『世界の終わりに君と』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
#世界の終わりと君と
読み終わる小説
物語の中の終わりって君が読むのをやめた時。
それとも、君がその物語を忘れてしまった時。
覚えている限り、物語は永遠に生き続けるなら、何だかこっちも救われた気持ちになるけど
とりあえずお別れ
世界の終わりと君との時間。
世界の終わりに君と、、なんてことを話したこともあった。
もしもの話だったのに、今では現実でこの世界が終わろうとしているらしい。変な感じだよ。
君が死んだあの日に僕の世界は終わった。
今さら人類の世界が終わってもどうでもいいのさ。
そうだ、最後に、、、猫を吸おう。
「世界の終わりに君と」
世界の終わりに君とって、言われた事ない。
夫は「自分だけで精一杯だから、ムリ」
亡くなった母は私に母性を感じずに、養女に出した。
妹は高熱を出して冷たい飲み物を頼んだ私に
「お腹一杯で動きたくない」とのこと。
そういう私も、いざ大波や地面崩壊が始まったら
相手を突き飛ばすだろう。
映画のようにロマンチックにはいかない。
明日地球が滅ぶとしたら、どんなことをしますか?
そんなありふれた、でも可能性は0ではない問い。
キミといつも通りご飯を食べて、ゆっくり眠ろうかな。
とあなたは言う。
ほんとにそうなったら絶対違うでしょと笑いながらも、あなたのその暖かい眼差しに心が揺れる。
明日地球が滅んでも、キミと。
「なんか、明日世界終わるらしいね」
『へぇ私はあなたと居れればいいからいつ終わっても一緒かな』
「ちゃっかり嬉しいこと言うじゃん笑」
「明日終わるって聞いたのに割とさっぱりしてるね」
『え〜そう?』
『いつか終わるんだし、今終わってもなんかそうねぇって感じ』
「僕は普通に怖いけどね」
『えぇあなたこそさあっさり、「あ〜終わるね」だと思った』
「いや、急に無くなるってなると怖くなるもん」
「こうさ、今まであったものがぱっと無くなるとさ?違和感だったり、喪失感って言うんかな、あったりするじゃん。で、その無くなるものが、大きければ大きいほど不安って多くなると思ってさ、いつも使ってるものとか、人とかね」
『最後らしいこと言うじゃん(笑)』
「空気嫌だね(笑)最後だしなんかする?」
『いつも通り家いるのもありだけど、最後感ですぎなくて、ゆっくり話せて、特別過ぎないことしたい』
「なるほどねぇ。じゃあちょっとゆっくりしてから」
「星でも見に行ってみますか」
『わ〜!いいねぇさすがセンスあるわ』
「では、まずはおうち時間でも過ごしましょうか」
『何食べる?作るよ~~』
今日のテーマ
《世界の終わりに君と》
「もしも世界が終わる時がきても、おまえとずっと一緒にいたい」
なんてロマンティックな口説き文句だろう。
まるで物語の台詞か何かのよう。
これを聞いたのがもう少し前だったなら、きっとうっとり酔いしれていたかもしれない。
あたしの中に残る乙女心の残骸が、チリチリ胸を痛ませる。
「よくも、ぬけぬけと」
だけどあたしはそんな未練に蓋をして、怒りを込めて彼を睨む。
彼は意外そうに眉を上げ、それから不思議そうに首を傾げた。
「この場面でその反応って何?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみたら?」
「……全然心当たりがないんだけど」
しらばっくれるつもりなのだろう。
そして、あたしがそんな嘘にあっさり騙されると思ってるんだろう。
そう思うと余計に腹が立つ。
「思い出せないなら思い出させてあげる。一昨日の晩、駅前で見かけた」
「一昨日?」
