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怒り、悲しみ、喜び、楽しみ。
俗に言う喜怒哀楽というものを僕の弟は綺麗に表す。
怒っていれば眉間に皺を寄せて無口になるし、悲しければ目から宝石のように輝く涙を流す。喜べば口元を綻ばせるし、楽しければ花が咲いたように笑う。
弟に使うには可愛すぎる言葉が多いって?
仕方ないだろ。

そんな弟は最近、趣味だという日記を寝る前によく書いている。寝る前に自分の感情と出来事を記しておくことが精神を統一させるらしい。
僕にはよく分からないが、感情豊かな弟だからこそ楽しくなるんだろう。
何日か前にこっそり覗いた彼の部屋で、弟はベットの上に腰掛け日記を手に思案していた。何かを思いついたように顔を上げて、楽しそうに書き込む姿は日頃の疲れを癒す目の保養にはちょうど良かった。

「兄さん?」
今日も日記を書きに部屋に戻っただろうと油断していた所に、何故か弟は現れた。別に油断していたからどうだとかでは無いが、普通に心臓に悪い。
「どうした?」
「ココアの匂いがしたから。僕も飲みたい。」
振り返ると日記帳片手に弟が少し微笑んで立っている。わかったと新しくお湯を沸かしにキッチンの方へ移動した。
しばらくしてココアを持ちながら戻ると、何かを書こうとペンをもつ弟と目が合う。ココアを渡しながら日記帳に目を向けると、白紙のままだった。
「日記、今日は書くことが決まってないのか?」
「うん。今日は一日家にいたから。」
日記に前に書いたようなことを書くのは嫌なのだという。毎日変わったことがある訳じゃない僕からすれば首を傾げる話だが、弟はそうでは無いのだろうか。
よく分からない。
でも、ココアを一口飲んで頬を緩める弟は日常の中の些細な変化といえるだろうか。

弟は感情豊か、表情もコロコロ変わる。
きっと弟の持つ日記帳の中には、綺麗な心模様が描かれていることだろう。
僕が簡単に作ったインスタントのココアで満足する弟がその心模様を黒に染めないことをただ願う。

4/24/2023, 8:54:54 AM