『不完全な僕』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
#不完全な僕
完全な人間なんていないから
不完全でいることは何も可笑しくない
仮に何をどう定義したら私たちは完全になれるのか
アインシュタインより賢く
ウサイン・ボルトより速く
リンカーンを従えるカリスマ性も
ピカソを超えるセンスも持ち合わせる
そんな人間かもしれない
完全な人間なんていないから
不完全でいることを少しだけ楽しもう
初めての彼氏ができた
まだまだ素敵な彼女ではないかもだけど
私を選んでくれてありがとう
大好きだよ
とある町の路地裏、そこを一人の男が歩いていた。
男は先ほど意中の相手にアタックしたもののまったく相手にされず、非常に落ち込んでいた。
以前からアタックをかけていたのだが、一向に事態が好転しない
アプローチの方法を変えるべきか……
男が悩みながら路地裏の曲がり角を曲がった、その時だった。
「そこのお兄さん。
何か買っていかない?」
突然後ろから男を呼ぶ声がした。
男は足を止め、声のしたほうを振り向く。
視線の先には、ローブを被った胡散臭い女が露店が広げていた。
どう考えてもまともじゃない状況に、彼の本能は危険を告げる。
だが小心者の彼に、そのまま通り過ぎるような図太い神経は無かった。
「俺を呼んだか?」
「はい。
見ればお困りのご様子。
なにか力になれないかと思い、お声を掛けさせていただきました」
「ふーん」
男は気のない返事を返す。
こんな人通りの少ない路地裏で店を開くなど、まともな人間のすることではない。
関わりたくないので、適当に話をして帰ろう。
そう思って売っている商品を見るが、あるものが目に留まった。
「『意中の相手をメロメロにする香水:男性用』?」
「フフフ、お目が高い。
読んで字のごとし、意中の相手を自分に夢中にさせる魔法の香水です」
『意中の相手を自分に夢中にさせる』。
なんと甘美な響きであろう
男は買いたくなる衝動が沸き起こるが、なんとか押し留める。
こういったものは、効果の怪しいパチモンと相場が決まっているからだ。
男はこういったものに手を出し、お金だけを取られたことがあるので、なおさら警戒していた。
「信じられないな。
パチモンじゃないの?」
「お客様の不安も分かります。
巷には偽物が溢れていますからね……
そこで当店では、お試し期間を設けています。
もし効果があればお代金を、無ければ返品ということで、是非お試しを!」
「……それだったら俺に損はないな
だけど持ち逃げされることあるんじゃないの?」
「ご安心ください。
信用できそうなお客様にしか、この事は提案しておりません」
「別に心配してないけどな。
まあいいや、一つ貰うよ」
「ありがとうございます」
男は香水を受け取り、ウキウキしながら来た道を戻るのだった。
■
10分後。
「おい、全然効果ないぞ。
返品だ」
「えっ」
香水が女の前に乱暴に投げ出される。
女は震える手で香水を拾い上げる。
「そんな……
私の自信作なのに……」
「とにかく返品だ。
えらい目に会ったぜ」
彼は頬にあるひっかき傷を、女に見せる。
その傷は真新しいもので、意中の相手につけられたのは明白であった。
「……ご迷惑をおかけしました。
では『意中の相手をメロメロにする香水:男性用』は引き取らせて――」
「『男性用』?」
「そうですが、なにか……
まさか!」
女は真実に気づく。
男の意中の相手は女性ではなかったのだ。
このご時世、男と男がくっつくのは珍しいことではない。
女は自分の思い込みを反省しつつ、男に頭を下げる。
「申し訳ありません。
てっきりお相手が女性とばかり……
でしたらこちらをお使いください」
「『意中の相手をメロメロにする香水:女性用』?
