『声が聞こえる』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
声が聞こえる
6年前に同級生の男の子が行方不明になった。今も発見されていないその子の声が学校近くの沼から聞こえるという。その話を教えてくれたのは小学3年生だった当時私と仲の良かった女の子で、久しぶりに話したらこんな話題が出て一緒に沼に行くことになった。
人気はないがおよそ幽霊の出そうな気配はない、亀が日光浴しているだけののどかな沼だった。
「ダイバーが潜って調べたんじゃなかったっけ?」
「この沼の底は海に繋がっているって聞いたことあるし、そっちに流れちゃったのかも」
「それでも幽霊はこっちに出るのかなあ」
「幽霊じゃないかもよ。青木君は生きてるって私は思ってるんだ」
「えっ?」
「実際何度か聞いてるんだよね。はしゃいで遊んでいるような青木君の声。だから一緒に聞いて欲しくて」
耳を澄ましても自然の音しか聞こえない。
「子どもの声なら小学校から聞こえたってことはない?」
「あれは青木君の声だったよ」
彼女の真剣さが怖くなってしばらく一緒に座っていたがそれらしい声が聞こえることはなかった。
そんな出来事があったことも忘れていた数年後、唐突に青木君は帰ってきた。彼は本当に沼から上がってきたのだ。驚くべきことに失踪当時と同じ小学3年生の外見のままで、どこにいたのかと聞かれると竜宮城と答えたそうだ。目下メディアの関心事は彼が大事に抱えて離さない漆塗りの箱の中身にある。
誰もいないこの部屋で、目を閉じ耳を澄ます
家の軋む音、風が流れてカーテンが擦れた音、雀が鳴く音...あ、子供が遊ぶ声も
あの時、一緒に遊んだあの子は何をしているんだろう
そんな淡い記憶が思い出された
#声が聞こえる
心をナイフで何度も切りる声が聞こえる
その声が私の背中を力強く押す
いつだって被害者にもなるし
殺人鬼にもなる
道徳授業なんてなんの意味もない
教師同士でさえあからさまないじめが存在する
そんな奴らが何を教えられるのか
両親もまた然り
どの世界にもいじめはあるんだ
どの世界にも他人を貶めるのを生き甲斐にする輩はいる
生きるって報われない
『声が聞こえる』
地球上から生命体が滅んで2ヶ月と5日が経った。
最初のうちは管理者を失った機械が狂ったように暴れ騒ぎ立ち、耳をつんざく喧騒に世界が包まれていたのだが、それもいつしか止み、すると一変して荒廃した大地を風が過ぎ去る音や、禍々しく変色した水の流れ落ちる音が聞こえるだけの静かな大地へとなっていった。
自然の音は不規則で、しかし目立った変化もなく、ただそこにあり続けた。じっとそれを聞いていると、静寂だったはずのそれがだんだんと大きくなっていって喧騒のように思えてくる。脳はすごい。これは2ヶ月の間に得た発見だ。
そして2ヶ月と6日目を迎えた今日、突如として異変が訪れた。自然物には到底起こしうることのできない、突然変異と言うにふさわしい変化。
声が聞こえる。
誰かが歌っているのだ。生命が滅びたはずのこの地球で、今確かに、確かにこの耳に届いている。音がどこまでも伸びていき、時折軽やかに跳ねる。歌声は清らかで、透き通っていて、とても耳触りが良い。どこか春を思わせるその歌声に、僕は生命の息吹を思い出す。
終焉は、もうすぐそこ。
星の声が聞こえる。
冬の澄んだ空に浮かぶ其れは
強弱をつけて光っては淋しいと嘆くようで。
私は謝るのみであった。
手の中にある定規では計り知れない
貴方と私の関係という距離が
その会話の疎通をやめさせる。
今日も貴方が幸せでいることすら知れぬ
水の惑星で佇む私はそんな声が聞こえた。
【声が聞こえる】#54
声が聞こえる
意識が急激に覚醒する。
「もー、なにやってんの?」
そう言って貴方は笑った
