカって言葉が光るのも見えるんだけど…」
本を捲りつつ本体がゴチる。
「気づいてないのか」
「何が?」
「手を引っ張ってるのは、アレだよ」
「…ぇ゙、アレ?」
脳裏に浮かんでくるのは、紺色の古臭い型の制服に身を包んだかつての──。
「いやいやいや。アレは力を貸してくれるような魂じゃないよ」
「いや、お前の頭を国語の教科書の角でゴスゴスと叩いている姿を俺は見たぞ」
「マジか、止めてよ」
「無理だ」
目がマジな奴を止めるのは怖い。
「無言でやるとは思えないから…何か言ってた?」
「『固定概念を外して、しっかり読み解け、バカ』だそうだ」
「あぁ、言いそう。ていうか、絶対言う。めっちゃ自分に厳しいんだもの、アレは」
本体は頭を抱えて天を仰いだ。
「でもさ、頭叩きに来るくらいなら、一緒に創作もしてくれれば良いのに」
本の隅をいじりながら今度はいじけ始めた。
…忙しい奴め。
「こうも言ってたぞ。『今はROM専なんで』」
「その言葉も最早死語だわ」
本体には見えていないようだが、本体の隣には野暮ったい紺の制服に身を包んだアレがいる。
「創作しないのか」と無言で問いかけると、肩を竦めた。
「素直じゃない奴め」
時折本体に力を貸しているくせに。
どうしてこうも素直じゃないのか…過去という奴は。
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夜の海での出来事
夜の海
昼間の人混みが、まるで嘘のような夜の砂浜…波の音だけが、響いている…
繰り返し寄せてくる、波頭が白く砕けて、見上げる空には、沢山の星が、散らばっている…
独り、そんな砂浜に佇むと、色々な思いが込み上げては、消えてゆく…まるで、何が繰り返し寄せては、帰るように…
「夜の海」
海をふわふわと漂っているくらげに月明かりが当たりきらきら輝いている。
毎日、毎日、現実から逃げるようにここに来る。
ふらっといなくなっても気づかれなさそうなわたしが死んだところで誰も見てくれないし、気づいてはくれない。
日に日に崩れ、腐っていく心をきれいにするためここにきた。
ドボンっと音を立てて飛び込む。
ぶくぶくと息が水中に、泡がただより、足元に落ちていく。
テーマ「夜の海」
満月が上りだし夜の海が輝いたとき
2人で1緒に眺めていた景色は
聖夜の光と共に笑っていた
夜の海。
愛してくれと言ってくれ!と言う名ドラマのワンシーンを思いだす。
美しい二人がする花火のシーン、最後の線香花火が終わり真っ暗な中のキスシーン。バックは大きな海。
名シーンである。
そんな私は、夜の海なんて行った事ないけどね。
笑
冷
「殺された」みたい。
という表現が一番しっくりくる。
長い時間が経ったから、あんなふうに思い込んだだけ。
感情が混ざり合っているというなら、それは私にとって大きな波だ。
いったいどこ?
本当の貴方を知らない。
知らないことの愚かさを知ってしまった。
知らないことの幼稚さを知ってしまった。
見て見ぬふりと綺麗な霧は、大切なことまで隠してしまう。
私にとって、一番大切なモノはなに?
私が一番大切であるべきなのに。
もしも本当なら、とっくに貴方に会えたはず。私が悪いから?
いいえ、違う。私は私だった。
酔わないと自分を保てないほど、閉鎖していたんだ。
貴方を見ると、いつからか「殺された」
という感情が浮かんで、懐かしかった。
愛おしかった。悲しかった。怒ってた。
そして最後に、嫌ってた。
それがわかって何になるのかしら。
どこからどこまでもわからなかったから、まあいいか、とだいたいは片付けられてしまいそう。
だけど、だけどだけどどうしたらいいの?
