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夜の海は暗く、どこまでも闇が広がっている。
その闇に吸い込まれるように靴を脱ぎ裸足になって砂浜へ行く。海に足をつけると冷たくて気持ち良かった。
ザザーッ、と波の音だけが響いてなんだか私一人しか
この世界にいないような気分になる。
あなたもこんな気持ちだったのだろうか。
「───いっそ、この闇に溶けて消えてしまえたらいいのに。」
あなたの泣きそうな声が頭をよぎる。
ああ、あなたはきっと光も届かない夜の海に溶けて消えてしまったのだろう。私を置いて。
「ねえ、私一人ぼっちは嫌だよ。」
そう呟いた時、冷たい潮風が吹き目を瞑る。目を開けると月の光に照らされるあなたがいた。
「ごめんね、一人にして。でももう大丈夫だよ。」
涙が落ち、海の中に消える。やっぱりあなたは私を迎えに来てくれた。だって何があってもずっと二人で支え合うと約束したのだから。
「……もう、遅いよ。ずっと待ってたんだから。」
たとえこの先が死であっても。一人で生きる寂しさに
比べたら。ちっとも怖くない。
そして、その白い手に私は自分の手を───── 


『夜の海』

8/16/2023, 9:53:23 AM