「…っなんで?死んだ筈じゃ…」
「勝手に死んだことにしないでよ~」
思いっきり抱きつくと、困惑しながらも笑って抱き締めてくれた
「良かった……!」
…そうやって、思ったのに
気付いたら私はベットの上
全て夢だった
でも、抱き締めた時の温もりは本物だった
「…っなんで…」
私はまだ、受け止められない
今日もまた夢の中で…
貴方の声を聞く
仄暗い洞窟の奥から、声が聞こえる。
どうにも僕の耳には、たすけて、と言っているように聞こえるそれは、しかし周囲の者にとって恐怖の対象でしかなかったらしい。
声が聞こえだして早一ヶ月。村ではあの洞窟を埋めようという話が固まりつつあった。
全く、普段は村人間での交流すら閉鎖的だというのに……どいつもこいつもこんな時は積極的だな。と呆れていると、もちろんお前も手伝うんだぞ!と声を掛けられる。
正直気は乗らないが、致し方あるまい。
目的を果たすためならば多少の犠牲はあって然るべき。犠牲なき達成は誰からも赦されない。……いや、あのこなら笑顔で許しかねないけど。
あのこと、あのこの住み処を守るため。彼らに、ちぃとばかり犠牲になってもらおう。
▶声が聞こえる #16
声が聞こえる
自販機の前で迷うきみ
複数ある飲み物の前で
行ったり来たりを繰り返す
いつも迷っているけれど
買っているのはだいたい同じ
自販機で買うだけなのにやたらと時間をかけて
結局はいつも同じものを買う
きみの友だちはそんなふうに言っていた
あちらこちらに動くきみの目線
のんびりと待っているぼく
後ろに人の気配を感じて場所を譲るきみ
ただそれだけなのに楽しくなっているぼく
飲み物を手にやってきたきみ
普段は買わない炭酸飲料ときみ
冒険してみた
そう言うきみは楽しそうな笑顔
すきだけど炭酸の刺激が強くて
はやく飲めないと言っていたきみ
きみが飲みきるまでの
普段より少し長めの時間
それでも
きみと話していると
時間がたつのが早いから不思議なんだ
遠距離を乗り越えて、同じ家に住んで。
朝起きたら「おはよ」って言ってあげるから、
寝る時は私の隣で「おやすみ」って言ってから寝てね。
こんなのは理想像でしかないけど、
声にしなきゃ夢は叶わないって言うし?
そういうことだから、とりあえずみんな声に出そうね。
なんでもいいんだよ、一言でいい。
好きな曲のワンフレーズでも、なりたい人でも
会いたい人でも、言うことが大事だし。
何より私は、「自分はこう思ってる」って誰かに
知っててもらうことが大事だと思うから。
みんな、頑張って生きよう。
「声が聞こえる」
どこからか声が聞こえる。
自分にとってその声はとても不愉快でとても不安にさせる。どこにいても何をしていても聞こえてくる。その声が聞こえるたびに胸が苦しくて泣きたくなる。なのに無視することができないからタチが悪い。
自分にしか聞こえないその声はいつだって自分に問いかけてくる。その時いつも決まって答えを出すことができない。
そんな事を何度も何度も繰り返している。
家の外から声が聞こえる
全力で遊ぶ子供の声
壁の向こうから声が聞こえる
テンポ良く掛け合うコンビの声
どこからか声が聞こえる
止めどなくあふれる感情の波
どこからか声が聞こえる
名前を呼ばれて目が覚める
声が聞こえる
私は一人暮らしで、オスのシュナウザー犬を飼っている。
夜中、何か声が聞こえる。まさか、愛犬のシュナウザーが喋っているのでは?横を見ると、たるんだお腹を出して仰向けに寝ている愛犬。喋っていたら、この話はホラーかおとぎ話になる。それともSF?
でも、声が聞こえる。誰もいない。
「私だって結婚したいわよ!あー彼?あんなダサい男、無理無理。
足の裏、くさっ!お腹いっぱいで吐きそう、、、。ハッハッハッハー!そんなに触らないでよー!、、、」
女の声だ。酔っているのかな〜?
