『七夕』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「初めまして。こんばんは」
静寂を乱す、囁き。
前触れなく、気配なく聞こえたその声に、黒い化生の男は反射的に距離を取る。
「っ誰だ」
問うても、声の主は黙したまま。
その異様な風姿に、知らず眉根が寄った。
小柄で華奢な体躯。腰まである長く艶やかな黒髪。灰梅色の紬。
女、だとは思われる。
だがしかし、紬から覗く肌を余す事なく覆うように巻かれた呪符が容貌を隠しているが為に断ずる事が出来ない。
気配が薄い。まるでそこに何もいないような曖昧さに、巻かれた呪符が封印符だと気づく。
封じられているのであれば、見る事も、聞く事も、況してや話す事も出来ぬはず。
なれば、先ほどの声は、と。
その違和感に周囲を警戒するが、既に手遅れであった。
「陰陽捕縛。急急如律令」
呪符の巻かれた何かとは対角の。黒の化生の男の背後より聞こえた声に、男が身構えるより早く。放たれた呪が男を縛り、その場に縫い止める。
「無礼をお詫び申し上げまする。されど今宵は言葉を交わす刹那すら惜しい故に」
ゆるりと歩み寄る影。月明かりに浮かぶその姿は、化生の男よりなお黒い。
黒髪、黒眼。身に纏うすべても黒く。柔和な表情が異様さを際立たせていた。
「時とは有限刹那。況や今日という夜に於いてをや」
笑みを湛えた影からは敵意も悪意も感じない。だがその凪いだ気配が逆に警鐘を駆立てる。
距離を取ろうにも動かぬ体。声すら出す事も許されず、男は胸中で歯噛みした。
このまま祓われるのか。術師の装いをした、目の前の影に。
不意に影が立ち止まる。距離にして五歩。
その視線は男ではなく、その背後へと向けられて。
「痛みなどはありませぬ。刹那に終わりますれば」
影の言葉が終わると同時。
ぷつり、とナニカが切られる感覚。
痛みは、ない。ただ切られたという感覚と、喪失感。一つに混じり合っていた歪が、正しく二つに戻るような。
「解」
呪が解け、崩れ落ちる二つの体。
黒の男。白の少年。
惚けたように男を見つめる少年の金の左眼が次第に膜を張り、一筋涙を溢す。
「兄、さん…兄さん。兄さんっ!」
泣きながら縋りつく。
久方ぶりに感じる愛しい熱に、男はその小さな背に触れ、搔き抱いた。きつく、離さぬように。
そして弟を抱いたままに跳躍し、距離を取る。
「何が目的だ?」
「ただの密やかな礼だ。妹の眼を引き受けてくれた事への、な」
問いに答えたのは、影。
しかしその声音も口調も、先程までの影とは程遠く。最初に聞いた、女のそれだった。
「オマエ達は何だ?」
「さてな。死したもの。生の残滓…好きに断ずれば良い。敢えて付け加えるとすれば、愚弟から逃げ回る姉だったもの、か」
女の声音で淡々と言葉を紡ぎながら、影は呪符の女へと近づき、呪符越しに頬を撫ぜた。
「斯様な詮無き事などよいでしょう。大切なのは、この呪は今宵限りのものであるという事です」
振り返り、白と黒の兄弟に視線を向けながら、今度は男の声音で影は語る。
「今宵は別たれた者らが逢瀬を許された、唯一の日。その呪は伝承を擬えております故、日が昇れば呪は消え、再び一つと成る事で御座いましょう。故に私らに心を傾けるよりも、御兄弟で語る事の方が有意義ではありませぬか?」
影の言葉に息を呑む。
互いを抱く腕に、知らず力が籠り。
しかし白の少年は呪符の女を見つめ、微笑んだ。
「あの子の、お姉さん。ありがとう。兄さん、いっしょ、嬉しい。ありがとう」
「泡沫の夢を楽しむといい…あぁ、それと」
影を介して言葉を紡ぎ。呪符に封ぜられながらも、隙間から覗く金の瞳は確かに兄弟を見据え。
その金がゆらり、と揺らめいた。
「妹より先に鴉を探すといい。あれは名付け親だ。あれを納得させねば妹には逢えぬ…心配ならば愚弟共を使え。対価として今宵の話を出せば喜んで応じてくれるだろうよ」
