『友だちの思い出』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
じぃわじぃわと、蝉が鳴いている。
食卓には、母が盛り付けた色鮮やかな野菜のサラダが、ガラスの器で出されている。
こんな時は、あのひと夏を思い出す。
* * *
サンダルの裏で踏み締めた小石は、朝から太陽に晒されて、すでに熱を持っている。蝉の声が、うるさいほど耳に響く。叔父の家から、祠の脇を通り、近くの川まで歩いてくるだけで、ぼくはもう汗をかいていた。
川べりにしゃがみ込んで、指先を浅い水に浸けてみる。
気持ちいい…。
この夏休みに入って、母が急に入院することになり、ぼくは山間の叔父の家に預けられることになった。
それまで、親戚の葬式でしか顔を合わせたことがなかった父親の兄は、寡黙な人だった。たぶん、ぼくとどう接していいかわからなかったのだろう。
独身の叔父の家には、ゲームも漫画もない。ぼくも、何を話していいかわからず、日中畑仕事を手伝った後、黙々と食卓を囲むだけの日が二、三日続いていた。
「何してんだ?」
唐突に、頭上から声が降ってきた。
しゃがんだまま見上げると、ぼくより少し歳上らしい背丈ーー中学生くらいだろうかーーの人影が立っていた。
逆光になっていて、顔はうまく見えない。
「や、別になにも…」
叔父の家にいても、やることがない。持ってきた学校の宿題も終わってしまったし、遊べる知り合いもここにはいない。つまり、暇を持て余している。
「そかそか。じゃ、おれと遊ぶか?」
声の輪郭がぼやけたような、不思議な話し方だった。この人影が来てから、少しひんやりとした涼しさも感じていた。
「うん、いいよ」
相変わらず、相手の表情は見えない。でもなぜか、笑ったような気がした。
それから数日間、ぼくとその相手は、色んなことをして遊んだ。川沿いで待ち合わせては、蝉取りや、木になっている果物を食べたり、上流の沢に行って泳いだりもした。あまり、お互いに踏み込んだことは聞かなかった。彼は、本当に泳ぎがうまく、水をかく指の間に、薄い膜があるように見えた。
「危ないところもあるから、一人では、泳ぎに来るなよ」
「足がつかないから?」
そう聞くと、彼は困ったように頭をかいた。
「おれの仲間に、ふざけて、水中から足を引っ張るやつがいるんだよ」
なんの冗談なのか…?
ぼくは、急に体が冷えたような感覚に身震いした。そういえば、どんなに目を凝らしても、彼の姿ははっきりとは捉えられないのだった。
「それって」
「…さて、楽しかったな。そろそろ帰るか」
帰り道は、二人とも無言で歩いた。
いつもの川のところまでくると、彼は、じゃあ、と片手を上げた。
「気をつけて帰れな」
「あの、ありがとう」
そう言うと、ちょっと驚いた気配の後に、「おじさんにもよろしく」と返事が来た。
「叔父さんのこと、知ってるの?」
「ああ、キュウリおいしかった、って言っといてくれ」
キュウリなんか、誰かにあげたりは…いや、昨日、祠に採れたての野菜を供えに行ったな…。
「君、って…」
彼は手を振って、こちらに背を向けた。ごそごそと平たい何かを懐から出して、頭の上に乗っける。
あの祠に祀ってあるのって、たしか…。
帰ってその話をすると、叔父は変な顔をして聞いていたが、祠へのお供えものには、明らかにキュウリの割合が多くなった。それから、叔父とも少しずつ会話が増えた気がする。
* * *
その後、また彼と会えたことはないが、久しぶりに叔父の家に行ったら、あの川と祠に行ってみたい。たくさんの野菜を持って。
『夏の川と童』
(友達の思い出)
「友達の思い出」
友達の思い出と言うより
大切な人との繋がりは
ここの人達
しか思い浮かばない
いろんな意味で
私の中で変われた感じするから
なかなか本音言って怒る人なんか居ないょ
教えてくれてありがとう
言われると言う事は
まだ相手にされてる事?
