『今日の心模様』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
今日の心模様は曇り時々雨、または雷雨。
ゴールデンウィーク最終日というのに、荒れてあまりいろんなことに手がつかなかった。
でも、そんな休日もありなんじゃない?
おかげさまで平日晴れるかも。
大事なのは、大災害が起きないことですよー。
アネモネは風の花。
風が花を咲かせたかとおもえば、次の風が花を散らしていく。誰かがそんなことを言っていた。
もう5月だし、今日は病室もじんわりと暑い。
アネモネは、とっくに連れ去られていってしまったんだろうな。春色に染めあがった蝶々みたいで、きっと綺麗なんだろう。
#今日の心模様
今日の心模様
今日は生憎の雨だった
でも、心は満点の晴れ模様
それは僕が幸せだから
幸せだと明るく見える
僕は前を向いて歩く
今降っている雨を見るんじゃなくて
その先にある 輝く虹を見る
今日も心は晴れ模様
明日も明後日も晴れの予報だ
外はいいお天気なのに、頭には重たい低気圧がとぐろを巻いてのし掛かっているよう。
鎮静剤のせいかもしれない。出血が止まるまで、しばらくは十分に動けない。飲むことも食べることもできない。
健康的な身体というのは、「無」から一番離れたところにあるのだとつくづく思う。
容姿を人と比べては落ち込み、可愛くないのは努力をしていないせいだからだと知らず知らずに自分や他人を追い込んで、snsの世界と現実の境目がぼやけていって、どんどん痩せたがる、同年代の人たち。
充分に可愛いのに、「整形をしたい」と涙するほど本気で悩む友だち。見た目だけがこの世界の、人生のすべてかのように煽動される時世の空気。
ああみんな、健康的な身体でかわいそうと思ってしまうこともある。
#今日の心模様
空からいちばん近いところにいる感じ。
でも海の底のようにも思える。
静かでいい。
#今日の心模様
今日の心模様は悪くない。暖かいと心が晴れやかになる。
やはり寒いと心が寒くなる。部屋の温度は重要ですな。でも暖房で部屋ごと暖められるほど金に余裕はない。健全な心に一番必要なのは金と言うことだ。世知辛いね。
今日はグリーンピースを買うためにスーパーに行ったがふとバナナに目が止まった。食べ過ぎを防ぐための小腹満たしにバナナはありなのではと思った。
バナナはバナナマフィンやバナナジュースはかなり好きなのだがバナナはあまり好きじゃなかった。理由はわからないけどなんとなく敬遠していたフルーツだ。
しかし考えてみるとバナナは非常に優秀なフルーツだと思った。まず安い。りんごは一個100円以上するがバナナは一本50円、ちょっと高めのやつでも100円程度でかなりコスパがいい。
次にはずれを引くことがほとんどない。りんごと違ってバナナは悪くなったら見た目で簡単にわかる。これは非常に大きなメリットだ。
というよりもりんごの見極めが難しすぎるだけかもしれない。それはさておきそういうわけで試しにグリーンピースと一緒にバナナを買った。
早速朝食の前に食べてみると実に美味い。久しぶりに食べたがバナナってこんなに美味しかったのかとびっくりした。
ねっとりとした食感に濃い甘さが食欲を満たす。これなら食べ過ぎを防ぐことができそうだ。
フルーツはみずみずしいものが好きだからりんごを買っていたがこんなに美味しいなら明日からもバナナを買うとしよう。
今日買ったのはちょっと高いやつだったから明日は安いやつを買って食べ比べてみよう。明日が楽しみだ。
○月×日 てんき はれ
友だちににっきっての教えてもらった。
から、今日から書いていく。
ようし?ってのになってから、ここでの生活にもなれてきた。
今日はすごくいいてんきで、おひさまもぽっかぽか、畑の米も、元気いっぱいによろこんで、芽を伸ばしてた。
明日もこんななら、いいな
○月×日 てんき はれ
