『夜の海』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
夜の海ほど美しいものは無いだろう、
何もかも飲み込みそうな真っ黒の空間
誰もが恐れるであろうそのドロドロとした所に
真っ白の砂を蹴って飛び込む
全てなくせればいいのに
お題:夜の海
ザザアと静かに響き渡る海の波。
私はぼんやり海を見つめる。
「……」
「…やっぱりここにいたか」
「!…深月」
「俺が毎回お前の親から連絡されて探し回る手間取らせるのいい加減にしろよ」
幼なじみの深月は、口悪く当たり私を睨み付ける。
「叫べよ」
「え?」
「今は俺しかいないし、嫌なことくらいここで叫べよ」
夜の海はひとりぼっちな場所だった。
けど、大嫌いなはずの幼なじみと今一緒にいる。
キミの詠う声が1番近くで聞ける場所。
もうひとりぼっちじゃない。
夜の海は私の大好きな居場所だ。
夜、陸風は海に向かって吹く。人は、海に向かって自ら人生の幕を下ろす。心はずっとよるなんだ。
中学生の頃、こうして海風と陸風の向き・時刻を覚えました。
夜の海
夜の海には魔物が出る。
そんなおとぎ話を子どもの頃に聞いて、いてもたってもいられずに海へ駆け出したのはいつかの少年時代。
少年は青年になりすっかりと背が伸び顔つきに幼さを残しつつも大人への成長を思わせるようになった頃、そんな話をふと思いだし、すっかり暗くなった海岸にただ立ちつくしていた。
もちろん魔物などいようはずもなく、ただ一面を覆う薄暗さと波の音に支配された空間。
青年は死に場所を探していた。
ここは丁度良かったが、どうにも踏ん切りがつかない。
ここが今完全な暗闇であれば踏ん切りがつこうか?
そう思って、海岸沿いの道路にある街頭を怨めしく思うが、どうにもそう言うわけではない。
むしろ街頭の放つ光から離れれば離れるほど後ろ髪引かれるような、背中を、足を引っ張られるような気持ちになって結局光の恩恵に預かる所に立ちつくすしかなかった。
結局は意気地が無いのを何かのせいにして粋がってみてるだけなのである。
そしてそれがどうにも情けなく思えて、涙があふれしまいにはしゃがみこんで肩を震わせていた。
10分はしゃがんでいただろうか。
ひとしきり泣けば気持ちは切り替わり青年は海へと歩みを進め、波打ち際まで来た。
だが、今度は遠くから聞こえて来ていたはずの波の音が大きな威圧感を持って青年を襲う。
今まではBGMとして機能していた波音が、水と音その両方を現実的距離の近さを強調するかの如く大きくなり青年に間違いようの無い死を与えるためにそこにあると言わんばかりの力強さを持ってそこにあった。
光の元へ戻りたい。そう思い振り返ればそこには無機質な光を放つ街頭があるだけだが、青年にはその光が母のぬくもりのような、そう錯覚させるだけの生がそこにはあった。
だがそんな妄想を吹き飛ばさんばかりに頭をふり1歩。
ぴちゃ…。
冷たい。
もう一度街頭の方へ振り向きたい欲求が溢れる。
だが、反抗した。
反抗期と言う年でもないが何かにすがりたい弱い気持ちへの反抗心のようなものがそうさせたのかもしれない。
ここに来ても青年はまだ粋がっていたのだ。
2歩。びしゃ…
まだ濡れていなかった左足までもが水の侵略を許し両足を海に浸す。
そこからは恐る恐る1歩2歩と確実に死の感覚を覚えながら足を伸ばすが水が膝を浸し始めた頃。
自らの眼前にある海の広大さに思考を止めた。
眼前を埋めつくす圧倒的な黒、どこまでも伸びている黒色。
それに気付いた瞬間いても立ってもいられず一目散に元いた場所へと駆け出していた。
今すぐあの場所へ行かないとダメだダメなんだ。
ただそう思って初めより少し小さくなった光へ駆け込む。
息も絶え絶えに街頭の下で青年は今にも泣き出しそうな気持ちでうなだれていた。
一念発起して挑んだ人生最後の大事も結局は自らの意気地が無いことの証明になってしまったみたいでどこまでも惨めな気持ちが水のように心を埋めつくしていく。
「おーい、にーちゃん!」
すこししゃがれた声がどこかからか青年の耳へと入る。
