『列車に乗って』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
私の趣味は列車旅行。
行き先も見ずに知らない列車に乗る。
大きな期待と小さな不安を胸に抱えて、
知らない場所に旅立つ。
気の向くままに駅を降り、
行き当たりばったりで泊まったりもして。
そんな旅行が、どうしようもないほどに好きだった。
今日も列車に乗って、宛のないまま揺られてる。
海が見えるところだろうか、山があるかもしれない。
あぜ道なんかを、泥んこになりながら進もうか。
何処に泊まろう、野宿だってしてみたい。
窓の外を眺めながら、この先の出会いに思いを馳せる。
人気が無くなった車両で胸を押えて笑ってみる。
心臓が酷く高鳴った。頬が紅潮した。
私は今、まだ見ぬ場所に恋してる。
『列車に乗って』
列車に乗って
娘は行く
愛しい あの方の元
たった一通
届いた手紙
握りしめ
生死もわからぬ人の元
「さようならだけが人生だ」
ただそれだけの
手紙の意味を知る為に
明けることない夜の中
娘は気付いているだろうか?
終着駅が あの世だと
すでに
この世の者ではないことも…
どこへでも行こう。
これまで行けなかった場所へ。
車窓から臨むは見渡す限りの湖畔。
朝日に煌めく水面。
そんな光景を想像しながらひたむきに耐え忍んで来たあの日々を思い出せ。
どこへでも行きたかったあの頃を。
そして今、どこまでも行け。
列車に乗って。
【列車に乗って】
気がつけば、向かい合わせの個室車両に乗っていた。
車窓から見えるのは背の高い草が茂る緑の海。
向かいの席では男が片肘をついて本を読んでいる。
状況が分からず男をじっと睨んでいると、視線を感じたのか本に落としていた視線を不意に上げてきた。
「·····」
朝の光に薄紫の瞳が輝いている。
男は読みかけの本を閉じると口元に淡い笑みを浮かべて言った。
「私もいつの間にか乗っていたんだ」
こちらの心を読み取ったかのようだ。
「どこに行くのか分からない。現実か夢かも分からない。ただ、途中下車は出来ないみたいだ」
男は言って、視線を窓へと転じる。
「――」
さっきまで草原だった景色が、砂漠になっていた。
砂の海の向こうに微かに遺跡のようなものが見える。
現実には有り得ない景色の変化。
だが夢とは思えなかった。
リズミカルな振動も、車輪が鉄路を踏む音も、窓から入り込む風も、確かに感じられる。目の前で微笑む男の、忌々しいまでの存在も。
「あぁ、〝湖〟だ」
懐かしむように男の眼差しが一層やわらぐ。
「·····君と私で、何かを見つけろという事なのかな」
男の言葉につられて視線を追うと、曇り空の下に白亜の城が見えてきた。
「·····」
草原、砂漠。湖に、白亜の城。
現実ではない。だが夢とも思えない。
互いの記憶の中にある景色の中を、列車はひた走る。
「長い旅になりそうだね」
男の声には、微かな喜びが滲んでいた。
END
「列車に乗って」
列車に乗って
海に行こう。
君の思いつきで、僕らはこうして電車に揺られている。時刻は調べずに、来た電車に乗って行こう、と無計画な旅。折角の春休みだから、といまいち理由にならない理由に頼って、僕らは並んで揺られていた。
日が傾き始めた15時過ぎ。海水浴場に着いた。夏を忘れたように、冬の海は静かだった。
「思ってたより寒い!」
君は両手を広げて笑った。
長い髪が潮風に舞うと、君は急いで前髪を押さえて、そのまま砂浜を進んでいく。僕はその後をゆっくりと追いかける。夕日の乱反射する海と君の後ろ姿。口を開きかけた僕に、
「綺麗だね」と君は振り向いて笑った。
「綺麗だ」
帰りの電車はほとんど無口に、ただ車窓を流れる景色を見ていた。日が沈んだ真っ暗な景色を。
「夜だね」
「早いね」
帰りはやけに早く感じた。同じだけ時間が掛かっているはずなのに。このまま駅に着いてしまうのだろうか、と不明瞭な不安に襲われた。
「次はどこ行こうか」と僕。思い出して、折角の春休みだから、と理由を添えた。
「次は……」君は暫く考えたあとにふっと微笑んだ。
——理由のいらない旅がしたい。
もう30年ほど列車には乗ってない。その頃、地元のJRはまだディーゼル機関車で客車を引いていたが、自動車免許を取得以降、私の列車の記憶は更新されていない。到着を知らせるオルゴール曲は「鉄道唱歌」だったと思う。現在はどうなんだろう?