「綺麗な女の人とデートしてたでしょ」
降って湧いた残業は、終電間際までかかってしまった。
空腹と眠気でフラフラになりながら改札を出て、家路を急ごうとしていた矢先、その光景が目に飛び込んできたのだ。
頬を上気させた綺麗な女の人と、その肩を抱きながら歩く彼の姿。
遠目にも親密な空気が察せられて、冷水を浴びせられたみたいに血の気が引いた。
浮気していたこともショックだったし、こんな見つかりやすい場所でイチャイチャしてるデリカシーのなさにも腹が立った。
ううん、もしかすると浮気はあたしの方だったのかもしれない。
だって彼女はとてもとっても綺麗な人だった。
あたしより少し年下だろうか。
綺麗でありながら、庇護欲を誘う可愛らしさも持ち合わせた女性。
くすくす笑いながら何か言う彼女に、あなたは幸せそうな笑顔を見せていて。
そんな姿を見せつけられて、あたしは世界が終わったようなどん底気分で家に帰った。
だから、昨日「明日会える?」ってメッセージが来た時、別れ話をされるのだろうと覚悟を決めて今日を迎え。
少しでも別れを惜しませてやれればと、戦いに挑むような心境でメイクも髪も服装も、爪の先に至るまで、気合いを入れてこの場に来たというのに。
肝心の話はいつになっても切り出されることなく、帰り間際に言われたのがさっきの台詞というわけである。
ご丁寧に指輪まで捧げられて。
夢に見たプロポーズが、一瞬にして結婚詐欺に遭ったような最低最悪の気分に陥らせる。
こんなのってない。あんまりだ。
涌き出て止まらない恨み言が胸の中で渦巻くけど、それを口にしたら泣いちゃいそうで、だからあたしは最低限の言葉で返す。
「あたしで予行演習か何かのつもり? それとも彼女とは結婚できない理由でもあるの? 仮面夫婦や契約結婚なら他を当たって。そんな虚しい生活するくらいならずっと独身のままでいい。じゃあね」
ぽかんとマヌケ面を晒す彼に吐き捨てると、私はくるりと踵を返す。
もうこれ以上この場にいたくない。
追い縋られて、誤解だと適当な言い訳を並べ立てられたら、絆されてしまうかもしれない。
自分でもチョロい女だと思う。
だからこそ、彼の言い訳は聞いちゃいけない。
まだ捨てきれない愛情のせいで「騙されててもいい」なんて思っちゃいそうだから。
「待って!」
「待たない」
「頼むから話聞いてくれって」
「聞かない」
予想通り追い縋ってきた彼を、鉄の意志で突っ撥ねる。
思い出せ。
一昨日の晩に味わったあの惨めさを。
世界が終わりを告げたような、絶望的なあの気持ちを。
瞼が腫れるほど泣き濡れて、それでも流しきれなかったあの胸の痛みを。
振り返ることも足を止めることもなく、早足で帰ろうとしたあたしの腕を、彼の大きな手が掴む。
節くれ立った、あたしが大好きだった手が。
この手で彼女に触れたんだろうか。
髪を梳き、頬を包み、背を撫でながら抱き締めたんだろうか。
身を焦がすような悔しさと、どうしようもなく込み上げる切なさに、じわりと涙が滲んでくる。
だけど絶対この場では泣きたくない。
そのくらいの意地はあたしにだってあるんだ。
「違うから。あいつは妹で、今日の相談に乗ってもらっただけで」
「そんなベタな言い訳なんか聞きたくない」
「いや言い訳じゃなくてマジだって」
「だとしてももうあたしには関係ないから」
「関係あるだろ、これから身内になるんだから」
そう言うと、彼は逃げようとするあたしを軽々腕の中に閉じ込める。
嗅ぎ慣れたコロンの香りに条件反射で安心してしまいそうになるのを必死で振り払う。
だけど力の差は歴然で、どんなに藻掻いてもしっかり抱き締められた彼の腕からは抜け出せない。
どうしてこんなことするの。
あたし以外に女がいるのに、どうして繋ぎ止めようとするの。
