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『声が聞こえる』


地球上から生命体が滅んで2ヶ月と5日が経った。

最初のうちは管理者を失った機械が狂ったように暴れ騒ぎ立ち、耳をつんざく喧騒に世界が包まれていたのだが、それもいつしか止み、すると一変して荒廃した大地を風が過ぎ去る音や、禍々しく変色した水の流れ落ちる音が聞こえるだけの静かな大地へとなっていった。

自然の音は不規則で、しかし目立った変化もなく、ただそこにあり続けた。じっとそれを聞いていると、静寂だったはずのそれがだんだんと大きくなっていって喧騒のように思えてくる。脳はすごい。これは2ヶ月の間に得た発見だ。

そして2ヶ月と6日目を迎えた今日、突如として異変が訪れた。自然物には到底起こしうることのできない、突然変異と言うにふさわしい変化。


声が聞こえる。


誰かが歌っているのだ。生命が滅びたはずのこの地球で、今確かに、確かにこの耳に届いている。音がどこまでも伸びていき、時折軽やかに跳ねる。歌声は清らかで、透き通っていて、とても耳触りが良い。どこか春を思わせるその歌声に、僕は生命の息吹を思い出す。

終焉は、もうすぐそこ。

9/23/2023, 1:08:06 PM