今日も晴れた、こういう日は外で遊べるから好きだ。裏山でかけっこした。
とちゅうでウリぼうにあった。近くにイノシシがいるかもしれないから、あぶないって、お父さんが言ってたから、山をおりた。
わたし、とってもえらい。
○月×日 てんき はれ
最近友だちとあそべてない、みんなたがやすのにいそがしいみたい、水も引かないといけないから、しょうがない
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○月×日 てんき くもり
ずっと雨がふってない。
今日やっとくもった。
でも、お父さんもお母さんも不安そうに私を見てた。このまま雨がふらなかったら、イネもぜんぶしおれちゃうかも、大丈夫かな。
○月×日 てんき あめ
すごく痛い、お腹がいたい
よく覚えてないけど、昨日の夜、
だれかきたの、たぶん、ゴツゴツしてたから
入りこんできて
雨、ふってよかった。これで元気になるかな
○月×日 てんき あめ
ずっと雨、なんかモヤモヤしている。
どこも湿って、米も野菜も元気だけど、
お礼された、みこさまだっけ
わたしはそうみたい
○月×日 天気 曇り
晴れないでずっと曇りのまま、
お義父さんもお母さんも優しい。
好きなものを作ってくれるし、友達とも遊ばせてくれる。隠してるようだけど、何だか焦ってるみたい、この間なんか、社と村長の家を行ったり来たりしてた。何かあるのかもしれない。時間は有り余ってる。
○月×日 天気 全部消えろ
嘘つき
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「空から槍が降るなんて、例え話だろ、そんなこと本当にあったのか?」
震えながら、足軽は答える。
「ここから、三千里あったところ、俺はみたよ。降った雨が槍みてぇに鋭くて、それはそれは世にも恐ろしい阿鼻叫喚だった」
『心の天気模様』
ー君へー
努力している姿
涙を流しながらもがいた日々
夢に向けて一歩ずつ歩いている時間
そんな日々があったから今の君がいるんだ
とってもかっこよくて
勇ましくて、輝いている
僕が君を心から応援できるのは、
君が今まで頑張ってきたからだよ
これからも応援するよ
君の夢が叶いますように
【今日の心模様】
嬉しい、楽しい、ちょっぴり寂しい、心細い、不安。
よく分からない、お腹すいた、眠たい、家に帰りたい。
暑い、ほんの少し肌寒い、うっとうしい、興味ない。
複雑な気持ちが混ざり合って、今日も私の心は踊る。
何事も捗らぬ日は存在する。綴ろうと持った万年筆の先が乾くのではないか、と思うほどの時間を、西院曜介は御膳の前で座して過ごしている。外は生ぬるい曇天、原稿用紙に一割だけ埋まる重々しい筆致は深く突き抜ける青。
意識を置かねば閉じた唇から自動で吐き出されるであろう嘆息を飲むのは幾度目か。特段、急く必要はない。担当と打ち合わせ設定した締切は当分先、執筆に必要な資料やメモは傍らで開かれる時を待つようにも見える。
息抜きではないが、こぢんまりとした四畳半の窓辺から空を軽く見上げる藤色の存在を見とめる。鮮やかな着物を纏い膝を折って畳に座っている、ように見えて握り拳一つ分浮いてる存在は、風無しで靡かせる長い藤色の髪の向こうで薄い吐息を吐く。
視線に気付いたのか、それは振り向き微笑一つ。
「見てください、曜介さん」
何を、とは問わず沈黙で続きを促す。
「今日の空は曜介さんのようです」
「……そうか」
【今日の心模様/隠居気味作家と藤花の精】
『今日の心模様』
例えば、この時間だからこそ目に映る東雲色の空
例えば、こういう日だからこそ聞こえる風の音
例えば、この場所だからこそ香る海の香り
例えば、たまたま手に当たった葉の冷たさ
例えば、新しく発売されていた珈琲の味
たくさんの気分転換できるものに囲まれている。
さて今日は何をしようか