「…いいの?あの子、いっしょ。いいの?」
期待と不安を混ぜ、白の少年は尋ねる。黒の男は何も言わず、ただ食い入るように呪符の女を見つめていた。
「それは妹御にお聞きくださいませ…それではこれにて失礼させて頂きます。参りましょうか、愛しき吾妹」
影は笑い、呪符の女を抱き上げる。
何か声をかけるより早く、その姿は夜の闇に消え。
後には、何も残らずに。
「兄さん」
ぽつりと呟く声。
しがみついたその腕は、離れる事はなく。
「お話、聞きたい。昔、昔のように。たくさん、たくさん」
「そうだな。話そうか…夜が明けるまで」
二人でいられる間は、と。
兄は弟に語る。いつかのように。
夜の静寂に、か細く甲高い鳥の声が響いていた。
20240708 『七夕』
七夕って、読めなかったんですよね。
今でもどうしてこれが「たなばた」と読めるのか分からない。
そこで調べてみたんですが、もともとは中国の習俗で、五節句の一つの「七夕(しちせき)」で、すでに牽牛・織女伝説。(他は人日、上巳、端午、重陽)
この習俗が奈良時代に伝わって、宮廷ではこれに古来の「棚機つ女(たなばたつめ)」伝説を結びつけ、民間には近世から伝わった、らしい。
つまり、「七夕」(しちせき)と書いて「たなばた」(棚機)と読む。
「七」が「た」なのか、「たな」なのか、「たなば」なのかなんて超越した読み方で、差しずめ現代では「本気」と書いて「マジ」、もしくは「三連星」と書いて「ジェットストリームアタック」と読むような言葉らしいです。
会社ビルの屋上。
夜中は昼間とは違って静けさもあるがビルの明かりが邪魔をして星空は良く見えない。
毎年この日は雨の事が多いが今年は晴天。空がよく見える。
暫く空を眺めていれば目が慣れてきてそれなりに星も輝いて見えるようになってきた。
織姫と彦星は今頃、仲睦まじく過ごしているのだろうか。
生憎、私の想い人は任務できっと今日は会えないだろう。
仕事でほぼ毎日顔を会わせているし、イベントをお互い指折り数えているタイプでもない。でもこうして1人でいると今日は会いたかったなとか、楽しかった事、悔しかった事をメールじゃなくて直接伝えたいな、なんて少しセンチメンタルになる。
「…会いたいな」
私の好きなあの声で名前を呼んで欲しい。
ちょっとふざけた声も、真剣な声も、任務中に時折聞ける凄く低い声も全部全部大好き。
そう思えば会いたい気持ちは膨らむばかりでどうしたものか。
1人寝転がり空を見上げる。あれから時間も経ち、ビルの電気も減ってきた。目を閉じれば風の音、気持ちがいい。
なんだかこのまま寝てしまいそうだ、そんなことを思っていたらコツ、コツ、と足音が聞こえる。
「こんな所で寝てたら風邪引くぞ、と」
目を開けると視界いっぱいに広がる星空と会いたくてしかたなかった大好きな赤髪の彼。
「レノ、今日は任務じゃ…」
「思ったより早く片付いてな。どうせ俺が最後だろうから戸締りに来たらお前がいた」
隣に座り私の頬をひと撫でするその表情は胸が苦しくなるくらい愛しい。
「レノ、おかえり」
「ただいま」
「今日ね、会えないと思ってたから凄い嬉しい」
頬に添えられていた手を取り離れないでとばかりに握ると彼は体を私に寄せて軽く口づけをくれる。
「俺もだぞ、と」
その後は暫く2人で星を眺めた。
短冊は飾らなかったけど私の想いが届いた気がした。
-七夕-
笹の葉が揺れた。さらさら、しゃらしゃらと擬音の表現一つにも夏の夜に求める涼やかさが現れている。
ふ、と夏の夜というものに六月にあった夏至を思い出した。夏至の日の前夜、ミッドサマーイヴ。恋人たちのから騒ぎ。
ハロウィンと並び、隣の世界との境界が曖昧になる日だ。
四葉のクローバー、銀のコイン、まぶたに乗せて隣人を目にする、というのは今も神秘が眠る竜の国の話だったか。