昔の友達より
今の人達が繋がってる方が強い感じがする
人はどう思われてるのか分からないくらい
私の中では 怖いけど
ずっと 考えさせられる
ずっと前から
この先も
頭から離れないから
彼は何時もパン1でした
家に遊びに行くと
大抵 パン1でした
彼はエビせんに七味マヨネーズを
こよなく愛してました
飲み物は三矢アップルでした
彼の弟もパン1でした
弟は魚肉ソーセージにマヨネーズでした
彼はマギーシローさんが好きでした
彼はよく真似てました
よくハンカチの話をしてました
私は爆笑してました
彼は伊東四朗さんも好きでした
やはり真似てました
よくナウゲットチャンスと言ってました
もう遥か遠い昔の事
急に居なくなるから…
今はあなたにほめられたくて今も1人挑み続けてるよ…
今日も真似して…
いつかかならず会えたら…!
友だちとの思い出、ではなく、友だちの思い出。だから友だちに聞こうと思ったのだけれど、やめてしまった。彼女は初めての身近な死に傷心中だから。
友だちの思い出、たくさんあるはずだけど全部なくなってく
友達の思い出
6年の修学旅行のホテルの部屋で電気消して懐中電灯で顔照らしながら俺を3人で襲って来たこと
めっちゃ怖くて友(1人)の顔面にキックを食らわせてしまった。まじで申し訳ない
なお、未だにそれを思い出として俺をおちょくってくる
あと俺はビビり
君は覚えているかな
私達が初めて話した日の事
私達が仲良くなったきっかけ
私はもう覚えてないや
君は覚えているかな
放課も授業中も
沢山話して笑いあったこと
共通で好きな実況者さんの話を
毎日何回も何回もしていたこと
小学六年生後半のほとんどの下校も
中学生の頃の登下校も一緒にしたこと
同級生にカップルだー!
なんていじられまくったこと
誕生日やバレンタインに
私が家までプレゼント渡しに行ったこと
君と私が疎遠になったきっかけ
私は覚えてるよ
君との思い出は楽しい事ばかりじゃなかった
だけど私にとって君との思い出は
どれも楽しくて幸せでなによりも大切な思い出
私の思い出に友だちはいるけれど
友だちの思い出に私がいるかはわからない
時々ふと不思議に思う
どうして神様は僕達をこんなふうに
出会わせてくれたのだろうと
小学校帰りに急いで家に集まって
親に注意されるまでままごとで遊んだことも
中学校の頃一度だけ席が隣になって
授業なんてそっちのけで絵しりとりをした事も
高校からはバラバラだったけれど
合間を縫ってゲーム大会を開いたことも
大学の頃一度全てが嫌になった僕を
予定を蹴って家に泊まらせてくれたことも
今でもたまに話題にあがるそれらを
僕は一粒でも取りこぼしたくはない
今日のなんて事もない出来事でさえ
取りこぼさないように飾りつけてみる
同じものを見た時に
同じものを決まって連想するほど
僕らの思考はそっくりになって
けれど君は僕と違ってただ明るくて
前例のない突拍子もない行動をたまにしては
僕を翻弄させて笑わせる
こんなくだらない世界で
春の嵐みたいに突然僕の前に降ってきた君
他の誰にもとって変わりはしないから
どうか幸せでいてください
#友達との思い出
残念なことだが、友達との思い出にあまり良いものはない。私の人間性に難があるのか、それとも相手が悪いのか、その両方なのか。別に一緒にいる時のその時一瞬一瞬は楽しい。一緒にいる間は不快ではない。しかし、結局のところ私は相手の1番の親友にはなれない、その他大勢のモブにしかならないため、人生に一区切りつく時に必ず別れがやってくる。はっきりと別れがある場合もあれば、ゆっくりとフェードアウトする場合もあるが、どちらにしろ縁は切れる。そしてその縁切りには大抵ネガティブな事象がつきまとう。
こう、ただつらつらと書き連ねても面白くないから、一つ例を挙げてみようか。
私にはAという幼稚園以来の友達がいた。私たちは仲良く地元の小学校に入学し、最初の2年間は同じクラスだった。その後クラスが別れた時に友情は崩れ始める。Aと同じクラスであったBちゃんが、Aに執着し行動制限を課した。Aに私と遊ぶなと言ったのである。
