『優しさ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ー光ー
私には何も無くなった
どうやって明日を生きていけばいいのか
どうやったら明日を生きれるのか
明日を生きることに必死なんです
でも、目の前が暗くなっても
張り裂けそうなほど苦しい日々でも
あなただけは光っているんです
あなたの存在が私の命なんです
絶望の世界の中で、光になってくれてありがとう
あなたのおかげで今日を、明日を、生きることができます
どうか、あなただけは消えないでください
どうか、永遠に、お願いします
『思いやりの天使』
庭が霞んでみえるのは 涙でくしゃくしゃだったから
色づくことを覚えた葉っぱが心を持って 季節のうつろいを感じている やがてそれが翼になって 人を繋ぐ天使になった 涙に意味を持たせてあげる
天使は、はにかみ そう言った
「申し訳ございません」
真剣な、張り詰めた声。
先輩が謝罪している。大きな背中を丸めて、床につきそうなくらい頭を下げている。
私の調整ミスで損害を与えた取引先の社長。いつもニコニコ優しかった顔を真っ赤にして、先輩を怒鳴り付ける。私なんて見もしない。
お腹の底が冷え、脚がガタガタ震えた。気を抜くとへたり込みそうだった。先輩が今後の段取りを丁寧に説明しているのを聞きながら、拳を握り、必死に堪えていた。
「行くぞ」
先輩が低い声で言った。申し訳ございませんと、もう一度頭を下げて、社長室から出ていく。慌てて私もお辞儀をして、先輩の後に続いた。社長はこちらに背を向けたまま、忙しそうに資料をめくっていた。
取引先を出て駅に向かう途中、先輩は一言も喋らなかった。私も黙って、先輩の馬鹿でかい背中を見ながら、とぼとぼと後について行った。
先輩は怖い。ずっとアメフトをやっていたらしく、顔も身体もひどく厳つい。あまり喋らず、ストイックで、他人に厳しく、自分にはもっと厳しい。そして、物凄く仕事ができる。
今回の私のヘマで、部門のチーフである先輩に頭を下げさせてしまった。くだらないミスだ。学生気分が抜けてないと言われれば、そうなのだろう。
絶対に、怒られる。
怖くて堪らなかった。そして、それ以上に、たくさんの人に迷惑をかけ、損害を出したにも関わらず、そんなことを心配している自分が嫌だった。
電車は行ったばかりで、20分ばかり待つことになった。ついていない。
駅のホームで、ベンチに座って待つ。先輩はふらっと立ち上がり、戻ってくると、私の手の中に缶コーヒーを落とした。
「あ・・・・・・」
「飲め」
「あ、はい。その、ありがとうございます」
慌ててお礼を言うと、先輩は自分の缶コーヒーを開け、5秒くらいで飲み干した。早い。
ふーと息を吐き、先輩はベンチに背中を預けて、しばらく黙ってから、遠くを見ながら口を開いた。
「今回の件な、まあ、気にするな。だけど、忘れるなよ。何が悪かったか、どうしておけば良かったか、しっかり考えて、まとめておけ。そんで、次に活かせ」
優しい声だった。
私は頷き、コーヒーを一口飲み、それから恐る恐る聞いた。
「・・・・・・あの、怒らないんですか」
「おまえ、反省しているだろ。なら怒る必要なんてない。あれ? 違った? 怒られたかった?」
「い、いえ。そうじゃないですけど・・・・・・」
「じゃあいいじゃん。・・・・・・こっちも悪かったな。おまえ、新入社員のくせに結構できるから、つい任せて過ぎちまった。俺がもう少しフォローしなきゃならんかった。すまん」
「ち、ちがいます! わた、私が・・・・・・」
それ以上、言葉が出なかった。じわりと涙が滲んだ。先輩は、気付かないふりをしてくれているのだろう。飲み干したコーヒーの缶を、無意味に手の中で転がしていた。
「ま、次はお互いにもう少しうまくやろうぜ」
「・・・・・・はいっ!」
私は強く頷いた。苦手に思っていた先輩を、近くに感じた。先輩みたいな優しさを、私も持ちたいと思った。
(優しさ)
優しさの温度が源泉掛け流しじゃないといいな。だっていつか枯れてしまったら悲しいからさ。善意が何億もの邪念でかさ増しされてくれていたらいいね。きれいなものばかりだと勿体ないから。世界ってたくさん痛ましいことばかりでできているようだし、ちょっと世界平和に寄与しようか。お墓にいっぱいお花が咲いていて嬉しそうな顔がかわいいね。文字の一つも読めないまんま生きたらいいよ。
