『勿忘草(わすれなぐさ)』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
新しいスマホを購入した
デザインがとても気に入ったのだ
右手で電源ボタンを押そうとしたときに私の手は思いの外小さく少しだけ届かない
持ち手をほんの少しだけ上にずらし起動させた
電源ボタンに指紋を強く押し付けるがホーム画面へは遷移しない
あっと思い直しトラックパッドにパスワードを入力する
ホーム画面へようやく辿り着いた
しかし好きな女の子がいつものように出迎えることはない
殺風景な壁紙が見えるだけだ
ログインしかしていないゲームアプリもそこにはいない
昨日まで愛用していたボロボロのスマホを思い返し、なんだか忘れないで!と呼びかけられているような気がして寂しくなった
「おお英雄様のお通りじゃないか。いい身分だねぇ、チヤホヤされたいんだろ??」
今日も特徴的な黒髪の頭を見つけて瞬時に頭を回転させ考えた嫌味をぶつける。
こいつはいつも僕に構ってもらえて感謝するべきだと思う。またやってる、喧嘩になるぞと周りの生徒は巻き込まれたらたまらないと足早にこちらをちらちら見ながら通り過ぎる。
だが相手はこちらも見ずに無反応で通り過ぎる。
つまらない、つまらない。何なんだ。
取り巻きの赤毛がププと笑ってべっと舌を出してきた。
頭に血が上る。こいつじゃなく以前まではあの黒髪がくるりと振り返ってこちらを見たのに。あの大層な瞳が怒りであつく燃えるように揺らめいて、しっかりと僕を映していたのに。
最近は無視という手段を彼奴は殆ど取っている。それが本当に気に食わない。
反対にいた取り巻きの女は対照的に1度ちらりとこちらを憐れむような目で見てくるりと前を向いて黒髪の腕を持って引っ張るようにスタスタと歩いていってしまった。それを見た赤毛が待てよ〜と追いかける。
取り残された僕は怒りと羞恥で顔を赤くしながら「クソッ!おい、お前たち!行くぞ!」と言ってものすごい速度で歩き去る。
なぜこんな小物の代名詞のような台詞を吐いてしまうんだろうかと頭の隅で思ったが、今はこの場を立ち去ることが先決だった。
次の授業は空きコマだったので取り巻きの奴らが食堂へ行こうと行ってきたがそのような気分になれなかったため、用事があるから先に食べていてくれとだけ言い残してスタスタと歩く。誰もいないところへ、誰もいないところへ行きたかった。
すれ違う生徒が少なくなってくる。そしてしいんとしたトイレに入る。誰も使っていない女子トイレに入る。
「クソッ」と言って壁を叩く。
むしゃくしゃした気持ちを落ち着かせたかった。
気持ちがある程度落ち着いてきたのでため息をついてくるりと踵を返そうとした。
ーと
いきなり嘔吐感を感じ焦る。個室に行くのに間に合わなかったため洗面台の方へ行きせり上がったものを吐く。
「………は?」
吐いたものを凝視する。
儚げな美しさをたたえる、青い小さな花だった。それが無数に散らばっている。
なんだこれ、なんだこれと頭が混乱した。
そして吐いたものをそのままに踵を返して早歩きで歩き出す。意味がわからない。なんだこれ。誰かの悪戯か?気持ち悪い。
歩く速度が速くなる。
とにかく今はあの青い花から1歩でも離れたかった。
彼に送る勿忘草。
許されない身分違いの恋。
私と彼が一緒にいられるのは今日までだから
「真実の愛」「私を忘れないで」
青と白の勿忘草を送る。
あなたが幸せになりますように。
─────『勿忘草』
私を突き飛ばし手は、瓦礫の隙間から這い出ていて最後に見た貴方の瞳は、満足気に
這い出た手を掴もうとしたが周りの人に止められ刹那と共に崩れ貴方は、消えた。
粉塵と砂塵が辺りのを埋めつくしコンクリートの隙間から這い出た。勿忘草がまるで貴方の最後の様に気高く勇敢で私は、泣き崩れるしか出来ず。
瞳から遠ざかる花は、風に揺れ何もしてあげらなかった刹那を神様ですら嘆き悲しみ最後に与えた
手向けなのかも知れない。
忘れる日なんて訪れ無いのかも知れないけれどこの記憶も最後の日には掠れて来てしまうんでしょうか?
