『君の奏でる音楽』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
奴の引く曲には引き込まれることもあるが、合わないときは本当に合わない。異常なほど合わない。後ろから頭をこづいてやめさせたくなるほどだ。
巧いとか下手とか、そういうのは今ひとつ分からない。一貫していない。すべてが噛みあっているときもあれば、ちぐはぐで聴いていて面白くないこともある。要は素人だ。だから酒場で引くという話を聞いたときには、他人ごとながら心配になる。
ただ、奴の曲には心が動く。ときに激しく狂しく刹那的に、ときに普段なら振り返りもしない悔しさ、理不尽さ、そういうものを引き出されてひどく心をかき乱される。らしくないほど甘く苦しくなる曲を奏でられたときは、二度と引くなと殴ってやった。また心が凪いで何もかも許せそうな気持ちにさせられることもあるし、尽きない闘争心をかき立ててくれることもある。そういうことが彼や彼の故郷の連中にはできるのだそうだ。理屈も技術も分からないが。
ああ、引いている。軽妙で酒の進むような曲。私に飲みに来いと言っているのだろうか。自分は弱いくせに生意気な。だが、それもまた可愛いところだ。いいだろう、とごちて立ち上がる。
さて、今日はどんな目に合わせてやろうか。
君の奏でる音楽
昔から君はピアノが得意で
音楽室でいつも弾いていた
誰も聞いていなくても
鼻歌まじりで歌いながら
楽しそうに奏でていたのを
ただじっとみていた
たぶんその姿を見て
僕は君を好きになったと思う
時は経ち
今はキッチンで
料理を作る君がいる
あの時と同じように
鼻歌を口ずさみながら
手際よく動いている
楽しそうに料理してるのを
じっと見ているのが好き
たぶんその姿に
また僕は君を好きになる
部屋には君の作る料理の
楽しそうな音で溢れている
ピアノ
頭の中の君はおしゃべりで
愛想が良い
でも現実の君は寡黙なので
僕はより一層耳をそばだてる
一音も聞き漏らさないように
※君の奏でる音楽
【君の奏でる音楽】
トン、トン、トトン、トトン、トン。
本を読みながらイヤホンで音楽を聴いている夜雨の、左手はページを繰りながら、右手の指先がリズムよく机を叩いている。
夜雨は人前で歌うことを嫌がるので、長い付き合いの春歌でも、鼻歌すらほとんど耳にしたことがない。
だから、人がご機嫌なときに歌を口ずさむ代わりに、夜雨は爪先で机を弾いて音を鳴らした。
何か良いことでもあったの? 訊いてみたいが、天邪鬼な夜雨は、「別に」と答えて唇の端を少し上げるだけだろう。
イヤホンから流れる、どんな音楽に合わせて指を踊らせているのか。当然春歌には聞こえるべくもないから、奏でられるそれは、名前のない歌だ。
トン、トン、トトン。
切り揃えられた爪先が最後の一音を鳴らし終えるまで、春歌はじっと、夜雨の歌を見つめていた。
ねぇ…
ミーチャン…
あのね…
だからね…
それでね…
公園の広場に
キッチンカーが来てる…
岩塩のシュラスコだって…
美味しそうだね✨
ねぇ…
左腕は空いてるよ…
ふたりで行こうよ✨🍀
KANさんの
「言えずのI love you」から抜粋しました
自分だって
決して
いい加減に
やってきた
つもりなんて
なかったんだ。
がむしゃらに
やりさえすれば
結果は出る
と思い込んでいた。
違った。
キミの音楽は
ただ
ただ
圧倒的で
鳥肌が立った。
あぁ、
わたし
こんなに
頑張れていなかった。
こんなふうに
なりたい!