痛みを訴えて強さを上告してみよう。サンタさんがまだ来てくれるのなら、ください。知らせないことを、読ませないことを、壁の内側に匿ってしまう弱さを、優しさと呼ぶ権利とかを。
傷つけ合うことが真理だっていうのではなく、そこに痛みを感じる崇高さを喜んでみたいね。みんな人間みたいだ。隣の席の人に無邪気に笑いかけるような、導火線を切るみたいな華やぎが、どうか本物でありませんように。
『優しさ』
「間宮。先方との打ち合わせ、急遽日程早まったから、急ぎ調整頼む」
「あ、はい、分かりました」
時計の時刻は定時まであと15分を示している。だが、これを終わらせないことには帰れない。
課長に頼まれた仕事を急いで片付けていると、隣の席の後輩が私のスーツの裾を少し引っ張って、何やら頼みごとのある顔をしてきた。
「間宮さん、ちょっとすみません。明日の会議の資料がまだ上手くまとまらなくて……」
「ちょっと見せてね……うん、前見たときより良くなってるから、あとは具体的な内容を盛り込むと良さそう」
ついでに「こことここは……」と修正点も伝えていく。
「なるほどです……ただ、今日はちょっとこれから用があって、どうしても定時で帰らなきゃいけなくて……」
そういうことか。
「じゃあ私やっとくから、先帰っていいよ」
「え、いいんですかぁ!?」
彼女がそう、甘ったるい声で言う。
「うん。私は、この後予定ないから」
少しばかり嫌味を言ったつもりだったが、彼女にそれを気にする素振りはない。
「先輩、優しいので好きです! ありがとうございまぁす」
そう言いながらすでに、彼女は手にしっかりとバッグを握りしめていた。
退勤する彼女の背中を目で追いながら、彼女に聞こえないようにため息をつく。
「間宮」
「……はい」
また誰かの頼みごとだろうかと振り返る。
「何、気の抜けた返事してんだよ、まったく。そんなんで大丈夫なのか?」
そう表情のないぶっきらぼうな言い方をするのは、この会社で私の唯一の同期、中川だ。
「大丈夫って何が? 困ってる時はお互いさまだし……」
「お互いさまっていうか、いつもお前が一方的に押し付けられてるだけだろ」
「……そんなことない。とにかく大丈夫だから」
さっきはああ言ったものの、今日は終電コースかもしれない。
ふと見上げた時計を見上げると、すでに定時から3時間以上が過ぎていた。
机の引き出しに忍ばせていおいたエナジードリンクで、溜まった疲れを胃に流し込む。静かな部屋に、時計の秒針と私の叩くキーボードの音だけが響く。
「お前、まだいたのかよ」
机の上に転がるエナジードリンクの空が4本に増えた頃、退勤したはずの中川がなぜか会社に戻って来た。
「まぁ、うん。思ったより時間かかっちゃって……てか中川こそ何でいるのよ」
「俺はその、あれだ。散歩の途中……てか、そんなことどうでもいいだろ」
なぜか、いつも以上にトゲがある気がする。
「何? もしかして怒ってる?」
「別に、怒ってなんか……いや、やっぱ怒ってるのかもしれないな」
「ねぇ、何言ってんの?」
「だから、お前のそのバカみたいな優しさが鬱陶しいって言ってんだよ! もっと自分勝手に生きろよ!」
中川の荒げた声が胸に突き刺さる。
「いや、私優しくなんかないし。鬱陶しいなんて言われる筋合いもないし。私は別に今のままでも……」
無意識に私の頬に冷たいものが流れた。
「あ、いや、泣かせるつもりじゃなかったんだ。悪い……」
私は黙って首を横に振る。
どうして、涙が出るのだろう。かけられた言葉は優しい言葉じゃなくて、むしろキツイ事だったのに、どうしてこうも心が楽になったのだろうか。
「これ……」
ハンカチでも貸してくれるのかと思ったら、差し出されたのは2本の缶コーヒーだった。
「どっちか選んで」
「じゃあ……」
いつもはブラックコーヒーを好んで飲むが、今日は脳が甘いものを欲しがっていた。
私がカフェオレを選ぶと中川は一瞬戸惑った顔をしたが、すぐに甘くない方の缶の口を開けた。
「ねぇ、中川ってさ、ブラック飲めないでしょ?」
「……んなわけないだろ」
そう言ってコーヒーを流し込む様子は、意地を張って無理に飲んでいるようにしか見えない。
