声が聞こえる
6年前に同級生の男の子が行方不明になった。今も発見されていないその子の声が学校近くの沼から聞こえるという。その話を教えてくれたのは小学3年生だった当時私と仲の良かった女の子で、久しぶりに話したらこんな話題が出て一緒に沼に行くことになった。
人気はないがおよそ幽霊の出そうな気配はない、亀が日光浴しているだけののどかな沼だった。
「ダイバーが潜って調べたんじゃなかったっけ?」
「この沼の底は海に繋がっているって聞いたことあるし、そっちに流れちゃったのかも」
「それでも幽霊はこっちに出るのかなあ」
「幽霊じゃないかもよ。青木君は生きてるって私は思ってるんだ」
「えっ?」
「実際何度か聞いてるんだよね。はしゃいで遊んでいるような青木君の声。だから一緒に聞いて欲しくて」
耳を澄ましても自然の音しか聞こえない。
「子どもの声なら小学校から聞こえたってことはない?」
「あれは青木君の声だったよ」
彼女の真剣さが怖くなってしばらく一緒に座っていたがそれらしい声が聞こえることはなかった。
そんな出来事があったことも忘れていた数年後、唐突に青木君は帰ってきた。彼は本当に沼から上がってきたのだ。驚くべきことに失踪当時と同じ小学3年生の外見のままで、どこにいたのかと聞かれると竜宮城と答えたそうだ。目下メディアの関心事は彼が大事に抱えて離さない漆塗りの箱の中身にある。
9/24/2023, 6:19:10 PM