薄墨

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白く泡立つ波だけが見える。
寄せて返す、白い波は、くるぶしに触れてからそっと真っ暗な海の水面に消えていく。

砂浜を裸足で歩く。
ひんやりとした砂が指先を埋めてゆく。
月の明かりだけが、優しくこちらを見つめている。

クラゲは死の象徴であるというのは本当だろうか。
確かに、海水を凝固させただけのような、骨なしの不思議なあの生き物は、幽霊のように見えるだろう。

私は、クラゲが死の象徴であることを信じて、海岸でクラゲを探し続けている。

あの子が、白い白波とうねる水面の中に吸い込まれていったあの日が、海馬に焼き付いている。
私の幼馴染で、一番の友人だったあの子は、気づいたら海水に足を取られて、私たちが憧れていた人魚の世界に旅立ってしまった。

私に残ったのは、水脹れでむくれたあの子の抜け殻と、夜の海よりも冷たくて重い、悲しみと罪悪感だけだった。

海は波を運んでいる。
規則正しい波の音が、静かな砂浜にただただ響いている。

あの時、いっそ私も人魚になってしまいたかった。

目につく世界に弾かれて、信頼のおける家族も友人もいなかった私たちは、お互いがお互いの、唯一の友人だった。

あの日だって、海に遊びにいくということは、私とあの子だけの、秘密の約束だった。

あの日の事故は、あの子の家族の監督不行き届きとされた。
約束をしていたこと、一緒に遊んだことを私は言わなかったから。

私は、あの子のいない人生なんてどうでも良いと思っていたから。

あの日、あの夏から、私はずっと、死の象徴のクラゲを探し続けている。
あの子に再開するために。

波の音がはっきりと聞こえる。
白く泡立つ波だけが、砂浜に寄せては返している。
月の光だけが、夜の海を照らしていた。

8/15/2024, 2:36:21 PM