『優しくしないで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
優しくしないで
ボクは、別にお前なんか、
好きでも何でもないし。
ホント、マジでウザいんだけど。
だって。
ボクが仕事に飽きて、サボろうとすると、
目敏く見つけて、説教するし。
ボクが、ちょっと掃除の手抜きをしただけで、
やり直せ、と文句を言うし。
ボクが、つまみ食いしただけで、
めちゃくちゃ、怒るし。
どうせ、真面目なお前は、
こんなボクの事が嫌いなんだろ?
だけど。
ボクが具合悪くして、寝込めば、
こっそり、看病してくれるし、
ボクが仕事でミスれば、
こっそり、フォローしてくれる。
何だよ。お前。
ボクの事が嫌いなら、
優しくしないで。
そんなふうに優しくされたら、
ボクはお前の事を、
本気で、嫌いになれないじゃないか。
頼むから。
お前の事を、嫌いにさせて。
そうじゃないと。
ボクは何時迄も、お前のコトを、
諦められないから。
「誕生日おめでとう!」
ってLINEして
「ありがとう」
って返信あるだけでも嬉しいのに
「今度久しぶりにご飯でも行こう」
なんて書いてあったから、もう嬉しくってその場で踊りだしちゃいそうになる。
でも知ってる。
君の言葉は9割が社交辞令だって。
だから真に受けたら悲しくなるんだ。
「いいね!ずっと会ってないからいろいろ話したいな」
ほら、既読すらつかない。あ、既読になった。
しばらく経って、忘れたころに、スタンプひとつ。
会話終了のお知らせ。
だったら優しくしないでよ。期待させないでよ。
君の一言に一喜一憂させられる、ちょろい私なんですから。
『私の気持ち知ってるでしょ?なら優しくしないでよ』
今にも泣き出しそうな顔で君がいう。
知って、、か、
そうだな、
確かに 気づいてた。
僕のこと、少なくとも好いてくれてる
友達、、以上に。
でも、自信がなかった。
僕には恋愛経験が少ない。
す、好きだという気持ちだけだった。
「き、君は、もっと、素敵な男に、僕じゃない方が、」
情けないのはわかってる。
わかってるけど、、、、
『私の気持ちはどうでも良いの?』
『私はあなたが好きなのよ
好きなの。わかってよ、、』
君が僕の手をそっと握る。それだけで手に汗が、、
『そっか、、私のこと別に好きじゃないのか。私が勘違いしてるだけか。そうだよね、あなたは誰にでも優しいし、
「ち、違うっ、!、」
自分でもちょっと驚くくらいの声が出た。
でも、、
「僕は、ぼくは君が好きだょ、、」
「そ、それだけは本当だ。自信がない、だけなんだ」
握られてた手に力が入ったから君の方を見たら
目が合った。
ほんと?と君が優しく笑ってるから
僕は目が離せなくて、
自然と近づいて触れるだけの優しいキスをした。
『あなたがいいの。その優しさが私だけのものならなおさら。』
「き、君だけだよ、、」
にっこり笑う君を見て顔が熱くなった。
そしてすっかり汗ばんだ僕の手をずっと離さずに握る君の手を今度は僕が強く、でも優しく握り返した。
お題:優しくしないで
4月はあっという間に過ぎ、今はゴールデンウィーク。
特に予定はなく、何もしない自堕落な生活。
とても良い休日だが、本当に何もせずこのまま休日までもが過ぎて良いのか‥。
もうすぐ夏。
そうだ、服を買いに行こう。
勤続年数だけは無駄に長い私。
なぜか4月の給与が上がっていた。
お金は心に余裕を生む。
通帳残高に浮かれ、連休のセールに浮かれ、
気がつけばこんなに着るの?と言われそうな程たくさん洋服を買っていた。
量より質だというが、大は小を兼ねるとも言う。
私はああ言えばこう言う性質だ。
とにかく、細かいことは置いておく−−−−
浮足立って帰宅し、戦利品でファッションショーを開催!夏といえばジーパン!