ツバメ 2024.2/3 勿忘草
勿忘草
「今日もまた花束がポストに入っていた。
ご丁寧にラッピングまでされているから余計捨てづらい。そのおかげで家が花だらけになってしまった。
…気持ち悪いと思いながらも、洒落た部屋になってちょっと嬉しいとも思ってしまったのはここだけの秘密だ。」
その花束は手のひらサイズで、こんなに小さな花束も作れるのか、と初めて花束を贈られたときの俺は思わず感心してしまったのを覚えてる。
贈られてくる花束の配置はハッキリ言ってワンパターンだ。大きめの花が中心にあって、小さな花がその周りを囲んでいる。そしてその小さい花に至ってはいつも同じ花である。…これはつい最近気がついたことだ。恥ずかしい話だが、俺は花のことは全くわからない。そもそも興味がない。
花が好きな元カノに花を贈ったときに「これは贈るような花じゃない!」とブチギレられたことを思い出す。ちゃんと調べておけばそんなことにはならなかったのだろうが、いかんせん面倒くさいのだ。
今回のことだってそうだ。ポストの中に刃物とか俺を盗撮した写真とかが入っていたら警察に行くだろうが、ただの花なのだ。花が贈られてきただけで警察に行くのは面倒くさいし、あっちも対応してくれないだろう。
俺は日記を書く手を止め、ふと部屋を見渡した。
部屋のどこを見ても花があった。これはまずいかもしれない。どう考えても花が多すぎる。…花に詳しい元カノなら、何か教えてくれるかもしれない。
俺のクソせま人脈では、元カノ以外に花に詳しい人はいなかった。俺は元カノに電話をかけることにした。
ぷるるんっぷるるんっ♡
こんな呼び出し音気持ち悪かったっけ…。
俺はこの汚い呼び出し音に何秒か耐えたが、結局元カノは出なかった。
……まあ元カレの電話なんか出たくないよな。
なんか今日は疲れた。もう寝よう。
次の日、いつもと同じ花束が「思い出してほしいのはそいつじゃない」というメッセージカード付きで贈られてきた。
「忘れないで!」
彼は最後の力を振り絞り、掠れた声で、笑顔でそう言った。
「おはよう」
「おはよう」
「今日も少し寒いね」
「そうだね」
今は3月末。もうすぐ春だというのにまだ少し寒い。
「はぁ」
朝だし寒いし春が来るしで毎日ため息から始まる
「そうため息ついちゃ気分下がるよ?」
「だって嫌なものは嫌なんだもん」
「仕方ないことじゃん。頑張ろ?一緒に」
彼は笑顔で言った。彼の笑顔はかわいい。この笑顔で言われると何でも頑張れる気がする。
「じゃあ私が頑張れるためにチューして。もちろん口に」
この時期の私はかなり甘えん坊になる。だって……
「ほっぺじゃダメ?」
「口がいい」
「体調崩しちゃうよ?」
「いいの。はやくして」
「じゃあ、ちょっとだけね」
私と彼は朝から濃厚にキスをした。彼はちょっとだけと言ったが、私が離さなかった。何分も何分も。舌を交えて、息が切れるまで、ずっと。
こんな生活が、普通の生活が、2人だけの生活が、
その日は4月に、突然やってくる。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
朝の挨拶が無限に続く。
私は頭を抱える。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
あぁ、また、増えてしまった。
私はクローゼットから、こうなった時用のナイフを取り出した。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