耳元で声がするけど、不思議な事に怖くない。
なんか、寂しい女だな〜。
はっ!目が覚めた!
声はしない。夢見てた?
そうか夢見てたのか。誰かの声が聞こえる夢なんて不思議な夢だ。
スマホの寝言アプリが光ってる。
開いて聞いてみる。
「、、、結婚したい、、、。、、ダサい男、、、。、、くさっ!、、。ハッハッハッハー、、。」
夢の声だ。
え〜!私が寝言言ってただけ〜!
寂しい女は自分だったのか〜涙
目を開けると天井だった。ここどこだ?なんか頭がじーんとする。しかもなんか嗅いだことある匂いもするし。
「良かったああ!」
「ぐえ」
いきなりの叫び声と同時に力が加わる。いつもの、幼なじみが思いっきり抱きついてきた。わりと強い。つーか、首が締まって、
「ぐ、るじ……」
「タケちゃん?ねぇ、大丈夫?しっかりしてっ」
離れたと思ったら今度はオレの頭をバシバシ叩きやがった。コイツはオレを殺す気か。
「大丈夫?どっか痛む?」
「……あぁ、大丈夫」
本当は叩かれまくったから頭が痛いけど言葉を呑み込んだ。半べそかいてオレの顔を覗き込んでるコイツを見たら言う気がなくなった。
「タケちゃん覚えてる?なんでここにいるのか分かる?」
「いや、あんまよく覚えてねーんだわ」
ようやく落ち着いて周りを見たらオレは保健室のベッドの上だった。
「ほんとに?覚えてないの?階段4段飛ばしでかっこつけて降りたら最後の最後に踏み外して転んだ上に受け身を取ろうとしたけどそれが失敗して顔面からいったんだよ」
「あ、そう……」
だっさ。目撃者があんまり居なかったことを願う。どうりで腕とかデコが痛いわけだ。よくよく見ると頬や指には絆創膏が貼られていた。
「つーかお前、さっきまで呼んでた?」
「え、呼んでないよ。タケちゃんさっきまで寝てたんだから。でもずっとここにいたよ」
「そーなんか」
「どしたの?……やっぱり、頭の打ち所悪い?」
「いや、そんなんじゃねーよ。でもずっとお前がオレを呼びまくってた気がしたんだよ。それで目が覚めたようなもんだからな」
「……もしかして、渡る寸前だったのかも」
「何を?」
「川」
「は?」
「だから、三途の川を渡るとこだったんだよタケちゃん。それで、私の声が聞こえた気がして引き返してきたんだよ!」
「おいおい……オレを殺そうとするなよ」
「だから死んでないでしょ。無事に戻ってこられたってこと。はぁー、良かった」
と言って、オレの目の前で胸を撫で下ろす。確かに聞こえた気がしたんだけどな。けど、万にひとつそうだったとしたら、オレはコイツに助けられたってことになるな。コイツのお陰で命拾いしたってことだ。
「タケちゃん?なに?まだどっか変なの?ここは保健室だよ。無事なんだよ、私の言ってることわかる?」
「分かるよ、へーき。サンキュ」
「……」
「なんだよ」
「なんか、タケちゃんがお礼言うとか珍しい。やっぱり頭のお医者さん行っとこうか」
「なんでだよっ」
そこは素直に喜べよな。本当に感謝してるんだからよ。
毎日、意識が浮上すると、あなたは真っ先に少し暗い部屋が見えるのだと言う。次に聞こえるのは朝鳥の声で、薄明りの射し込む窓からにぎやかな朝の気配を感じるのだとか。
わたくしはあなたとは違う。
意識が浮上してもまだ夜か朝か分からなくて、枕と布団の音がもぞもぞと耳を通る。
ふとかおる朝露のにおいとか、雨のにおいとか、それこそ、朝の生活のにおいとかが、ああ朝なんだと認識させてくれる。
……認識させてくれるだけで、回らない頭はまだ眠れるだろうと身体をベッドから離してくれない。わたくしもそうしていたいから本当に、抵抗なく。
あまりにもうだうだしていると、ゆらの声が。
玉と玉を弾かせて動かせる音。何かいいことが起こるのではないかと思わせてくれるような、そんなあなたの声。