このまま別れてしまった方が、絶対お互いのためなのに。
彼はあたしを抱き締めたまま、もぞもぞスマホを取り出してどこかへ電話をかけた。
至近距離から聞こえる呼び出し音。
程なく相手の声がする。
電話越しでも可愛い声に、あたしは一層惨めになった。
「今から出てこられる?」
『何? まさか振られたの?』
「その危機を回避するためにおまえも説明してくれ」
『何それ』
「一昨日の晩、一緒にいるとこ見られて誤解されてる。身分証持って、正真正銘おまえが俺の妹だって証明してくれ」
『何やってんの、お兄ちゃん』
苦々しげな彼の言葉に、電話の向こうの彼女は見た目にそぐわぬ馬鹿笑いをする。
ネットスラングで言うなら『草を生え散らかした』ような笑いっぷり。
ここでようやくあたしは藻掻くのをやめた。
「おまえのせいだろうが。奢りだからって調子に乗って足にくるほど飲んだりするから」
『いやー美味しかったわご馳走さま』
「いいから今来い。すぐ来い。じゃなきゃこいつと今からそっちに行く」
『じゃあ来たら? 未来のお義姉さんにちゃんとご挨拶するし、お兄の身の潔白もちゃんと証明してあげる』
ところどころヒーヒー言いながら彼女が言うのに、彼はため息混じりに「分かった」と答える。
そして抱き締めた腕をゆるめ、でも絶対に逃がさないとばかりに指を絡めて手を繋ぎ、こっちの返事も待たずに歩き出す。
もしかして、本当の本当に誤解なんだろうか。
でも『実は血の繋がらない妹で』なんてオチが待ってたりするんじゃない?
信じたい気持ちと疑う気持ちがシーソーのように揺れ動く。
「さっき『もしも世界が終わる時がきても』なんて気障なプロポーズしたけどさ、まずおまえに振られた時点で俺にとっちゃ世界の終わりも同然だから」
「……」
「あいつに会ってもまだ信じられないっていうなら、信じてもらえるまで何でもする。実家からアルバム持ってきて見せるし、戸籍を取り寄せてもいい」
「……」
「どんなにみっともなくても、他人から笑われても構わない。おまえが俺を嫌いになったとかならともかく、こんな下らねえ誤解で終わらせられてたまるか」
握られた手はいつもより力が籠もっていて少し痛いくらい。
いつもは痛くないように加減してくれてるのに、今はそんな余裕もなさそうで。
そんな彼の必死さが伝わってきて、意固地になってた気持ちがじわじわと解けていく。
それから程なく誤解は解けて、あたしは未来の義妹に妙な勘繰りをしたことを心の底から謝罪した。
彼女の旦那さんも参戦して2人が正真正銘血縁関係の兄妹だと証言してくれたし、そのままなし崩しで夕飯までご馳走になってしまった。
穴があったら入りたいけど、朗らかな義妹夫妻は「気にしないで」と笑ってくれた。
そうして改めて2人きりになった帰り道、彼はもう一度プロポーズしてくれた。
昼間とは少し違う台詞で。
「たとえ世界が終わる時がきても、絶対離さないから。一生おまえだけ愛し抜くから」
力強い眼差しで、宣言するかのように愛を誓ってくれる彼。
もしまた疑うようなことがあったら、今度は1人で泣く前にちゃんと直接聞いてくれ。
そんな言葉と共に抱き締められて、あたしはまた泣きながら頷いた。
もしも世界が終わっても、あたしも絶対に離れない。
死が2人を別つまで、あたし達はこれからずっと一緒に歩んでいく。
テーマ「世界の終わりに君と」
明日で世界が終わる…なんて突然言われたら信じられますか?
たまに雑誌で書かれている質問でこんなのがある。
「明日で世界が終わるとしたら何をしますか?」
その問いになんて答えるのが正解なのだろうか。
恋人と過ごす?家族と過ごす?やりたかったこと、見たかった景色を見に行く?