【夜の海】
太陽が海に沈んだら
夜が駆け足でやって来た
夜の海に浮かぶのは
月の舟と星の囁き
零れ落ちた囁きを食べた魚は
悲しみに飛び跳ねる
夜を目指して飛び跳ねる
きっとばれないさ、こんなに真っ暗だもの。
真夏の夜、そう言う君は光る月も星も背負っていない。
君の向こうには、目を凝らせば辛うじてあるといえるような、頼りない屑のような星々が散らばった暗闇と、それとの境界がみえない、静かに広がるインクのような海だけがあった。
街灯が、背後からじーーーーーっと、寿命が近い蝉のような音を放つ。安っぽい白い光が君の姿を不自然に照らした。
はやくいこう、もういくからね
何も言わない私を置いて、君は夜の海へ消えていく。
追いかけようとして、昼間は熱かった砂に足を出す。
いくら足を出しても全く海に近づけない。ぬるい砂漠に足をすくわれて、
深く息を吸い込んで、目をひらいた。
湿気を吸い込んだ髪に汗まみれの体は、昨晩自分がシャワーを浴びてしっかり髪を乾かして寝たのか疑ってしまうほどの不快さだった。
何度か寝返りを打ってこちらが現実であることをじんわりと飲み込む。
目を刺すほど眩しい白光の下が似合う君が、あんな風になる訳が無い。なぜ夢だと気づかなかったのか。
ふくらはぎに痒みを覚え、この暑さでも蚊が生きていることに苛立つ。今年はまだ刺されていなかったのに。
痒みを紛らわすために起き上がってふくらはぎを叩く。
めいっぱい鳴く蝉の声で、珍しく窓をあけて寝ていたことに気づく。
弱々しい潮風を感じていると、君から「今夜海に行かないか」と連絡がきて、思わずぎょっとして返信できずに固まっていると「花火の許可もらってきた!」と続いて連絡がくる。
また思わず力が抜けて、私は笑みを零しながらそのまま君に電話をかけた。
【夜の海】
「SNSは虚像のオナニーである」
アプリを開くと画面の中の光が私たちを引き寄せる。「こんな美味しいものを食べてます!」「こんな恋人がいます!」「こんな所に旅行してます!」「こんな可愛いペットがいます!」そんな目的意識のない笑顔、絆、幸福。全てを鮮やかに映し出す。だけどそれは本当に自分のものなのだろうか。他人と比べ、他人の視線に依存して上辺だけの虚構な自分を飾り立てる。自己満足の渦に巻き込まれ、実体を失う。
SNSの中で生きること、それは自慰行為の延長線だ。自己を慰めるための行為、承認欲求の果てしないループ。他人と比べて自分を上げることでしか得られない満足感。
その裏に隠れる不安と空虚感は見ないふり。だが本当の魅力はそんな場所にはない。現実を生き、他人の評価に依存しない強さ。
それこそが、本当に美しいのだ。
SNSを捨て現実に向き合う時、私たちはようやく自分自身を取り戻す。
真の幸せはスマホの中にはないのである。だからこそ探しに行こう。実像の幸福を見つける旅を。
気づいてしまった。そうやってこの文章を投稿しようとしている私もまた自己満足にすぎないのかもしれない。結局、自己を探求し続ける私も承認欲求に囚われてる人々と同様に鏡の向こうの無限の渦なのだとね。
【夜の海】
朝を閉じて暗闇にして
瞳の奥で魚が跳ねる
上がった水飛沫1つ1つに夢が映って
今日はどんな夢を観ようと
その海に飛び込んで
きみの歌声に包まれるままに目を閉じる
2024-08-15
夜の海
月明かりの中、夜の海が奏でる波の音。
何ともいえず心が落ち着く月夜の波の音。
母のお腹の中にいたときに聞いた音なのだろうか。
そうだ、きっとそうだ、だから、何ともいえないこの安心感。
月明かりの中、夜の海が奏でる波の音
夜の海
田舎出身だったため、都会に出た時に見た夜景はすごく綺麗だと思った
でも住み慣れていくうちに都会の夜景を綺麗だと思うことは無くなった
このあかりはみんな残業などで夜遅くまで働いている光だと思うととても綺麗なものだとは思えなかった。
子供の頃家から飛び出し海へ行った
田舎の海に反射した月の光はきらきらとしていて
ただただ綺麗だった
時間が溶けるほど眺めていたのを覚えている
子供から大人になって心身ともに廃れていくのが実感する
あのころの純粋さはもう無くなってしまったのかと都会の夜景を見ながら思う
白く泡立つ波だけが見える。
寄せて返す、白い波は、くるぶしに触れてからそっと真っ暗な海の水面に消えていく。
砂浜を裸足で歩く。
ひんやりとした砂が指先を埋めてゆく。
月の明かりだけが、優しくこちらを見つめている。
クラゲは死の象徴であるというのは本当だろうか。
確かに、海水を凝固させただけのような、骨なしの不思議なあの生き物は、幽霊のように見えるだろう。
私は、クラゲが死の象徴であることを信じて、海岸でクラゲを探し続けている。
あの子が、白い白波とうねる水面の中に吸い込まれていったあの日が、海馬に焼き付いている。
私の幼馴染で、一番の友人だったあの子は、気づいたら海水に足を取られて、私たちが憧れていた人魚の世界に旅立ってしまった。