こんな時に他人の声が聞こえるとは、帰り支度も時間の問題だなと思った時、1人の老人が20メートル程離れた所から手を振っているのが目に入る。
紛れもない現実の光景であり、死を恐れる心が耳に勝手に押し込んだ幻聴では無いのは確かであろう。
「早くこっちへ来い!わしゃあ困っとるんじゃ。」
何か変だ。これはもしかしたら死を恐れる心が目を耳を侵し始めたのではないか?青年はから寒い物が全身を駆け巡るような気分になる。当然である。時刻は午前1時頃人などいようはずもない。
だが、そんな思考に反発して震える足を老人の方へと向けていく。
こんな時でもまだ粋がる。
光から離れ肩が一瞬震え、寒気が全身を覆い尽くす。
体がこの少しの時間で冷えきっていたようで次第に震えは全身へと廻ってきた。
青年が温もりを求めた街頭は所詮は無機質な光を放つモノであり、錯覚の温もりは与えても本物の温もりなど与えてはくれない。
「ようやくきたなまぁ良いわい、にーちゃんよく聞けそこに木が組んであるだろ?それに火を着けたいんだかライターが固くて中々火付けに火がつかんのだよ。わかもんの力で何とかならんか?」
まず、安堵した。目前にいる老人は偽物でもなく、ましては死神の類いではなさそうであるからだ。
いいですよ。と老人からライターを受け取ったはいいが、中々着かない。
震える手を何とか押さえてライターを押すがそもそも火が着かない。
何10回繰り返したか分からないが、気付けば火が着き、それを火付けにかざす。
火は一気に燃え上がり、青年に安堵と温もりを提供し出す。
「いやいや良かった良かった。これで酒が飲めるわい。ほれ、にーちゃんも飲んでけ!心配するな肴もしっかりあるでよ。」
そう言って老人はコップを差し出す。
だが、青年は断った酒など飲んだこともなければ、そもそもまだ17なのだ法律上でも飲めるはずはない。
「なんだ、飲めんのか?どうせ死ぬのだから最後に老人の酒に付き合え!」
全てお見通しだった訳だ。
あきらめてコップを受け取り老人の持った一升瓶から注がれる液体をどこか遠い目で眺める。
そしてそれを一気に煽る。
辛かった。それも特段に。だが、それ以上に冷えきったハラの底から沸き上がるような温もりが心地よい。
「なんじゃイケる口じゃないか、ほれ、一服せ。」
そう言って老人はタバコを差し出す。もうどうにでもなれといった気持ちで青年はそれを受け取り、手元にあったライターで火を着けるが上手くいかない。
どうやっても完全に火が着かないのだ。
「なんだタバコも初めてか?火を吸うんじゃよ。こう………ふぅ……わかったか?」
なるほど、老人のマネをして吸い込むが、酷く咳き込んでしまう。
「ふぁふぁふぁ最初はだれもそんなもんだ。ほれ、もう一杯飲め!」
それからしばらくして青年は完全に出来上がった。
酒の魔力はこれ程かと思わせる程に先程の陰鬱な青年が陽気な青年へと出来上がってしまった。
いや、酒だけではないのであろう。肴もまた良かった。
この海で取れるであろう乾きものや刺身が絶品であった。
「この酒は海神様の加護があるんじゃよほれ、もっと飲め!」
海の神が愛した酒なれば海の幸と相性が良いのもうなずける。
「それでわしゃあなぁ、仕事柄良かれと思ってやった事が裏目に出たり、それが原因で人に恨まれるなんてざらにあるんじゃよ…。まぁそんなわしでも酒とこの海があればなんとでもなるもんよ!にーちゃんもそう思うだろ!?」
思い切り良く肯定する。
人生の中でも最高の瞬間であった。
「悩みがある悩みが振りきれるくらいにならなんでも踏み込んで挑戦せい。お前は酒もタバコも人生で初めて呑んだのに、こんなに出来上がって上出来じゃないか。これからたくさんの初めてに遭遇するのに勿体なかろうて。いくつになっても初めての挑戦はし続けるがよいぞ。」
この言葉のために老人は青年を呼んだのではないかと思えるくらいに力強くはっきりと言った。
それからは太陽が昇るまで飲み歌い語らった。
この日悩みから死を選ぼうとした青年は死んだ。
そして今日。新しい事に踏み込む勇気を持った青年が生まれたのである。