推しのライブ映像を観たり、グッズを沢山買うかもしれない。
それともいつも通りの生活をして1日が終わる頃、眠りについて終わりを迎える。
それが一番幸せな終わりなのだろうか?
人によって答えは違うし正解なんて無い質問だから否定も出来ない。
もし、明日世界が終わってしまうなら大切な人と過ごし最期の瞬間まで声を聴いて痛みなく終わる。そんな終わりを望む。
昔読んだ本にあった、世界の終わりの話。
人類は遂に滅亡する。その瞬間まであと数時間。
例えばテレビの右下にあるワイプ画面。例えば街中にある大きなモニター。例えば選挙カーで演説するかの如く、「世界滅亡まであと○時間!」などと語る者。
世界中のありとあらゆるもの達が、世界の終わりまでのカウントダウンをする。
意識せざるを得ない環境に皆、不安を抱えたまま最期の時を過ごしている。
そして主人公である僕は何も出来ないまま、無事に最期の時を経て……。
「悲しい話だよね」
「そう……だね」
救いようのない話。起承転結が成り立たない話。
本の内容としては破綻しているが、実際にこうなればまあこんなものだろう。
実に現実的で面白い。
「明日人類が滅亡するとしたら、貴方はどう過ごしますか」
それはこの本の最初と最後に記載されていた言葉だ。
僕ならきっと、こうするだろう。
「きみに告白して塵となる……おわり」
言葉に抑揚を付けずに真顔で淡々と。
反応が怖くて思わず彼女に背を向ける。
沈黙が長い。
世界の滅亡など待たずにして今すぐ塵となりたい。
「……それは冗談ですか?」
「いいえ……いいえ……」
二度目のいいえは流石に力が入ってしまう。
お願いだから僕を見ないで。
近付いてくる足音にぎゅっと目を瞑りながら、僕はそんなことを思っていた。
#30 世界の終わりに君と
世界の終わりに君へと
二人だけの地球を作っていこう
二人だけの思いが
大丈夫 必ず
作られる
さあ この世界が
なくなると前に
二人の世界へ
「世界が滅ぶときが来たら、せめて愛しい君と一緒にいたい」
一度は夢見た状況だった。
たとえ世界が最悪な状態でも、愛しい人といられれば、万一生き残ってもなんとかなる。
でも、やはり夢物語だった。
遮るものが一切ない荒れた大地を、埃混じりの風が容赦なく撫ぜていく。
周りを見回しても、なにもない。誰もいない。
水も食料も、生きるために必要なものがない。
今までの人生で培った知恵も全く役に立たない。
「こんなことなら生き残りたくなんてなかった! こんな奇跡いらなかった!」
だんだん、互いも終わりが近づいていることを自覚していく。
不思議だね、終わりがやってくるとわかったときはあんなに生にしがみついていたのに、今は手放す日が待ち遠しくてたまらない。
体力が、精神力が並外れていたら。
天才的な頭脳を持っていたら。
夢を現実にする確率が上がったのだろうか。
命が尽きる瞬間も、君といられるのがせめてもの救いかもしれない。
お題:世界の終わりに君と
[お題:世界の終わりに君と]
[タイトル:爪楊枝じゃ広辞苑に敵わない]
「この線を越えると、世界が終わるから気をつけてね」
青木宇海は公園内に落ちていた木の棒で地面に一本の線を書くと、微笑んでいるようにも、怒っているようにも見える微妙な表情で言った。
表情を上手く読み取れないのは、きっと逆光のせいもある。今は夕暮れ時で、太陽と宇海と乙坂創は一直線に並んでいた。
「分かった」
創はそれだけ答えて目を閉じた。
そして耳を澄まして合図を待つ。
鳥の囀り、木々の揺れ、道路を行き交う車。様々な音の中で、創が待っていた音は中々来ない。
「おーい、早くしてくれ」
創は宇海を急かす。創はこれをさっさと終わらせたがっていた。世界を、なんて壮大で誇大な話では無く、宇海の持ち寄ったこのゲームを、だ。
小学生の放課後と言えば、クラスの奴らはもっぱらスマホにゲームなのだが、残念な事に創にはまだそれらは与えられていなかった。
