秘密の場所
夜闇増無星
月隠雲慵起
叱声枕欹聴
我独包重衾
小閣護我世
寝台逃我現
我秘哀在是
我苦密集之
重衾扶我心
枕知深我悩
此不変帰処
誰寧勝可是
夜闇は増し星は無く
月は雲に隠れ起きるのはものうい
叱かる声は枕を欹てて聴き
我は独り重ねた衾に包まる
小閣は我を世から護り
寝台は我を現から逃す
我が秘哀はここにあり
我が苦しみはここに密集す
重衾は我が心を扶け
枕は我が悩みを深く知る
ここは変わらず帰するところ
いずくんぞ誰これに勝るべからんや
夜闇は増して、星は無く
月は雲に隠れて、起きるのには億劫だ
叱責は枕に耳を傾けて聴き
私は一人、重ねた布団にくるまる
小さな部屋は私をこの世から守ってくれ
布団は私を現実から逃してくれる
私の秘めたる哀しみはここにあり
私の苦しみはぎゅうぎゅうにここに集まっている
重なった布団は私の心を助け
枕は私の悩みを深く知っている
ここはいつまでも変わらず帰るところであり
誰がこの秘密の場所に勝てるというのだろう、
いや、ここが私の最高の秘密の場所だ
It's good night, That night have no stear
Moon hide cloud, I don't try to wake up now
I cover my ears with pillow
I hide my body in many comforter
This room protect me from actual
This bed defend me from real
My sorrow exist my comforter
My sadness exist my pillow
This comforter helps my mentality
This pillow helps my mind
I like here,and Here is where to go eternally
This is No.1 place for me
おもむろに舞台の上で、音が鳴る。
静かなホール内にA音が響く。
オーボエのラ。
バイオリンのラ。
チェロのラ。
トランペットのラ。
フルートのラ。
ラララ
音の重なりが広がっていく。
ピッタリと重なる、とても澄んだラの階段だ。
腕の素晴らしい奏者ばかりなのだろう。
オーケストラのチューニング。
まだ音楽は始まっていないのに、統率の取れた旋律が、空間を包む。
ホール内の空気が、心地よい音の渦に包まれる。
この瞬間が私の夫は好きだった。
ホールのふかふかな観覧席にもたれて、何オクターブものラの重なりに耳を傾ける、この瞬間。
私はかつての夫のように、背もたれに体を預け、目を瞑った。
…
「…さん、おばあさん!」
目を開けると、ホールの管理人ががこちらを揺さぶっていた。
舞台の上はすっかり無人になっており、演奏は終わっている。
隣の若い利かん気の強そうな若者も、帰り支度をしていた。
管理人と話していたのか、指揮者も後ろに見える。
「おばあさん、お帰りください。演奏が終わりましたよ」
管理人は親切に言う。
それを遮るように、突然、隣で帰る準備をしていた若者が口を挟んできた。
「この老害め。ただ寝に来るんだったらそのチケット、他のやつにやればよかっただろ」
私は若者をじっと見つめた。
若者は暗い瞳でこちらを見ていた。
もしかしたら、彼は他の誰かとこのコンサートを見に来る予定で、チケットが取れなかったのかもしれない。
指揮者も、恨めしそうな目でこちらを睨んでいた。
それはそうだろう。自分の精魂込めた仕事を、寝過ごされたなんて聴けば、腹が立つのも当たり前だ。
「ごめんなさいね」
私は言った。
「うちの夫はね、不眠症気味で。ほら、あの戦争で従軍してからというものね。どうしても眠れなかったの。」
「…だけど、ここで、ここの演奏を聴いている時はよく寝付けたから…」