生まれ変わった青年が初めて見る太陽は温かく彼を祝福し包み込むような包容力を持ち、海は祝いの唄を歌っているかのように感じられる清々しい朝だった。
決してこれは強がりではないもはや青年は粋がる必要などないのである。
夜の海には魔物などいなかった。
いたのは酒飲みの老人。
だが、これは良い出会いであろう。
これからの彼らに幸あれ。そう願わずにはいられない水曜日の朝だった。
ある夏の日、何故か私は夜の海にいる。夏なのに寒い夜の海だからか?。海に来る前はたしか昼だったきがする。ここは夢の世界だろうか。そう思い頬つねたが痛みがなかった。「やぱっりここは夢の世界だった…」そうつぶやき目に力入れたが何も起こらなっかった。走ってみても普通に走れる。「じゃあここは現実?…いやでも頬をつねても痛みが無かったじゃあここはどこ?そういえば記憶があやふやだ私が誰だったかあまり思い出せ無い…」そう思い記憶を振り返ってみた。私の名前は川谷あやか。高校3年生成績はそれなりに良い。学校でわ目立ず浮かずという感じで。いわゆる無キャとゆうやつだ。友達とゆう友達は一人しかいなかったが昼休みに喋る相手ぐらいはいた。親は母は専業主婦で優しく料理も美味しくまさに理想の 母親とゆう感じだ。父は仕事人で母と私に冷たいが仕事をして無いより良か。この前犬飼っていた名前は小太郎寿命なくたってしまった。人懐っこくて賢かった。「よし、大体の事は思い出してきた。少し冷静になった。そういえばどうしてここに来る前は何をしていたんだろうそういえば死のうとしていたんだった」とても幸せなはずなのに何か足りない、それなりの学校生活、それなりの関係、それなりのお金、それなりの幸せ。それだけじゃ私は満足出来なかったらしい階段を登りフェンスに手をかける。フェンスの上まで登ったが「やっぱり母が悲しむからやめよう」とした瞬間一人だけの友達のみゆが背中押してきた。みゆはかわいいし愛想も良い。おまけに頭も良いから先生にも気に入られているのに何故…。「…まぁとりあえず砂浜を出よう。」としようとしたが透明な壁?みたいな物があって砂浜から出られなっかた海に入ろうとしたが水温が低くとてもじゃ無いが入れない。消去法で砂浜を歩く事10分何故の看板があった。内容は「ここはあの世。ここには時間の流れが無い。あなたが今いるとこのは心の間ここはあなた心によって景色が変わる。5年〜30年後に水辺から船に乗り使いがくる船に乗りくるその時は必ず船にお乗りください。行き着く先は選びの間。善人から順に運ばれる。この世に未練がある場合は幽霊になる。幽霊は現世に干渉出来ない。しかし、ある条件の人間とは干渉できる。霊感がある人間は話せるしこちらも見える。
日暮れ
楪のかげでかくれんぼをしている
子供たち
もう日が暮れるよみんなもう帰ろう
綺麗な茜色が空に見えるよ
みんな空を見てみて、綺麗な茜色だよ。
夜の海は暗く、どこまでも闇が広がっている。
その闇に吸い込まれるように靴を脱ぎ裸足になって砂浜へ行く。海に足をつけると冷たくて気持ち良かった。
ザザーッ、と波の音だけが響いてなんだか私一人しか
この世界にいないような気分になる。
あなたもこんな気持ちだったのだろうか。
「───いっそ、この闇に溶けて消えてしまえたらいいのに。」
あなたの泣きそうな声が頭をよぎる。
ああ、あなたはきっと光も届かない夜の海に溶けて消えてしまったのだろう。私を置いて。
「ねえ、私一人ぼっちは嫌だよ。」
そう呟いた時、冷たい潮風が吹き目を瞑る。目を開けると月の光に照らされるあなたがいた。
「ごめんね、一人にして。でももう大丈夫だよ。」
涙が落ち、海の中に消える。やっぱりあなたは私を迎えに来てくれた。だって何があってもずっと二人で支え合うと約束したのだから。
「……もう、遅いよ。ずっと待ってたんだから。」
たとえこの先が死であっても。一人で生きる寂しさに
比べたら。ちっとも怖くない。
そして、その白い手に私は自分の手を─────
『夜の海』
夜の海ほど
ロマンチックな場所はあまりない気がする
夫よ
一緒に夜の海をいつか堪能しない?