さて、私には列車に乗って移動するということが根付いてないので、「自分が乗る列車」よりも機関車の方がいろいろと記憶に色濃く残っている。
最も古い記憶は、私が1歳のときのもので、地元の機関区の機関庫の中だ。母方の祖父が機関区で仕事をしていた。夕方に両親に連れられて輪転機の奥の機関庫へ行くと、大きくもなく明るくもない裸電球がぽつぽつと灯っている中に、真っ黒い蒸気機関車がズラズラと並んでいて、なかには減圧のために勢いよく蒸気を吹き出している機関車もあり、1歳のチビだった私には、本当にこわい場所だった。暗いし、まっくろな機関車はものすごく迫力があったし、「ブシュー」という蒸気音もすごく驚かされた。こうしてくっきりと記憶に残るほど、「圧の高い」場所だったのだ。
こう書いているうちに、列車に乗ったなかで印象強いものを思い出した。修学旅行で北斗星に乗ったとき、一番上の場所を選んでしまって、夜通し眠れなかった。当時の寝台列車「北斗星」は、現在のようなコンパートメントではなく、中央に通路があって、その両側が寝台兼席だった。壁は無く、通路と寝台を区切るのはカーテンのみ。三段分割になっていて、下段が最も高さが確保されていた。中段は下段より高さが少なく、一番上に至っては人ひとりが横になるに足りる高さしかない。しかも車両の屋根外郭に沿って壁側(つまり窓の直上)は丸く詰まっている。まさに「隙間に潜り込んでなんとか眠る」仕様だ。この状態で眠れるなんて、はっきり言って「猛者」だと思う。
北斗星は上野駅0番ホームに入った。現在はもう使われていない。修学旅行だから学校のみんなと一緒に降り立ったが、私達はほぼ一様にテンションが下がって静かになってしまった。映画「火垂るの墓」に描かれたそのままの建物だったからだ。
上野駅0番線は、いちばん端の線路で、線路横の低い柵に沿って道があり、道の向こうはすぐ公園の森だった。戦後すぐの頃、0番線構内にも戦災孤児がたくさん、雨風をしのぐために入り込んでいた。実際の映像も目にしたことがある。
1946年に生まれた私の母は、東京で大学に通っていたのだが、母にとって上野0番線は「故郷へ続く線路」だったそうだ。“ここから列車に乗れば、家に帰れるんだ”という想いのする場所だと、「火垂るの墓」を観ながら言っていた。
列車にのって、初めての彼氏とデートに向かう
中学からずっと好きだったんだけど、なかなか踏み込めずに告白できずそうしているうちに月日が流れたのだった。
思い切って、卒業式の日に告白をしたのが恥ずかしくもあり懐かしい想い出
列車の道中、普段は長く感じるものに、沢山話して、笑ってるうちにすぐについた。
まさかの両方思いだったみたいで、先生に恋愛相談を乗ってもらってた事はあとから聞いた話だ。
出会った時も電車の中で隣になって、たまたま同じ本を読んでいたのがきっかけだった。
それはもう偶然より運命の赤い本の方が正しい気がしてきたけどね
ずっと好きな人のそばにいますように
そう願いながら、電車から降りた
お題[列車に乗って]
No.80
列車に乗って
見慣れた景色が通り過ぎてゆく。
いつもなら何も思わないその景色に、私の心臓がヴェールに包まれたかのような錯覚を覚えた。
馴染みの土地を離れ、見知らぬ土地でひとり生きていく。
……もう、取り返しはつかないんだね。
いつのまにか知らない景色を映している窓。
共に映る私は、なんだか大人な顔をしている。
お題:列車に乗って
『約束はひとりで果たした』
約束していたことがあった。
