幼い頃、田舎の野山を駆け回ってた僕には親友がいた。男にしては髪が長めで、肩に少し垂れるほどのそれを手際良く結う姿が胸に焼けついている。色が白くてやけに美人だった。正直惚れていた。都会の学校に進学するというありふれた理由で彼と別れたのだが、関わりを絶ったのはそれよりも前だ。
ある日の雨上がり。シャツが汚れて母に叱られるだろうことを確信しながらも、いつも通り彼と山へ遊びに行った。少し日が傾いて辺りが薄暗くなってそろそろ帰路につこうかと足を踏み出したとき、僕は足を滑らせて斜面を転がり落ちたのだ。助けようと僕の手を掴んだ彼と一緒に。
かなりの時間滑り落ちたはずだし、時折木にぶつかったり飛び出た石で宙に浮いた感覚もあった。しかし彼に守られるようにして抱きしめられていた僕はひとつも怪我なんてなかったし、驚いたことに彼も傷ひとつない。子どもながらにそれが異様だとわかった。
気づかれちゃった、と寂しそうに微笑んだ彼の顔を覚えている。それから家まで送られ、もう会えないと告げられた。理由は聞かなかった。
今でも後悔している。気がつかなければ、親友のままでいられたかもしれない。大人になってから何度もあの山に足を運んだが会えなかった。きっともう僕が彼を見ることは叶わないのだと思う。
十八年前の今日。彼を思い出にしてしまった日。
『友だちの思い出』
7/6/2023, 4:15:48 PM