そう言うと
どこでもお前と一緒なら
ロマンチックだよ。
と言われた
一本どころじゃないな何億もとられた気がした
愛してるよ夫よ!
-夜の海-
ザザァーと海の波の音が聞こえる
月明かりで海が反射してキラキラと輝いている
そんな美しい光景をイメージするだろう
実際は真っ暗な夜で波の音が聞こえたとしても海があまり見えない
月明かりも綺麗に輝く訳もなく海に反射してない
場所が悪かったかもしれないけど
現実と理想がかけ離れていて思ったのと違う体験ありますか?
「夜の海」
生きるのがつらい。
最近毎日のようにそう考える。
特に学校に行くのがつらい。
受験生の時は確かにここに行きたいと思って、決して楽ではない受験勉強をがんばって、見事第一志望に受かって入れた学校だった。受かったときはもちろんうれしかったし、これから楽しい高校生活が待っているのだろうと信じていた。
でも、そんなことは無かった。スタートダッシュを失敗した私には友達ができなくて、あっという間にひとりぼっちになった。もともと人見知りな私はすでにできつつある仲良しグループに入ることができなくて、ああこれからの高校生活ずっとぼっちなんだと分かってしまった。友達がいないというのは些細なことのようで、私には重大な問題だった。ただ静かに機械的に学校に行くうちにどんどん学校に行くのがつらくなって、生きていたくないと思うようになって、とうとう今日学校をさぼってしまった。
学校の最寄り駅についても降りなかったのだ。降りたくなかった。妙に反抗的な気分だった。このまま終点まで行ってやろうと意気込む。確か終点まで乗ったら海につくはずだ。行こう、海に。学校なんて死ぬほどつまらないところに行くよりずっといい。気が大きくなった私は学校に嘘の欠席連絡をして、電車に揺られ続けた。海は結構遠い。
『終点~終点~』
いつの間にか眠ってしまっていたようだった。車内アナウンスの声で目を覚ます。もう着いたのか。慌てて車両から降りて、私は目を見開いた。駅のホームからもう海が見える。青く輝き、どこまでも広く続いている海が。朝の重苦しい気持ちはすっかり消えて、ワクワクしてきたのを感じた。駆け足気味で駅を出て、海に向かう。
春の日の朝だからか、海にはほとんど人がいなかった。ただ制服姿でいるのはやはり少し気まずいので、人がいない方向を目指して砂浜を歩く。砂浜は真っ白で、きらきらと光っていた。一歩歩くごとにが足を優しく包み込んでくれて気持ちがいい。
そこで私は、岩影に隠れるように座っている不思議な人を見つけた。水着を着ていて、髪の毛が水色の女の人。ただの変わった人だと思って気づかれないように後ろを通りすぎた時、目の端にちらりと青い光が見えた。気になって振り返ると、なんと女の人の下半身が青くてきらめくうろこでおおわれているではないか。まさか、人魚?思わずまじまじと見つめていると、目が合ってしまった。女優さんみたいにきれいだ。女の人はにこっとして手をふる。
「あら、かわいい人間の女の子。こんにちは」
返事もできずに固まっていると、その人はきょとんと首をかしげた。
「もしかしておはようの方が良かったかしら?ごめんなさいね、陸の文化には不慣れで困るわ」
「あ、あのぅ……ほんとうに人魚、なんですか」
「もちろんよ。他にどう見えるっていうの?」
人魚さんはぷうっと頬を膨らませる。こんな顔もするんだ。人魚さんはすぐに笑顔になって、自分の隣をぽんぽんと叩いた。
「そんなことより、私人間のお友達が欲しかったのよ。ほら、おしゃべりしましょう?」