頭の中に街を飼っている。いつからそうなのかわからないが、気がついたらそこに在ったのだ。
私はその街をシーイングシティと名付けた。シーイングシティの住人たちは毎日忙しなく生活しており、現実と同様に事件も後を絶たなかった。
「うるさいなあ……!」
頭の中でどんどんと頭痛のように響く音に眠りを妨げられ、イライラしながら頭を振る。思考のスイッチを切り替えてシーイングシティをその名の通り覗き見ると、いつの間にか街一番の大通りから広場に渡ってお祭り騒ぎになっている。
昨夜はそんな様子はなかったはずだと眉を顰めながら、監視カメラの要領で街の様子を切り替えていく。こういった企画を立ち上げるのは、おおよそ領主だとあたりをつけて領主の屋敷を覗き見る。シーイングシティを覗き見るときばかりは、しばしば自分が神になったような気持ちになる。
「今日は大切な日なのになぜ曇っているんだ」
「いい日に当てたと言っていただろう!?」
「いや……そのはずなんですが」
ワインレッドを基調とした応接間で、領主が複数の住民に詰め寄られている。
男たちの剣幕に押され、領主は立派に出た腹を摩りながら困ったと眉を下げた。
「記念日だったんだろう。テンの」
「ええ、間違いなくテンにとっていい日のはずなんです」
机に広げられたカレンダーで領主が示した日付には見覚えがある。今日ではないか……? とつぜん、現実世界と時間がリンクしている可能性を示唆されて、目の前がチカチカと光った気がした。
「なら、なぜ祝いの日に曇り空なんだ」
「せっかくテンの祭りを計画したのによ。これじゃあ台無しじゃないか」
顎髭の男が苛立ちを隠そうともせずに腕を組んで指を叩く。
「毎年、この日はカラッとした晴れだったんだろう。なのになぜ急に」
「記録が間違ってたんじゃねえのか?」
「何を言うか! 十五年も続けてきた記録に嘘などあるものか!」
胡乱げな視線を一身に受けて、領主がキャンキャンと吠え立てる。その姿がでっかいポメラニアンのように見えるのは、彼の髪が白くてふわふわと広がっているからだろうか。
「テンに直接聞くことは叶わないが、テンはこの日を大切に思っているはずなのだ」
「確か……虹が出るのもこの頃だったか?」
「そうだそうだ! 去年は二重に架かっていた」
そう言われてみればと照らし合わせたようにして、あれこれと天気の話を始める彼らを見て、顔が熱を帯びていくのを感じた。
「少し晴れ間が出てきたか?」
「本当だ。テンにいいことが起こったか!?」
沸き立つ彼らとは裏腹に、穴に埋まりたい気持ちを抱えながら頭のスイッチを切り替えた。
「あー……うそでしょ、かんべんして」
枕に顔を埋めて唸る。彼らがテンと呼ぶのは、おそらく私のことだ。
──虹が架ったという一年前は、生まれてはじめてプロポーズを受けた日だった。こんなに幸せでいいのかと舞い上がったことを覚えている。
それなのに今日晴れやかでないのは、パートナーと喧嘩したからだ。日付を跨ぐ前に出てったきりの相手の姿が焼きついて離れない。
「なーに、まだ泣いてたの」
「泣いてない……」
「ほんとだ」
寝室にとつぜん現れたパートナーに思わず溢れかけた涙が引っ込む。いつ帰ってきたのだろうか。
情けなくすすった私の赤い鼻の笑って、他愛のない喧嘩を「ごめんね」と終わらせて「仲直りしてくれる?」と囁く。その包み込むような温もりにまた泣きそうになった。
「私こそごめん……」
「うん。じゃあ今から誕生日のやり直ししよう」
ケーキ買ってきたと手を引く相手に敵わないと思いながらも、私の心が晴れていくのを感じた。
「やっぱり今日は天のいい日だ! 祝うぞ!!」
また頭の中ががやがやとうるさくなったが、今度は不快な気持ちは微塵も感じられなかった。
今日のシーイングシティの天気は、曇りのち晴れ。
【今日の心模様】
日記 #1
努力していたことが、水の泡になるなんてことがあるだろうか?