って
思ったんだよ。
#君の奏でる音楽
私の心臓を共鳴させた癖に
あなたの心臓はもう
私のために音を奏でない
あなたの為とか言って
背伸びした私は
踵を下ろすタイミングも
分からないまま
大人になってしまったよ
また1人
ベッドの上で転がる
ケータイを開く 閉じる
外に出る
帰る
また1人
ずっと1人
どこにも帰れない
1人
キミノカナデルオンガク
足るべきを知れと言う。
何をどう求めるかも知らず、何でもわかったふりをする。
野良猫を拾って家で飼う。
夕食はだいたい食パンとミルク。
君も好きだもんねトラ。
足るべきを知れ。
お腹空いてないかいトラ、私のも食べていいよ。
二人で何処か遠いところへ行こうか
トラと二人なら幸せだよ。
明日出ようね、それから、、、
足るべきを知るのは彼女を追い込んだ世の中の方だ
彼女は自転車のかごに猫を乗せた。
彼女には笑顔が戻った
風が頬を抜けていく感触
温かな太陽 青い空
トラをみて声をかけてくれる人たち
また、来ようね。トラ。
優しい人にたくさん会えたね。
笑顔は周りの人も幸せにするんだな、それから自分も
トラの名前変えていい?ハナちゃんにする。
ただ私は音楽というものを貪るように、散らかすように消費してきた。電子の激しいブープを、ギターの格好良い取り回しを、ラッパーの類まれな言葉を。
しかしそれではダメだと気がついたんだ。音楽の真の有り様に近づけた。もしかしたら錯覚かもしれない。それでも感じたんだ。
音楽とは表現方法だったんだ。
例えば君がベートーベンの運命を聞いたとして。それをどう楽しむかが鍵なんだ。当時のベートーベンになりきると運命の儚さ、恋情の無情さを楽しめる。自分事にすると過去の失恋やこれから起こりうる未来の恋を想像させてくれる。
音楽とは物語だったんだ。
泉にいる2羽の白鳥だったり、作家自身の重要な経験だったり。
そうさ。君もまた、音楽を奏でてみよう。自分にしかない、自分でしか分からない感性で、音を並べてみよう。君が「この世界は大きすぎる」と感じたならば、巨大さを感じられる壮大な音を奏でるんだ。君が「この世界は残酷だ」と感じたならば、何がそうたらしめるのかを伝える悲劇的な音を奏でるんだ。
私もまた、生活で感じたことを音にしてみよう。
「今日は平凡な1日だった」
私はきっと、日常という音楽を奏でることだろう。
君は、どんな音を奏でてくれる?
作品No.001 課題「君の奏でる音楽」 作品名「感性」
僕は目が見えない
代わりに五感が優れてる
僕は音楽が好きだ
音楽を通じて演奏者の感情も何となく分かる
君が僕に聞かせてくれた演奏
最初で最後の君の演奏
僕の心を一瞬にして奪った演奏
僕は其の演奏が好きだ
演奏していた時の君は、どんな顔をしていただろう
演奏から感じた君の感情は
寂しくて、虚しくて、なのに嬉しくて、
よく分からない感情だった
演奏が終わった後、僕は
『素晴らしい演奏をありがとう』
と言って拍手をした。
「其れは良かったよ。でも、ありがとう。
君のおかげで...否、何でもない」と、君は言った
その声は少し寂しい様な声でいて、
泣いているようだった
お題〚君の奏でる音楽〛
君の奏でる音楽
君がではなく君の
奏でられるではなく奏でる
音楽はそう捉えれさえすれば音楽
言葉も紙の上では音
奏でるは言葉選び
君のが私なら私が書いてる文章
音楽よりは簡単だと思ってる
覚えなくていいし
ルールもあまりない
楽器は難しくて続けられなかった
ギターは触ってみた
声楽は絶望的な側
それでも歌うのは好きだけど
繰り返しは嫌いではない
何回も聴くし
何回も読む
気に入ったらしばらくはループ
当然に好きなものに限る
作れてしまえる時の相方
本と音楽になってる
あとはいい質問があって
たまに自然と出てきたりする
ちなみに本は漫画小説詩集
音楽はゲーソンアニソン
あとは居心地が悪くない空間
それと飲み物や煙草
散歩や通勤の後
行きの待ち時間に書くことが多い
過去の話ですよ
いまはほぼ引きこもり
それにしてもなんで書けてるんだろう?
