『勿忘草(わすれなぐさ)』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
花にはたくさんの意味がある。いわゆる花言葉ってやつだ。でも僕は花言葉に興味がない。どれも大体同じ意味だからだ。「愛してる」だとか、「感謝」だとか、前向きで聞き心地のいい言葉ばかり。それならどんな花を選んだって変わらない。花屋さんに行って綺麗なもの選ぼうと目に止まった花が勿忘草だった。
勿忘草が広がっている。綺麗だ。奥には川が見える。こんな景色なかなか見られるものじゃない。勿忘草の中にいる、あの子に会えたから。大丈夫。久しぶりにあの子は、言った。
「忘れないでね。」
お題『勿忘草』
「もうすぐ卒業だなぁ」
高校三年の三学期。なんとか受験も終わり、久しぶりに登校した登校日。彼と二人きりの、放課後の教室。
いろんな想いが籠もっているのか、それとも何も感じていないのか。彼がぽつりとそう呟いた。
「そうだね……」
私はバッグから小さな花束を渡した。
「あげるよ」
青い小さな花。
私の好きな花。
「おー。さすが園芸部。ありがとう」
嬉しそうに受け取ってくれた。
「これ、知ってる。あれだろ、よく外で見る……オオイヌノフグリ!」
全然違い過ぎて笑った。
オオイヌノフグリって、たしかに青くて小さなかわいらしい花だけど。それに対して名前が酷過ぎる花だけど(犬のピ――)。
「違うよ。勿忘草」
「あ、聞いたことある。『私を忘れないで』って花言葉のやつだ。へーこれが」
彼は笑いながら私の頭にぽんと手を置いた。
「安心しろよ。ぜってー忘れねえって」
その言葉に、私も笑顔になった。
……でもね。
勿忘草の花言葉は確かに『私を忘れないで』だけど、青い勿忘草の花言葉は『真実の愛』や『誠の愛』なんだよ。
『勿忘草(わすれなぐさ)』
ポエム誘発お題、学がないから気の利いた事言えなくて困る
勿忘草
花言葉は私を忘れないで、誠の愛等
自分がベルタなら相当気に病むけど、「忘れないで」という言葉のおかげで自責の傍で彼の約束を守っていられるのかもしれない
花の方へ歩み寄ったら命を取られるなんて現実でもあるよね。
青が綺麗で
儚くて
今にも手折られそうなその姿に
「私を忘れないで」
なんて言われたら
どんな生き物も愛さずには要られないのです。
「誠の愛」
なんて振りまいて
我慢出来ない生き物に襲われ
貪られたら
毒が回る仕組みも
全部が狡い。
美しい物は汚しちゃいけないんです。
女として貴方を尊敬します。
私の身体にも毒性が欲しいな。
容易く貪られ
しめしめと
苦しむ顔を見て尚、凛としていたい。
ただ、本当に愛する人に出逢ったら
それはそれで哀しいのかもしれない。
題 忘れな草
著 塵芥 椎名
忘れな草とは何か
私にも分かりませんが、世の中にはきっと知っている人がいるでしょう。
忘れて欲しくない、
から君にこの花をあげるんです。
なんでって、君は僕にとって大切な人ですから
テーマ/勿忘草(わすれなぐさ)
vergissmeinnicht ふぇあぎすまいんにひと
〝僕のことを忘れないでください〟
騎士ルドルフはそう言って、最後の力を尽くしてこの花を恋人のベルタに投げると、ドナウ川の流れに飲み込まれてしまった。
ベルタは彼のお墓にその花を添えて、彼の最後の言葉をその花に名づけた。
私はこの水浅葱色(みずあさぎいろ)の小さな花が愛おしく思ったものだ。女性の男性に対する言葉だとばかりおもっていたから。
ところが、この勿忘草の花言葉の元になった古いお話(伝承)を知って、実は逆で、男性の女性に対する言葉だということを初めて知った。
ならば、勿忘草とは逆に、女性から男性に向けた〝私のことを忘れないで〟という花言葉を持つ花は何だろう?と植物園の植物相談員さんに聞いてみたことがある。
そしたらマーガレットの花言葉にそれがあった。