こんな私でも仲良くしてくれた子達。
海に行きたいって言ったけれど、皆と離れた遠い所に移動しちゃったし、皆忘れちゃっただろうし、ひとりで行くことにした。
列車の切符を持ってひとりで行った海は綺麗だけど、楽しくなかった。
覚えてくれてないかな、声をかけてくれないかな。
「皆で行きたかった。」
【列車に乗って】
寒い朝
列車に乗り込み
あなたに会いに行きます
ずっと会いたかったあなたですが
戦地で命を落としてしまったのですね
笑顔のあなたに再会できることを願っていましたが
まさか骨を受け取りに行くことになるなんて
列車の窓を開けると
冷たい風が吹き込んできます
吐く息は白く
外に積もっている雪も白く
冷ややかな空気は
私の悲しみをさらに深くさせました
列車に乗って私は旅に出た。
自分探しの旅とかいう巷にありふれたことをするつもりはない。ただ旅に出てみたかっただけだ。知らない景色を見たくなったのだ。
そういえばどうしてそんなことをしたくなったのだろう。知らない景色など見てどうなるというのだ。
ああ、思い出した。私は失恋したのだ。今住んでいる場所、そこでみる景色、すべてが彼との思い出だ。そんなところにいつまでもいれるわけがない。違う景色を見たくなるのも当然だ。
思い返せば、いつも私はこうである。自分のことを俯瞰して見てしまうところがある。今悲しいのは自分であるが、「ふむふむお前の状況から考えてそういう感情になるのも当然だろう」と、もう1人の私が語りかけてくる。
電車に揺られながらやはり私はもう1人の自分と対話している。
負の感情が生まれた時は、もう1人の自分と対話をしがちだが、普段はもう1人の自分と妄想大会を開催していることが多い。
たとえば、今電車の中で、運命の人と出逢ったら?というテーマで妄想をするのだ。どんな出会い方なのか。何がきっかけで距離が縮むのか。どんな告白をされるのか。どんなデートをしたり思い出を作ったりするのか。どんな別れ方をするのか。そこまで考える。妄想する。案外楽しいものだ。
今日はどんな妄想をしようか。
君の元へ行きたくなる時がたまにある
列車に乗って会いに行って
元気もらったらまた列車に乗って帰ってくる
そんな風に出来たらいいのに
…逝きたいなぁ
でも、生きないと…
平日の昼前。
働いていたらこんな時間にゆっくり列車なんて乗れないだろうな。
そう思いながら私は静かに列車に揺られる。
まだ2月なのに暖冬の影響か暖かい。
今日は向かってみたい場所がある。
毎年、北海道の品を送ってくれるあの人。
遠い親戚。
会ったことはなかったんです。
でも、届いた荷物から沢山の優しい思い出を作れました。
その感謝の言葉を伝えたいんです。
そして、毎年送られてくる荷物が何処からきていたのか。
この足で
その地を歩いて
実感したいのです。
ご迷惑でなければ少しお顔出しますね。
あなたに
会いに行く。
金曜の
仕事終わり
電車に乗って
新幹線の
駅へ向かう。
駅弁と
お菓子と
飲み物を買って
出発だ。
ほんとは
1週間
乗り切って
体は
クタクタだ。
着くまでに
仮眠したかったけど
楽しみ過ぎて
全然
眠れない。
早く
着かないかなぁ。
会いたいなぁ。
#列車に乗って
ぴ~ぷ~
自転車に乗って豆腐を売りまくる。
違うわーってかあε=(ノ・∀・)ツ
お題は列車に乗ってじゃあーってかあε=(ノ・∀・)ツ
列車に乗って、席に座っていると、真夜中の駅を
疾風の如く通り過ぎてゆく寝台列車はやふさ!