水の泡ほどでは全然ないことだが、体重を減らす努力をしていたのに、今日体重がちょっと増えた…。
確かに、外食したりお酒飲んだりしたが、こんな増えるものか…?
あ、そうだ。昨日夜食したんだった。昨日ご飯2杯とゆで卵2個と、もずく一個を平らげていた。
罪悪感があり、お酒は飲まなかったけど、夜食はやはり太るな。
もう食べないようにしよう。
今日の心模様/2023.04.24
次に本日の心模様です。
本日は曇りときどき雨。
近年、測定と簡単な質問に答えるだけでその日の心模様を予報してくれるAIが普及している。
おかげで自分の精神状態を予測できる。
しかし今日はあんまりよくないのか。原因が思い当たらない。
テストは昨日だったし、天気は晴れてるし、はて。
「藍、あんた今日はゆっくりなのね」
「え?」
時計を見るけどまだ7時だ。だけどテレビは朝のドラマが始まろうとしている。
「その時計、昨日から遅れちゃっててねー」
「そういうことは早く言って!!」
なるほど雲行きが怪しくなってきた!泣かないぞ!
《今日の心模様》
月曜日=憂鬱
テスト一週間前=超憂鬱
今の心模様といえば…真っ黒のバッテンがふさわしいだろう
友達:ねぇ~この前やった小テスト何点だった?
私:あぁ~、50点満点のあのテスト?
友達:そうそう!私全然だめでさぁ~、36点だった!😂
私:おぉ~、かなりおわってるねぇ~
友達:ねぇ~!仲間でしょ?だよね??
私:勝手に一緒にしないでよ。49点ですぅ~
友達:えぇ!?嘘だぁ!
私:残念だけど、本当だから、……ま、小テストがよくても本番はあんたを超せないけどね
友達:ま、でも本番が全部じゃないけどね…
私:この前合計ぎりぎり350達しなかったんだよ?
友達:内の学校は難関校だから大丈夫だって。普通、塾は期末終わった後、
各校の問題用紙を持ってきて交換し、勉強するのがルールだけど。
内の学校の問題は難し過ぎるからって
持ってくるなって言われてる。
持ってきても難関校受ける人だけって。
それぐらい難しいんだよ。
私:そうなんだ…なんだかホッとしたような……
友達:自信持ちな?
私:ありがとう…やる気出てきたわ
友達:ま、この高校でテスト受け続けるなら今の点数から変わることはそうそうないと思うけどw
私:励まされたのか…煽られたのか…どっちなの………
友達:本当に私と肩ならべたいのなら、最低400点はとらないとね。
私:クッ…私よりも点数低い友達いるからいいもん!
友達:あ~あの自分大好きナルシスト女?
私:すごいあだ名ついちゃってる……
友達:あいつの合計点聞いたけど、237点だってね。
でも下なんて見ないで上見なよ?
私:わかってる………でも………勉強なんてしたくないぃ~
友達:今悪くていい。だからその代わり前向いて次は少しでもよくなろう?