尚、Bと私も友達ではあった。ただ、Aほどの親友ではなかったというだけである。私の記憶では、Bに対して特に意地悪をしたことも、仲間外れにしたこともない。私とAが遊んでいる時にBが来ても、それはそれで仲間に入れて遊んでいたはずである。私とAとBは仲良し3人組として周りから認知されていたほどなのだ。それなのに私はBによって仲間外れにされるのだから、不思議で仕方がない。
私とAは隠れて遊んだこともあったが、結局遊ぶ頻度は減り、クラスが違う状況が続いたこともあって少しずつ疎遠になっていった。Bは私立中学校へと入学したので、中学校では特にAと友達付き合いをしても支障はなかったのだが、いかんせん4年間も離れていたのだ。趣味も何も共通点がなくなってしまった。結局同じ部活に所属していたものの、言葉を交わす機会はさほどなかった。私は卒業する時になってやっとスマホを持ったが、Aと連絡先を交換しなかった。
ちなみにBとは中学時代において、役場主催の中学生向けの研修旅行に参加した時だけ関わりがあった。私立中学に進学したBは研修旅行参加者の中ではアウェイな存在であったから、参加者の中では一番付き合いが長かった私に絡んできた。それを私は無碍にせず、旅行期間中は友達として一緒に行動した。仲直りできた(そもそも喧嘩した覚えもないが)のかとこの時は思ったが、現実は甘くないことを数年後に知る。
高校、大学は別々のところに進学した。私とAでは興味も違うし、成績も異なっていたので、Aの志望先は気にもならなかった。幼稚園以来の付き合いだけだあって親同士は仲が良いので、高校以降のAに関する情報は全て親から聞いた。Aは県外の私立大学に進学していた。Bに関しても親から県内の私立大学に進学したことを聞いた。
そして、成人式。久々に3人が揃った。「仲良し3人組」が揃った。私たちが離れている間も、親同士は交流があったので仲良さそうに喋っていたが、私たちの間には通り一遍の挨拶をした後は気まずく笑い合うしかなかった。Bの親が写真を撮ろうと言い出して、会場前の成人式の看板前に並んだ。AとBはピタリとひっつきあって看板の左に立つから、私は一人右側に並んだ。写真を撮り終えて親の目が逸れると、AとBはそそくさと連れ立って会場の中へと入っていった。成人式の場であるが、大人の振る舞いはそこにはなかった。小学校時代から何も変わっていなかった。
私は一人で会場に入った。そこで運良くメイクしていても識別可能な、それでいて手持ち無沙汰そうな元級友に会ったので、学生時代は特別親しかったわけではないものの、並んで座った。互いに近況を話し、互いの晴れ着を褒めあった。周りの子の様子を見て、何色を着ている子が多いとか、どの子の髪型が良いとか、無難で楽しい会話をした。
こうして、私とAの関係は切れた。Bとは勿論である。これから先も、親から近況を聞くだけで実際に会って話すことはないだろう。それで十分だ。私はもうAとBに興味がないし、2人も私のことを知ったところでどうでも良いだろう。終わりよければすべて良しというが、本当にその通りだ。途中がどんなに楽しくても、終わり方が悪いと全ての記憶に蓋をしたくなる。
よって、友達との思い出というのに、あまり良い感情はない。むしろ友達とは呼び難いがそこそこ親しい知人との方が、楽しい思い出があるように思う。友達付き合いというのはその時だけ楽しんで、相手から特段求めがない限りは人生の節目でスパリと、潔く関係を断ってしまうのが一番合理的なのではないかと思う今日この頃である。
ねえ、覚えてる?
私たちが小学5年生ぐらいの頃のこと、私貴方が好きだったのよ。
帰り道、誰も居ないからって手を繋いだでしょ?私すっごい嬉しかったんだからね。
バレンタインも、クリスマスも、貴方の誕生日も、私は欠かさず手作りのお菓子を持っていったわね。
私ね、貴方の家に仲いい子ですらあまり入れないってことを聞いて嬉しかったのよ、だって貴方、私をさらりと家に入れたじゃない?