目の前で、足を組んで行儀悪く、それでも指先の所作は優雅に紅茶をすする人物を見やる。不機嫌そうな割に唇を吊り上げて見返されたので、考えてもいなかった日本の七夕伝説の話を振った。
運命の人がいるというのはどういう感覚なんだろうと。
ぱちり、と長いうわまつ毛を上下させてカップをソーサーに置いてみせる目の前の人物に、地雷だろうとなんだろうとずけずけ聞ける間柄というのは心に負担がなくていいなぁと、今度は自分がカップの中身をすする。
親しき仲にも礼儀ありなんていうのは、互いの中には何もない。傷つけあっての今がある。
自分にそれを聞くのは、生まれた時から親がいる子供に、親がいるってどんな気持ちと聞くようなものだと答えられた。
なるほど、それはどちらにしろ理解できない。
現代人は織姫と彦星はただの恋に熱をあげ、責任を放棄したなどというが、それだけ運命が遠ざかっているのかもしれない。
未来のことも目に入らず、お互いのことしか考えられないのは運命なのだろうか。何千年経っても一夜の逢瀬のため一年待つ夫婦星なんて物語にしか夢みれないのか。
恋でお互いに身を滅ぼすってどんな気持ちだろうな。
さらさらと、コーラスというには静かすぎる葉擦れの音にのせて有名なオペラの歌詞を、知っている部分だけ口ずさむ。
このポットを空にしたら、嫉妬や独占欲なんていう激しい感情を起こさせる恋がどんなものか、目の前の捻くれ者に聞いてみよう。
すみません!色々あってかけなかった分は下に書いときます!
創作)番外編1話 七夕
--2024年7月7日--
前古望叶:やっぱ人多いねー、、疲れない?
前古志音織:大丈夫…疲れても来たかったもん!!あっちは七夕祭りなんて無かったし…!!
望叶:まー、それもそーだね♡
志音織:一々ハートつけんなよ
望叶:ブラコンにさせた志音織ちゃんが悪いー
志音織:責任転嫁すんなよ、、まぁ俺がブラコンなのは兄ちゃんのせいだからねー
望叶:え…?真似してくれるの嬉しい…ブラコンなんだね♡
志音織:はー…(そういうつもりで言ってないけどな…、まぁブラコンなのは認めるけど)
望叶:あー!!!願い事書きに行こうよ!!
志音織:え?ちょっと…!
--
志音織:書けた!!
望叶:俺もー、、(上の方に吊るそ…)
志音織:…なんて書いたんだ?
望叶:え?いや、大した事は書いてないしな!
志音織:何で高い所に吊るすんだよ、、見えねーじゃん
望叶:別に見えなくても良いよー💦
志音織:よくねぇ!!自分は背が高いからって!!
望叶:……(もっとブラコンだと思われたら恥ずかし過ぎるよ…)
創作)番外編2話 友だちの思い出
--2028年4月6月--
鈴岡莉音:カフェ楽しみですね…
新島唯:うん……あのさ、同性愛者ってどう思う…?
莉音:え?えっと、どうも思わないですよ、僕もずっと千尋くんしか見て無かったし、、、えっと同性愛者なんですか?
唯:…同性ばっかり好きになっちゃって…
莉音:成る程…
唯:あのさ、これから一緒に色々なカフェ巡ったりしたい…!
莉音:え、、別に良いですけど、ライバルから友達になるんですか
唯:…俺、お前と、、友達とか、親友以上の親密な関係になりたくて…、お前と友だち同士の時の思い出は好ましくない…
莉音:…、そうだったんですね、、分かりました、少し考えさせて下さい
唯:ごめん、、我が儘で…
莉音:そういうところが可愛くて良い所だって言う人も居るんじゃ無いでしょうか
唯:…ありがとう……
(唯×会長=愉快組 唯+"会"長(愉快で楽しそうなのもあります))
創作)番外編3話 星空
--2026年8月12日--
鈴岡時咲:あ、望叶さん、お久しぶりです
前古望叶:あ、、お久しぶりです(誰だろ…)
時咲:今日は星が綺麗ですね
望叶:え、そうなんですか?