しかし、ズボンは足が短いのでジーパン生地のスカートを購入した。
スケスケふわふわな肩を少し出した、セクシーでガーリーなトップス。
スケスケなのをシースルーというらしい。
うん、夏っぽい!
可愛い服を着りゃ可愛くなるだろうという安易な思考で購入した1着だ。
可愛いオシャレ女の子の完成だ!
そのはずだった。
腕が肩袖のゴムで締めつけられ、今にもうっ血しそうになっている。
スカートも履いたはいいが、お腹が千切れそうな程に圧迫されている。
ウィンナーの先端のねじれ切れてる部分のような気持ちだ。スカートに殺される!
「どんな感じ〜?」
突如私の背後から現れたファッションショーの観客の声に心臓の音が跳ねる。
私の顔が青ざめているのはお腹のせいか、夫にこの身体を見られるからか。
時も夫も歩みを止めない。一刻一刻、一歩ずつ私に近づいてくる。逃げられない!
「おお〜〜可愛いお腹だね」
邪悪さなんて欠片も感じない笑顔で、私のお腹をぽんぽんと撫でるように叩く。
そうだ、ダイエットをしよう……。
私の目の前には、たくさんの服が並んでいる。
フリフリのたくさんついた、ドレスと見間違うかのようなカラフルな服の数々。
これは全て、私のために用意されたもの。
こんなに服を持っているなんて、まるでお金持ちのよう。
でも残念なことに、この服は私の物じゃないし、私もお金持ちでもない。
この服は親友の沙都子のもので、お金持ちなのも沙都子なのだ。
ではなぜこれらの服は、私のために用意されたのか?
「百合子、こっちの服を着てみて」
「分かった」
沙都子が、私に服を着せるためである。
沙都子はお金持ちの令嬢なんだけど、なんでも服のデザイナーになりたいらしい。
働かなくても生きていけるのに、働きたいなんて変わっている。
とはいえだ、いつも世話になっている親友の夢、ぜひとも叶って欲しい。
だから私は沙都子のために、服のモデルを買って出たのだ。
決して、沙都子の私物を壊したお詫びとかじゃない。
決して!
「じゃあ、こっちも」
「了解!」
「……」
まさに夢に向かって一直線といった沙都子だったが、その顔は暗い。
何かあったのだろうか?
「どうしたの、沙都子? 調子悪いの?」
「……あのさ、これ言っていいのか分からないんだけど」
「珍しいね、沙都子が言い澱むの」
「さすがの百合子も落ち込むと思うから……」
「そんなに!?」
聞くのが怖い。
でも聞かないと今晩眠れなくなってしまう。
深呼吸して覚悟を決め、沙都子に向き直る。
「大丈夫!心配しないで言って」
「それなら」
沙都子は気まずそうに、私を見る。
「百合子、太った?
前に測ったサイズで作った服が入らないわ」
「失礼な!成長期だよ!……多分」
沙都子の言う通り、ちょっとしょげる。
確かに最近食べてばかりだけど、太るわけないじゃん。
……体重計が怖いなあ。
「はあ、今日は駄目ね。全部作り直し」
「ゴメンね私の発育がいいばかりに」
「そうね」
おや、冗談のつもりだったのに、ツッコミが返ってこない。
どうしたことか?