「…今日はね、夫の命日なのよ」
私は二人に微笑みかけた。
二人は唖然としてこちらを見つめていた。
どちらもあの戦争を知らぬ若さだ、無理もない。
私は指揮者に向かって微笑んだ。
「とても良かったわ。チューニングのラララ、ぴったりとあっていて、とても素晴らしかった。演奏もきっと素晴らしかったのでしょうね。今日は夫の真似をして眠って聴いていたけれど。素敵な演奏をありがとう」
バツが悪そうに、指揮者は頭を下げた。
若者は、居心地が悪そうに肩を揺すった。
年配の管理人だけは、馴染みの客である私たちの事情を知っていたので、にっこりと、佇んでいる。
次に、若者に向き直り、言葉を伝えた。
「今度は、寝ずに聴きに来るわ。ごめんなさいね。数ある席を取ってしまって。…貴方、ここのチケットを取るなんて、とても良い耳をされているのね」
そして管理人にいつものように挨拶をした。
「相変わらず、素晴らしい音響でしたわよ。また来るわ」
「はい、またお待ちしています」
管理人の声を背に、私はホールを後にした。
今日聴いた、あのチューニングの音を思い出す。
統率の取れた、美しい、ラララのあの旋律。
目を瞑って聴いたあの美しい旋律は、素晴らしい子守唄だった。
代が変わっても、素晴らしいオーケストラであるようだった。
あのホールで、隣に座っていた、あの人のあの柔らかな寝顔を思い出した。
あのラララの旋律で。
私は帰路を辿り出す。
美しいチューニングのラララと、それにうっとりと目を閉じていたあの人の記憶とを、反芻しながら。
ひったくるようにティッシュを引っ張り出す。
ぐずぐずの鼻に、一枚のティッシュを当てがい、思い切り鼻をかむ。
今日は風が強い。
風が運ぶものに過剰に反応しやがって。
この時期になって、ティッシュが欠かせなくなると、自分の体にそう苛立つ。
しょぼしょぼと涙をこぼす目に二枚目のティッシュを当てる。
ぐすっと音を立てた鼻から、二、三回くしゃみが飛び出す。
薬を忘れたのが敗因だった。
しかし、薬があったとしても、ここでは気休めにしかならなかったかもしれない。
開けはなした窓からはひっきりなしに風が花粉を運んでくるし、室内は室内で照る日差しの中に、細かい埃が踊っている。
花粉症で鼻炎持ちには地獄みたいな環境だ。
こんな時期にこんな場所を掃除しようなんて馬鹿なことを考えたのは誰だ。俺だ。
ここは山間の伐採所へ向かう林道の隅に、ぽんと建てられた、林業者のための倉庫だ。
小さな掘建小屋に、安全に木こりをするための様々な器具や用具がこれでもかと詰め込まれている。
かつてはこの道には、たくさんの重機や人が行き来し、この山の伐採所も賑わっていた。
しかし、時が経つにつれ、木材や木を使う人が減り続け、伐採所も荒れ果てた。
今では閑散とした静かな山間に、ただ閑古鳥の声が響くだけの林道となっていた。
そんな山が、急に俺のものになったのは3か月前のことだった。
山を持っていた父が往生を遂げ、俺の手元に転がり込んできたのだった。
実は、父は林業者や木こりが少なくなっても、よく山の手入れに出かけていたそうだ。
俺を連れて行ったり、教えてくれたりはしなかったが。
母によれば、この小屋にもよく行っていたようだ。
しかし、歳と病気で動くのが辛くなった時期から、この山は長らく放置されていたらしい。
そんな山を手入れしようかと、俺はやってきたのだった。
しかし、時期が悪かった。なぜ俺は花粉の多い春先にこの小屋に足を運んでしまったのか。
風が運ぶものは他にもいろいろあるはずなのに、ここの風は、スギ花粉と埃だけを運んでくる。
これじゃあ、ろくに掃除もできやしない。
掃除がてら、父が俺にこの山のことを教えてくれなかった理由を探ろうと思って、ここまで登ってきたのに。
今日はそれどころじゃない。
鼻も目もぐずぐずだ。
マスクもティッシュも手放せない。
ぐしゃん!