いつもならこんな誘い絶対乗らない。正直怪しくてたまんない。どこの誰なのか、ほんとうに人魚なのかもわからないんだもん。でも、今日の私は学校をさぼった不良少女だ。ダメなことでも楽しそうならやってみたくなる。私は人魚さんの隣に座った。人魚さんからはほんのり磯のにおいがした。
それから私たちは色んな事を話した。人魚さんと私は意外に気が合った。きれいで、広くて、なんでも受け入れてくれそうな海をみながらするおしゃべりは楽しかった。そんな海から来たからか、人魚さんの心は広くて明るくて、話しているだけでもやもやする気分が晴れていく。気づけば私は学校のことも話していた。
「高校デビューに失敗して、クラスに友達一人もいないんです。何しても一人で、さみしくて、学校行きたくなくなっちゃって。こんな理由でって思うかもしれませんけど……」
私の愚痴を聞いて、人魚さんは柔らかく微笑んでいった。
「できたじゃない。友達一人。私とあなたは友達でしょ」
「友達」
「そうよ。それに、きっと高校でも友達できるわ。まだ春じゃない。チャンスはいっぱいあるわよ」
「無理ですよ。だってもうクラスでグループで来てるし、部活でもそうだし」
「グループにも話しかけてみればいいのよ。きらわれてるわけじゃないんでしょ」
「無理ですよ……っ。そんな勇気、とても出ない!」
つい声を荒げてしまう。でも人魚さんはゆるぎない瞳で私をじっと見つめ、断言した。
「できるわよ。あなたは学校さぼって一人で海に来る行動力があるんだから」
それに私もいるでしょ、とふふふと笑う。不思議なことに、できる、と言われるとできる気がしてきた。結局私は勇気を出すことを怖がって、もう無理だと言い聞かせて諦めようとしていたのかもしれない。まだできることはあるのに。
「私、やってみます」
私はつぶやいた。いったいどれだけ話していたのか、暗くなってきた海を見る。そろそろ日が暮れる。
人魚さんは力強くうなずいた。
「きっと、できるよ」
空には星が瞬き始めていた。昼の海とは違う、落ち着いた雰囲気。
うん、私はきっと頑張れる。そう思えた。
夜の海
「ここは夜でも静かだね」
空に浮かぶ月を眺めてそう言った貴方は山のほうの出だというから、此処の賑やかさを知らないのでしょう。
目を閉じ、耳を澄ませば聞こえる、岩に当たって砕ける波の音。浜に残された泡の割れる音。遠い海の底で唄う船の声。嵐の訪れを告げる魚の囁き。
それから、砂を踏んでやってくる彼の足音。
これから交わされる私達の会話も、行われる秘め事も。
すべてこの賑やかさの中に消えてしまうのを、貴方はきっと知ることはないのでしょう。
頭上を光が通り過ぎる。左から右へと光が動き、暗い海をすうっと照らす。光を目で追うがそこには何もいない。暗い海がただ照らされるだけ。
日中はまだ暑いというのに、夜の海辺は思いのほか寒い。薄着のせいか、海風のせいか、はたまた季節外れの寒気のせいか。
ただそれでも、この景色を目に焼き付けたかった。
突然会社から有給休暇を消費するように厳命されたのは先週のこと。何がどうあっても今月中に5日は消費してくれと泣きつかれたので、閑散期で少々暇な今の時期ならと致し方なく休むことにした。
仕事をしていることでようやく人としての形を保っていられる私のような人間にとって、連休ほど困ることはない。それなのに、3連休と土日に挟まれて10日間の大型連休となってしまったのだから、泣きたいのはこっちだと不満を漏らす。
降って湧いた10連休。旅にでも出てみようかと旅行雑誌を購入したものの、いまいちどこもピンとこない。どうしたものかと思案していると、ふと思い出したのが灯台だった。
子どもの頃、父の書斎。所狭しと本が積み上げられていたのに、本棚の1ヶ所だけぽっかりと空いていて、そこにあったのが灯台の模型だった。