「あのさ……」
「ん?」
「ありがとね……コーヒーのこと」
素直にお礼を言えなかった私は、そう言ってとっさに缶を傾けた。
「別に……ほら、さっさと続きやるぞ」
「え、手伝ってくれるの?」
「それ以外に何しに来んだよ」
「……散歩。でしょ?」
私がいたずらっぽく笑うと、中川がムスッとした顔をした。
自分勝手に生きるってどうしたらいいのか、私にはまだ分からない。それに、私は断るのが苦手なだけで優しくともなんともないんだ。
自分の方が私なんかよりずっと優しいじゃないかと、私は2本のコーヒーの空き缶を見て思った。
『今日も疲れたぁ。』
自宅マンションのエレベーターに乗り込むと、壁に寄りかかる。
先程まで残業をしていて、もうずっと立っていられるほど体力もメンタルも残っていなかったのだ。
ポーン、とエレベーターが目的階に着いたことを知らせ、ドアが開いたのでとぼとぼと歩き出した。
社会人四年目。
会社にも慣れつつあるが、上司や先輩、後輩との人間関係に悩みながら、荒波にもまれて社畜生活を送っている。
ガチャガチャ、キィッ……
鍵をまわし、扉を開けると、部屋の方が明るい。
玄関へ入ると見覚えのある靴がちんまりと揃えておいてあった。
『また来てる……』
ちなみに私は大学の頃から一人暮らし。
世話をしてくれるような御相手はいないので、そうともなればいるのは一人しかいない。
履いてたヒールを雑に脱ぎ捨て、ドダドダと音を立てて居間へ向かう。
「あっ、おかえり〜遅かったね。いつもこんな時間なの?」
キッチンには想像通り、母がいた。
振り返って私を確認したあと、すぐに手元に視線を戻した。
トントンと包丁の音と共に、鍋のコトコトと煮込む音も聞こえてくる。
『あのさぁ……』
「もうすぐできるから、待っててね。」
被せるように母に言われる。
憤りを感じながらも部屋を見渡す。
朝出た時は散らかっていたはずの部屋が片付いている。
きっと晩御飯作りも兼ねて、掃除もしてくれたのだろう。
すると母が準備していたサラダを持ってやってきた。
「明らかにゴミっていうのは、捨てておいたよ。あと洗濯もしたから後で取り込んでね。それから……」
『お母さん!!』
私の大声に母がビクリと反応する。
普段声を荒らげるタイプではないが故に、よほど驚いたのだと思う。
「な、何?」
『もうすぐ私二十六だよ?いい加減過保護なのやめてくれないかな。』
荒らげた勢いのまま母に詰め寄る。
「でも、なんだかんだ心配だし……」
『一人暮らし初心者ならまだしも、私もう一人暮らし始めて七、八年になるんだよ?仕送りだって貰ってるし、食べ物にも困ってないんだけど。』
娘に早口でまくし立てられたせいか、母はしどろもどろに答える。
「お金は確かに送ってるけど、ご飯とか……見たけどコンビニばっかりで済ませてるんじゃない?洗濯物だって溜まっていたし、たまにはお母さん頼ってくれても……」
『だから!!そういうのを、やめてって言ってるの!!』
さっきよりも大きな声で叫んだ。
自分でも驚くくらいの大声。
母の言葉は容易にかき消せてしまった。
『私もう社会人なの!!自立してんだよ!!平日は仕事があって自炊まで手は回ってないかもしれないけど、休日は作ってるし!!洗濯物だって、帰ってから回してる日もあるし、休日には絶対やってる!!ちゃんと自分で決めて生活してんだよ!!』
仕事のストレスも相まってか、つらつらと今までの不満が爆発し、早口で母にぶつける。
母は驚いたまま聞いていた。
『合鍵で入ったんだろうけど、余計なことしなくていいの!!一人でも生きていけるんだから!!心配しなくt…』
心配しなくていい、と言い切ろうとした瞬間、突然目の前がぐにゃりと歪んだ。
母の顔も見えなくなって、世界が回っているかのように見える。
『あ、れ……』
母が必死になにか声をかけているのはわかるが、なんて言ってるのか分からない。
そのまま声が遠くなっていき、
私は意識を手放した。
目が覚めると、病院だった。
規則的な電子音で目が覚めて、そばでは母親が座って寝落ちていた。
『おか、さん……』
声をかけると母がパチリと目を開けた。
「ん、あ……おき、たぁ……良かったぁ……」
起き上がると母にそっと優しく抱きしめられる。
「起きなかったらどうしようかと思った……」