本当に元気がないようだ。
やっぱり、沙都子のお気入りのマグカップ割ったのがいけなかったんだろうか
沙都子の誕生日に百均で買ったカップだったけど、大事にしてたからなあ。
……待てよ、割とぞんざいに扱っていたような気もする。
割る前からヒビ入ってたし、やっぱり違う理由だな
聞くか。
「ねえ、沙都子。 なにか悩みあるの?」
「ええ、デザインのことでね」
「相談に乗るよ」
「でも百合子はデザイン分からないでしょ」
「そうだけどさ、素人ゆえの着眼点もあるかもだよ」
私の言葉に、『ふむ』と言って考え込む沙都子。
「そうね。地味だな、と思って」
「地味とはなんじゃい」
「違うわよ。服の方が地味だなと思って」
「……ああ、そういうことね」
でもすでに派手だとは思うけどね。
フリフリたくさんついてるし。
でもきっとそういう話じゃないんだろう。
沙都子は不安なんだ。
だから、服にフリフリを過剰につける。
今までの作った服に違いを持たせたくて……
多分沙都子はスランプなんだ。
でもそれならば話は早い。
「じゃあさ、いつもと違う服を作ってみたらどう?」
「というと?」
「沙都子は可愛い系ばっかり作るから、カッコいい系を作ろうよ」
「それ、あなたが着たくないだけでしょ」
やっぱりバレたか。
沙都子はたまにカッコいい系も作るけど、圧倒的に可愛い系の服を作るんだよね
「まあ、正直に言えばね。
けど、いつもと違うものを作れば、違う視点が得られる――
らしいよ」
「『らしい』ね」
沙都子は呆れたように、ため息をつく。
「私、何か変なこと言った?」
「いいえ、百合子にしては有益な情報だわ。
可愛い系は好きだけど、たしかに拘り過ぎてたかも」
「うん、じゃあカッコいい系を――」
「セクシー系を作るわね」
「ズコー」
思わずずっこける。
「あら、あなたそんなリアクションも出来たのね」
おかしそうに笑う沙都子。
私も人生でそんなリアクション取るとは、夢にも思わなかったよ。
不本意だけど、元気出てよかったことにしよう。
「助かったわ、百合子。 いいものが出来そう」
「え?」
そう言うや否や、沙都子ははさみを取り出し、服を切り刻み始める。
足元には切った服の布で、カラフルな模様が出来ていた。
「待って待って、捨てるくらいならちょうだい。パジャマにするからさ」
「捨てないわよ。というか、コレ外出用の服よ」
「さすがにそれを着て外に出る度胸は無い」
フリフリつけるなって言ってるのに、どんどん増えるんだもんなあ。
「まあ、いいわ。今切ったのはね、捨てるためじゃなくて、スリットを入れるためよ」
沙都子は、持っていた服を私に見せつける。
その服は、胸元がぱっくりと開いていた。
「沙都子、セクシー系って、雰囲気セクシーじゃなくて、エロ方面でのセクシー?
これ『童貞を殺す服』ってやつでしょ、私は知っているんだ。」
「変な造語を作らない。まあ言いたいことは分かるわ」
造語じゃないんだけど……
私が文句を言う間にも、沙都子は他の服にもスリットを入れていく。
「ちょっと、セクシー系は私には早すぎると思うんですよね」
「大丈夫よ、こうしてスリットを入れたおかげで、服に余裕が出来たわ」
「さすがに切り込み入れ過ぎでは」
大胆に入れられた切込みで、動くのは楽であろう。
けど普通に下着が見える。
これは別の意味で外を歩けない。
おまわりさんの目線を集めてしまう。
「仕方がないわ、初めてだもの。
でもここまで違うものを作れば、たしかに何か見えてきそうだわ。
さあ、百合子、着るのよ」
こうして私の出過ぎた助言のせいで、私が着せられる服にセクシー系が加わることになった
着たくはないのに、沙都子に借りが多すぎるせいで断れない。
セクシー系の服は、童貞を殺す前に、私を(羞恥心で)殺してみせるのだった。
私に優しくしないで
すべてのことを察して
許そうとしないで
何も知らないフリをして
無知を暴いて
堂々と生き続けて
嫉妬させて
どこに行こうと付き纏って
苦しむのを見守ってて
「どうしたの?大丈夫?何かあった?話聞くよ?」
やめて。私、あなたから離れたいのに。
『どうしたの?』なんて、たった5文字さえ、私を苦しめる。優しくされると余計に辛い。
ここではっきり言わないと、後悔する。
私、見たよ。あなたが別な女の人と遊んでるの。その人は美人で、背が高くて、スタイルが良くて。
何1つ、あの人に勝てない。
中途半端な付き合いなら、もう終わらせた方が、私もあなたも幸せになれる。終わらせて、あの人と本格的に付き合って。
中途半端な感情は要らない。
どうせ、いつかは終わるってわかってたことじゃない。
未練なくこの関係を終わらせたいから。
優しくしないで。
「……触れるな。」
彼奴は僕の手を振り払ってそう言い払った。
裏路地でいかにも弱い者を虐めているようにしか見えず、つい首を突っ込んでしまった。しかもそれが知り合いだったのたから驚きが隠せず狼狽えた。
「…はぁ?お前がやってること分かってんの?」
「…」
「……だんまりか。」
「……」
これ以上問答をしても意味が無い。僕は通りに足を向けた。
パシッ!!
