勿忘草 2/3 (土).
「私を忘れないで」…か。
植物図鑑を暇つぶしに読む。うちのクラスに常備されてる本は、漫画が3冊と、小説が
5冊、科学の実験のような本は2冊、そして図鑑が2冊。
先生が朝や休み時間に読んでみてください、と持ってきた本だ。しかも漫画は大流行りのやつで、すぐに取られてしまう。次に目を奪われるのはベストセラーの小説。
…が、人々はそれもとっていく。
残るは科学実験か図鑑。僕にとって科学は先生の授業垂れ流し映像くらいにしか
思ってないので、植物図鑑を読むことにした。
1ページ1ページ、ページをめくっていく。そして目に止まったのが「勿忘草」。
花言葉に目が釘付けになった。「私を忘れないで」。 なんだか儚げで、頭の中で
その単語がリピートされる。
ふと、肩に重さが乗っかる。人肌に温かさで、僕の肩がぽんっ、と置かれる。
「…ん、?」「俺だよ、前の席の。」「…そうなんだ。どうしたの?」
前の席の男の子のことすら、僕は気づかなかったみたいだ…
「何見てんのかな、っておもっただけだよー。」
「…植物図鑑。今勿忘草のとこ読んでる。」「…私を忘れないで…か」
僕が目に止まった部分を、彼は声に出して読む。そして、突然冷めた目で、
こう言った。
「俺のことは覚えててくれないくせにな」
「え」
そう言って彼は消えた。
2/2/2024, 11:39:30 PM