『終わりよければすべてよし』
今悪くていいから
私:うん…頑張る…
友達と話してるだけで嫌いなテストも
少しはやる気になる
やっぱり友達は自分にとって大きな存在なんだなって
思うよね
今の心模様は、真っ黒な世界にちっさな光が見えた感じで。バッテンから斜線に変わった感じがする。
人に見られても良い日記というものは日記にあらず。密やかに秘されてこそなのだ。
それを教えてくれたのは目の前のこの人だというのに、まったく。
「ちょっとだけ見せてよ」
「だめだってば!」
ずずいっと卓上に寄せられた顔を片手でずずずいっと押し返す。もう一方の手で私はなんとか日記を覆い隠そうとしていた。
羽ペンが転がり落ちても日記よりは後回し。溢れたインク代の分だけ怒って指の間の瞳を強く睨むと、潰れた唇がモニャモニャと動いた。
「仕方ないなァ。だいたいね、見られたくないなら食堂で書くんじゃないよ」
痩身の美丈夫はそう言って身を揺り戻し、向かいに着席した。むすっと拗ねたように口をとがらせているが、瞼も下ろしているあたり本当に諦めたらしい。
その表情はただのポーズなことを知っている。もともと拗ねるようなひととなりではない。
だから一応、注意深く、その目がうっすら開いてないか確認しつつ急いで片付けた。
もっとも、最初からそうしてくれたら良かったのにと思わずにはいられなかったけれど。
「見ないフリしてくれると思ったんだもん」
「しーまーせーんー。見られるものなら見る」
「なんでよ。見られたら日記じゃないんでしょ」
その瞬間、パチリと視線がかち合った。
危なかった。まっさきに日記を閉じておいて良かった、と息が漏れる。
美丈夫は右に左にと視線をやり、それからもう一度、今度は少しだけ身を乗り出してきた。
「よく覚えてたね」
「まあ、そりゃあ」
あの言葉を聞いたのは十年前だったか。そうやって年を数えると著しく記憶力の良いように思えるが、実際は違う。
私にとっては、ついこの間まで世界とはすっごく狭い範囲を指していた。足を伸ばせば端から端まで、下から上まで知ることができる変わり映えのしない世界だった。
美丈夫はその隙間にたまに入り込んでいたうちの一人で、中でも一番面倒を見てくれていた。
母、と呼びたくなったこともある。
「たくさん大事なこと教えてくれたんだから。ソレもきっと大事なことなんでしょ」
だから覚えていたのだ。撫でてくれた感触も、抱きしめてくれた温もりも、言葉のひとつひとつをも。
「まあ、そりゃあ」
母のような人は、今度はゆっくり腰掛けて、見惚れるほど綺麗につり上がったまなじりを和らげた。
「でもソイツはネタ帳だろ? 日記じゃない」
「両方! 日々感じたことを書き留めて使ってるん、だ、から……」
口にしながらもピンときて、私は思わず日記もインク瓶もすべてを胸に抱き込んだ。
「どうしてネタ帳って知ってるの」
目の前には柔らかな慈愛をそのままに、頬杖をついて厭らしく笑っているひと。
開いた唇から真っ赤な舌が見え隠れして、その後に続く言葉は私の臓腑を内から撫でていくようだった。
「昨日の書き始めは、そう、今日の心模様は──」
「わァーーーー!!」
大袈裟な態度で立ち上がる。椅子も後ろに倒して、小さい食堂とはいえ部屋中にけたたましく響き渡らせた。
「なんで読んでるの! なんで読んでるの!」
「そこにあったからだねェ」
「なんで見なかったフリしてくれないのォ!」
「そこにあったからだねェ」
信じられない、日記と思わなかったし、と続く私たちの言い合いは、もう一人の同居人が顔を出してくるまで長引いた。彼に止めてもらわなければ、いまだ頬杖をついてくつくつと笑うあの人を顔を真っ赤にして揺さぶっていたかもしれない。
それでも天使めいているのだろうから、ああもう、世の中ってやつは。
金輪際、もう二度と〝見られたくないなら食堂で書かない〟、絶対に。
結局私は心の奥底に、美しくて温度があって、宝箱いっぱいのお宝のような、そんな言葉たちに一行付け足した。
そして最後に、
「でもさ、良い書き出しじゃないか。俺は気持ちが良くて好きだよ」
と天使のように笑っていたので、後ろからどうどうと羽交い締めにされながら、やっぱりそれも付け足したのだった。
怒り、悲しみ、喜び、楽しみ。
俗に言う喜怒哀楽というものを僕の弟は綺麗に表す。
怒っていれば眉間に皺を寄せて無口になるし、悲しければ目から宝石のように輝く涙を流す。喜べば口元を綻ばせるし、楽しければ花が咲いたように笑う。
弟に使うには可愛すぎる言葉が多いって?