最初は暇なら何か書いてみたらって
読んでもらってたんだけど
途中からは1人遊び
それっぽいやつを
他の人達に読んでもらった感想が
難しいだった
何が難しいのかがいまだにわかりません
「君の奏でる音楽」
真剣なときの低い声
楽しいときの高い声
悲しい時のビブラート
機嫌がいい時のスタッカート
一つ一つが鼓膜に響く
言葉が旋律になる
私の声とも共鳴する
君の奏でる音楽
楽譜通り。
作曲家の意思を詰め込まれた楽譜に敬意を払い弾く。
私の先生の教え。
だから、先生に習うからには、先生の意思も加算して、なるべく楽譜通りに弾く。
それでもやはり曖昧な表現もある。
そこに私の表現力を発揮する自由がある。
それすら先生と意見の合わない時もある。
その時は意見の交換をする。
その為には楽譜を作った作曲家。製本した楽譜を作った会社の意思まで鑑みなくてはならなくて、その数小節のための膨大な知識がいる。
技術が上がると自由度が増えて、大変な思いをする。
それこそが、自由の本質かもしれない。
年に一度、先生が開催する発表会がある。
それこそ、楽譜通りにキッチリキッチリ弾く練習。
でも、毎年、本番は私の好きなように弾く。
それを先生は
「一番良い演奏だったよ」
と、言ってくれる。
あまりに難曲を選曲して、実力不足を痛感した時も、そう言ってくれる。
私は最後の発表会の時、今まで弾きたくて弾きたくてたまらない曲を選んだ。
先生は、
「最後は弾きたいと思う曲を弾きなさい」
と、言ってくれた。
その曲は、私よりも随分年下の子が発表会で弾く事が多いような曲。
難易度は易しいに分類される。
どうしても弾いておきたかった曲。
人気な曲だから大体取り合いで、私も発表会で弾けなかった1人。
だからこそ、最後に悔いは残したくかかった。
発表会では楽譜通りに弾いた。
多分、今までの発表会で誰よりも上手に弾いた。
そして、もう一曲。
少し前に先生と練習しつつ、途中で挫折した曲。
先生には内緒にした。
発表会のプログラムには載せないで欲しいと頼んだ。
先生と練習したところまでは楽譜に従い、途中からアレンジも加えて好きなように、思うままに弾いた。
まるでジャズのような、ゴスペルのような気ままな曲になった。
クラシックの先生に歯を向けたような私の愚行。
全身全霊、汗だくになって弾いた。
私の全てを曝け出すように。
今まで先生から学んだ一滴も溢さずにだせるように。
私は今日限りでピアノのレッスンを受けなくなる。
ピアノというお稽古をやめる。
人前で弾く最後の曲だ。
弾き終わると、先生が舞台に上がってきてくれた。
本来なら私が下がってから、司会として出てくるのが常なのに。
先生は泣いていた。涙脆い先生だけど、礼儀を欠いてまで泣いてる。
先生は私にしか聞こえない声で
「ありがとう。今までで一番いい演奏だったよ」
そう言った。
後日、出来上がった発表会のCDが送られてきた。
先生から一筆
「僕を自由にしてくれたのは、君の奏でる音楽だったよ」
と、書いてあった。
きっと、先生は一度でいいから人前で思いっきり好きに弾いて見たかったに違いない。
降りしきる雨の中、赤い絵の具を流す腹を抱え、路地裏に腰を下ろした。
俺はロクな人生も送ってこなかったし、当然の帰結として、今ここで人知れず命の灯火がかき消されようとしている。
そんな中、俺は唯一幸せだった時の事を思い出している。
よく君は、俺にピアノを弾いてくれた。
間違えて苦笑を浮かべながら弾き続ける君の姿が俺にとってはたまらなく愛しく感じた。
会わなくなった、いや、会えなくなった君は今幸せだろうか。そうであったらよいな。
視界がぼやけ、地面を激しく打つ雨の音も消え失せていき、思い出の音だけが聞こえていた。
【君の奏でる音楽】
「ピアノに歌にダンス…
あなたのお子さんは『天才』ね」
「ピアノも合唱団もバレエも
幼い頃から習い事をさせてますもの」
「でもお子さんは『男の子』でしょ?