絶対に脈アリだと思ってた。でも、貴方は別の人が好きだった。
今私は別の人と、幸せに過ごしています。
貴方が前にくれたメッセージ。
「君のこと、まぁすきっちゃすき。」
ケータイの扱いにまだ慣れていなくて、誤字ばかりだった貴方が、初めてちゃんと打てた文字。
その時私は既に今の彼氏と付き合っていた。
ねえ、なんでかなぁ、なんで、あの時にその言葉を言ってくれなかったの?
もう、手遅れだよ。
でも、私はずっと、貴方と手を繋いで帰ったあの帰り道を忘れない。
#友達の思い出
親友が話す思い出話は元彼のことばっかり。
そんな話を聞くだけで私は私の恋愛の話を
話すことは無い。
でも夜一人で天井を観ながら報われない恋愛ソング
ばかりを聞いて君との思い出をひとつひとつ思い返す、
そんな時間が辛くて、悲しくて、だけど好きな時間。
時が経つにつれて思い出せなくなるから、
ここに君との思い出を残すことにしたよ。
L氏「え?Xですか?高校の時の同級生です。クラスは別だ
ったんですがね、部活が一緒で。なんだか気が合って
ねぇ。休みの日にはよく2人で自転車で出かけたもんで
すよ。遠くに行くのが好きな奴でねぇ、ええ。だから
って何もそんなに遠くに行かなくても…なんてね。」
Q氏「Xは以前私が勤めていた会社の同期です。彼はいつも
全力で仕事に取り組む人でしたよ。速くて正確な仕事
ぶりは社内でも高評価で。みんなが1つ仕事を終わら
せる間に、彼は3つも終わらせるんです。それでいて正
確なんですから、凄いですよ、ほんと。社長なんて彼
のことを韋駄天って呼んでましたよ!今時、韋駄天っ
て…言わないし聞かないですよねぇ、ははは。あんな
に順調だったのにあっという間に転職して。ほんと、
何をするにも早過ぎるんですよ…ね。」
V嬢「Xさん?週に2〜3回、仕事帰りに来てくださって。
お席はいつもカウンター。毎回決まった銘柄のウイスキ
ーを1杯だけ飲んで、挨拶もそこそこにさっさと帰っ
ちゃうんです。こんなに可愛い私が目に前にいるの
に、失礼しちゃうでしょ?たまに、もう1杯私に付き
合ってくださらない?ってお願いしてみるんだけど、
キミの美しさに酔っちゃったからこれ以上は無理だな
ぁとかなんとか言って、煙に巻いて結局帰っちゃう。
ほんと掴み所の無い人、煙だけにね。で、とうとう
自分が煙になっちゃうんですもの、笑えないし泣けな
いわ。」
―――X氏告別式にて
#3【友だちの思い出】
『遺言』テーマ:友だちの思い出
「今日から僕たちは友だちね!」
なんて陳腐なセリフだろう。でもそんなことを言ってくれたのはお前が初めてだったから。
「誰も君のいいところを知ろうとしない」
なんて愚かなセリフだろう。俺にいいところなんてないのに。
「そんなことない。じゃなきゃ友だちになんかならないさ」
なんでそんなことを言ってくれるのだろう。だって俺は──。
「いたぞ! 狼だ!」
「逃がすな! 囲い込め!」
恐ろしい形相をした人間たちが俺のことを追い立てる。
俺はあいつに会いに来ただけなんだ。
そう伝えているつもりでも、俺の言葉はあいつにしか通じない。
あいつはどこだろうか。必死に逃げながらあいつの姿を探すと、森の中で見つけた。
良かった。他の人間たちにはまだバレていなかったんだ。
安堵しながら近づくと、お前はいつも通りアホらしい底抜けに明るい笑顔を俺の方に向けてくる。はずだった。
「やめてぇぇぇ!」
──なんだ?
ぬるくて、熱くて、痛い。
視界が霞んで目の前のものが見えづらい。だけど俺の頬がいつもの優しい手で撫でられているのだけは分かる。
「ごめん、ごめんなさい、守れなくて」
どうやら胸を槍で突き刺されたらしい。道理で痛い訳だ、と、妙に冷静になった頭が分析する。
「どうしよう、どうすれば君は僕を許してくれる?」
許す? 何を許すんだ?