「ねーえ、そろそろ起きたぁ?」
「……ふあい、ただいまぁー」
それから生活の音。
トントン
バタバタ、パタパタ
ジュー…ジュ―…
コトコト
聴き入りたくなるような手際のいい音。
まだ抜け出せない布団の中からこれを聞くのは朝を感じられるとても好きな時間だ。
「もう起きなよー」
「はあい、起きましたー」
もそもそと名残惜しくベッドを離れる。
まだぼんやりとしていても、手櫛でひどい寝癖がないか確認はする。ひどければ急ぎ洗面所へ。
まだ冷たくない板張りと壁を伝って、ドアを開ける。そうすれば、またゆらの声。
「お早う、今日は青天。せっかくのお休みだから、どこか行こうか」
一言二言返せばその倍になって声が返ってくる。
あなたの声は縁起のいいゆらの声。それが聞こえるわたくしでよかった。
#声が聞こえる
後ろから「おーい」と呼ぶ声が聞こえる。
あんまり何回も呼ぶから仕方なく振り替える。
案の定、こいつ誰。
私の更に前方の人がやっと気づいて
「うるせー」と答える。
間に他者を挟んでたら
名前で呼んでね。
しくしくと誰かが泣いている。
地面に座り込み、背中を丸め、顔を俯けている誰かが見えた。
その人の姿を見ていたら、いてもたってもいられなくなって、私は駆け寄る。
丸まった背中に柔らかく手を置いて、私もその人の隣にしゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
私がそう尋ねても相手は顔を上げない。しゃくり上げ、嗚咽を漏らし、涙に濡れ続けている。
そのうち吐息のような小さな声がこぼれた。
私はそっとその声に耳を澄ます。
「怖いの」
詰まるような声音で、ただそれだけが聞こえた。
私は泣き続ける背中を何度も摩る。
「大丈夫だよ」
私の声に相手が反応して顔を上げた。目を赤く腫らしたその表情を見て、私はああと納得する。
「でも、怖いのが止まらないの」
「なら、そのままの貴方でいいよ。大丈夫、絶対に大丈夫だから」
私はニコリと微笑みかける。相手は驚いたのか目を丸くさせていた。
「どうしてそんなことが分かるの?」
「だって貴方は私だから」
私は彼女を抱き締める。包み込むようにぎゅっと、その震える肩を守るように。
「貴方の怖さも寂しさも、全部私のものだから」
だから帰って来て。
「もう私は大丈夫だから」
【声が聞こえる】
お題「胸の鼓動」
響き渡る歓声。鳴り止むことのない拍手の音。
スポットライトの光を浴びて立つ、輝かしいこの舞台で、ずっと歌い続けたい。この先何年、何十年、何百年だって。
その思いを叶えるために作成されたのが、本人を模した3Dモデル。
姿形だけではない。声も、性格も、趣味嗜好も何もかも、全てをオリジナルに寄せて作られている。
「今日のライブも凄く良かったよ!」
「ありがとうございます!」
オリジナルがいなくなり、その思いを叶え続けている当人だけが、未だに自分自身の出自を知らずにいる。
知らないままで、その人が立っていたのと同じステージで、輝き続ける。
真実を知る人たちは、そのままでいいと考えていた。世の中には、知らなくていいこともある。知らないままで、輝けるのなら、わざわざ教える必要はない。
けれど、情報が溢れ返るこの時代に、いつまでも隠し事を続けるのは難しい。
「死者の歌声って、どういう意味ですか」
今はネットで、どこの誰とも知れない人たちが嘘か本当かも分からない噂話を、あたかも真実であるかのように語る。
そんなものは嘘だと笑い飛ばせるものから、本当かもしれない、と思わせるものまで、様々な話が飛び交うなかに、そんな書き込みを見つけたらしい。