ギリシア神話によるものらしい。月の女神アルテミスが弟のアポロンに騙されて、愛するオリオンを射殺してしまった。そのアルテミスの悲哀の想いが「私を忘れないで」という言葉としてマーガレットに付けられたというのだが。……何故マーガレットなのか?と思った。
その話には続きがあって、月の女神アルテミスの悲しいギリシア神話が伝わっていった後世に、人々は女神アルテミスに真珠のように白い花を捧げるようになった。ギリシア語で真珠のことをマルガリーテスと言っていたので、その花の名前がマーガレットになったということらしい。
そのふたつの花、勿忘草とマーガレットの花言葉の話を、私は自分の人生において二番目の、そして最後の大恋愛をした真由子が生きていたときに聞かせてあげたことがある。
子宮頸がん末期ステージⅣ-Bで余命宣告を受けて、自宅療養することになった彼女の実家へ私は毎日通っていた。彼女の家族たちも私のことをまるで婿養子のように受け入れてくれていて、私が行くと「おかえり」と言ってくれていた。なんだか私も本当の家族のような気になって「ただいま」と返事をしていた。
そんな四月のある日、楽天市場のフラワーショップで見つけて注文していた勿忘草とマーガレットのブーケを持って、真由子の実家へ向かった。
「マユと俺の約束のブーケのつもり……まあ、ウェディング・ブーケってゆーの?そんな感じのつもり」
私はそう言いながら、彼女にカタチだけでも結婚指輪を嵌めてあげたいと密かに思った。
ふたつの花言葉の話をしたことを覚えていた彼女は
「あたしが旅立つとき、一緒に持って行きたいからお願いね」
……と、微笑みながら私に頼んできた。泣くまいと覚悟をしていたけれど、泣きそうになってしまったから
「そんなときはもう枯れちゃってるから持ってけない」
と悪態をつくように顔を背けて誤魔化した。
今年は真由子の七回忌の年。
法要を予定している日には、ふたつの花とも咲いている時期がすぎてしまって花が持たない。けれど、開花時期の重なる三月から六月までの命日のどこかで、同じようなブーケを墓前に供えたい。騎士ルドルフが恋人ベルタに力を尽くして勿忘草をあげたときのように。
私にとっての勿忘草は、そんな想いのこもった花だ。
忘れな草の名前だけは知っている。名前の割に印象深くて覚え易い。自分のことなど百年さきどころかもっと短くても誰も覚えてないだろうが勿忘草はきっと百年先でも生えているだろう。調べてみると美しいブルーの花弁が随分と艶やかだ。忘れな草には紫色のイメージがあった、なんとなくその名前から寂しさのような感情を感じてそこに紫色を連想した自分の感覚が不思議だった。自分の中で紫色が寂しさと繋がるともあまり思っていなかったからだ。小さな花に自分の感性のようなものを自覚するきっかけもらったことに感謝しつつ庭の手入れにそれを摘む、随分と広がってしまった姿は忘れな草と言いつつ主張が強くて忘れられなさそうである。
勿忘草
忘れないよ、と、思い出すよ、は
まったく別の性質を持っている
意識して自ら思い出すのと、言われて思い出すのとは
全く異なる
いつも大事な場面で思い出してもらえるような人になりたい
まあせめて、忘れないでいてほしい
あんな人も居たねと、
よい思い出だけ、いっしょによみがえって欲しい
何もなし得ない人生で、誰にも忘れられたのでは寂しすぎる
憎しみと怒りと妬みすら恋しいようでは寂しすぎる
こんな寂しがりやが、居た
限りない奇跡で生まれた存在が居た
とんでもなく無駄だといえる時間を過ごしてきた
身内にしか認識されていない
あの可憐な花のようには生きられない
醜くもがいて、溺れて、命からがら酷い姿で恥を晒して
誰かの記憶に残ろうとしている
自分のことも愛せない
何にも真剣になれない
愛されているか試すことが生き甲斐
どこにいても誰と何をしても自分を生きてない
情報社会に操られて、自分がわからない
知りたくない認めたくない
無能な生きる価値のない存在と
私以外全員幸福だ