外は激しく雨が降っているようだ。
列車の窓には、水滴がひっきりなしに落ちていく。
この旅は、いつから始まり、どこに向かっているのだろうか?
そして、行き着く先の終着駅には、何が待っているのだろうか?
ふと、そんな事を考えた今日この頃である。
※ポケモン剣盾二次創作
※マクワとセキタンザン
たんたん、たんたん、一定のテンポで揺れる車体。天井からぶら下がるいくつかの手すりと、4人がけのテーブル席の形になって並ぶ席には、ほとんど人はおらずまばらに座っていた。
開放感あふれる大きな窓枠を流れていく早朝の景色は明るい緑の山並みばかりで、キルクスからは遠い場所へ来たのだと思い知る。
車体の連結扉の上の表示板には、よく聞く標語の文字が液晶画面の中を動いている。
視線を戻し、前を向くと2人がけのソファに座りながら、楽しげに窓を覗くセキタンザンの姿がある。黒曜石の瞳が光を受けてキラキラと輝く姿を見て、マクワは胸の中の温かいものと共に柔らかな息をついた。
2人の間を挟むように、中央にはテーブルがあって、食事や作業ができる。まだ新しく、ほんのりとゴムのような香りのする柔らかいクッションに座り、タブレットをそこに置いて、今日これからの予定を確認していた。
がらがらがら、後ろの方から小さなタイヤが転がる音が近づいてきて、女性の声がかかる。
どうやら車内販売をおこなっているらしい。金属製のカートには、よくスーパーなどで見るお菓子や初めて見るもの、お酒を含めた様々な飲み物やお土産などが目一杯詰め込まれていて、見ているだけでも一つのエンターテイメントのようにマクワの瞳を楽しませた。
セキタンザンも同じく感じたのか、興味深そうにお菓子の袋を見つめている。
「あの、それと……これもください。……他に欲しいものはありますか」
「シュポー!」
「ではこちらのアイスも」
「ありがとうございます!」
マクワは商品の小袋をそのまま手渡しで受け取り、スマホロトムを呼び出すと、電子会計を済ませる。再びがらがらと、小さな地響きを鳴らしてカートを押しながら女性スタッフが去っていく。
机の上に並ぶのは色とりどりの袋たち。タンドンより硬いと書かれた小さなスコーンに、イシヘンジンを模されたクッキー、そして大きなバニラアイスはなんとスプーン付きだった。
微細な氷の粒の中にたっぷり包まれながら、白い煙を立ち上らせるアイスのカップを前にして、セキタンザンの瞳が炎を帯びて煌めく。
「そんなに……アイスが食べたかったのですか?」
「シュポー!!」
「……そういえば、車内販売のアイスは非常に硬いと有名でしたね。……どこで聞いたのですか」
「ボオ!」
「……ぼくの母?」
石炭の黒い顎が頷いた。炎を体内に飼うセキタンザンの体温は高い。極力低く抑えていたとしても、温度に弱い菓子類は、彼が口にする前に全て溶けてしまい、なかなかそれそのものを楽しむことができないのはマクワもよくよく知るところだった。
彼はマクワの疑問に対して、元気よく返事をしたが、その詳細まではバディにも理解はできない。だがなんとなく想像できるのは、やはりこおりのエキスパートであり、そして縁の深い母親以外には考えられなかった。
セキタンザンは片手でカップを抑え、その蓋を反対の手で掴む。少し捻るだけであっという間に開いてしまった。そしてビニールの内蓋までも大きな指先でひらけば、光を受けてチカチカと輝く白いバニラアイスが姿を現した。
「シュポー!」
「いい感じ……ですね」
湯気の量は増えているが、まだ硬いままのように見える。セキタンザンは楽しそうにスプーンをもち、その上から突き刺した。
凍ったバニラアイスを滑らかに掬い上げるスプーンの先と、花びらのようにふんわりと持ち上がるアイス、そしてそれを口に運ぶセキタンザンの笑顔。
