初音くろ

Open App

《今日の心模様》





空を見上げると細い三日月。
目を凝らせば幾つかの星も点在している。
街の灯りに邪魔されて故郷の空のようにはいかないけど、夜空は綺麗に晴れていた。

今日は10年に一度の冷え込みらしく、空気は春らしくなく冷たい。
ビュウっと吹いた風に身をすくめ、スウェット地のパーカーの前をかき合わせる。
気温だけ見れば冬に逆戻りしたかのよう。
でも、空気の冷たさは冬とはやっぱり全然違う。
寒いけど、これはれっきとした春の寒さ。

かじかみそうな指で暇潰しの定番のSNSの投稿を見るともなく追う。
今日は朝からバイトだって言っていたから彼の投稿はなかった。

一緒に見た夕焼けの空。
一緒に食べたカフェのワンプレートランチ。
一緒に遊びにいった場所。
一緒に飲んだり食べたりしたあれやこれや。

画面の上で指を滑らせ、2人の思い出を辿っていく。

春になって、生活が変わって、会う時間はぐっと減った。
先月までは当たり前に隣にいられたのに。

昨日、大学の近くで、彼が可愛い女の子と歩いているのを見かけた。
遠慮なく小突きあって、そうかと思えばゲラゲラ笑って。
その距離は、とても「ただの友達」のものとは思えないくらい近いもの。
クラスの男子達とふざけあってたときみたいな、気の置けない相手にしか見せない顔。

……私にはまだ一度も見せてくれない顔。

今日は久しぶりのデートで、昨日まではあんなに楽しみで仕方なかったのに、今は会うのがこわくてたまらない。
だってもしかしたら別れを切り出されるのかもしれない。

「他に好きな子ができたんだ」
「お前より可愛くて気が合うし」
「だからもう会えない」

そんな幻聴がぐるぐる回る。
聞き慣れたあの声でリアルに頭の中で再現されて泣きそうになる。

スワイプしていた手が止まる。
画面には、絡めあった2人の指が映っていて。

空はこんなに晴れてるのに。
月も星もこんなに綺麗なのに。
私の心模様はどんよりした曇り空のよう。
今にも雨が降り出しそうに重くて暗い雲が立ち込めてる。





息を切らせて走ってきてくれた彼と話をして、昨日のことが誤解だって分かるのは、1時間ほど先のこと。

今日の私の心模様を天気予報風に言葉にするなら

曇りときどき雨、のち、からりとした晴天が続くでしょう。


4/24/2023, 8:17:50 AM