私以外の不幸な人なんてたくさんいるのに
こんなに孤独なのは私だけだろう
愚か
都合のいい時だけ
あんなに綺麗な青色に、風に揺れる小ぶりな花
あんなふうに、可憐に生きられない
見苦しい姿を晒して這いつくばってる
周りの目に怯えて、怯えていることすら隠して
虚勢でやり過ごしている
下品に咲くしかない
澄んだ青色を目指しているのに
真っ黒に腐って
周りにいる綺麗な青色まで犯して真っ黒に腐らせる
可憐な青色が眩しくて憎たらしくて
跡形もなく踏み潰したい
できるだけ残酷に引きちぎってぶちまけたい
ワスレナグサ、優しい寂しい印象でよく耳にする名前だ。それが理由であまり好きじゃない。今、このお題に何と書けばいいか(反発心のために!)何も浮かばなかったので、せめてウィキペディアで調べたろ、と思って調べてきた。日本ではまぁいわゆる、園芸品種としての花で、アメリカなんかでは広く愛されているとのこと。和名のワスレナグサは、ドイツ名をそのまんま和訳(こう和訳したこと自体はめちゃかっこいいけどね!)しただけらしく、日本での謂れはないっぽい。しかも悪いことに国内では温暖な地域で野生化してるらしいじゃないか。いよいよ嫌いになってきた。野生での姿を調べたろ、と思って画像検索したら、わらわらと優しい淋しげなイラストが出てくる。重ね重ね、ぃや〜〜〜ね。そうそう、こういう所が嫌いなんだわよ。
生きるのに必死ではなくて
ただ今日をなんとかしているだけ。
このまま年を取っていくのだなと思った。
惜しいとも思わない。
それほど価値ある世界ではなかったなと思ったのが中学の頃だった。
終わるんだと思ったらただ悲しくて、世に生まれた意味や今が一番若いんだとか考えることすらおこがましくて浅ましくて。
寂寞…の意味を調べて腑に落ちたの。
雪のしたで眠っています
春の訪れを待っています
あなたがくれたこの花は
小さくて可愛い花が咲く
空の色を携えて
海の色を携えて
真っ先に春を祝福するのです
わたしは思い出すのです
あなたからの愛の深さを
風に揺れる花を見つめて
『勿忘草わすれなぐさ』
ああ、久しぶりだなぁ
約束通り、おまえのことを一日たりとも忘れることはなかったぞ
#勿忘草
亡くなった君が最後に残した言葉
勿忘草を君だけに。だった
【小説 勿忘草】
真っ黒なスーツに身を包んで、久しぶりに通る道をゆったりと歩く。
久しぶりに帰ってきた故郷は相変わらず潮の匂いがして、日本からずっと離れたところから吹いてきた風が手に持っていた青い花を揺らしていった。
海風が吹いてきた拍子に目にかかった前髪を払いながら、俺は一人歩みを進める。
そういえば、昔は左側が暖かかったな。
歩くたびに、揺れる花束から数枚の花びらが舞っていく。まるで俺の帰り道を記すように落ちていくそれに、思わず笑ってしまった。
お人よし。
その言葉がよく似合うやつだったか。
ふと、花束を買った時の出来事を思い出した。
美しい長い髪を持つ可愛らしい若い女性の店員さんが、花束を包んでくれた時のことだ。
花屋の前でどの花にしようか悩んでいた俺に、彼女は優しく気に入った花ではどうでしょうかと提案した。
それはいいなと俺は思わず目の前にあった青い花を指さしたのだ。
「あら。勿忘草とは、良い花をお選びになりますね。」
勿忘草を摘み上げた彼女の表情はとても優しくて、何故だろうかと見つめていたら。奥へどうぞと案内された。
少しだけ嬉しそうに、彼女は大きな紙の中に勿忘草を包み込んでゆく。その姿をぼうっと見つめていたら、不意に彼女が口を開いた。
「勿忘草には、三つほど花言葉があるんですよ。ご存知ですか?」
ちらりと向けられた視線に黙って首を横に振る。そうすると店員さんは少しだけ頬を染めて笑った。
「勿忘草の花言葉は、真実の愛、誠の愛。そして…」
私を忘れないで。
「お前からしたら皮肉か?」
