ドルニエ

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 奴の引く曲には引き込まれることもあるが、合わないときは本当に合わない。異常なほど合わない。後ろから頭をこづいてやめさせたくなるほどだ。
 巧いとか下手とか、そういうのは今ひとつ分からない。一貫していない。すべてが噛みあっているときもあれば、ちぐはぐで聴いていて面白くないこともある。要は素人だ。だから酒場で引くという話を聞いたときには、他人ごとながら心配になる。
 ただ、奴の曲には心が動く。ときに激しく狂しく刹那的に、ときに普段なら振り返りもしない悔しさ、理不尽さ、そういうものを引き出されてひどく心をかき乱される。らしくないほど甘く苦しくなる曲を奏でられたときは、二度と引くなと殴ってやった。また心が凪いで何もかも許せそうな気持ちにさせられることもあるし、尽きない闘争心をかき立ててくれることもある。そういうことが彼や彼の故郷の連中にはできるのだそうだ。理屈も技術も分からないが。
 ああ、引いている。軽妙で酒の進むような曲。私に飲みに来いと言っているのだろうか。自分は弱いくせに生意気な。だが、それもまた可愛いところだ。いいだろう、とごちて立ち上がる。
 さて、今日はどんな目に合わせてやろうか。

8/12/2023, 9:35:55 PM