「だって、僕のせいで君が……」
遅かれ早かれ命には終わりが来る。ただそれが俺の場合強引に早められただけで、お前は何も悪いことをしていないのに。
ああ、でも、そうか。そうだな、人間は許される理由が欲しいのかもしれない。なんとなくそう思った。だったらこれはどうだろうか。
人間と同じ言葉では話せないのに、お前にはいつも俺の意思が通じていんだから、これもきっと伝わるだろう。だからどうかお前は──。
「それがおじいちゃんのお友達の思い出?」
「そうだよ。心優しい白銀の毛皮を持ったお友達さ。ほら、あそこにいるだろう?」
「暖炉の近くのわんちゃんの剥製?」
「彼は狼って言うんだよ。あのとき僕たちは確かに心が通じあっていた。だけどそれを村の人は理解してくれなかった。だから彼は殺されてしまった」
「それは、とても悲しいことね」
「うん。でもね、彼は大事な遺言を残してくれたんだ」
「遺言?」
「そう。彼はね、こう言ったんだ」
生きろ。俺の分まで。
【友だちの思い出】
友だちから聞いた友だちの思い出は、最期の記憶は私の笑顔だった。そんなわけで、私は死んでいる。死んだ友だちは今は別のところにいるらしい。なんで、記憶があるんだ。最初に思ったのはそんなこと。まぁ、別にいいかの繰り返し。当たり前なのだが、実体はないし記憶もいつか消える。忘れる前に聞けた最期の記憶。私が
「笑って送り出すから。」
なんて、ほざいていたらしい。まぁ、知るかだよな。私ももう少ししか思い出せない。それでもまぁ、別にいいか。
【赤い糸】【神様だけが知っている】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
7/1 PM 3:00
「……何をしてるの、暁」
「ん~? 運命の赤い糸ごっこ?」
赤色の刺繍糸をアタシと自分の小指に
結んで、暁は満足そうにしている。
「楽しい?」
「とっても楽しい」
「……まさかこのためだけに
赤い刺繍糸を買ってきた訳?」
「あ、それは違うよ。家に刺繍糸が
たくさん入ってる缶があって、
そこから持ってきたの。
お母さんが若い頃に、ミサンガって
いうのを作るのが流行った時が
あって、それに使ってたんだって」
「――宵、暁、マフィン焼けたよ。
……何してるんだ?」
キッチンから出来たてのマフィンと
飲み物を淹れたグラスを運んできた
真夜(よる)が、アタシたちを見て
不思議そうに訊ねる。
「運命の赤い糸ごっこ~!」
暁はさっきと同じ答えを、
元気良く真夜に返した。
「……なるほど?」
「真夜くんにも結んでいい?」
「いいよ。でも、マフィン食べてからに
しようか。糸が絡んだりして
食べにくくなるかもしれないし」
「うん!」
真夜が差し出したバナナマフィンを
受け取って、暁は嬉しそうに笑う。
「ほら、宵も」
「ありがとう」
アタシにはビターなチョコチップの
入ったマフィンを手渡して来る。
「いただきます。……~~~っ!
やっぱり真夜くんの作ってくれた
ものには美味しさが詰まってるよねぇ」
「そうね」
「愛も詰まってるしねぇ」
「まぁ、それは常に最大限注いでるのは
確かだよ」
自分ではプレーンのマフィンを
食べながら、真夜がさらっと言った。
――こんな真夜にも、
いつかは現れるんだろうか。
見えない運命の赤い糸で結ばれている、
アタシたちより大切に想える誰かが。
(……それこそ、神様だけが知っている、
っていうヤツかしらね……)
====================
5~6月はもう諦めてすっ飛ばしました。
書けそうな時に追記したりしなかったり
するかもしれない?