声的にきっと泣いているのだろう、それほど心配をかけたのだ。
時計を見るともう午前五時。鳥の声まで聞こえてきてほのかに外も明るい。
家に帰ったのが確か夜の八時だったから、少なくとも九時間近く眠っていたのか。
あんなに酷い言葉をかけたのに……救急車を呼んで、今までずっと寄り添ってくれていたのだ。
母の温かさを改めて感じ込み上げてきた涙を拭い、抱きしめられた腕から少し離れて、母と向き合った。
『お母さん、ごめんね。』
母がキョトンと私を見ているが、そのまま続けた。
『最近残業も多くて、人付き合いもなかなか上手くいかないしで、余裕無くなってた。コンビニご飯も生活が雑になっていたのはその通りなのに、図星をつかれて逆ギレして……』
確かに過保護だった母。
でも、それは娘である私を想っていたからこそ。
学生の頃、運動部に入りたくて母に相談したら最初は反対されたものの、やりたい旨を伝えたら応援してくれた。
大学進学での一人暮らしも、心配だっただろうけど、社会人の今まで支えてくれている。
過保護からのぶつかり合いは何度もあったけど、いつだって母は私のやりたいことを応援してくれていたのだ。
不安だって沢山あったはず。それでも、娘を信じてくれていた。
それをきちんと、わかっていたのに……。
『ごめん、なさい……。』
申し訳ない気持ちや自分の情けなさで胸がいっぱいになる。堪えていたはずの涙が、ポロポロと溢れ出して、布団をギュッと掴んでいる拳に滴り落ちた。
泣いてる顔を見られたくなくて、下を俯く。
母はそれを察してか、頭の上にポンッと手を置いた。
「社会人が大変なのは、お母さんも知ってる。お父さんが亡くなった後、あなたを育てながら働く事がとっても大変だったのを覚えてるから。あなたを食べさせることに精一杯で自分を顧みれなくて、体を何度も壊したわ。」
そんな時期があったのかと驚き、涙が少し引っ込む。
母は懐かしむようにゆっくりと続ける。
「おばあちゃんにも怒られた。仕事も大事だけどもっと大事なもんもあるだろって。何度も助けて貰ったなぁ。だから、私も大事に育てたあなたが不自由なく過ごして欲しくて、ちょっと一方的だったかもしれないわね。」
申し訳なさそうに小さな声で…ごめんね、と母は謝った。
母は悪くないのに…と思うとまた涙が出て、そのままわんわんと泣き、母は私が泣き止むまで背中をさすってくれていた。
母の優しさやあたたかさを、再認識して改めてありがたみを感じたのだった。
結局、過労と睡眠不足で倒れたようだったので、しっかり栄養と睡眠を摂りなさいと、医者には注意を受けて帰された。
職場に話したら、一週間程休みを頂いた。
「しっかり休んで、仕事に復帰しなさい。」と上司からの伝言付き。
だいぶ仕事が忙しかっただろうから、と気を遣ってくれたみたいだ。
退院後は少しの間実家で過ごすので、病院からは母と帰宅を共にすることにした。
病院を出ると、ゆっくりと母の隣に並んで歩く。
『お母さん、』
「ん?」
『お母さんのご飯食べたい、から、お願いしてもいい?』
こんなお願いするのは、数年ぶりすぎて恥ずかしくなってしまい、たどたどしくなる。
言われた母は、花が舞ったかのように嬉しそうな顔をした。
「もちろん!あなたが好きなのを作るわね。」
ウキウキしながら献立を考える母はとても楽しそうで、私もなんだか心があたたかくなった。
少し、この優しさに甘えてみようと思いながら、母とゆっくり家までの道を歩いた。
#優しさ
優しい。
幼い頃、私はそのようにカテゴライズされていた。
少なくとも“良い評価”と認識して生きてきたが、これまでの人生で、その評価が役に立ったことはあっただろうか。
外に出れば優しくない人間は存外少なく、社会に出ようものなら“優しい”と持て囃される機会は限りなくゼロになる。
価値があるものとは「皆が欲しがっていて、数が少ないもの」だ。
早い話が、優しさに価値はない。
無意識に性善説を刷り込まれた人間にとっては、当たり前に持っているべきレッテルでしかない。
故に、常に劣勢を強いられる。
つけ込まれ、時に騙され、搾取、蹂躙される。
正しい倫理観を持つよう喚起する社会ですら、時として性質を利用し、私腹を肥やそうとする。
「正直者が馬鹿を見る」を痛感する。
優しくあることは愚かだろうか?