「なっ……?!」
急に体が傾いたと思ったら暖かい抱擁に包まれた。
「俺に…優しくしないで…」
その時見た彼奴の睫毛は震えていて、僕は胸が苦しかった。
優しくしないで
私はあなたのことが好きだ
あなたはいつも優しくしてくれる
目が合うといつも声を掛けてくれる
時間が合えば帰り道も一緒に歩いてくれる
コンビニで道草するのも付き合ってくれる
そんなあなたのことが好きだ
でもあなたは時折寂しそうな顔を浮かべている
必死に携帯で何かを打ち込んでいる
何でなのか、何をしているのか、私には分からない
それが私宛のメールだったら嬉しいのになと思う
私に尻尾が付いていればぶんぶん振っていただろう
実際にはそんなメールは届かない
今日こそあなたに想いを告げようとした
波に乗れた今日を逃したら二度と言えない気がした
だけどあなたのことが好きだから
あなたの気持ちに気付いてしまった
あなたは私を見ていない
あなたは私の向こうのどこか遠くを見ている
辛かった、悲しかった、苦しかった
―――お願い、私に優しくしないで
声には出せず涙が溢れ出た
あなたはそんな私を見て戸惑っていたね
そこからはお互いに無言でうちまで付き添ってくれた
私はあなたのことを想いながらその日は枕を濡らした
茨のようなあなたが、気まぐれに棘を切って触れるから。
あたしは悪くない。
お題:優しくしないで
丸まった背中を宥めるようにそっと撫でた。
撫でられた相手は無言のまま、石のようにじっとしている。自分と同じ大きな男がそうしているのはとても滑稽で、だからこそ哀しく見えた。
「彼等にそれを求めるのは酷だと分かっているだろうに」
そうせずにはいられないのだろう。
「·····分かってる」
答える声は酷く陰鬱で。
「彼等は罰などくれやしない。お前に出来るのは彼等の優しさを受け入れ、彼等の望む在り方を示して共に歩くだけだよ。それこそが与えられた〝罰〟だ」
「·····っふ」
男の背中が小さく揺れた。笑っている。
私がそれを伝えることの愚かしさを、この男も分かっているのだろう。
優しさが辛いなら逃げればいい。
誰もが思うそれが、この男には出来ない。
いっそ指を突き付けて、お前のせいだと断罪してくれればいい――。そう願って、それが叶わぬと知って、追い詰められた男は狂気に堕ちた。
狂い果てた末の結末を、その姿を知ってしまった男はもう二度と、逃げることも狂うことも出来ない。
〝私〟はそれを、よく分かっている·····。
「お前にはそれが何より苦しいのだろうけれど」
「苦しいのは〝お前〟も同じだろう」
男が呟く。
――そうだ。
私がこうして言葉を交わし、苦悩を吐き出せるのはこの男だけ。そうしてしまったのは他でもない〝私自身〟だ。
私とお前。
正気と狂気に分かたれた私達が願うのは、決して口にしてはいけない望み。
――どうか、優しくしないで。
この正しく美しい地獄で、いつ終わるとも知れぬ優しい罰を、私達は受け続けている。
END
「優しくしないで」
【17日目】優しくしないで
わかっている
今は幸せの頂点というのを
世界に向かってしまったあなたは
もう私だけのあなたじゃない
もう少し あと少し
このままでいたいけど
その微笑みが素敵だから
「愛してる」って言う声が素敵だから
あなたが叶える夢のそばに
私はいてはいけないの
泣きそう…
今さら優しくなんてしないで。
恨みから始まったあなたへの感情は、
最期のときまで恨んで終わらせたい。
僕に触れる手も、吐息も、声も、
温かなぬくもりなど一切感じさせず、
ただ虚ろに身体を暴いていればいい。
もしもあなたへの恨みを無くしてしまえば、
あの日の豪火が僕のすべてを焼き尽くす。
