金木犀

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 列車に乗って

 海に行こう。
 君の思いつきで、僕らはこうして電車に揺られている。時刻は調べずに、来た電車に乗って行こう、と無計画な旅。折角の春休みだから、といまいち理由にならない理由に頼って、僕らは並んで揺られていた。
 日が傾き始めた15時過ぎ。海水浴場に着いた。夏を忘れたように、冬の海は静かだった。
「思ってたより寒い!」
 君は両手を広げて笑った。
 長い髪が潮風に舞うと、君は急いで前髪を押さえて、そのまま砂浜を進んでいく。僕はその後をゆっくりと追いかける。夕日の乱反射する海と君の後ろ姿。口を開きかけた僕に、
「綺麗だね」と君は振り向いて笑った。
「綺麗だ」
 帰りの電車はほとんど無口に、ただ車窓を流れる景色を見ていた。日が沈んだ真っ暗な景色を。
「夜だね」
「早いね」
 帰りはやけに早く感じた。同じだけ時間が掛かっているはずなのに。このまま駅に着いてしまうのだろうか、と不明瞭な不安に襲われた。
「次はどこ行こうか」と僕。思い出して、折角の春休みだから、と理由を添えた。
「次は……」君は暫く考えたあとにふっと微笑んだ。

——理由のいらない旅がしたい。
 

2/29/2024, 4:02:26 PM