友達の思い出
塗装の剥げたジャングルジムの前。夕焼け。絆創膏を貼った膝。5時のチャイムのひび割れた音。開いた口。震える手。
『----』
繋がった手の温かさ。長く伸びた影。遠くの笑い声。焼き魚の匂い。満面の笑顔。弾ける涙。
『いいよ!』
「え、全然覚えてない」
棒アイスを咥えた幼馴染は、目を瞬かせた。
「嘘だろ……」
「むしろよく覚えてんね。5歳くらいでしょ?」
「そりゃあ、」
お前と仲良くなったきっかけだし。と心中で呟いた。
幼い頃、田舎の野山を駆け回ってた僕には親友がいた。男にしては髪が長めで、肩に少し垂れるほどのそれを手際良く結う姿が胸に焼けついている。色が白くてやけに美人だった。正直惚れていた。都会の学校に進学するというありふれた理由で彼と別れたのだが、関わりを絶ったのはそれよりも前だ。
ある日の雨上がり。シャツが汚れて母に叱られるだろうことを確信しながらも、いつも通り彼と山へ遊びに行った。少し日が傾いて辺りが薄暗くなってそろそろ帰路につこうかと足を踏み出したとき、僕は足を滑らせて斜面を転がり落ちたのだ。助けようと僕の手を掴んだ彼と一緒に。
かなりの時間滑り落ちたはずだし、時折木にぶつかったり飛び出た石で宙に浮いた感覚もあった。しかし彼に守られるようにして抱きしめられていた僕はひとつも怪我なんてなかったし、驚いたことに彼も傷ひとつない。子どもながらにそれが異様だとわかった。
気づかれちゃった、と寂しそうに微笑んだ彼の顔を覚えている。それから家まで送られ、もう会えないと告げられた。理由は聞かなかった。
今でも後悔している。気がつかなければ、親友のままでいられたかもしれない。大人になってから何度もあの山に足を運んだが会えなかった。きっともう僕が彼を見ることは叶わないのだと思う。
十八年前の今日。彼を思い出にしてしまった日。
『友だちの思い出』
トモダチなんて いたことないや
幸せは 雲の上に
一人ぼっちの僕
「おや?」
道の端。いつもなら気付かないだろうほんの隅っこに一輪の花が揺れているのを見つけ、夏樹は足を止めた。
「こんな所に、花が咲くのか」
塀とアスファルトの隙間にその根をねじ込んで、花はやや斜めに顔を出している。
その姿がまるで柵の下から無理やり脱走する犬みたいでいじらしい。
「あぁ、いや、違うな」
夏樹は鉄仮面とからかわれる口元に小さく笑みを浮かべ、しゃがんで花にそっと触れた。
「似ているのは犬ではなく、あいつだ」
夏樹の頭の中で、花に似た黄色い帽子を揺らす"あいつ"が笑う。
三軒向こうの、立派な屋敷に暮らしていた"あいつ"。
やんちゃで、立派な塀の下にこさえた窪みから屋敷を抜け出すような子供だった。
それを目撃してしまったその日から、夏樹と"あいつ"は友達になったのだ。
正確には、"あいつ"が無理やり夏樹を友達枠に捩じ込んだ…と夏樹はいつも被害者面で言うのだが。
マナーやら、小難しい本やら、身なりのいい大人達との化け合戦。
そんな事ばかりの毎日が嫌いな"あいつ"はいつも、夏樹を巻き込んでわざとらしく泥だらけになって遊ぶのだ。
そもそも脱走の時点で泥だらけになるのだが。
まぁ、なんだかんだ付き合う夏樹も大概だ。
元々人付き合いが得意ではなく、人より悪い目付きのせいで友達の出来にくかった夏樹にとって、"あいつ"は一番だったから。
「おや、夏樹くんかな」
「あ…どうも」
花をつつきながら思い出に浸っていた夏樹は、背中にかけられた声に振り向いてペコリと頭を下げた。
身なりのいい初老の男は「やっぱり」と目尻のシワを深くして、夏樹の方へ杖をついているのと反対の手を差し出す。
「や、大丈夫です」
「そうかい?おや…?後ろのそれは、花?花を見ていたのかな?」
「まぁ、はい」
その手をやんわりと断って、夏樹はパキリと関節をならしながら立ち上がった。
別に隠すつもりは無かったが、自分越しに見つかった花にばつが悪くなって頬をかく。