もしもあなたの罪を赦してしまえば、
あの日の悲鳴が非難に変わる。
そして…もしもあなたを愛してしまえば、
僕は自分で自分の翅をもぎ取ってしまうだろう。
僕とあなたの間に《そんなもの》はいらない。
【優しくしないで/Ēlusion】
微笑みは優しさで出来た機関銃 無意識の君 下を向く僕
題目「優しくしないで」
【わかってるつもり】
あなたの言葉を理解しているはずだった。
いや、しているつもりだった。
「優月ちゃん、もう優しくしんでいいよ?」
「というか、もうしないで、ただただ私の心が苦しく絞め上げられるだけなの。」
そう、すぐにでも消えてしまいそうな儚い顔をしたあなたを見るまでは。
その次の日から私の隣をいつも歩いていた彼女・琴葉は隣を歩くことをやめた。
学校は同じであっても、学年も同じであってもお互いが出会うことすらなくなった。
「あ、ゆっちことちゃんは?」
「あー、最近会ってないなぁ。芽依知らん?」
「いや、うちも知らんよ、ってかあんたの話でしか聞いたことないから面識ないって!」
「めーちゃん、ことちゃんって?」
「あー瑠羽知らないのか、ことちゃんは琴葉ちゃんていってゆっちのかn「芽依。」バディだよ。ほら、幼馴染同士で演劇部の部長副部長してるって話聞かんかった?引退前まではここの王子様とお姫様コンビとか囁かれてるから知ってるだろうと思ってた。」
「あぁ、月代さんかぁ。あのホワホワした感じのよくおさげしてる子だよね。私委員会一緒だから昨日集まりで会ったよ?」
「え、そうなの?!だってよゆっち。」
「だってよって言われても………。るーありがとね。」
「? いえいえ〜、また何かあったら言ってね。」
教室で帰りの準備をしながらイツメン3人でそんな話をする。
あの日以来、帰宅途中によぎるのは琴葉に言われた
「優しくしないで」という言葉。
なんとなく理解できている気がしていた。
もう私を甘やかさなくていいんだよって彼女が言いたがっていたような気がしていた。
でもそうしたら不正解、という意味合いで何も連絡をよこさないだろう。
ふと思いついた、私的には最悪の回答を琴葉のメッセージに打ち込む。
半分忘れていた頃に返ってきた返信。
それには
〈正解。気づくの遅いよ。ずっと待ってたのに。〉
とだけあった。
私は決して優しいわけではない、それをいつまで隠していられるかと思っていたが、タイムリミットが来たようだ。
〈私は優しいから告白に応じたわけじゃないよ。琴葉を独り占めしたかったから応じたのに。〉
それだけをまたメッセージに残した。
ド腐れ偽善野郎
同級生にいたのだ。やたら口が悪いくせにすぐに体調を崩す野郎と言ったが女である。
その女はやたらと優しい事を言って人の懐に入り込んで仲良くなるが、話しているうちに本性が出てくるのだ。
今だに覚えているのだ。20年も前の話だが。
当時の同級生曰く彼女の事は実は嫌いだったという人は結構居たらしい。
優しくしなくていい。本性を出すのが早過ぎるのだ。
「ほら、なーにしてんの?」
そうやって、優しい声で私を呼ぶ。
「ごめん、明日は彼女とデート」
君には特別な人がいるのに。
大切な人、いるよ。
特別な人、いるよ。
君もいるでしょ、大切で特別な人。
だから、私に優しくしないで。
【優しくしないで】
その優しさが嘘なのも全て知ってる。だから優しくしないで。君からすると優しい嘘かもしれないけど私からすると凶器を突き立てられるよりも恐ろしく、怖い嘘だよ。
『優しくしないで』
高校の時、僕は実の祖父を殺してしまった。
ヤングケアラーである。
当然、人として許される事ではない。
だが、僕は何もかもを犠牲にして、祖父に尽くしてきた。
