きっとばれないさ、こんなに真っ暗だもの。
真夏の夜、そう言う君は光る月も星も背負っていない。
君の向こうには、目を凝らせば辛うじてあるといえるような、頼りない屑のような星々が散らばった暗闇と、それとの境界がみえない、静かに広がるインクのような海だけがあった。
街灯が、背後からじーーーーーっと、寿命が近い蝉のような音を放つ。安っぽい白い光が君の姿を不自然に照らした。
はやくいこう、もういくからね
何も言わない私を置いて、君は夜の海へ消えていく。
追いかけようとして、昼間は熱かった砂に足を出す。
いくら足を出しても全く海に近づけない。ぬるい砂漠に足をすくわれて、
深く息を吸い込んで、目をひらいた。
湿気を吸い込んだ髪に汗まみれの体は、昨晩自分がシャワーを浴びてしっかり髪を乾かして寝たのか疑ってしまうほどの不快さだった。
何度か寝返りを打ってこちらが現実であることをじんわりと飲み込む。
目を刺すほど眩しい白光の下が似合う君が、あんな風になる訳が無い。なぜ夢だと気づかなかったのか。
ふくらはぎに痒みを覚え、この暑さでも蚊が生きていることに苛立つ。今年はまだ刺されていなかったのに。
痒みを紛らわすために起き上がってふくらはぎを叩く。
めいっぱい鳴く蝉の声で、珍しく窓をあけて寝ていたことに気づく。
弱々しい潮風を感じていると、君から「今夜海に行かないか」と連絡がきて、思わずぎょっとして返信できずに固まっていると「花火の許可もらってきた!」と続いて連絡がくる。
また思わず力が抜けて、私は笑みを零しながらそのまま君に電話をかけた。
【夜の海】
8/15/2024, 2:41:05 PM