まるで"あいつ"が近所のおばちゃんに見つかった時の再現みたいだ、と。
「お久しぶりですね、おじさん」
「ああ、三年ぶりかな。夏樹くん」
誤魔化すように挨拶を口にすれば、初老の男は昔と変わらず柔和な笑みを浮かべた。
「とはいえ君は、毎年欠かさず来てくれていたようだけど。すまないね、時間が合わなくて」
「気にしないでください。俺が勝手に来てるだけですし…お互い仕事もあるんですから、仕方ないですよ」
「むぅ、私は君とお茶を飲みたいのだがね。そういえば、君は最近随分と忙しいみたいじゃないか。何でも大きなプロジェクトを任されたとか」
「あれ、ご存知なんですか?」
「家内が教えてくれたよ。誰かさんみたいに頑張りすぎてて心配だ、と小言付きでね」
「あはは…」
夏樹は小柄で世話焼きな夫人を思い出して苦笑する。
実家の母よりも心配してくれる夫人にはいつも頭が上がらないのだ。
きっと今日も…
「それで、今日も君は行くのだろう?それとも、もう行った後かね?」
「いえ、まだです」
「そうかそうか。ならば日が暮れる前に行くといい。残念ながら私はこれから会合だから…」
「お会い出来ただけでも嬉しいですよ。お元気な姿を見れて安心しました」
「はっはっは!それはお互い様だ。次に会う時はそのクマを薄くしておくれよ」
「うっ…」
徹夜続きであったことがバレてしまい、夏樹はさっと目をそらす。
そして、やはり今日も夫人に優しくお説教されそうだと肩を落とした。
「さて、引き留めていては悪いね。では夏樹くん、気を付けて。…いつもありがとう」
「いえ…俺が、好きでしてることですよ。もしかしたら、もう来るなと思われているかも」
「そんなことないさ。…兄は喜んでくれているよ」
「…では、失礼します」
おじさんと別れて、毎年欠かさず歩いている道を進む。
ひび割れたアスファルトはやがて途切れ、剥き出しの地面が都会と違った色を見せてくれた。
だんだん木々の密度も増えて、足元には草が生い茂り、けれどもそれに足が埋もれる前にぞんざいな石の階段が現れる。
それを登った先。
少し高い場所にあるそれは…墓地だ。
夏樹は手慣れたようにバケツと柄杓を借りて、まっすぐ墓地を進んでいく。
季節が中途半端だからか、他に人はいないようだ。
やがて辿り着いたのは、他よりいくぶんか立派な墓石。
そこに刻まれているのは夏樹の家でも、親族のものでもない。
特に礼儀作法に頓着していない夏樹は挨拶代わりに手を合わせ、そして柄杓に掬った透明な水を墓石のてっぺんからさぁと流した。
水が墓石の色を濃く変えていく。
まるで、刻まれた"あいつ"の名前に…冬彦の文字に線を引くように。
思えば冬彦は不思議な子供だった。
塀を抜け出した彼はいつも時代遅れの服を着ていたし、ただの車にすら凄い凄いと目を輝かせていたのだ。
夏樹は最初、世間知らずなお坊ちゃんなのだと決めつけていた。
けれども何度も何度も遊ぶうちに、違和感が生まれたのである。
昨日の天気は朝から晩まで晴れだったのに、冬彦は昨日凄い雨だったけど大丈夫だったかと聞いた。
昨日悪ガキがお前の家の窓を割っただろうと尋ねたら、冬彦はそんな事知らないと答えた。
向かいの家で火事の騒ぎが起こった時、皆が避難しているはずの屋敷から出て来た冬彦は皆まだ家にいると慌てていた。
やがて、子供ながらに夏樹は悟る。
きっと冬彦が出てくる塀の向こうとこちらで"何か"が違うのだ、と。
その答えは、突然パタリと冬彦と会えなくなってから知ることになった。
なけなしの勇気を振り絞って「冬彦くんいますか」と尋ねた塀の向こう。そこで出迎えてくれたおじさんは、それはもう驚いた顔で夏樹を屋敷に招き入れてくれた。
「冬彦は、ここに」
そうして連れてこられたのは仏間。
いくつも並ぶ写真の一つに彼はいた。
夏樹のよく知る笑顔で、セピア色の冬彦は笑っていたのだ。
冬彦は、おじさんの兄は病弱だったらしい。
