あなつみかん

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 列車に乗って私は旅に出た。
 自分探しの旅とかいう巷にありふれたことをするつもりはない。ただ旅に出てみたかっただけだ。知らない景色を見たくなったのだ。
 そういえばどうしてそんなことをしたくなったのだろう。知らない景色など見てどうなるというのだ。
 ああ、思い出した。私は失恋したのだ。今住んでいる場所、そこでみる景色、すべてが彼との思い出だ。そんなところにいつまでもいれるわけがない。違う景色を見たくなるのも当然だ。
 思い返せば、いつも私はこうである。自分のことを俯瞰して見てしまうところがある。今悲しいのは自分であるが、「ふむふむお前の状況から考えてそういう感情になるのも当然だろう」と、もう1人の私が語りかけてくる。
 電車に揺られながらやはり私はもう1人の自分と対話している。
 負の感情が生まれた時は、もう1人の自分と対話をしがちだが、普段はもう1人の自分と妄想大会を開催していることが多い。
 たとえば、今電車の中で、運命の人と出逢ったら?というテーマで妄想をするのだ。どんな出会い方なのか。何がきっかけで距離が縮むのか。どんな告白をされるのか。どんなデートをしたり思い出を作ったりするのか。どんな別れ方をするのか。そこまで考える。妄想する。案外楽しいものだ。
 今日はどんな妄想をしようか。

2/29/2024, 3:27:41 PM