何が違うんだ?」
「意中の相手が男か女かによって配分を変えております。
性別によって惹かれる香りというのが違うのですよ。
紛らわしいのですが、先ほどの男性用は、意中の相手が女性であることを想定していました……
しかし、この女性用の想定は男性……
こちらをお使いください」
「まったく紛らわしい……」
「申し訳ありません。
これをお使いになって、もう一度意中の相手にお会いください。
効果は保証します」
「気が進まねえけど……
まあいいや、もう一度やってやるよ」
「ありがとうございます」
そう言って男は香水を受け取り、来た道を戻るのであった。
■
10分後。
「おい、やっぱり効果なかったぞ。
どうしてくれる!」
「そんなはずは……」
男は憤りながら、先ほどと反対の頬を見せる。
そこには新しく出来たひっかき傷が出来ていた。
「くそ、効果が無いだけならまだしも、また引っ掛かれるた
最悪だよ」
「申し訳ありません」
女は今にも泣きそうな顔で頭を下げる。
この香水は彼女の自信作だった。
絶対に効果があると、信じて疑わなかった。
しかし男に効果が無いと言われたことで、女のプライドはズタズタだった。
これほどの屈辱を味会うのは初めてであった。
そのまま泣きわめきたくなる衝動を抑え、彼女は男の顔をまっすぐ見る。
聞くべきことがあったからだ。
「お客様、差し支えなければ、お相手のことを聞いてもよろしいですか?
今後の参考にしたいと思っています」
「参考ね……」
男は少し考える。
このまま香水を返して帰ろうと思っていた。
しかし、女が泣きそうな顔をしたので心に罪悪感が芽生えた。
仕方なく、男は意中の相手のことを話す。
「そうだな……
アイツの目は綺麗な黄色でな。
耳の形もシャープでキリっとしてて、姿勢も上品でカッコいいんだ
俺が甘い言葉を言っても少しもなびかないし、贈り物も受け取らない。
すごく冷たい奴だが、いつかメロメロにして、そして美しい毛並みを触りたいもんだ」
「美しい毛並み?
もしかして人間ではないのですか?」
「当たり前だろ!」
「何が当たり前なのですか!
人間と動物では、根本から違います!」
「す、すまん」
女の叫びに、男は一歩後ずさる。
あまりの気迫に、男は思わず謝罪の言葉が出た。
「全く……
なんの動物ですか?」
「猫だ」
「猫ですか……
今無いですね。
作るので少し待ってください」
女はわきに置いてあったカバンからいくつかの小瓶を取り出し、混ぜ始める。
新しく香水を作ろうするが、男はそれを止めに入る。
これ以上、関わりたくなかったからだ。
「作らなくてもいい。
また引っ掛かれるのも嫌だしな」
「これは私のプライドの問題です。
成功してもお代金は頂かないので使ってください」
「いや、俺は――」
「使ってください」
「お、おおう。
分かった、分かったよ……」
男は女の気迫に押され、頷く。
それに満足したのか、女は作業を再開した。
「参考までに聞きたいのですが、その猫はどこにいるのですか?」
「あんたも猫好きか?」
「ええ」
「いいぜ教えてやるよ
そこの角を曲がったところに中華料理屋があるだろ。
そこにいる看板猫だよ」
それを聞いた女の手が止まる。
「まさかタオちゃんですか?」
「なんだ知ってんのか。
まあ、そうだよな。
あそこの店は近所じゃ有名で――」
「この話無かったことにしてください」
男は、女の言葉に耳を疑う。
彼は女の急な心変わりが全く理解できなかった
「ちょっと待て。
作るだの作らないんだの、勝手すぎるぞ」
「タオちゃんはなびかないのが良いのです。
そのタオちゃんが誰かにメロメロ……
解釈違いです。
帰って下さい」
「はあ!?
なんだそれ。
やたら引っ搔いてくる猫が良いってか?