放課後に友だちと寄り道をして遊ぶこと。
修学旅行の夜、友だちと枕投げをすること。
休日に友だちと遊ぶ約束をすること。
文化祭の出し物をクラスメイトみんなで作ること。
何もかも全て。
なのに、僕はその苦労を全て水の泡にした。一瞬である。
「だって、しょうがないじゃないか…。おじいちゃんがあんなことを言うから…。」
祖父は僕に、「ごめんな」と、一言だけ言った。
いつもなら、「全然大丈夫だよ。」と言えるはずだった。
でも、その日だけは違ったんだ…。
色々な物が積み重なって、気づいたら殺してしまった。
裁判の日。
弁護人「ーーーというように、被告人には情状酌量の余地があることを裁判官に進言します!!」
裁判官「うむ…。では、 被告人に問う。祖父の事を愛していましたか?」
僕「はい…。おじいちゃんはいつも優しかった…。なのに、僕は…!」
裁判官「……。判決を下す!被告人を有罪とし、懲役10年の刑に処す!!」
僕「……。」
当然だ…。優しかったおじいちゃんを、一時の感情で殺してしまったのだから…。それより、もっと刑を重くしてくれ…。僕は最低な人間なんだから…。
裁判官「辛かったな…。一人で老人の介護をするというのは、とても大変だ…。被告人よ。貴方はまだ若い。ヤングケアラーによって、お祖父様を殺めてしまったが、貴方はまだやり直せる。」
僕「……。」
…無理だ。やり直すなんて…。
裁判官「10年は確かに長い。だが、罪を償い人生をやり直すやり方は沢山ある。貴方の10年後の年齢は、20代後半だ…。 やってしまったことの償いはできるが、時間を戻すことなど誰にも出来ん。仕事は、選ばなければいくらでもある。人間働いて、お金を稼げばどこへでも生きていける。」
僕の目からは、涙が止まらなかった。
裁判官「大丈夫だ…。10年間しっかり罪を償い、また…いちからやり直せばいい。」
僕「ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい………!」
拭っても拭っても、僕の目からは涙が溢れて止まらなかった。
10年はとても長い。だが、僕の罪を償うには全然足りない時間だ…。
僕は、あの裁判官の言葉を胸に、罪を背負ってしっかり前を向いて生きていく。
それが、僕がおじいちゃんにできる最大の償いだから…。
PS
この話はフィクションです。
どんな事情があろうとも、罪は罪です。10年という時は、少年の青春を奪いますが、人の命には変えられませんからね…。
ほんと、外国人の犯罪で、不起訴になる日本とかどうかしてると思いますね。
【お題:優しくしないで】
俺には高校生の頃から付き合っている彼女がいる。
今どき珍しい一度も染めていない艶やかな黒髪が似合う、背の高い美人で、流行りのアイドルみたいに折れそうな細い体型ではなく、どこを触っても、もちもちとしていて、そういうことをすると眉を八の字にしてはにかむ顔が可愛い、俺にはもったいないくらいの人だ。
将来、彼女を幸せにするためだと思えば、修論もバイトも何だって頑張れる。
「どうしたの?」
ワークチェアに座って体をゆらゆらさせながら、彼女が俺に声をかける。
どうやらぼーっとスマホを見すぎて、彼女をほったらかしにしたようだ。
「ああ、ごめん。親からLINEきてて」
「そういえば、夜予定があるって言ってたよね。時間大丈夫?」
「あ、やべ」
ベッドから立ち上がり、ゴミみたいなスペックのくせに重いPCと、大学の図書室から借りた分厚いだけのつまらない本をリュックサックに詰める。
「道分かる?送っていこうか?」
「いや、何回か来てるし…」
彼女の住むマンションに遊びに行くのはこれで三度目だ。