仕方ないだろ。
そんな弟は最近、趣味だという日記を寝る前によく書いている。寝る前に自分の感情と出来事を記しておくことが精神を統一させるらしい。
僕にはよく分からないが、感情豊かな弟だからこそ楽しくなるんだろう。
何日か前にこっそり覗いた彼の部屋で、弟はベットの上に腰掛け日記を手に思案していた。何かを思いついたように顔を上げて、楽しそうに書き込む姿は日頃の疲れを癒す目の保養にはちょうど良かった。
「兄さん?」
今日も日記を書きに部屋に戻っただろうと油断していた所に、何故か弟は現れた。別に油断していたからどうだとかでは無いが、普通に心臓に悪い。
「どうした?」
「ココアの匂いがしたから。僕も飲みたい。」
振り返ると日記帳片手に弟が少し微笑んで立っている。わかったと新しくお湯を沸かしにキッチンの方へ移動した。
しばらくしてココアを持ちながら戻ると、何かを書こうとペンをもつ弟と目が合う。ココアを渡しながら日記帳に目を向けると、白紙のままだった。
「日記、今日は書くことが決まってないのか?」
「うん。今日は一日家にいたから。」
日記に前に書いたようなことを書くのは嫌なのだという。毎日変わったことがある訳じゃない僕からすれば首を傾げる話だが、弟はそうでは無いのだろうか。
よく分からない。
でも、ココアを一口飲んで頬を緩める弟は日常の中の些細な変化といえるだろうか。
弟は感情豊か、表情もコロコロ変わる。
きっと弟の持つ日記帳の中には、綺麗な心模様が描かれていることだろう。
僕が簡単に作ったインスタントのココアで満足する弟がその心模様を黒に染めないことをただ願う。
「わぁ。今日もネタ浮かばねぇまま午後になった」
今日の心模様、って、今日も今日とて相も変わらず、平坦よな。某所在住物書きはポテチをかじり、茶をすすって、長いため息を吐いた。
「それこそ先日のお題の、『無色の世界』な状態よ。色彩学の定義だと、色の偏りが無いことを『無色』って言うらしいからな」
ぼっちだからダチだのハイグーシャだのに気ぃ遣う必要も無ぇし。自分の機嫌だけ取ってりゃ良いし。
付け足す物書きは、ふと誰かの視線に気付き、
「……泣いてねぇし。別に寂しかねぇし」
ぼっち万歳。ただポツリとそれだけ、呟いた。
――――――
人の心とは、まぁまぁ、不思議なものでございます。
脳科学のだいぶ進んだ昨今、あの感情にはあの領域とこの物質、この感情にはこの領域とその物質。
愛情ホルモンなんて持て囃されているオキシトシンが、実は他方で、ある条件下の攻撃性を、高めるとか仲間外れを群れから排除云々とか。
人間の今日の心模様は、その日の脳の機嫌次第。その日までの脳の形成過程次第。
現実世界の心は所詮、生理現象なのでございます。
いずれ物理的に操作可能になる日も訪れましょう。
しかしながら人間は、本当に厨二ちっくなものが大好きな種族でございまして。
大昔から現代まで、心は特別で神秘性があり、何かチカラを有していて、物質にもホルモンにも縛られず、自由であるとお考えの方々が、ちらほら、ちらほら。
物語世界の心は所謂、超常現象なのでございます。
魂か魔法の類でございましょう。
「……で、その魂か魔法の類の、その日の模様をそっくりそのまま取り出して、鑑賞して、バックリ食べてしまう化け物が、私なのでございますが」
都内、某所に確かに在る筈なのに、何故かマップアプリに表示されず、道を聞いても辿り着ける者と着けない者の居る古風な喫茶店。