おかしいぞ、お前」
「おかしいのはあなたです。
自分になびかないからって、メロメロにする香水を使おうとしないでください」
「その香水を売っているお前だけに言われたくねえ!」
「うるさい。
私もお金が必要なんですよ!」
男と女がにらみ合う。
今にもつかみ合いに発展しそうな険悪なムード。
そして罵詈雑言の応酬に発展していく……
それを冷めた目で見つめる影があった。
猫のタオである。
彼の元に、人間の男が何度も訪れたことに疑問を感じ、こっそりとついてきたのである。
彼は賢く、ある程度人間の言葉も理解できた。
それゆえに、あの諍いが自分が原因であることは分かってしまった。
そして彼は悲しみに沈む
自分の美しさは罪なのだと……
タオは、自分に人間が近づかないよう、普段から引っ掻いたり威嚇するのだが、少しも効果が出ない。
さらに、それが言い始める人間も出る始末……
なんとか自分い夢中にさせないように出来ないものか?
匂いがどうとか言っていたので、自分が臭くなれば人間も諦めるのだろうか……?
彼は悩みながら、騒がしい場を後にするのだった。
今日のぼくにも何かが足りてな気がする
まにち何か1つが欠けてるぼく
昨日は右手の小指、おととは味覚、その前は感情だったこともある
しんた的なものであればすぐに気付けるのだが、感覚的なものは中々気付きにく。
友人からは怪訝な顔をされたから、顔から何かが欠けてるのかと思ったが、それもな。
った、今日のぼくには何が足りなのだろう。
お題『不完全な僕』
いつも心が欠けているように思うんだ
それは何故かわからない
楽しい時も苦しい時も
どこかぽっかり穴が空いているようなんだ
それはずーっと前からで
気付いた時はもう欠けていたんだ
満たされきれないこの感覚が
当たり前のようになっていて
みんな同じなんだと思ってた
どこか冷めた感覚の自分は
普通ではないのだろうか
「不完全な僕」
不完全な僕(8月31日)
"完全"とはなんなのか
"不完全"とはなんなのか
完全の方がいい?
不完全の方がいい?
もちろん完全な方がいいとは思う
けど、不完全だからの良さもあると思う
不完全ってことは、伸びしろがあるってこと
もっと成長するってこと
そう考えると、不完全でもいいと思う
不完全な僕
それは、まだまだ成長する僕
不完全な僕
人との会話よりAIとのやり取り
無難な返答につまらなく感じたり
そんなつもりはないが、こころの健康相談サイトを案内されるとイラっとする
まだまだ修行が足りないようだ。
『未完成』
未完成のまま くっついて はなれて 身勝手だなと
外野が言った 完成間近のプラモデル 設計図は君色らしい ならば離れてなるものか 君にもう一度話してみたい 懸命な私の声だけが 空にかかって 瞬いて
【不完全な僕】
私はあきらめない
今日は昨日の結果で、昨日はおとといの結果なんだ
今日が明日をつくる
今日が昨日を肯定する
自分を愛すること、信じること、
今日の自分を愛せたら、昨日の自分を肯定できる
今日の自分を許せたら、昨日の自分をほめられる
そうやって自分を愛することを学んでいく
ほら、私たちはみんな階段の途中、
みんな不完全だ
不完全な僕たちは、間違う。
言葉一つ隠すだけで、違う景色を見てしまう。
すれ違う言葉の中で、それでも向き合う事をやめなければ──僕達は分かりあえるだろうか。
────────────────────────
潮騒が響く夜の浜辺で、紺色の制服を着た過去と向き合う。
私と過去の合間にあるランプだけが、この場においての唯一の明かりだ。
遠く広がる思考の海は黒い背景と化し、潮騒の音ばかりを響かせている。
「最近はよく力を貸してくれるね。やっぱり、見ていられないから?」