どうやら冷たく凍ったままのそれを味わうことができたらしい。
マクワは釣られるようにしてにっこりと笑った。
「美味しいですか」
「シュ ポー!」
「それはよかった。……車内販売はいろんなものが売っているのですね」
「シュウー」
セキタンザンはさらにもう一度スプーンでアイスを掬い、今度はマクワに向けて差し出した。
「ボボ!」
「い、いえ、ぼくはよいですよ。他のお菓子もありますし」
「シュポー」
「わ、わかりました」
黒曜の目が睨むように細められて、マクワは思わず周囲を見渡した後、テーブルの上に身を乗り出して、それを口で受け取った。
優しく柔和で芳醇なバニラの香りが冷たさと共に舌の上にのり、それから時間をかけてゆっくりと、解けるように消えていく。しろいこおりが、身体の中で形をなくしていく。
きっとこの溶けていくスピードも全然違う。そもそも必要な味覚だって、感覚だって何もかもが違うのだ。彼と同じ感覚を共有できているわけではない。それでも。
「……美味しい」
「シュポー!」
共に分け合う感想は同じものだったらしく、セキタンザンは大いに頷いた。
そしてパクパクとアイスを口にしながら、窓の外を見る。
この光景の見え方も、本当は全て違うのだろう。
マクワは彼の見ている世界の見え方を、一生知ることはできない。だが、彼の良い感情を窺い知ることくらいはできる。想像することができる。
「いつもアーマーガアタクシーを使ってしまいますが……たまには電車移動も良いものですね」
「ゴゴゴー」
「今日はジムチャレンジの開会式ですからね。気を緩めてはいけません。……でも」
がたんがたんと一定のテンポで電車は揺れる。今こうして2人は列車に乗って移動をしている。
しかし、マクワは自分が最初から乗っているものを理解していた。
汽笛のように高らかと上がる鳴き声、黒くて勇ましい蒸気機関の持ち主。
彼と向かうのは開会式のもっと先にある、ガラル一番の栄光。耀きチャンピオンとしての座。
そこにはマクワひとりで座る場所ではないことを、誰よりも知っている。
「きみのモチベーションになるのであれば、たいしたことではありません」
「ボオ?」
「……その、これからもよろしく、ということです」
「シュポー!」
「ちょ、ぼくは自分で食べれますから……! 無理にアイスをこちらに出さずとも……、んま……」
石炭の汽車が進むテンポは決して常に同じではない。時に緩んだり、止まったり、唐突に猛スピードで走ることもある。
その速さに合わせながら、たまには背中を押したりしながら、いつか届く未来の終着点まで進んでいくのだ。空っぽになったアイスのカップは、彼らの約束を覚えている。
『列車に乗って』
車窓からじりじりと僕の背中を焦がす。
まだ初夏だというのに、季節が極端すぎてそろそろやっていけそうにない。
人混み、混み、ごみ。
座席を確保できたのも束の間、早くも僕は人と日差しに潰されてしまいそうである。
周囲のゴミ共....じゃなくて人混み共は、一様に同じ顔で同じように背中を丸めて手元の画面に夢中のようだ。
そんな社会、あるいは同調圧力ともいえるこの状況について考えながら電車に揺られる。
「横浜、横浜〜」
電車において、座席を確保するのは案外簡単な話だ。
人の往来の激しい駅では自ずと座席も空くのだから、席の前に立っていればよいのである。
特に制服を着た学生は降りるのも早く、狙い目だ。
まぁ最も、同じ思考、あるいはそのような趣向から人気な位置取りでもあるのは否めないが。
ちなみに僕の趣向はロリではない。断じて違う。
綺麗めのお姉さんこそ至高なのだ。
少し、論点がズレてしまった。
この社会について話そう。
実は、この世界は僕が作った。一昨日。
それ以前と思われているやつは、まぁ適当に作った記憶とかである。びっくりした?