「それでも優しさは大事だ」と唱えることを、奴隷の鎖自慢と揶揄するか?
「はい」でも私は構わない。
価値のない優しさだけでは残念ながら理想は追えない。
そこには事情があると信じるしかない。
「いいえ」と答える理由。
性善説や社会通念上の反射反応か、強い信念によるものか。
なんだっていい。
これからも不当な損をし続けるだろう。
優しい人間が報われる社会も、まず来ないだろう。
愚かでもいい。
価値がなくてもいい。
だから、私は優しさを大事にする人にだけ優しい人間でいたい。
どうか相応の幸せが訪れますように。
~優しさ~
ぎゅってして
ぽんぽんてして
名前呼んで
沢山呼んで
帰らないで
まだここにいて
お顔見せて
お声聞かせて
いつでも言っていいよ
って
思ったことは言葉に出して
って
そんなん言われたら
大好きじゃ足りないくらい
好きになってしまうけど
よいかしらん?
----------------------------------------優しさ
優しさ
優しさは強さ
強くなければ本当の優しさは保てない
人の為なのか
自分が良い人でいたい為なのか
優しくあろうとするのは
なかなかに難しいのだ
paki
優しさなんてもの私は持っていない。君は優しい私が好きと言った。私は優しくない。私はただ怒らないだけ。怒らないと言うか怒り方が分からない。ただそれだけだ。怒る時に怒らなければ、人間の甲斐がありません。そんな言葉がある。
「私には人間の甲斐がない。」
お題『優しさ』
『あなたのため』
その手を振り上げるのも、
その口から出てくる言葉も、
他の兄弟たちとはちがう態度も、
他の人たちに向けるものとはちがう笑顔も、
不出来な自分を正すために必要なことだった
優しい家族、家族の優しさ
なんだかザラザラしてて上手く飲み込めない
そっか、私が悪いんだ
ごめんなさい
生まれてしまってごめんなさい
【題:優しさ】
昼時の暖かな陽射しに眠気を誘われて、意識は夢の中に深く潜った。
捻れ交わる不安定な世界を彷徨い歩き、不安に心を押し潰されたその時──
「!」
意識は浮上する。引っ張られ、戻って来たときは黄昏の空が広がっていた。
毛布代わりの上着と背中越しの体温が
心地良くて、身を委ねることにした。
第一話 その妃、悦に浸る
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
鬱蒼と生い茂る樹木に足場の悪い傾斜。昼間でも暗いこの小山を短時間で抜けるには、男でも相当山道に慣れていないと難しい。ましてや体力のない女子供など以ての外だ。
その奥へと続く道なき道を抜けると、急に眼下へと現れる廃れた御殿。それが、とある妃の宮殿だと言われたところで一体どれだけの人間が間に受けるか。深山に隠されている時点で、帝からの寵愛は疎か、その存在も知られてはいないだろうに。
「……事の次第につきましては、追って使いを寄越しますので……」
御簾の向こう側から聞こえる、鈴音のような耳心地の良い声。気配を消し、貴人を乗せたその輿が完全に見えなくなるまで見届けてから、宮殿の門を叩いた。
離宮内はしんと静まり返っている。下女は疎か、主人を世話するはずの侍女ですらこの宮にはいない。その代わりの男が、帝の命により時々訪れる程度だ。
「眠れないなら、お茶でも淹れますよ」
月光に照らされた、絹のように滑らかな白い肌。下ろされている濡羽色の艶やかな髪。形の美しい紅を引いた唇と、色っぽい目元の二連黒子。頬に影を落とす睫毛が持ち上がると、そこから現れる意志の強い瞳。
目尻に此方を捉えると、この離宮の主人は嘲笑を唇に描いた。そう、この美人に嘘は通用しないのだ。
頬杖を突きながら流し目を送る美人に、ほうと感嘆の息を漏らしてから、国の情勢を掻い摘んで報告する。専ら男の仕事といえば、こうして美人と色のない話をすることだけであった。
しかし、今夜は少し様子が違って見えた。