どうして『女の子』の習い事を?」
「自分で言うのもあれだけど、
うちの子は女性のような
『美人』な顔をしてるからよ…!」
オレは『男』。
でも親からほぼ『女』のように育てられた。
ピアノは弾け、歌もバレエもすぐに覚えられた。
『音楽』に関してはとても優れていた。
しかし思春期になってから不満が出てきた。
ピアノでは練習時間がなかなかとれない。
バレエではバレリーナしかトゥーシューズが履けない。
合唱団ではパートのバランスが良くない。
それと周りから
変な目で見られるようになった気がした。
「お前なにか習い事してる?」
「オレはピアノとバレエと合唱団してるよ」
「は?w それって『女』がやることじゃんw」
「『オカマ』じゃんw」
「ちょっ…ちが…!」
「そうだお前髪長いもんな!w 『オカマ』だなw」
「ってことは『男』が好きなのか!w やばww」
「…。」
オレは習い事を辞めた。
もうピアノは弾けない。
もう踊れない。
もう歌えない。
もう出来なくなってしまったのだ。
したくても周りの目が怖くて出来なかった。
そして成人して現在、
時代が変わって『ジェンダーレス』という
言葉が出てきて時代は過ごしやすくなった。
今でも幼い頃のバレエの習慣が抜けず、
立ち振る舞いと体のつくりが
女性らしくなっているが
誰も『美しい』と嫌がる人は居なかった。
合唱団で鍛えられた高い声も
何故か『素敵』と褒められるようになった。
それと「男性も好き」ということも…。
「愛斗!あなたは『ユニーク』だわ!
他とは違うものを持ってるのだから!」
また歌える。
また踊れる。
オレは羽を伸ばせるようになった。
放課後…
音楽室からピアノの音が響き渡る
私の大好きな音。
1年前ほどに、先生に呼び出され少し遅くまで学校に
いた日。あの日帰ろうとした時に凄く綺麗な音色が
学校に響き渡っていた…私はその音色に引き込まれる
ようにその音色に近づいていき、音楽室の前にきて
しまった。
そこには女の子がいて、ピアノを弾いていた
私は気づいたら音楽室のドアの前で15分ほど立って
彼女のピアノを聴いていた…凄く心に刺さった
将来に向けての事、友達の事、学校の事、
沢山の悩みが溢れて学校にも行ったり、行かなかった
り、とりあえず生きる事目標に毎日過ごしていた私に
希望と勇気をくれたんだ
今私は高校3年、もう卒業だ
1年前に出会った彼女のピアノ
私は彼女のピアノを楽しみに毎日なんとか学校に来て
もう卒業間近、彼女は私の事は知らないが私は彼女の
ピアノの良さを知っている、誰かの心を動かす事を
知っている、
だけど私は彼女にありがとうを言えなかった
あなたの音楽で私が生きている事を言えなかった
誰かに聴かせるためではなく自分の為に弾いている
彼女のピアノの音が聞きたかったから、多分彼女の色
んな思いがピアノに現れていたと思う…。
私はそう感じた。
私も彼女みたいに人の心を動かせるようになりたい…
1年前の私はお先真っ暗、もう生きるのも
やめようと思っていた日に出会った彼女のピアノで
君の奏でる音楽で、
私は今日も生きている
君の奏でる音楽
こじんまりとした発表会で聴いていたピアノの音
丁寧で、柔らかい。
ひと聴き惚れ、とでも言うのだろうか
どうにも、楽器の魅力に取り憑かれてしまったのだ。
憧れて通った音楽室、うまく動かない指も
それなりに操れるようになって
君の音に近づけるのが嬉しかった
「すごい、上手になったね」