就活を避けてなんとなく大学院に進学した俺とは違い、彼女は大学を卒業した後、IT系企業に就職した。
その給料をこつこつ貯金し引越し費用にあてて、最近一人暮らし始めたと聞いて、真っ先に引越し祝いをプレゼントしに行ったのが一度目。
俺と同じ、好きだと言っていたゆるキャラの抱き枕を脇に抱えて行ったら、丸い目をさらに丸くさせて驚いていた。
あの顔は傑作だった。
その時に冷蔵庫の中身を見ると、自炊をしている様だった。
作り置きのおかずが数種類ストックされているのに、
調味料が3〜4種類しかないのがちぐはぐでおかしくて、調味料のギフトセットをプレゼントしたのが二度目。
「毎回プレゼントをくれるんだね」
「ありがとう、優しいね」
と、あの眉を八の字にしてはにかんだ顔で言われた俺は照れて、
「幸せにしてやりたくて」
と、柄でもない事を口走ったのは記憶に新しい。
三度目の今日は、修論の進捗に悩んでいる俺を見かねて「どこか遊びに行く?息抜きも大事だよ」と時間を作ってくれた。
結局、本当に修論の進捗がよろしくなくて、外出はせず今までアドバイスを貰いながら修論を書く羽目になったが、
彼女も仕事で疲れているだろうし、折角の休日に無理をして遠出をさせるのも申し訳ないし、「将来副業したくて勉強する時間もほしかったんだよね」と言っていたのでまあ結果オーライだろう。
「流石に迷ったりしないよ。誰かさんと違って」
そうからかった別れ際の、彼女のムッとした表情も可愛かった。
彼女と会う、四度目が来ないとは思っていなかった。
『別れてほしい』
と、彼女からLINEが送られてきたのはその一週間後。
修論の進捗報告のためにゼミ室に居る時で、突然のことだった。
その間にけんかや気まずい思いをしたやり取りもなく、彼女に何かあったのかと思い、ゼミ室を飛び出しすぐに電話をかけた。
なかなか繋がらなかったが、五度目の電話でようやく繋がった。
「別れてほしいって、どういうこと?何かあった?」
「…特に何も。そのまま、別れてほしいの」
「何もないってことはないだろ、何があった?」
彼女に問いただしても、歯切れが悪かったり沈黙が続いてイライラした。
「急に別れてほしい、だけ言われて納得できるわけないだろ」
研究棟の休憩スペースは静かで、何人かがこちらを振り向いた。
スマホのスピーカー越しに彼女のため息と、続いて大きく息を吸う音が聞こえた。
「急にじゃない」
「は?」
「ずっと別れたかった、あなたが優しくないから」
訳が分からない。
「優しくないって、どうして?常に君の事を第一に考えているし、毎回デートの時にプレゼントあげてるし、仕事で疲れてるの分かってるからおうちデートにしてるし将来結婚した時のためにバイトして金貯めてるのに?俺が、優しくないって!」
休憩スペースには、いつの間にか誰も居なかった。
動悸が激しく、血が流れる音が煩い。
長く短い沈黙の後、彼女がぽつぽつと呟くように言った。
「…何も頼んでないよ、私は」
「どれもやってほしいなんて、言ってない」
「私の将来と、あなたの将来は同じものじゃない」
「あなたのそれは、ただの好意の押しつけ」
「それを、優しさって言うなら、もう、」
やっと、彼女が泣いている事に気がついた。
「優しくしないで」
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蛇足
友人に誘われて、初めて投稿した作品です。
登場人物の容姿以外はほぼノンフィクションと伝えたら、
結構ガチで心配されました。
ユーモアって難しいですね。
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