辿り着いた目的地で、誰もいない冷たい石に向けて呟いた。当然返事が返ってくるわけもなく、俺はその場にしゃがみ込む。左手に持ち歩いていたココア缶と綺麗に包まれた勿忘草を石の上に置くいて。それからポケットの中身を漁ってしわくちゃになっている一通の手紙を取り出した。
「僕のことは忘れていいよ。だったか?」
赤い印の押された古い手紙を数年ぶりに開いてみれば、擦り切れた薄い文字が目に入る。
「バカだよなあ。」
淡々と書き起こされている言葉の端々に、震えがあることなんて一目みれば簡単にわかることだった。手紙の所々が濃く変色しているのも、何度も書き直したであろう消し跡。どう考えても言葉が本音だとは思えなかった。
「俺、今までお前のいうこと聞いたこと、全くなかったよな。」
問いかけても帰ってくることのない質問は、虚しくあたりに響くだけ。
側から見れば俺はただの頭のおかしな人間だろう。
成人男性が一人、黒いスーツで墓跡の前にしゃがみ込んで独り言。絵面がやばいし通報ものだ。
でも、そう思われてもいいほどに、俺には伝えないといけないことがあった。
「俺、絶っっっっっっっっっったい忘れてやんねーからな!」
大声で、それはもう近隣住民全体に聞こえるような大声量で。俺は叫んだ。勿忘草を選んだのだって、ただ単に気に入ったからではない。最初の理由はそんなくだらないものだったが、店員に教えてもらった花言葉でいいことを思いついたからだ。
「ここに勿忘草を飾っといたら。お前、ここに来る皆に『僕を忘れないでください』って言ってるようなもんだろ。」
そうやってずっと、覚えられてればいいんだよお前なんか。
大声で笑って見せると、なんだか知らぬ間に涙まで出てきて、腹を抱えて地面に膝をついた。
ポタポタと変色していく地面の色が歪んでて、うまく息を吸い込めない。
ばーか。ばーか。ばーーーーか。
途切れ途切れになってしまう俺の言葉は宙に浮かんで消えていくだけ。それがなんだか悔しくて、苦しくて、一際大きくばーか!と笑ってやった。
もしここにいたらお前は。「お前にだけは言われたくない。」だなんて思いっきり顔を歪めたんだろうな。
ああ、嫌だ。
海風が容赦なく体を冷やしていくこの寒空の中、俺はただずっと、目から流れる涙でもなく、風に飛ばされそうになる花束でもなく、寒さで感覚がなくなった手のひらでもなく、ただ一つ。
左側が冷たいことだけが気になっていた。
なつかしい夢を見た。
もう会えない人の夢を見た。
目が覚めた私は天井を見つめて、しばらくぼう然とした。
夢の中の、胸が優しくしめつけられるような暖かさと、冷たい現実の温度差にしばらく何も考えられなかった。
もう一度目を閉じて、同じ世界に帰れるならいくらだってそうしたけど、私は布団を抜け出して、冬のフローリングに立つ。
今からどんなに粘ったところで、同じ夢は見られないだろう。
私はこの上なくはっきりと、あの人が死んだことを思い出してしまった。
もう同じ空の下にあの人はいない。同じ空気を吸ってもいない。どこか遠くで頑張ってもくれない。
あの日笑ってくれた顔も、握ってくれた手だって、もうとっくの昔に骨になった。
骨壺をひっくり返したって、どれがどこの骨かなんて私に分かりはしないのだ。
私はベッドから起き上がって、洗面所で顔を洗い、朝ご飯を食べる。それから仕事にいって、ほどほどに働いて、帰って、また、眠る。
日常を繰り返して、その中で私は少しずつあの人を忘れていく。
そして、あの人が死んだってうっかり忘れたその夜に、また夢であの人に会いたい。
涙にも血にも地図にも止められない君の側の青になりたい
(お題 : 勿忘草)
勿忘草(わすれなぐさ)
黄金の瞬きは流れ
木の葉はざあざあ
風はびゅーびゅーと唸っていて
眩いだけの視覚できない空間に
勿忘草の香りを聴いた 気がした
どうして私は覚えていないのだろう
花の想いも 土の手触りも
全部 全部
残っていたはずなのに
どうして私は忘れているのだろう
流れ出た雫は盆に帰らない
ならばせめて 少しずつ摘み取ろう
忘れないように 忘れないように