何よりも嬉しい褒め言葉が沁みた
「今度、連弾、したい」
緊張で声が震えてしまう
「うん。次の発表会は連弾ね」
白黒の楽譜が、なんだか色付いて見えた。
※グロ
【不協和音】
がたがたがしゃがしゃがたがたがた
憎悪と虚勢と恐怖を打ち消す為の雑音。
かたん、きぃん。【音】ひゅっどすんっ
弾けるファンファーレ。
ぎちぎちぎゅりっ、【音】ごり、【音】ごつんっ
聞くに絶えない罵詈雑言。
ガタンッ!【つんざく音】ぶちっびちゃびちゃ
ガタガタ【音】ガタ【音】ガタガシャガ【音】シャガシャガシャ【音】
ごつんっ
意味なさぬただの大音量。
かたん、しゅぼっ、【甲高い音】ガタガタガタ【音】ガじゅ【音】うっガタン!ガシャ【音】ガシャガシャガシャ【音】じゅう【音】しゅうう【音】うガタガタ【音】ガタ【音】ガ【音】タじゅう【かすれた音】うううガタガタ【音】ガタガタじゅっ!【音?】ガタンッ
ぴちゃん、ぴちゃん
蚊の鳴くような音。
ぶつぶつぶつお経?ぶつぶつぶつぶつぶつばちんっ、ガシャッ
静寂。
こつ、ガタッ、とすん
どくっどくっどくどっどっどっどっどっどっどっ
かしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃ
どっどっどっどっどっどっどっどっどっどっ
かしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃ
もっと、もっと君の奏でるこの音楽を聞かせて。
『君の奏でる音楽』
「お疲れ〜!はいっ、乾杯、かんぱーい!」
ガチャン、とグラスが雑に触れた。グラス同士の衝撃が指から伝って、脳みそを襲ったみたいに少し惚けてしまう。その衝撃は私だけじゃなく、グラスの中の氷もカラコロと揺らした。グラスの汗が私の指先に小さな水たまりを作ったが、すぐに決壊してまた滑り落ちる。
「いやぁっ、俺ね、ずっと見てたんだけど、マジファンになっちゃった!」
突如グラスを掲げ近付いてきた男が酒を煽って、一息つくように放たれた二言目は、想定外の褒め言葉で面食らう。見てくれの軽薄さ通りの言葉選びとも思った。感嘆詞の力強さにビクついた私を、遠くから気遣うように見るメンバーに、気にしないでとアイコンタクトを取った。
何度か同じ企画に参加していたバンドから、社会人バンドを集めて内々に好きな曲をやろうと誘いがあり、二つ返事で参加した。案の定見知った面子ばかりだったが、この男のバンドとは初めてだった。メンバーが心配したのは、それが理由だろう。
二枚目を揃えたような、吹けば飛ぶような輩の集まりにも見えた。だから、どんなものかと穿っていたのに、聞いていくうちに嫌な色眼鏡も色覚を失っていった。
演奏が終わり明るくなったライブハウスの客席で、グラスやジョッキを持った男女が、和やかに閑談している。壁にもたれ掛かる人、小さな丸テーブルに集まる人、床に座り込む人。秩序や統一性はない。
それなのに、顔見知りのバンドマン達や馴染みのファンはみんな、さっきまでの情熱を手放して、社会に疲れた大人の顔に戻っていた。
「ありがとう。2曲目、好きだった。」
言葉少なく、感想を伝える。それしか言えない自分を恥じる気持ちはない。ただ、この男が作ったらしい曲への感情は、恐らく二十分の一だって届いていないだろう。それは、勿体ないことかもしれないとは思った。
「イントロのギターリフ。」
それだけ言って目を見た。話すのは得意ではない。伝える言葉を考えるのが面倒だからだ。それに、言葉で補わなくても、平気なこともある。