『若いうちから楽をすればバカになる』とは父親の言だ。それを聞くたびに創は、一人きりでマラソンをする姿を思い浮かべる。自分以外の全員がタクシーを使っているのに、一人で歩いて、最下位で、それで何が身につくと言うのだろうか。
勿論、この不満を直接ぶつけることも多々あったが、父親の頑とした態度は一度として崩れたことはない。
そのうち、創もスマホの話題を出す事は無くなった。けれどそれは、父親の言葉を受け入れたわけでも、心が折れてしまったわけでもない。創は見つけたのだ、自分以外のスマホを持っていないクラスメートを。自らの足で命を燃やすマラソンランナーを。
「よーい、ドン」
宇海の声は、先程よりもずっと近くで聞こえた。それは距離感を狂わす為の策で、宇海の常套手段だ。
線を越えれば世界が終わる──なんて言っているが、結局のところ、これはただのチキンレースだ。スマホを持たない子供達が考え抜いたお遊びに過ぎない。幸か不幸か、スマホに夢中な昨今の子供達のお陰で公園は広々と使えた。野球もサッカーも出来ない昨今の公園事情もあったのだろう。出来上がった空白の公園では、目を瞑って歩いても支障はなかった。
とはいえ、安全過ぎてもつまらないので『世界の終わり』なんて言葉だけでも盛り上げようとしているのだ。宇海はそういう、大きな事が好きなタチだ。プールよりも海が好きで、手持ち花火よりも打ち上げ花火が好き。
ある日、宇海は言った。
「私は爪楊枝より広辞苑が好きだよ」
今にして思えば、これほど宇海を表すのに最適な言葉は他にない。
百科事典棒という概念がある。文字を数字に置き換えて(A=01、B=02、C=・・・・・・)、百科事典の文書を全て数字にする。それを連ねて、頭に『0.』を付ければ0〜1までの範囲の長い小数点以下の数字ができる。それは爪楊枝の先端から一センチの間に必ずあるので、そこにぴたりと合う場所を精巧な技術によって一本の傷をつける。すると、爪楊枝は百科事典と同じだけの情報を持てる。勿論、百科事典で無くとも、あらゆる文章を爪楊枝に込めることが可能だ。『アルジャーノンに花束を』も、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』も。
ところで、そんな風に精巧な傷をつける技術は無いので、百科事典棒はあくまでも理論上の話になる。だからって、それよりも広辞苑が好きと言う宇海の言葉が、百科事典棒へのバカバカしさを意味するものでは決して無い。
「広辞苑の持つ情報は文書だけじゃないよ。紙の薄さ、破れにくさ、色、匂い、重さ、ページを捲る時に感じるクオリア。どれを取っても爪楊枝には無いからね」
さっき百科事典棒について悠々と語った口で彼女は言う。
だから、爪楊枝にどれだけ完璧に傷をつけられたとしても、広辞苑の方が大きいのだと。
けれど、だ。創はそんな彼女の語り口を聞いて思った。それならスマートフォンの方が大きいんじゃないだろうか。
創が緩慢に歩き出して一分ほど。危険な障害物はないとはいえ、目を瞑って歩くのにはそれなりに勇気がいる。さらに言えばこれはチキンレースで、一歩でも線の外に出たら終わりだ。ともすれば、慎重にならざるを得ないというもの。
「ふふっ、腰ひけてるよー!」
宇海が笑いながら揶揄う。
声の場所から察するに、彼女がいる位置は線とはかなり離れている。何せ角度が違うのだ。僅かに感じる夕陽の光を頼りにすれば、角度だけは分かる。
後はもう、勘任せで止まるしかない。
一歩ずつ確実に進む。しかし世界を終わらせないように。
吹き抜けた風が産毛を揺らす。住宅街じゃあまり感じられない自然の匂いが香る。爪楊枝では表せない情報の洪水に飲まれながら足を踏み出す。足の裏に地面と小石の感覚がある。靴越しでもきちんと分かるのが不思議だ。
「ここ──ここだ」
創はついに立ち止まった。