これは何かと問うた私に父は「これは今も動いている世界で一番古い灯台だよ」と笑顔で答えた。そのあと続けて色々と説明をしてくれたように思うが、聞き慣れない単語だらけで、幼い私には理解できなかった。ただ、その模型の美しさと父の嬉しそうな顔だけは、今でもはっきりと思い出せた。
良い思い付きのように思えた。旅支度を整え、オンボロ愛車に乗り、そうしてやって来たのが海沿いのこの町だった。
日頃趣味もなく慎ましやかに暮らしてきたおかげで、こういう時の軍資金はある。少し贅沢な宿を取り、宿を拠点としてあちこち行ってみるプランにした。
と言ってもやはり根がインドア派なので、そうアクティブに動ける訳でもなく、1日に1ヶ所訪れるくらいで十二分に満足だった。
1日は有名なお寺を参拝し、1日は専門的な博物館を訪れ、1日は苔むす庭園を散策し、大いに旅気分を味わった。
最終日、ゆっくり支度を済ませ宿を後にした。当初の目的、灯台へ向かう。外観を眺めるだけなので、2〜3ヶ所回ってみるつもりにしていた。
朝、最初の灯台は山の上に建っていた。鬱蒼と生い茂る木々の中に建つ白い灯台。地図上では海に近いのでこういう立地もあるのかと驚いた。昼、2つ目の灯台は堤防の先に建っていた。赤い灯台。湾の入口は右と左で色が違うらしい。夕方、3つ目の灯台は岬の先に建っていた。空と海と灯台。思い描いていた灯台はこれだった。ただ、なにか物足りない気がした。
ここで最後にしようと思い、しばらく海を眺めていた。夕焼け色に空が染まり、宵闇が迫りつつあった。刻一刻と変化していくグラデーション。自然の見せる圧倒的な美しさに見蕩れていると、不意に頭上が明るくなった。灯台が点灯したのだ。
光が遠方まで照らす。左から右へと移動する。光を目で追う。振り返り、灯台を見上げた。ああ、そうだ、灯台の本当の姿はこれだ。暗闇の中、海を照らし船人を導く、これぞまさに灯台の真骨頂ではないか。
あの日、父の書斎で見たあの灯台は、本棚の暗がりの中にいた。光りこそしていなかったが、暗い中でも凛と立つあの姿が、私が求めていた物だったのだ。こんなに当たり前のことに気付かないとは、正に"灯台下暗し"だ。
震えているのは海風の冷たさのせいか、はたまた寒い冗談のせいか。独りくすりと笑いながら、満たされた気持ちで帰路に着いた。
―――灯台の思い出
#43【夜の海】
水平線の向こう側には化け物がいる。そんな気がする。月明かりも届かず、波風が立たない真っ黒な夜の海を見ながらそんなことを考えていた。
砂浜を歩いていると、コツンと足先になにかが当たった。拾ってみると、小瓶だった。中に丸められた紙が入っている。きっとこの海を長いこと旅してきたのだろう。瓶は傷だらけになっていた。これを海に投げた人は、誰かに届くことを祈っていたのかもしれない。瓶の蓋を開けて中の紙を取り出すと、小学生が書いたような文字で「ともだちになりたいです」という言葉とその下には電話番号が書かれていた。きっとこの持ち主はいつかこれを拾った人から電話がかかってくることを期待していたのだろう。
普通こんな時間に電話なんて迷惑だろうが、海の向こうの化け物がそんな無礼も許してくれるような気がした。書かれた番号に電話をかけてみる。無機質なメロディがしばらく流れたあと、女性の静かな声がした。
「どちらさまでしょうか」
本当に出るとは思わず、言葉に詰まった。落ち着こうと深呼吸をする。
「すみません、突然電話して。実はたった今、砂浜で小瓶を拾ったんです。その中に入ってた紙に友達になりたいという文とお宅の電話番号が書かれていたので、つい掛けてしまいました。おそらく、お宅のお子さんのものではないでしょうか」