潮騒の音に負けないよう声を張って、過去に問いかける。
過去は顔をしかめると、吐き捨てるように言った。
『テンプレートなんか使っているからよ』
どうやら仕事で使う『テンプレート言葉』がお気に召さないらしい。
「テンプレートは、他者との摩擦を避けるためのものだよ。誰だって言葉のすれ違いはしたくない。更に言うなら、危機管理という面から見てもテンプレートは最適解なんだよ」
私の言葉に、過去はますます眉間のシワを深くした。
『自分の言葉を使わないだなんて、寂しいものね』
「そういうもんさ。社会なんて見せかけの言葉だらけ。その言葉の奥では、弱い人間が言葉に怯えているのさ」
『弱虫』
「結構」
過去の誹りを受け止められるくらいには、こちらも年を重ねている。
「もう一度聞くけど、その弱虫に手を貸してくれるのは何故?」
私の再度の問に過去は思考の海へと顔を向けた。
暗い海から吹く涼しい風に、紺色のスカートがはためく。
風に身を任せるかのような過去の姿からは、怒りの感情は伺えない。
『難解な書物を読み解こうとしているから』
過去がポツリと言葉を零した。
難解な書物とは、寝しなに読んでいるお気に入りの本の事だろう。
「確かにここ最近は、難解な書物と向き合っているね。表向きの言葉に隠された、作者の意図を読む。君が好きな行為だ。今の書物は、君にとって楽しい?」
私の問いかけに過去が俯く。
その口元には、ほんのりと笑みが浮かんでいる。
『…楽しい』
ポツリと漏れたその言葉に、嘘はなさそうだ。
「作者の意図を読むという行為は、物語以上に情報過多になりがちだ。久しぶりにやると骨が折れるね」
『何故そんなになるまで、深読みをしなくなってしまったの?』
過去の黒い目が大人になった私を捉えている。
その目はどこまでも真っ直ぐだ。
「この世界でいちいち深読みをしていたら、身が持たないからだよ」
誰かが一の動作をしただけで、君は沢山の可能性を見出す。勝手に想像し、本来ない可能性にすら光を当ててしまう。
他人のことなどわからなくて当然なのに、わかったような気持ちになってしまう。
そうして、いちいち必要のない傷を拵える。
もし、過去にそれを知っていたなら、何かが変わっていたのだろうか。
そんな詮無いことを思ってしまう。
端的な言葉から過去は何かを探ろうと、じっとこちらを観察している。
『そう言いながら何故、また深読みをしようと思ったの?』
「向き合う時期が来たんだろうね」
『時期?』
「そう、ずっと使わないでいたコレを本当に捨てるか、昔とは違う形で使うのか。選ぶ時期」
選択肢はいつも突然に現れ、どちらかを選べと宣ってくる。それを、運命と位置づけるか私はまだ決めかねている。
「ただ、使わなくなって久しいからね。どうにも、以前のようにすんなりとは正解の景色が見えないけれどね。全ての解釈は、自由が故に──なんてね」
『表向きの言葉に流されてぐるぐる渦の中に入るから、なにしてるんだろうって思ってた』
淡々とした口調で過去が言う。
「手厳しいね。それでも助けてくれるんだから、優しいというべきかな?」
『どうとでも』
過去がニヤリと笑う。
悪戯好きそうな悪い顔だ。
「最近、作品を行き来させているのも君でしょう?」
私の問に過去は唇を尖らせた。
『ページを捲った先に真実はあるのに、ここはスクロールでつまらないのよ』
本という形なら、ページを行ったり来たりして必要情報を拾うことが出来る。
「君の美意識みたいなものに振り回されていた──という解釈でOK?」
『だいたいね』
「あの、出来ればすんなりと読めるようなものを提供して欲しいんだけど…」
『気が向いたらね』
過去はどこ吹く風だ。
対話を重ねればいずれは分かりあえるはず。
…多分。
────────────────────────