目蓋を開けると、目の前には宇海がいた。いつの間に移動したのだろう。後ろ手に組んで前屈みになっている。目の奥を覗くように、下から見上げていた。
「残念、世界は終わらなかったね」
創はそれを聞いてようやく気づいた。ちょうど宇海と自分との間に線がある。世界の終わりの線が。
「ほんとう、危なかった。ギリギリ世界が終わらなくてよかったよ」
創がそう答えると、宇海は困ったように笑うので、思わず口を開いた。
「宇海は世界が終わって欲しいの?」
「うーん。どっちでもいいかな。世界が終わっても宇宙があるなら別に」
なるほど、やはり宇海はスケールが大きい。
「それに、世界はもう終わってるよ」
「え?」
すると宇海は創の手を握った。ぐいと引っ張って、創を線の外側に連れ去る。
かくして、世界は終わった。
風の匂い、鳥の囀り、夕陽の暖かさ、樹々のざわめき。
どれを取っても何も変わらないけれど、確かに世界は終わっていた。
「ねぇ、知ってる? スマホは世界と繋がる事が出来るらしいよ。だから、スマホを持たない私達の世界は終わってるの」
そしてそんな事を言ってのける。どうやら、線を越えたから、というわけではないらしい。
「そういう意味なら、僕も世界が終わってもいいかな」
少し頬を赤くして創は言う。夕陽の赤だと誤魔化すには、態度が忙しなさすぎる!
創は思う。いずれ自分も宇海もスマホを持つだろう。中学生か、あるいは高校生で。スマホには世界が入っている。爪楊枝に百科事典を刻まなくても、百科事典はスマホに入っている。
宇海はそれでも広辞苑を開くだろう。何の気なしに世界を終わらせて、自分の五感で世界を旅するのだ。
さて、その時に創は、一体どうするだろうか。
家に帰った創はその日の夜、父親に頼み込んだ。
「スマホはいいから、広辞苑を買って欲しい」
「とうとう今日だね。」
「そうだね。」
「今までありがとう」
「よーしテスト返すぞー」
今日から始まるテスト返し。
その結果で僕たちの学校生活が決まる。
これで赤点なら僕たちの世界も終わるね。
世界の終わりに君と何をしようか
何だっていいよ
どうせ終わっちゃうんだから
全部無くなってしまうから
もう
意味なんてないか
不思議な空の色だった。
紺色の空にピンクや黄色などのオーロラが浮かび、月が割れて、星々がこの世界の終わりを見届ける。
まるで宇宙そのものの様な、見たことのない景色。テレビに映っていた誰かは「悪魔の瞳」だなんてことを言っていたけれど、それが本当なら悪魔はどれほど綺麗なのだろう。
涼しい風が髪を揺らす。隣の君は、ボーッと口を半開きにしてただ空を眺めていた。
視線の先には大きな太陽がゆっくりと、わかる速さで昇っていく。
テレビでは「太陽が完全に昇った瞬間に世界は終わる」と言っていた。もうその時なのだろう。
世界が終わるまで後数秒という時に、君は言った。
「……さっきから考えてたんだけど」
「…何?」
「この空の色、お菓子売り場で売ってたお菓子に似てない?」
「全部台無しだよ」
突っ込んだ瞬間、目の前が白い光に包まれた。
こんな間の抜けた言葉が人生の最後だなんて、何て馬鹿らしいのだろう。
ただ、それにホッとしたのも事実。
あぁ、最期まで君は君のままだった。
もし明日 世界が終わると言われたら
君と週末 行く場所決めよう
【世界の終わりに君と】短歌
明日世界が終わるとしても、未来の予定をたてて、嬉しい気持ちで終末を迎えたいのだ。
【世界の終わりに君と】
一緒に旅をして来た。
長い長い旅だ。
君がくれる笑顔に、ボクはオーバー過ぎる程、全身で答えて来た。
君はボクの全て。
でももう、笑顔どころか、声もかけてくれない。
頭を撫でてもくれない。
すり寄っても、抱き締めてくれない。
段々と、温もりが消えて行くのを感じる。
今まで、楽しかったよ。
こうして見守れて、ボクは幸せだ。
ホラ、こうしてたら、まだまだずっと一緒に居られるよね?