だからあまり外に出して貰えず、部屋に籠って勉強ばかりさせられていたそうだ。
けれどある日、そんな冬彦が家からいなくなった。
屋敷中探し回っても見つからず、ならばと街を探しても目撃者一人見つからない。
誘拐かと顔を青くした冬彦の両親だったが、「ただいま」と気の抜けるような明るい声に玄関を覗いてみると…
「見て!綺麗でしょ!」
そう言って花を握りしめた冬彦が笑っていた。
泥だらけで、疲れで顔色も悪くして、それでも見たことないほど生き生きと。
「友達が出来たんだ!」
その時漸く、冬彦の両親は間違いに気付いたという。
長く生きられないと宣告された我が子を守っているつもりが、自由を押さえつけて苦しめていただけだと。
今までの笑顔が嘘だったと知った冬彦の両親は泣きながら、それでもキラキラとした息子に喜びを噛み締めながらたった一言「心配した」とだけ告げて抱き締めた。
限りある命なら、その命は誰よりも美しく自由に燃えるべきだ。
それを手助けすることこそが、自分達の役目だろう。
冬彦の両親はそう考えを改めて、知らない振りをした。
見つけた塀の穴を知らない振りして、そこから泥だらけで帰ってくる冬彦を見ない振りして、冬彦の話すおかしな話や探しても見つからない夏樹という友人を否定せず、ただ必ず「心配した」とだけ叱ったのである。
やがて病魔が冬彦の身を蝕んで、命を落とすその時まで。
兄との思い出がほとんど無かったというおじさんだったが、最近見つけた冬彦の日記を見て驚いたらしい。
当時はおかしな話だと思われていた冬彦の思い出話…それが全部現代で見られる物や最近の出来事と一致したからだ。
「そこに君が…夏樹くんがやってきたんだ」
おじさんは泣きそうな顔で笑って、ありがとうと言った。
兄が笑って逝けたのはきっと夏樹のおかげだからと。
夏樹はまだ子供で、何も分かっていなかったけど…冬彦がもういないことだけは分かった。
だからその場で泣きじゃくって、最後にした約束を叫んだのだ。
「花をさがしにいこうって、いったじゃんかぁ!!」
"最初の日に持ち帰った花、お母さんが気にいってくれたからプレゼントしたいんだ。だからまた一緒に探そう!"
指切りもしないで別れた事を、夏樹はひどく恨んだ。
なぁ、お前は覚えてるか?
夏樹は話しかけるように水をかけ、敢えて花は供えずに、数本の線香を供えて手を合わせる。
だって花は、俺が持ってくるのじゃなくて自分で探したのがいいんだって言ってたもんな。
俺、未だに持ってきた花をいらないって言われた時の事根に持ってるから。
帰ってくるはずもない返事を数拍待って、また来年来るからと口約束して夏樹は背を向けた。
「そういえば」
墓地を出て、来た道を戻る途中でふと思い出す。
花で思い出したが…先ほど見つけた花は、冬彦が気に入っていた"最初の花"ではなかったかと。
夏樹はいてもたってもいられずあの道の端に向かったが…そこにはもう、何もなかった。
誰かに摘まれたわけでも、腹を空かせた野良犬に食べられたのでもない。
初めからそこには何もなかったかのように、塀とアスファルトがくっついているだけだ。
「あぁ、なんだ、お前…会いに来てたのか」
夏樹は泣き笑いの表情を浮かべ、花になって会いに来るなんてとんだロマンチストだと空に吐き捨てる。
「確かにお前に似た花だって言ったのは俺だし、塀から出てくるのもお前らしいけどさ」
感傷に浸る夏樹を現実に引き戻すように、ポケットから着信を知らせる音が鳴る。
あぁ、今年はおばさんの夕飯は食べられなそうだと眉を下げ、夏樹はポケットに手を入れた。
夏と冬は出会えない。
けれど、夏樹と冬彦は時すら越えて出会えたのだ。
ならばきっとこの世界には不可能なんて無いのかもしれない。
だから夏樹は、休暇なのに鳴り響いた社用の携帯を迷わずとる。
かつて不可能と言われた技術を可能にするために、彼はまた日常に戻るのだ。
「またな、俺の友達」
去っていく夏樹の後ろで、黄色い花が応えるように揺れた。