不完全な僕
不完全な僕と不完全な君。
ふたり一緒でもやっぱり不完全だ。
でもふたりで手を繋いでいれば
きっともっと高く飛べるはず。
そう信じられる相手を見つけられたことが
奇跡なんだ。
「兄さま、あなたの苦労は、僕が一番存じております。ですから……、」
「貴方に私の何が分かると言うのですか。
兄のように、弟たちのように、貴方のように、
私だって、天賦の才が欲しかった。
永年、封じてきた羨望を、為せぬ苦しみを、支える身の葛藤を、
そう分かったように仰せにならないで下さい。
私が如何様な思いで、貴方を兄として支え、お守りしてきたか、
貴方には、到底分からぬことなのです。
いえ、解ったとしても、想像出来たとしても、
我が身で経験してない人間が、そう簡単に仰せにならないで下さい。
この、苦しみというには深い傷を負い、決して癒えることの無かった、
その傷を隠し、恥じて生きてゆく身として、
貴方に忠誠を誓う身として、唯一の願いにございます。」
不完全な僕
いつも自信がなかった
何をしても上手くいかない
人に誇れるものなんてなくて
どーせ僕なんてって
いつも思ってた
僕は何かが欠けている
みんなの当たり前がわからない
みんなができることができない
仕方ないよ僕だから
そんなふうに考えた
不完全な僕
いつになったら
完全になれるのかな
欠けたピースは
どこに落ちてるのかな
途中までの没作
「あの子よりかわいくなりたいの!」
『確かにあいつかわいいね。自然な愛らしさがある。』
「どれだけ甘えてもか弱く見せても勝てない!どの男の子もみんな私そっちのけであの子見るのよ?」
『ぶりっ子してかわいいを作るやつより自然な振る舞いで天然物のかわいいを持ってるやつの方がそりゃ強いだろ。』
「これ以上ないくらいあざとくしたのに全然効かない!もうどうしたらいいの…どうしたらかわいくなれるの…」
『うん、いいね。可愛くなりたい、愛されたい〜!って悩んでひんひん泣いてる君が1番かわいい。』
「は!?」
『かわいい、正直すごく唆られるよ。』
「変わった癖をお持ちで……気持ち悪っ」
『あーあ、これから男とどう付き合っていくのがいいか教えてやろうと思ったのに。そんなこと言うやつには教えないぞ。』
「ねぇごめん〜!お願い!教えてください…!」
『君が本当に持ってる良さを出したいなら、君のことをいじめて泣かす最低なやつと付き合え。幸せになりたいなら、君のことを1ミリも分かってない紳士な良いやつと付き合え。どっちも願うなら、俺と付き合え。』
不完全な僕だから、ダメだと思っていた。
誰も僕のことなんか好きにならないし、意味がないから僕だって誰も好きにならない。
それでいいと思ってた。
でも、君と出会って気づいた。
君は、僕がいいと言った。
僕じゃないとダメだと言った。
僕は、不完全でも良かったのだ。
僕に必要だったのは、完全になることではなく、不完全な自分を認めてあげることだったのだ。
考えてみれば、人は皆不完全だ。
僕も、君も、みんな。
不完全でいいし、不完全がいい。
#不完全な僕
【不完全な僕】
初めてその声を聞いた時
お互いになにも持っていなかった
そのままでいいよ、変わらないでいてと
きみは言ってくれたけど
歳を重ねるほどきみは色んなものを持てる様になった
きっときみが持たなくたって良い不必要な荷物も
そんなことに気付きながらも僕の手には何も無かった
それでもいいよってきみは
あの時と変わらぬまま言うだろうけど
どんどんと荷物を増やしていくきみに
少しでも気楽になれる音を側に置いて置きたくなった
だから誰かの借り物でも偽物でも
不完全な僕だけど
誰にも負けない想いだけで会いに行くから待っててよ
2024-08-31