けたたましいくしゃみが、立て続けに飛び出す。
風が運ぶものに過剰反応しやがって。このボンクラ!
父が口癖のように使っていた悪態を追加して、心の中でひとり、自分に悪態をつく。
今日は、風が強い。
question
聞け!
話せ!
私たちに質問の余地などない
走れ!
進め!
私たちに疑いの余地はない
従え!
動け!
私たちに可能性の余地はない
今に疑問を持てるのは
明日が約束されているものだけ
人に教えを請えるのは
誠実な師がいるものだけ
questionは贅沢品
questionは貴族
questionは高貴なる生まれの言
しかし
また、可能性でもある
questionは時に社会を変える
questionは時に世界をも動かす
そして、我々を救うこともある
弱い者を助けることもある
questionは高貴なるものの義務を果たす
高貴に 無邪気に その真っ直ぐな性質で
我々にはquestionの余地はない
しかしquestionはいつか
我々の方を向いてくれるかもしれない
だから、今はただ、進め
進むのだ
question
Listen!
Talk!
Can't we have a question
Ran!
Go!
Can't we have a question
Obey!
Move!
Can't we have a question
They need tomorrow
in order to call into question
They need good tedcher
in order to ask a question
Question is luxury item
Question is noble
Question is nobly born
But
It is question
Question can change society
Question can move the world
Question have possibility
To save our
To save weak
Question have noblesse oblige
Question is noble
Question is inocent
We can't have a question
But question can save our
Go!
Go straight ahead
Until that time
なんでって言ってしまった。
分かっていたのに。
それは疲れていた僕の、ただの油断でこぼしてしまった言葉で、人にはよくある日常的な些細なミスだった。
けれども、その些細なミスが僕たちの終わりだった。
言い訳がましいけど、言った瞬間にしまったって思ったんだ。
僕の前で、君は顔を歪めていた。
それから、君は何も言わずに部屋を出て行ったんだ。
小さな約束だった。
次の海外は一緒に行こうって
次の海外旅行は、新婚旅行にしようって
そんな些細な約束。
君は旅が好きで、よく外出した。
仕事柄、私事でも仕事でも、よく海外へ飛んでいた。
君は自由主義で、よくふらりふらりとどこかへ行ってしまう。
君は必ず帰って来てくれるのだけど、それは僕も分かっていたのだけど。
本当に君は、いつでも僕の元に帰って来てくれるのか、それが不安で不安で。
だから、あの約束を僕は持ちかけたんだ。
「次の海外は二人で一緒に行こう。次、海外に行くときは僕たちの新婚旅行だ」って。
今日、帰って来たとき、君は俯いて、疲れ切った暗い顔をして、僕を見た。
僕は、君に笑ってほしくて、いろいろと話した。
職場であった面白いことや、君の好きなギャグなんかを。
君の顔はそれでも暗いままだったけど、僕の言葉や話に小さく笑みを浮かべてくれて、僕はそんな様子にすこし安心してしまった。
夕飯が終わった時に君が切り出した。
「ごめん。次の仕事でシンガポールに行くことになった。明々後日から留守にするね」
僕は、「なんで」って言ってしまったんだ。
君の顔を見れば、分かったのに。
君が約束を守ろうと頑張ってくれたこと。
それでも約束を守れなくて、断りきれなくて約束を破ってしまったんだってこと。
僕との約束を守ろうとして、今日こんなに疲れていること。
それなのに、僕はこぼしてしまった。
君には聞こえたはずだ。
「(約束を守らないなんて)なんで」って。
僕は、君との暗黙の約束を破ってしまった。
君は確かに約束を破った。
僕は、君の信頼と安心を破り棄てた。
お互いに、大切な何かを破ってしまった。
だから、致命的だった。
どんな喧嘩よりも完全に、これが決裂だった。
なんでって言ってしまった。
分かってたのに。