いつもなら「そうか」と言ってすぐに宮から追い出そうとするのに、いつまでも主人は、池に映った月を眺めている。
「いつもなら今頃夢の中なのに、随分とお優しいじゃないですか」
「非常に有意義だったからな」
「妬けちゃうなあ」
「面白い話はいつまで聞いても飽きない」
なら、いつもすぐ下がらせる報告程度の話は、さぞかしつまらないのだろう。
唇を尖らせながら下がろうとするが、やはり今夜は何かがおかしい。
「おぬしも聞きたいだろう?」
何故なら、悦に浸った様子の主人が、真っ直ぐに此方を見つめていたからだ。
こんな時間に、そんな状態で、こんな美人に出ていくのを引き止められて断る健全な男がいようか、否いまい。
静かな二人だけの夜。
この時はまだ、知る由もない。
目の前にいる麗しのお妃様が、まさか腐敗した小国からの脱出だけでは飽き足らず、国家転覆まで企んでいようとは。
「おぬしも聞いていて損はないだろう」
「では僕も、とっておきの面白い話をして差し上げますね」
「期待はせずにおこう」
「存分にしてくださって結構ですよ」
これは、誰も知らぬ御伽噺。
やられたら気の済むまでやり返す破天荒者――後に『落花妃』と呼ばれる女の、亡国物語である。
#優しさ/和風ファンタジー/気まぐれ更新
『優しさ始めました』
いつも行く食堂に、そう書かれたノボリが置かれていた。
「はあ、やっと始めたのか……」
どれだけこの日を待ちわびたことか……
冬は人肌が恋しくなる寒い季節。
だが人肌が無くても人は生きていける。
同じように人は優しさが無くても生きていける。
だからといって優しさが無くてもいいわけではない。
そう言った理念のもと、この店は毎年冬の初めに『優しさ』を始めるのだ。
今年の冬は、暖かい日が続き冬がなかなか来なかった。
出すタイミングを逃して、そのまま忘れていたのだろう。
あのとぼけた店主の事だ。
そうに違いない。
俺は扉を開けて店に入る。
「店主さん、張り紙見たよ。やっと優しさ始めたんだって?」
「ははは、すいません。
どうにも優しさがなかなか入荷しなくって……」
「忘れていただけだしょ?」
「はは、バレましたか」
店主は笑いながら、俺を先導して空いている席に案内する。
この店は小さいので、週末以外は店長一人で切り盛りしている。
案内された席に着くと、そこには腰痛軽減クッションが置かれていた。
昨日は置かれてなかったので、わざわざ用意してくれたのだろう。
腰痛に悩まされる俺のために置かれているクッション。
先日、腰痛が辛いと言ったことを覚えていていてくれたらしい。
このさりげない優しさが憎い。
「外は寒かったでしょう。ご注文の前にこちらを」
そう言って差し出されたのは、ホットミルク。
受け取って飲めば、体の芯から暖まっていく。
優しさが体の隅々までいきわたる。
「ご注文が決まってますか?」
店長は頃合いを見計らって注文を聞いてくる。
「今日は中華定食で」
「かしこまりました」
そう言って店長は店の奥に入っていく。
料理を作るために、厨房へいったのだ。
料理が来るまで時間があるので、店の中を見渡す。
すると暖炉に火が入っているのが見えた。
昨日来たときは点いてなかったので、今日からなのだろう。
冬の間、ずっと点ければいいのにと思うのだが、なかなか掃除が面倒らしい。
この暖炉は、店で『優しさ』をやっている間だけの期間限定のものなのだ。
暖炉から何か優しさ的なものが出ている気がする。
掃除が面倒でも、『優しさ』をやる間だけは点けるというのは納得である。
どれだけ見入っていたのだろうか、店主が店の奥から出てきた。
「お待たせしました」
目の前に料理が並べられていく。
「今、『優しさ』が期間限定で100%増量しています」
「見た目変わんないけど」
「大丈夫ですよ。きちんと入ってますから」
「本当?違ったらSNSで炎上させるから」
もちろん本気じゃない。
優しさなんて入っていなかったところで、分かる人間なんていない。