あぁ、何かボクも眠いや…
一緒に寝ようか。
ボクは一度鳴き
そして愛しいヒトに寄り添い丸くなり
静かに瞼を閉じた
世界の終わりに君と
君は、最後の最後まで仏頂面だった。
暑い日差しが、続いていた。学生がもっもと喜ぶ夏休みが始まった。
夏休みが始まったからと言って、夏休み初日からエンジョイすることなく、起きてからダラダラ過ごしていた。
さすがに初日からは、いけないと思った俺は、夏休みの課題に取り組むことにした。
背伸びをして時間を見ると、お昼の十三時になっていた。
二時間くらいは、集中していたのだと、気づいた
休憩したのち、課題を続けようかと考えたが、集中できない。
本棚の方に、目を向けると、図書館て借りた本があることに、気づいた。
外を見れば、晴れ晴れした快晴。
息抜きがてら、図書館に本でも返してこようと、ショルダーバックに本をしまい、腰を上げた。
図書館は、家から電車で3駅、底から徒歩で10分もかからない場所にある。
家から近い場所にも図書館はあるが、ここの図書館は学校から近く利便性が良い。
夏休みで、わざわざ返しに行くことがなければ、本当に利便性が良いところに、建ててくれた。と考えながら、歩くと最寄りの駅に着いた。
駅のホームで電車がくるまでの間借りた本を、もう一度読んだ。数分後、ホームから流れるアナウンスが流れた。
読みかけの本を、閉じて鞄に入れた。電車が停まるり、降りる人を優先したのち電車に乗った。
席に座る気持ちになれなかったので、入り口近くで、もたれながら立つことにした。
「世界の終わりに君と」
君のぬくもりを感じながら手をつなぎ
君の顔を見つめていたい
僕と君の瞼がゆっくりと閉じられ
冷たくなっていくのを感じながら。
世界の終末はそんなゆったりとした時間を
与えてくれるだろうか
『ほろ苦い』
焦げたトースト ママレード 一口齧ってほろ苦い
もう君ともお別れなんだな 他愛のない朝食 美化するわけじゃないけれど 雨上がりの朝 蝶々は飛び立つのに気苦労してる 私は終末感ってやつに酔っているだけ きっとなぞり書きの明日もそつなくこなすだろう そうきっと
ずっとこの日を待っていた。
僕にやさしく触れてくれた君の白い手は、もう朽ち果てている。そうか、君はこのまま土に還るんだ。
その骨は、いずれ夜空に碎け散って無数の星になる。そうして次の世界の夜に生きるんだね。
金糸の髪は、地上に差す太陽の光だ。薔薇色に染まっていた君の頬。柔らかい皮膚の下に流れた血潮は、いつかほんもののの花になる。
君を拒んだ暗い世界も、遠くからみれば光の森にいるみたいなんだろう。醜くて、残酷で、かけがえのない世界だ。
僕の世界は、君とともにもう終わった。
今はただ、君の隣で眠りたい。
きっとこれからも、世界は光に包まれていて、人々は退屈でいとしい日々を生き、まるで僕たちのことなんてなかったかのように、陽が昇っては沈んでゆくんだ。
いつか僕らの朽ちた身体が引き剥がされるとき、それは終わりではなくてはじまりだね。
今度こそ、新しく平等に生まれ変わった世界に生きることを夢見て。