あの人の歌声は、もういない人のものだ。あれは死んだ本物を模した3Dモデルだ。自分たちは、死者の歌声を聴かされている、と。
その話に肯定的な声もあれば、否定的な声もある。
死者の声を使い続けるなんて、という人もいる。死者の声など、知らないうちに聞いていることもあるだろう。だからそんなことは関係なく、あの歌声が好きだという人もいる。
とにもかくにも、知ってしまったのだ。死者の歌声という、知らなくても良かった言葉を。
「そのままの、意味だよ」
だからもう、隠すことは無理だと思った。
隠せないなら、変に誤魔化すよりも全てを話してしまおう。知ったところで、何も変わりはしないのだから。
「君はね、歌い続けたいと願った人の3Dモデル。姿形も、歌声も、性格も、趣味嗜好も。全部オリジナルから貰ったものだよ。君は死者の写身みたいなものなんだ」
「そう。全部……」
俯くその姿に、掛けられる言葉は浮かばなかった。
自分のものだと信じていた、全て、何もかも。本物の誰かから貰ったものだと、初めから自分だけのものなど何もないのだと。知ったところで、どうしようもない。
だってあの子は、歌い続けたいのだから。
「でも!でも、この心臓は、この音だけは、本物でしょう。作り物に、鼓動なんてないんだから」
姿形は、オリジナルに似せたもの。歌声も、オリジナルと同じもの。性格だって似ているどころか全く一緒で、趣味嗜好だってその通り。全てが本物から貰ったものばかりで、自分のものなど何もない。
分かっていても、何か一つ、自分だけのものを探したくて。
思い至ったのが、トクン、トクン、と今でも一定に心地好く動く、その胸の鼓動だった。
「君のその、胸の鼓動はずっと一定に動いているよね?」
「当たり前です!生きてるんですから」
生きている限り、鼓動は一定の速度で動き続ける。
だからこれだけは、本物だ。
「鼓動はね、感情で速度が変わるものなんだよ。でも君の鼓動は、舞台に立っても、今こんなに動揺しても、ずっと変わらない」
そう言われて、初めて知った。
鼓動の音は、どんな時でもずっと一定なんだと疑わなかった。だって一番身近な自分の音が、そうなのだから。
トクン、トクン、と。今も変わらず、この胸の鼓動は一定の速度で動き続ける。
こういう時、本物の胸の鼓動はどんな速度で動くのだろう?
「その鼓動は、君だけの、偽物なんだ」
本物の胸の鼓動は、こんな風に一定ではないのだろう。だからこれは、本物から貰ったものではない。
トクン、トクン。一定の鼓動こそが、自分が本物ではないことの証明。
けれどこれこそが。この一定に動く胸の鼓動が、自分だけの、唯一だ。
―END―
9/22「声が聞こえる」
ある日、机の引き出しを開けたら声がした。
四次元とか未来へ繋がったかと思ったら、そういうわけでもないらしい。引き出しの中は引き出しの中、そのままだ。
引き出しに顔を突っ込み、耳を澄ましてみる。遠い残響のようなその声は、はしゃぐ子どもの声のようだった。
「やったー! ママありがとう!」
「もうやだ! 何で勉強しないといけないの!?」
「何であいつ彼氏いるんだよ…ちくしょー…」
15年間苦楽をともにした戦友である勉強机は、来週リサイクルに出される。
(所要時間:9分)
肌をゆるやかに撫でる感触とともに
懐かしい風の声が聞こえる
あのときの僕とはこんなに違っているのに、迎えるこの地は暖かい
ああ、帰ってきたんだ
同じ場所に立って、変わっているはずの変わらない景色を見る
もっと近くで感じるために、僕は一歩踏み出した
(声が聞こえる)
声が聞こえる
1日中ベッドで過ごすのに
そろそろ飽きてきた
ふと聞き覚えのある声
懐しい
私をよんでいる
話をしたい
もう十分頑張ったよ
迎えに来てくれてありがとう
おかげで迷子にならないよ