時咲:えぇ、一度見てみては?
望叶:あー、すみません、、僕色々あって盲目になったんです
時咲:え、そうだったんですか、ごめんなさい…あ、じゃあ俺のこと分からないですよね、、莉音の兄です、莉音が2年前にお宅にお邪魔してたり、同じく2年前に祭りで会ったりしましたよね
望叶:あー、時咲くんね!!知らない人かと思った…
時咲:あー、伝わって良かったー、
望叶:…?あ、ところでめっちゃカレーの匂いするよねー美味しそう…(鼻は結構良いんだよなー)
時咲:え、ウチなんだけど、そんなに臭うかな…
望叶:え?そうなの?!めっちゃ美味しそうな匂いだよー
時咲:あ、本当?夜まだならウチで食べる?
望叶:え?良いの?
時咲:はい!来ちゃって下さい!!あ、手貸して、誘導するよ
望叶:あ、ありがとう…
--
望叶:え?なにこれ、美味しい!!時咲くんが作ってるの?
時咲:いや、俺は匂いが分からなくて、味見してって言われても味分かりにくくて、だから料理が無理で莉音が……
望叶:え?そうなの?ごめんね、、
時咲:いえ!全然!!でも結構辛いですよー、そりゃ他の障害に比べて楽とは思われますけど、小学生の時、煙の匂いに気付かなくて足に火傷の跡を残しちゃったし…目は良いけど…
望叶:え、そうなの…てか楽なんて思わないでしょ、、障碍者である事に変わりはないし
時咲:優しいね、、望叶さんの誕生日っていつ?
望叶:え?10月23日だよ、天秤座!
時咲:あ、そうなんですか!!俺10月24日のさそり座で、天秤座は金星に例えられて、さそり座は火星に例えられるんですけど、金星は女性で火星は男性で相性が良いらしいですよ
望叶:そうなんだ!よく知ってるね
時咲:こう見えても理科の教師目指してたんでよ、、諦めましたけど
望叶:そうなんだね、僕たちは似てるのかも、相性が良いのかもね
時咲:そうだったら万々歳だなぁ
望叶:え?
時咲:あ、いや何も無いよ、ごめんね
望叶:なら良いんだけど…
(番外編の時系列、今日もこれからもめっちゃバラバラなんですよ…なので日付ちゃんと見てくれたら嬉しいです!)
七夕
七夕や眼鏡を捨てて歩く姫
ウォッカは凍らして飲む星の夜
笹飾りベテルギウスよはよ爆ぜろ
(書けないので適当に俳句書いて保全
7月7日、七夕
後程編集するので少々お待ち下さいm(__)m
七夕
七夕に願ってなんになるんだ?そう僕は思う。
織姫と彦星が会うだけで願いが叶うなんて意味が分からん。再会と願いが叶うは全くの別物だ。
なのに町中には笹と短冊、ペンが置かれていた。
(こんな行事をしてなんになんだろうか。)
そんな事を立ち止まって考えている間にもたくさんの人が書きにくる。
ある人は親子で、ある人は1人で、ある人は友達と、書いていた。当たり前のように小さい子から大人までいた。真剣に書いている人や楽しく書いてる人、中にはとても初々しい2人までいた。
皆、書いたあとは満足気でどこか笑顔だった。
(こんなの願っても意味がないって大人は気づいていないのか?)疑いと呆れが混ざった感情にただ考えることしか出来なかった。
七夕
『死柄木弔は、志村菜奈の孫だ』
ららぽーと東郷で、10種類中の、すごく欲しかった
5種類ヒロアカうちわ(敵連合、緑谷、爆豪、轟
オールマイト)
もらった
運、徳を貯めといて、そこで、運、徳を使ってよかった
いらっしゃいませ
今生きているから、自分の人生は、自分で行動して
自ら動かす
生まれ変わったら芸能人になろう
いやいや、芸能も大変だぞ?
