降りしきる雨の中、赤い絵の具を流す腹を抱え、路地裏に腰を下ろした。
俺はロクな人生も送ってこなかったし、当然の帰結として、今ここで人知れず命の灯火がかき消されようとしている。
そんな中、俺は唯一幸せだった時の事を思い出している。
よく君は、俺にピアノを弾いてくれた。
間違えて苦笑を浮かべながら弾き続ける君の姿が俺にとってはたまらなく愛しく感じた。
会わなくなった、いや、会えなくなった君は今幸せだろうか。そうであったらよいな。
視界がぼやけ、地面を激しく打つ雨の音も消え失せていき、思い出の音だけが聞こえていた。
8/12/2023, 4:51:49 PM