思えば、話すことを面倒くさがるのは、随分と前からだった。
11歳の夏、同じクラスの同級生たちがウサギ小屋に座り込んで、亡骸を代わる代わる抱いたり、漏れそうな嗚咽を唇を噛んで抑えたり、温もりも冷めた寝床を見つめたりしながら、色んな顔で泣いていた。私は、強烈に刺すような目をしている小動物を、一度も名前で呼ばなかった。情が湧いたら嫌だった。だからずっと避けていた。案の定、私一人だけはどんなに時間が経っても泣けなかった。
みんな泣いてじっとしていたが、とうとう観念したように、埋葬してあげようと声が上がった。私が、焼いてあげないとダメだと言うと、みんな信じられないものを見るような目で私を見た。たったそれだけで、私のこの後悔も虚しさも、何故焼いてあげないといけないのかも、話しても誰にも伝わらない気がして、もう説明する気にならなかった。
そして、だんまりを決め込んだ。幼かったからだ。
その後の数ヶ月は、みんなの中で私は無情な化け物になったみたいだった。あの小動物を避けた私みたいに、触れなければ大丈夫と繰り返す目に、何故か納得してしまって、教室の隅っこで丸まって、パーカーのフードを被って巣ごもりをした。頭の中で何度も、大きくてギョロッとして、幾度と私を刺したビー玉みたいな黒目が思い浮かんだ。
まぁるいまぁるい、私だけのナイフ。
「うそ、マジで?!えー、マジか。めちゃくちゃ嬉しいわ。」
私の短い褒め言葉にはしゃぐ男の目も、ビー玉みたいに大きい。表情が変わるたび目線はころころと変わるのに、何故かずっと目が合っている気がした。私はまた避けるべきだと思った。私を刺すナイフになるんじゃないか。
「また一緒にやれたらいいな。」
心がびりりと震えた。私は今、この男が小さく呟いた言葉を、とても喜ばしいと思っている。それが分かった途端に、避けるべきだという自分の直感の正しさを感じた。一度懐に入れてしまえば、きっと執着してしまうだろう。それが分かっていながら私は、避けなければいけないという恐怖よりも、顔を突き合わせて話せる時間を失ってしまう方が、言い表せない不快さに襲われる気がした。
小動物にもこの男にも感じていたのは、その目が私を刺した後の自分がどうなってしまうのか分からない恐怖と、近付いてはいけないという自分への戒め。
そして、この男にだけ感じているのは、自我を持つ独占欲だ。有り体に言えば、どう頑張っても私だけのものにはならないと分かっていながら、縛ってしまいたいという欲求の傲慢さを、この男の前では我慢が出来ないということだった。
「やれたら、じゃなくて、やろう。貴方の曲、好きだから。」
当然だと言わんばかりの物言いができただろうか。男は目を見開き、私の顔を少しだけ見つめた。照れているような、困惑のような、それでいて今にも泣きそうな、不思議な顔をしていた。でもその顔は、二秒と経たずにいなくなり、さっきの軽薄そうな笑顔と打って変わった、はにかみ顔になる。
「告白みたいだな。なんか、すげえ照れるね。」
その顔を見ながら、思った。
この男の目が私を刺すなら、いっそそのナイフを持って私が振りかぶってしまおう。はなから口下手だから、喋れなくなってしまってもいい。その目に刺されると喜びで動悸がしてしまうから、見えなくなってしまってもいい。耳さえ残っていれば、私はこの男の作る音楽を聞くことが出来る。
この男の目は、まぁるいまぁるい、私だけのナイフだ。
-まるいナイフ-