店長もそれを分かっているので、一緒に笑う。
「こちらサービスになります」
そう言って、店長はあるものを置く。
中華定食のデザート、俺の大好物の杏仁豆腐だ。
これ自体は、いつもサービスで付く。
だけど今回は――
「こちらも、優しさ増量中となっております」
目の前に出されたのは、いつもより大きめの茶碗に入った杏仁豆腐。
だがこれはこの期間だけのスペシャル杏仁豆腐なのだ。
これがとんでもなくうまい。
それもそのはず、店主が食材からこだわった、スペシャルな杏仁豆腐。
店主のお客様のためという『優しさ』が暴走した結果の杏仁豆腐なのだ。
「ありがとうございます」
俺は心の底からの感謝を述べる。
これを毎年楽しみにしているのだ。
デザートを早く味わうため、定食を手早く食べる。
優しさどころか、味もまともに分からない。
定食を食べ終えて、一度深呼吸する。
スペシャルな杏仁豆腐なのだ。
慌ててはいけない。
しっかり精神を落ち着かせてから、ゆっくりと杏仁豆腐を口に運ぶ。
「やっぱり、優しさが入っていると違うな」
杏仁豆腐は優しさに溢れた味がした。
否定もせず肯定もせずただひたすらに
その人を受け入れてみる。
するとその先にまた新たな関係が見えてくる
優しさなんてない。
優しいようないかにも善人が考えるようなことを思っても醜くて最悪な思いで塗り潰される。
心が黒くなっていくようだ。
なんでこんなに優しくないんだろう。
なんでこんなに優しくなれないんだろう。
「優しいね。」
そう言われるたびにそんな人間じゃない自分はもっと最低だと思い自己嫌悪に陥る。
表に最悪な面を出している人よりもよっぽど裏で最低なことを思っている人のほうが最低。
優しくなれない。
なりたい。
優しさってなんだろうね……
嫌がる子を無理やり連れて行くのは
優しさなのかな……
行きたくないって言ってる子を連れて行って
結局しんどい想いをして帰宅して
あの時なら
「それは……優しさじゃない」
って思っていたけど今思うと
あの時に無理矢理にでも
連れて行ってもらって良かったのかなって
思う。
連れて行ってもらったから
話を聞いてくれたから
今の僕がいるのかな……
今は優しさじゃないって思っている
時間かもしれないけど
いつかきっと
それは最後に気付く
優しさになるかもしれない
優しさ
あなたが優しい人だと知っていた。
人の気持ちに敏感で、困っている人には自然に手を差し伸べる。
だけどあなたが、自分の優しさを自覚した時、
その優しさからは、
少しだけプラスチックの匂いがするようになった。
どうか気づかないで。
もし気づいたなら、あなたは、
とても傷ついてしまうと思うから。
#158
きみの優しさに触れた時、心があったかくなった。
その優しさに触れたいと、いつの日からか恋してた。
恋をしてたはずなのに、それはだんだん執着心へと変化していったのは、どうして?
真っ暗な画面を起動して、今日もおまえに会いに行く。
強力プレイや、武器の強化がリアルで機械オタクの人気を集めているMMORPG。
そこで俺はおまえと出会った。
録でもない家庭で、録でもない親父に殴られては、
気が触れたお袋の慰みものになる。
機械いじりが好きだったから車の整備工場で働きはじめた。
底辺の俺でも働かせてもらえる、個人経営の小さな町工場。
キツい仕事で、客もクソ。
機械を弄ってる時と、家に帰って親父が鼾をたてた時に始めるゲーム。それが俺の癒しだった。
「今日も仕事キツくてさー」
「給料前だからイベントキツいわ」
「次のクエストどうする?」
どんな愚痴でも楽しそうに聞いてくれるお前に惹かれるのは当然だった。
直接会ってみたい。
このクソな世界でも、お前となら楽しくやれる気がする。
ハイランクプレーヤーなお前が、俺とばかり組んでくれるのも、俺に気があるからかもしれない。
お前は誰にでも優しいが、俺には特別優しい。
でもそれは
優しさとは
限らない
そう知った時には全てが遅かった。