店の名前は「ネタ置き場」。いつ日の目を見るともしれぬ「一発ネタ」が「閃いちゃっただけの設定」が、仮置きの名目で詰め込まれ、いつ来るとも知れぬ出番をここで待っている。すなわち「アプリの短文投稿に採用されるまで出られない部屋」である。
「設定が設定なもので、やること成すことほぼエナジードレイン系のセンシティブ案件でございます。アレでございますね。体から鏡だの結晶だの種だの取り出す系。……無理でしょう。出番とか。
かといって、無理矢理『ここ』から出て行こうものなら、『世界線管理局 密入出・難民保護担当行き』の、密入出の方でお縄になって退場なわけで」
どこかにこんな変態、ゲホゲホ!……妙な化け物でも、物語に採用してくれる物書き様はいらっしゃらないモンですかねぇ。
大きなため息ひとつ吐き、喫茶店のカウンターでココアをすする自称化け物。
「どこぞの物語のチョイ役でも良いので、出番、無いですかねぇ」
1カメ、2カメ。ちらりちらりと視線を送る「彼」の肩を、喫茶店の店員が、旧知の同士へのソレよろしく、優しく、同情的に叩いた。
《今日の心模様》
空を見上げると細い三日月。
目を凝らせば幾つかの星も点在している。
街の灯りに邪魔されて故郷の空のようにはいかないけど、夜空は綺麗に晴れていた。
今日は10年に一度の冷え込みらしく、空気は春らしくなく冷たい。
ビュウっと吹いた風に身をすくめ、スウェット地のパーカーの前をかき合わせる。
気温だけ見れば冬に逆戻りしたかのよう。
でも、空気の冷たさは冬とはやっぱり全然違う。
寒いけど、これはれっきとした春の寒さ。
かじかみそうな指で暇潰しの定番のSNSの投稿を見るともなく追う。
今日は朝からバイトだって言っていたから彼の投稿はなかった。
一緒に見た夕焼けの空。
一緒に食べたカフェのワンプレートランチ。
一緒に遊びにいった場所。
一緒に飲んだり食べたりしたあれやこれや。
画面の上で指を滑らせ、2人の思い出を辿っていく。
春になって、生活が変わって、会う時間はぐっと減った。
先月までは当たり前に隣にいられたのに。
昨日、大学の近くで、彼が可愛い女の子と歩いているのを見かけた。
遠慮なく小突きあって、そうかと思えばゲラゲラ笑って。
その距離は、とても「ただの友達」のものとは思えないくらい近いもの。
クラスの男子達とふざけあってたときみたいな、気の置けない相手にしか見せない顔。
……私にはまだ一度も見せてくれない顔。
今日は久しぶりのデートで、昨日まではあんなに楽しみで仕方なかったのに、今は会うのがこわくてたまらない。
だってもしかしたら別れを切り出されるのかもしれない。
「他に好きな子ができたんだ」
「お前より可愛くて気が合うし」
「だからもう会えない」
そんな幻聴がぐるぐる回る。
聞き慣れたあの声でリアルに頭の中で再現されて泣きそうになる。
スワイプしていた手が止まる。
画面には、絡めあった2人の指が映っていて。
空はこんなに晴れてるのに。
月も星もこんなに綺麗なのに。
私の心模様はどんよりした曇り空のよう。
今にも雨が降り出しそうに重くて暗い雲が立ち込めてる。
息を切らせて走ってきてくれた彼と話をして、昨日のことが誤解だって分かるのは、1時間ほど先のこと。
今日の私の心模様を天気予報風に言葉にするなら
曇りときどき雨、のち、からりとした晴天が続くでしょう。
今日の心模様はどんよりしている。
今日は小さなミスでさえ、大きく感じてしまう。
どうしても、人と自分を比べてしまうな。
自分なんかが人気のあの子の隣にいてもいいのかな。
でも、寝て起きて会ったら初めましてだもんね。
君の記憶に僕は記されていないから。
『心模様』