傾月

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L氏「え?Xですか?高校の時の同級生です。クラスは別だ   
  ったんですがね、部活が一緒で。なんだか気が合って
  ねぇ。休みの日にはよく2人で自転車で出かけたもんで
  すよ。遠くに行くのが好きな奴でねぇ、ええ。だから
  って何もそんなに遠くに行かなくても…なんてね。」

Q氏「Xは以前私が勤めていた会社の同期です。彼はいつも
  全力で仕事に取り組む人でしたよ。速くて正確な仕事
  ぶりは社内でも高評価で。みんなが1つ仕事を終わら
  せる間に、彼は3つも終わらせるんです。それでいて正
  確なんですから、凄いですよ、ほんと。社長なんて彼
  のことを韋駄天って呼んでましたよ!今時、韋駄天っ
  て…言わないし聞かないですよねぇ、ははは。あんな
  に順調だったのにあっという間に転職して。ほんと、
  何をするにも早過ぎるんですよ…ね。」

V嬢「Xさん?週に2〜3回、仕事帰りに来てくださって。
  お席はいつもカウンター。毎回決まった銘柄のウイスキ
  ーを1杯だけ飲んで、挨拶もそこそこにさっさと帰っ
  ちゃうんです。こんなに可愛い私が目に前にいるの
  に、失礼しちゃうでしょ?たまに、もう1杯私に付き
  合ってくださらない?ってお願いしてみるんだけど、
  キミの美しさに酔っちゃったからこれ以上は無理だな
  ぁとかなんとか言って、煙に巻いて結局帰っちゃう。
  ほんと掴み所の無い人、煙だけにね。で、とうとう
  自分が煙になっちゃうんですもの、笑えないし泣けな
  いわ。」


―――X氏告別式にて


                #3【友だちの思い出】

7/6/2023, 4:54:56 PM