私に残ったのは、水脹れでむくれたあの子の抜け殻と、夜の海よりも冷たくて重い、悲しみと罪悪感だけだった。
海は波を運んでいる。
規則正しい波の音が、静かな砂浜にただただ響いている。
あの時、いっそ私も人魚になってしまいたかった。
目につく世界に弾かれて、信頼のおける家族も友人もいなかった私たちは、お互いがお互いの、唯一の友人だった。
あの日だって、海に遊びにいくということは、私とあの子だけの、秘密の約束だった。
あの日の事故は、あの子の家族の監督不行き届きとされた。
約束をしていたこと、一緒に遊んだことを私は言わなかったから。
私は、あの子のいない人生なんてどうでも良いと思っていたから。
あの日、あの夏から、私はずっと、死の象徴のクラゲを探し続けている。
あの子に再開するために。
波の音がはっきりと聞こえる。
白く泡立つ波だけが、砂浜に寄せては返している。
月の光だけが、夜の海を照らしていた。
海が側にない地域に住んでいるので
『夜の海』はドラマや映画の中で見た
イメージが強いです。
暗い、怖い、寂しい、悲しいなどの
シーンで使われる事が多いような。
もし海の近くに住んでいたら、もっと
違うイメージになっていたかもしれま
せんね。
〜お題『夜の海』〜
⑬夜の海
ロマンチックな一面もあるけれど、
私にとっては
静かで怖い
すべてを飲み込みそうで、
すべてを知ってそうで
戻れなくなりそうで
あまり近寄れない
疲れたーって仕事終わり
君と合流してコンビニでチョコレートと花火
パンプスのまま浜辺にくりだして
溶けかけたチョコを口に入れながら
手元をカラフルに描いてく
そのうちはしゃぎ疲れて
スーツなのに砂浜に横になって
一緒に空を見上げて
今の流れ星じゃない!?なんて笑って
甘酸っぱい夜の海、わたしの夏の思い出
目を閉じると今でも鮮明に
波の音が聞こえてくる
#夜の海
冬がきた。
私は以前恋人と訪れた港に来ていた。あの時も季節は真冬で、凍えそうに寒かったのを覚えている。
なぜ夜中に海を見に来たのか?
ここが観光名所だからというのもあるが、実際は少し気分が落ちていたからに他ならない。
たまにあるのだ、特に理由もなく落ち込む期が。
あたりを見回すと、2組ほどのカップルが散歩していた。ひとりなのは私だけ。少しだけ居心地悪く感じたものの、今は他人に嫉妬している場合ではないと頭を振る。余計な感情に惑わされず、自分を見つめなくては。
ザザン……ザザン……
時折波が堤防を打つ音が聞こえる。
子守唄のようなそれは、ベンチに腰掛けた私の瞼を下へ下へと引っ張った。
「先生?」
あの子の声が聞こえる。
「先生!」
こんな時間、こんな場所にいるわけがないのに。
「先生、起きてください」
肩に何かが触れた気がして目を開けると、そこはいつもの彼の部屋で、目の前の彼が膨れっ面をしていた。
「先生、私が勉強してる間に寝ちゃうなんてひどいですよ!」
「ああ、ごめんなさい。どれくらい寝てましたか?」
「10分は経ってないと思いますけど」
「すみません。ワークは終わりましたか?」
「はい」
彼が差し出した問題集を受け取る。彼の言う通り、すべての回答欄がきちんと埋められていた。
「うん、流石です。歴史はますます得意になれそうですね」
「ふふん♪」
私が褒めると素直に喜んでくれる彼。こっちまで嬉しくなる。
「ところで先生、そろそろ本当に起きないと、風邪ひいちゃいますよ」
「え?」
「先生、早く会いたいです。先生、……」
まだ何か言われたような気がしたけれど、うまく聞き取れなかった。深い海の底からすくい上げられる感覚。彼が遠ざかっていく。
待って、まだ彼と話していたいんだ。
まだあの子のそばにいたいんだ。
待って……
「おい!!!」
鼓膜を通り越して心臓をぶっ叩くような野太い声で目が覚めた。一気に脈が跳ね上がる。
「おいあんた、こんなところで寝てたら死ぬぞ!」
「へ、ああ、すみません。ありがとうございます」
「おう、気をつけろよ!」
威勢のいいおじさんからはほんのりアルコールの匂いがした。恐らく飲み仲間であろう人達と一緒に去って行く。
私は凝り固まった体を伸ばして立ち上がり、駐車場へと足を向けた。
途中、持ってきていた貝殻を真っ黒な海へ放る。元はここで拾ったものだから、ゴミとは言わないでほしい。
車の中はすでに冷え切っていた。温かい飲み物を買って正解だった。
私はコーンポタージュを缶の半分くらい飲んでから、ポケットのスマホに手を伸ばした。
無性にあの子と話したい気分だった。
テーマ「夜の海」
─── 夜の海 ───
とても静かだ
ここには誰もいない
いるのは私と水の中で眠る生き物たちだけ
音は大きくないけど少し迷惑かな
ごめんね
ここが1番の練習場所なんだ
誰にも見られないし邪魔されないから
水面の上で箒にまたがり
そっと口の中で言葉を紡いだ
パッと空が明るくなる
月でもない星でもない
夜の花を空に咲かせることが
今の私に与えられた課題
【お釈迦】
夜の海に垂らされた釣り糸は
まるで蜘蛛の糸のようで
僕はだんだん減るロウソクみたいだ