違う彼を切り、前の彼と同じ彼を探す。
「おはよう」
「おはよう」
床が真紅に染まる。
「忘れないで!」
死にかけの彼は掠れた声で私に言った。
「忘れないで!」
私も真紅に染まる。
「おはよう」
最後に残ったのは………
「あなたじゃ…ない…」
「卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
部活の先輩に花束を手渡す。程よく骨張った指先が触れるのを何てことないように流して、私は微笑んだ。
「やー、でも寂しいです。これから先輩がいないでうちらの部活大丈夫なんですかね」
「大丈夫だよ、みんなほんとしっかりしてるから、ちゃんとまとまるよ。あ、来年度の文化祭で顔見せるから、頑張ってね」
「えーずっと先じゃないですか!」とふざけるついでに、そっと先輩の手の中の花束を盗み見た。
花束の中に、勿忘草を分からない程度に入れてもらった。花言葉は、『私を忘れないで』
"後輩"としてでもいい。それでもいいから、私を忘れないでいて。ずっとずっと、憶えていて。
私も、あなたを"素敵な先輩"として憶えているから。
「勿忘草の騎士って結構すごいよね」
「花を取ろうとして川に落ちて、ってやつ?」
「うん。自分はもう死ぬけどこの花だけは貴女に贈る。だから〝私を忘れないでくれ〟って、ロマンチックな話だけど、同時にすごく怖いなって」
「どこらへんが怖い?」
「だって、死んじゃうんだよ? 死んで、もう二度と会えないのにこれから何十年も生き続ける恋人に忘れないで、って·····それだけ想ってるって事だけど、すごく独善的にも見える」
「あー·····、なるほど」
「私だったら黒いチューリップを贈るかな」
「そのココロは?」
「〝私を忘れて〟」
「忘れていいのか?」
「もし私が先に死ぬようなことがあったら、私を忘れて幸せになって欲しいなって思うから」
「·····俺はどっちも嫌だよ」
「え?」
「忘れて幸せになることも、忘れないで不幸になることもどっちもソイツの人生だろ。どっちにしろ良かったか悪かったかは最期にソイツが決めることだ」
「·····そっか」
「忘れて幸せになることだって傍から見たら薄情だって思われてるかも知れないし、忘れないで不幸になってるように見えたって、ソイツはずっと恋人の面影を感じてて実は幸せかも知れないだろ?」
「·····そっか」
「だから忘れるとか忘れないとか、ほんとは些細なことなんだよ」
「·····」
「何度忘れたってまた知り合えばいいんだよ。そんで忘れないでいたら覚えてたものを残しておけばいいんだ」
「·····そうだね。私、やっぱり貴方とこうしてうだうだ喋ってるの、好きだな」
「·····まぁ、退屈はしないな」
――この話をしたのはこれで三回目。
貴方は何度この話をしても同じ答えを返してくれる。
忘れちゃって、ちょっと怒ったように同じ答えをして、今が幸せであることを教えてくれる。
忘れないでいるものは、実はあまり無い。
覚えているのは私の名前と二人が一緒に暮らしていることだけ。時に恋人だったり、時にきょうだいだったり、時に親友だったり。
――あぁ、違った。たった一つ、二人が忘れないでいることがある。
お互いが大切な、大切な存在だってこと。
それだけ忘れなければ、それでいいよね。
END
勿忘草(わすれなぐさ)
勿忘草 2/3 (土).