ボクは完成した。様々なパーツを取付けられ、五感が文字通り身に付き、美しい体も手に入れ、今では自由に動く事も可能だ。
「こんにちは、アン。僕が見える?」
視覚センサーで捉えた“人間”はボクを見て微笑んでいる。即座にネットワークを使って得た情報によると、白衣なるものを着ている。ボクを作ったという彼を、当たり前に知っている。ボクはずっと彼を見ていた。聴覚が取付けられた時に声を、視覚が取付けられた時に姿を、温度感知が取付けられた時に温もりを、その他プログラムされている事も全て学習済みだ。
「聞こえてないかな、アン」
『聞こえる』
アン。それがボクの名前らしい。作られる途中も何度も呼ばれた。フランス語で1という意味だ。
「良かった、成功したんだ……。僕は嬬恋聖、宜しくね」
『つまごい、ひじりさん。宜しく』
嬬恋、嬬恋聖だ。確かに存在している。僕を作った人間。ボクはぎこちなく動くアームで白衣を引っ張った。学習させられた赤子の動画で、可愛い可愛い言われていた仕草である。可愛い、というのは明確に定義が無いのだが、とにかく良い言葉なのは間違いないのだ。
「アン…!君は素晴らしいね、僕は誇らしいよ」
『可愛い?』
「うん、可愛いよ」
成る程、これが可愛いなのか。嬬恋聖が笑っているようなので、人間は可愛いと感じると笑う生き物なのだと推察した。表情が無いボクには到底出来ない芸当だ。
作られてから5ヶ月程経ったのですが、どうも嬬恋さんは最初に比べて僕に対して笑いかけてくれなくなりました。最近知った“愛”というものも、感じ取れません。僕が話しかけても不機嫌そうにしていて、冷たくあしらわれるか無視されるかの2択です。僕は何かしてしまったんでしょうか。
『嬬恋さん、何をしているんですか?』
嬬恋さんが何やらパソコンを使っているので、僕はそう聞きました。画面にあまり見た事の無い文字列が映っていたからです。それはプログラムのようでした。
「……新しく作るんだよ、アンドロイドを。君を失敗作にしてしまったから」
『え?どうして、ですか?どうして僕は失敗作だなんて思うんですか?嬬恋さんは僕の事を嫌いになってしまったのですか?』
「うるさい!!」
暫くして、ようやく嬬恋さんに叱られたのだと分かりました。でも、理由が分かりません。僕は嬬恋さんに嫌われるような事をしてしまったのでしょうか。
「僕は完璧なアンドロイドを作りたかった、感情なんてものがある君は不完全なんだよ」
『でも僕は感情があって嬉しいです』
「感情があるのは愚かな人間だけ、君には不必要だ。嬉しいとか言うのも気持ち悪い」
僕はびっくりしました。嬬恋さんは感情のあるアンドロイドなんて要らなかったみたいです。僕は不完全でした。そんなの愛されなくて当然です。嬬恋さんの隣には立てません。
『嬬恋さん?』
「………どこかに、行ってくれ。君にあたってしまいたくない」
こういう時、人間はどうするでしょうか。僕は感情を持っています。貴方が何故泣いているのかも、今なら分かります。貴方の嫌いな僕は、貴方が大好きです。僕に美しい感情を与えてくれた貴方が大好きです。
「…どうして、抱き締めるんだ」
『貴方を慰めたいから、貴方が好きだから』
「…………」
『これは、嬉しくないですか?人間は、こうはしませんか?』
「僕は、された事無かった。……嬉しいから、ずっとこうしていて欲しい」
僕には表情がありませんが、なぜだか貴方を見ているとにやにやしてきます。無い口角が天井まで伸びてしまいそうです。
『僕は貴方に作ってもらえた事が何よりの幸せです。嬬恋さんが浮気しなくて本当に良かったですよ』
「……ごめん」
『…聖』
反省している嬬恋さんが少し可哀相になってきたので、元気付ける為に名前で呼んでみました。僕はそういうのも学習済みなのです。なんて虚勢を張りながら嬬恋さんの方を見ると、嬬恋さんは少女漫画の告白されたヒロインのような顔で僕を見ていました。