平行世界がどうのとか、鳥と卵どっちが先かとか、そういうことではない。
昨日徹夜で作った世界が、一昨日の世界に反映されて元から存在していたように見えているだけ。
記憶に騙されているだけ。
社会の同調圧力とかそんなもん、適当に僕がプログラムした副産物。
わざとじゃなかったんだごめんよ。
もし、もしね、君が何かを得たいなら、自分から動けばいい。そうすれば居場所が手に入る。
そういう風に僕が作ったからね。
自分の趣向や思考は、その近道になるかもしれない。
まぁただ、席が得られても人とか色んなものに挟まれて苦しくなるかもしれないけれど。
そろそろ僕は降りるね。
乗り過ごしにはお気をつけて。
列車に乗って
菜の花が広がる中を走り抜ける列車…子供の頃、良く見ていた光景で、列車が通る度に、何となく手を振っていた…たまに、気付いた人が、手を振り返してくれると、
とても嬉しくて…普段、乗る事など無かったけれど、行事や隣町に行くときに、乗った時には、楽しくて気分は最高だった…
やがて大人になる頃、廃線になってしまって、レールと、ホームだけが残された…時折、そのホームに立ち寄り、来るはずの無い、列車を待っている…
え〜本日は当列車“綺羅星特急"にご乗車頂き、
誠に有難う御座います。
当列車は安全に気をつけながら、
流星の如き速さでお客様を目的地まで確実に送り届けます。
?
どうなさいましたか。
え?切符にも車内のどこにも目的地が書いてないって?
……それは当たり前ですよ、お客様。
何たってこの列車はそこが目的地である限り、
何処にだって行くのですから。
例えば、
あの日別れたきりのあの子のところ。
無くしてしまった宝物のところ。
もう居ないあの人のところ……なんてのも。
──さぁお客様、アナタはこの列車に乗ってどちらまで?
テーマ『列車に乗って』
列車に乗って何処かへ旅行しに行くなんて一体何時ぶりのことであろうか。ぽつりぽつりと点を打つようにしか乗客が座っていない列車に身を委ねて、ゆったりと外の景色を――この地平線にまで広がる美しい海を――眺められるなんて、死んでも良いぐらいの経験である。缶珈琲を片手に少し感傷に浸っては、外を眺める。深い事は考えずに、眼の前の景色とほろ苦い香りを嗜む。それが何よりも至福の時間なのである。また、此れだけでも十二分に満足できるというのに、時間帯が上手く噛み合っていたお陰か、真赤に染まった夕日が沈みゆく絶景さえも見ることが出来ている。昼には誰も寄せ付けないように燦々と大地を照らしている太陽も、時が経てば栄光は朽ちてしまうものなのだろうか。こうやってありありとその姿を直視できてしまっているのは何とも感慨深いものがある。そして、その姿はどうしても年老いた自分とも照らし合わせてしまうのである。若い頃はあまり自由に使える金も時間も無いものの、旅行だけは度々決行していた。しかし、三十を越えた辺りからは世帯と世間を気にしてばかりで、思うように旅は出来ていなかったようにも感じる。
「結局生きてる間は無理だったか」
想えば短い人生だった。まさか六十で癌を患い、そのままぽっくり逝くなんて思いもしなかったのだ。本当は満員電車なんかよりも寂れた列車に乗って旅をしたいと常々考えていたにも関わらず、遂には達成することができなかった。やはり、夢というものはそう簡単には叶わないものなのだろう。行動するならするとして、早くしておくべきだった。後悔先に立たずと云うが、正にその通りだなと思わされる。だが、神か仏か何の仕業かは知らないが、こうやって最期に夢を見させてくれたことには感謝を表したいものだ。終点まで、後どれぐらいだろうか。珈琲を最後まで飲めると良いのだが。