「私を忘れないで」…か。
植物図鑑を暇つぶしに読む。うちのクラスに常備されてる本は、漫画が3冊と、小説が
5冊、科学の実験のような本は2冊、そして図鑑が2冊。
先生が朝や休み時間に読んでみてください、と持ってきた本だ。しかも漫画は大流行りのやつで、すぐに取られてしまう。次に目を奪われるのはベストセラーの小説。
…が、人々はそれもとっていく。
残るは科学実験か図鑑。僕にとって科学は先生の授業垂れ流し映像くらいにしか
思ってないので、植物図鑑を読むことにした。
1ページ1ページ、ページをめくっていく。そして目に止まったのが「勿忘草」。
花言葉に目が釘付けになった。「私を忘れないで」。 なんだか儚げで、頭の中で
その単語がリピートされる。
ふと、肩に重さが乗っかる。人肌に温かさで、僕の肩がぽんっ、と置かれる。
「…ん、?」「俺だよ、前の席の。」「…そうなんだ。どうしたの?」
前の席の男の子のことすら、僕は気づかなかったみたいだ…
「何見てんのかな、っておもっただけだよー。」
「…植物図鑑。今勿忘草のとこ読んでる。」「…私を忘れないで…か」
僕が目に止まった部分を、彼は声に出して読む。そして、突然冷めた目で、
こう言った。
「俺のことは覚えててくれないくせにな」
「え」
そう言って彼は消えた。
『勿忘草(わすれなぐさ)』
かつて私の恋人だったひとは川で溺れて亡くなった。春爛漫のさなかに行われた葬儀では長い冬から解き放たれて喜びに満ち溢れている世界と、愛した人を亡くして深い悲しみに沈む私や遺族との対比を思わざるを得なかった。
あなたを忘れずに生きることが修道女になって冥福を祈り続けることならよかったけれど、私の父はそうさせてはくれず、いつまでも独り身でいようとする私を見合いで嫁がせることに決めた。家のためを思えば最善だということはわかっている。
けれど、忘れないでという呪いじみた言葉は私を戸惑わせる。あなたではない人を愛することができるのか。あなたではない人と子を成して幸せに生きることができるのか。忘れないでと言ったあなたの分まで生きることは、あなたを裏切ることの連続ではないのか。
眠れないままに夜が更けて、私の嫁ぐ朝がやってくる。
『勿忘草』
ずっと好きだった。
でも何もいえなかった。
友達のまま過ごした3年間。
あっという間に卒業の日を迎えた。
どうか
私を忘れないで。
あなたのしぐさや笑顔、匂い、あなたの腕の中がまるで家庭の様に温かい
母は「忘れな草をあなたに」という歌が好きだ。
私は死んだら忘れちゃってほしい。
私の方は忘れてしまうんだから
誰かの中に残っていたくない。
でも両親だけは私を絶対忘れないだろうから
両親よりは長生きしないといかんな。
母が「忘れな草をあなたに」を口ずさんでいる。
あなたに あなたに♪
勿忘草(わすれなぐさ)
お願い
これをあの人に
私の想いを伝えて
大切な君は、そう言って
深い谷底へと落ちていく。
あぁ、この花の意味を僕が知っていることを知っていながら、これを渡すなんて
君にとっての大切な人は、僕では無いんだね。
タイトル:勿忘草
勿忘草…
ルドルフを忘れないでと花はいう
春の光を淡く纏って
【勿忘草(わすれなぐさ)】
東城会の大幹部である父の威厳を保つため、幼い頃から家は立派な日本家屋だった。庭には鹿威しや飛び石などがあったが、それよりも春になるとぽつんと咲く白色や青色をした小ぶりの花の方が大吾は好きだった。盆栽や大きな木々に囲まれ居心地の悪そうなその花を、母はまるで父の目から隠すように奥まった場所に鉢に植えて大切に大切に愛でていたのを覚えている。春になると咲き始めるその花を愛おしげに撫ぜる母に「このお花の名前はなあに?」と尋ねたが、歳を重ねた今となっては母が答えてくれた名前を忘れてしまった。
大吾は仕事で県外に来ていた。素朴な町だ。この閑静な空間が心地よい。
車窓から町並みをぼうっと眺めていると、小さな花屋が視界に飛び込んできた。思わず大吾は運転手に「停めてくれ」と声をかける。運転手は戸惑いの声をあげるが、もう一度「停めろ」と伝えると静かに車を寄せ停車した。
扉を開けた護衛に「着いてこなくていい」と命令し、困惑する顔たちを無視して花屋へ向かう。
花屋の店員はこちらを警戒と不安を抱えた表情で見ている。それはそうだろう。どう見てもカタギではない人間がこちらへ向かってくるのだから。