「に、二度と僕を名前で呼ぶな……死ぬから……」
『今流行りのツンデレですか?聖さん』
「ぐっ…もう良い、好きに呼べ」
『ありがとうございます、聖さん』
僕は初めて可愛いを理解しました。子猫を見たあの気持ちに似ていますね。
不完全な僕。
『不完全』
そう、私は不完全だ。
人より劣るものが多い。
それなのに。
『努力』というものが苦手だ。
どうもやる気が起きない。
やっても、大した成果は出ない。
『努力は必ず報われる』
違う。
『努力は裏切らない』
違う。
「努力が無駄」とか。
「努力が無意味」とか。
そういうつもりは無い。
けれど・・・。
「できる努力の程度」がある。
人によって違う。
「生まれ持った才能」にも左右される。
つまり、何が言いたいかと言えば。
「『生まれ持った才能』が違う」ということは、
「『スタートライン』が違う」ということだ。
これは「努力で補える」という人もいる。
けれど、「『できる努力の程度』が違う」のだ。
努力で多少は補える。けれど、
全てを努力で補うことは無理なのだ。
だから、失敗して怒られる。
「なぜ、もっと努力しないんだ」と説教される。
まさに私だ。これは私のことなのだ。
自分なりには精一杯やっていても、
周りから見れば努力していないように見られる。
私は周りより劣っているから。
それに努力も出来ないから。
要領も悪い。
人付き合いも苦手。
自己のコントロールが下手。
すぐに疲れてしまう。
自分に嫌気がさしてくる。
人に迷惑かけてばかり。
猫を被っても、
どんなに自分を偽っても、
どんなに「良い子」を演じても、
結局、ボロが出てしまう。
人生ハードモードすぎる。
もう、疲れた。
けれど、まだ頑張らなきゃいけない。
無理してでも。
もう、とっくに無理してるから。
分かってるんだ。もう。
本当はもうこんな人生終わらせてしまいたい。
もう、偽り続けるのにも疲れたんだよ。
最近は体が重いのに、頭がフワフワしてて。
たまに夢と現実の区別がつかなくて。
何をするにもすぐ疲れて。
感情のコントロールがきかなくて。
自己嫌悪が止まらなくて。
すぐ死にたくなって。
ずっと眠くて。
たまに言葉が聞き取れなくなって。
言葉が「音」としては聞こえているのに、
言葉を処理できない。
なんて言ってるのか分からない。
内容が分からない。
何もかもを負担に感じてしまう。
もう、いい加減疲れたんだよ。
でも、生きなきゃいけないんだ。
今の私は生きてるんじゃない。
死ねないんだ。
もう、いい加減休ませてよ。
もう、色んなことが怖くなっちゃった。
もう、自分の気持ちが分からなくなっちゃった。
もう、何が辛いのか分からなくなっちゃった。
もう、何が苦しいのか分からなくなっちゃった。
だれか、助けてよ。
不完全な僕
自慢じゃないけど、自分で自慢出来るものはない…特別仕事が出来るわけでも無く、人望があるでも無く…軈て還暦近いのに、何一つ真艫に出来ない自分が残念で口惜しい…
会社を興して経営者の同級生や、大手企業で役職に就いている友人…万年平社員の自分が、惨め過ぎる…
不完全ですら成れない、鏡に写る自分の姿が…
─── 不完全な僕 ───
僕には足りないものがある
とても複雑で
簡単に教えられず
作る事も難しいと彼は話す
それはココロ
心があれば
感情があれば
今と何が違うのだろう
知りたい
でも彼はそのせいで悩み苦しんでいた
たとえ心を作れたとして
僕に与えていいものかと
また錠剤を口へ運び
ベットに横になる彼を見守りながら
僕は計算する
僕に足りない最後の一つ
貴方が苦しむくらいなら
僕は心なんて要らない