「あぁ、確かに息子と瓶を海に流しに行った記憶があります。でも、すみません。離婚してしまって、息子はもう家にいないんです。もう成人しているのですが、離婚以来一度も会っていなくて……。ご迷惑でなければ、その瓶を私の家まで持ってきていただくことは可能ですか」
郵送ではなく、持ってきて欲しいと頼まれた。断る理由もなく、僕は住所をメモして次の日の朝には出発した。遠く離れた田舎の中にある一軒家に向かう。
迎え出てくれた女性はやつれていて、なにかの病気ではないかと心配した。家の中に入り、小瓶を手渡す。中を広げた女性は静かに涙を流した。
特にそれ以上深く話すことはなく、玄関まで見送ってもらった。玄関の靴箱の上には家族写真が置かれていた。その人物と目が合って、心臓が止まりそうになった。女性は不思議に思って、どうされましたかと聞いてきた。
「この人、僕の、父親です」
「じゃあ、あなたは……」
女性は僕の名前を呼んだ。こくりと頷く。
「どうして、どうしてこんなにやつれているの。元気にしているって聞いていたのに。ねぇ、どうしたの」
母は力強く抱きしめた。やつれているのはお互い様だった。
「ねぇ、母さん。夜の海の向こうには……」
「化け物がいるんでしょう。人を食べる化け物」
「一緒に、行こうよ」
耳元で囁かれたいいよという言葉を合図に、僕たちは化け物が待つ方を目指して手を繋いだ。
星のように輝いている10本の腕をつかむ航路へ
『夜の海』
8/15 お題「夜の海」
何も、見えない。月も星もない。ただ波の音がするだけ。
ふらり、ふらりと、女が歩く。裸足が砂を踏む。生ぬるい夜風が女のワンピースをなびかせる。
「帰って来て」
ぼそりと、女は口を開いて言葉を落とした。
「帰ってきてよ」
両足から力が抜け、がくりと膝をつく。腕は支えにならず、女は砂の上に突っ伏した。
「置いて行かないで…」
何も、見えない。月も星もない。ただ波の音と、すすり泣く声がするだけ。
(所要時間:6分)
〜 夜の海 〜
波の音だけが静かにささやく砂浜
暗黒が目の前に広がる
黒色の深さ
包み込まれてしまう
優しさの深さ
包み込まれてしまう
その先に見える街の明かり
日常の喧騒を忘れさせてくれる
心地よい孤独感
花火をしようと夜の海へ連れ出された。正直暗くてあまり夜の海は好きじゃない。
だけど楽しそうにはしゃぐ君がいると、なんだかこれもいいな、なんて思うのだ。
32.『夜の海』
サカイと付き合うことになってすぐ私は19歳になった。バスで一緒に帰ってうちに泊まったよね。
人生初のキスがどこでどんなだったか覚えてないなんて、なんて奴だよって自分で思うけど、サカイとだったことは間違いないよ。覚えてたら教えて欲しいな。
体の奥深くに初めてサカイが触れたときのことは、今でもはっきり覚えてるよ。お互い不慣れで、なかなか上手くいかなかったね。でもちゃんと優しくて丁寧で気遣ってくれたから、初めてがサカイで良かった。
それでも、恥ずかしくて照れくさくて、次の日どんな顔したらいいのかわかんなくって居心地悪くて。世の中の恋人たちはなんで平然としていられるんだろうって、大人になった世界はなんだか違ってみえた。
人の体温がこんなにも優しくて温かいってこと、教えてくれたのはサカイだった。サカイに抱きしめてもらうのが好きだったよ。
ザザー
ザザーン
ザザザーン
……
吸い、こまれそう
夜の海(2023.8.15)
夜の海を眺める
黒く、静かに、さざめく波
白く、冷たく、浮かぶ月
足を踏み出せば、波の上を歩いて、手が届きそうだ
そう思ったわたしを、私はあの海に置いてきてしまったのだろうか