大吾はそんな店員に内心苦笑しつつ、大吾はなるべく穏やかに、記憶の中にある花の特徴を店員に伝えその花の名前が知りたいことを伝えた。すると花屋の店員は、「ああ、あれですね」とようやく顔をほころばせた。
「勿忘草だと思いますよ」
「わすれなぐさ?」
「はい。春に咲くお花でピンクや白色の種類もありますが、青色がとても美しいんです。このお花があるだけで花壇が華やかになりますよ」
「そうなのか。確かに家に咲いていたものも綺麗だったな」
「育て方も比較的簡単な方なので、初心者さんにもおすすめのお花です。花言葉は『真実の愛』などもありますが、わすれなぐさという名前にもあるように、『私を忘れないで』という意味もあるんです。あ、ちょうど昨日入荷したんですよ」
花屋の店員が持ってきた花は記憶の中にあったそれで、大吾は青色の小さな花束をひとつ購入して店から出た。
そわそわとしていた護衛たちは、大吾の姿が見えるとほっと息を吐いた。そのまま車に乗り込み、滑らかに走る車内で花を覗く。
母がしていたように触れてみても、ごつごつとした手に可憐な花は不釣り合いで苦笑が溢れる。
「私を忘れないで、か・・・」
母の背中と、それからひとりの男が瞼の裏に浮かぶ。
忘れられるわけねぇだろ、峯。
そう心の中で呟いて、大吾は感傷に浸りそうな自分を振り払うためにシートに身を預けて目を閉じた。
「なぁ……勿忘草の花言葉を知ってるか?」
突然、彼は私にそう問いかけた。勿忘草とは、明るい青色をした小さな花が、何個も集まって咲く一年草だった気がする。彼が、私によく似合うと云ってピアスや髪飾りを贈ってくるから見慣れてしまった。しかし、花言葉は考えたことが無かった。彼は私が贈り物を身につけると、それはもう愛しい目で見つめるものだから。あまり気にしていなかったということもある。
「花言葉?んー……ごめんなさい。わからない」
「あぁいや、別に良いんだよ。……君が花言葉を知っていて僕からのプレゼントを貰っていたとなると……どんな想いを抱いていたのか気になっただけだから」
そんなことを云いながら、彼はふわりと優しく笑う。その顔を見て、彼の笑った顔が好きな私は、じんわりと心温まるのを感じた。
「そうだ、せっかくだし花言葉を教えてよ」
私は彼の想いがプレゼントに詰まっていたのを知っている。しかし、それがどのような言葉に表されたものなのかわからないのだ。せっかくなのだから、教えてもらおう。私がそう言うと、彼はパチリと瞬きをして、次の瞬間には本当に楽しそうに笑った。
「ははっうん。いいよ。勿忘草の花言葉はね……」
「真実の愛」「誠の愛」「私を忘れないで」
花にはたくさんの意味がある。いわゆる花言葉ってやつだ。でも僕は花言葉に興味がない。どれも大体同じ意味だからだ。「愛してる」だとか、「感謝」だとか、前向きで聞き心地のいい言葉ばかり。それならどんな花を選んだって変わらない。花屋さんに行って綺麗なもの選ぼうと目に止まった花が勿忘草だった。
勿忘草が広がっている。綺麗だ。奥には川が見える。こんな景色なかなか見られるものじゃない。勿忘草の中にいる、あの子に会えたから。大丈夫。久しぶりにあの子は、言った。
「忘れないでね。」
お題『勿忘草』
「もうすぐ卒業だなぁ」
高校三年の三学期。なんとか受験も終わり、久しぶりに登校した登校日。彼と二人きりの、放課後の教室。
いろんな想いが籠もっているのか、それとも何も感じていないのか。彼がぽつりとそう呟いた。
「そうだね……」
私はバッグから小さな花束を渡した。
「あげるよ」
青い小さな花。
私の好きな花。
「おー。さすが園芸部。ありがとう」
嬉しそうに受け取ってくれた。
「これ、知ってる。あれだろ、よく外で見る……オオイヌノフグリ!」
全然違い過ぎて笑った。
オオイヌノフグリって、たしかに青くて小さなかわいらしい花だけど。それに対して名前が酷過ぎる花だけど(犬のピ――)。
「違うよ。勿忘草」
「あ、聞いたことある。『私を忘れないで』って花言葉のやつだ。へーこれが」
彼は笑いながら私の頭にぽんと手を置いた。
「安心しろよ。ぜってー忘れねえって」
その言葉に、私も笑顔になった。
……でもね。
勿忘草の花言葉は確かに『私を忘れないで』だけど、青い勿忘草の花言葉は『真実の愛』や『誠の愛』なんだよ。
『勿忘草(わすれなぐさ)』