いろんな服着れるし、もしかしたら、ドレス、白無垢
十二単も…
人気者にもなれる
いやいや、裏切ることをしたら、一気に干されるよ?
容姿
容姿端麗じゃなくとも、自分自身が好きなパーツ
あるじゃないか
私の理想だった唇は、新川優愛のような唇に
なりたかったな
いや、自分は山本舞香みたいな唇じゃないか
唇も褒められたじゃないか、
自信持って言えるよ
自分の唇が好きだと。
【七夕】
たんざくに
ないしょの願い
ば(は)やくあいたいな
たいせつなあなたに
縦読み
短冊は裏表を使って、ふたつ願い事を書いた。
今年の7月7日は日曜日だったから、と一日遅れで
配られたそれ。「うちの生徒会もテキトーだな」なんて
ぼやきながらも、結局みんなちゃんと書いている。
受験生として進路関係のことが多くなるかと思いきや、
「それじゃ他と被ってつまんないから」と、あれこれと並んだ言葉の数々が愛おしいですね。
本当に、さみしい。
7月だという自覚は、終わりまでの時間をひしひしと
感じさせる。
だからかもしれない、あんなことを書いたのは。
○「あの子」がいっぱい笑って卒業できますように
#30 七夕
「七夕」
七夕が終わり短冊が回収されていた。
僕は願いを描かなかった。
願いで終わらせたくないから。
ちゃんとそれを実現させたい。
『七夕』
深い紺色の空を、無数のカササギが飛んでくる。白と黒に分かれた翼に瑠璃色の尾羽。
やがてそれは列となり、一本の細い橋となった。煌めく星々の中でも、くっきりと浮かび上がる。
――今年は晴れているから、橋はかからないと思っていたのに……
天の川の水が溢れずとも、必ず渡れと言うことか。
一歩、踏み出す。
その美しい羽根に足を乗せる。
一歩、また一歩。
もう、こんなことをしなくてもよいのに。おまえたちの翼を差し出さなくてもよいのに。
健気なカササギたちは、踏まれてもなお「ウレシイウレシイ」と羽根を震わせる。
これは紛れもない罰なのだ。
それに気づいたのは、どれほど経った頃だろう。
長い年月をかけてゆっくりと変貌する自分たちの有り様を、こうして確認させているのだ。
側に居れば、愛を育めた。
会わずに居れば、思い切れた。
そのどちらでもない自分たちは、この関係に倦んでいくだけ。
彼は気づいているのだろうか。
かつて愛した、あの男は……
『留年しませんように』
『りんちゃんと結ばれますように』
『私以外の願いが全部叶いませんように』
校舎の玄関ともいえる出入り口の大きなスペースで、吹き抜けた構造になっている2階から一階にかけて七夕シーズンは大きな笹が垂れ下がる。
ちらりと見ていた掲示板にかかっていた笹の葉には不毛な願い事ばかりが書かれていた。1個目と2個目の願い事はともかく、3個目の願い事はいいのかこれは、と思わず突っ込みを入れ、苦笑した。
「っと」
背中に急に衝撃が加わり、思わず姿勢を崩しかける。すみません、と小さく囁かれた声は女子のもので、なんだか聞き覚えがあった。
「部長」
急いでいるらしく、そのまま走り去ろうとしていた姿が止まり、勢いよくこちらを向いた。黒いロングの髪におそらくいつもの友人に飾り付けられたちょっと不細工で愛嬌のある猫のヘアピン。少し垂れ目の瞳に、随分前、私ねーフラれたんだー…と天文学部の小さな部室で机に突っ伏せながらそうこぼしていたことを思い出す。
「あ、ああ、久しぶり」
「久しぶりですね、受験大丈夫そうですか?」
うーん、どうかな、と苦い笑みを浮かべた部長が首を傾げる。とうに授業が終わった放課後にはほとんど人がおらず、玄関口も閑散としていた。夕焼けに染まる校舎の中で、部長のカバンからは、システム英単語、と書かれた参考書が飛び出していた。おそらく、生徒下校の最終時刻の今までどこかで勉強していたのだろう、と悟る。
多分、もうあんまり余裕はないのだろう。引き止めるのも悪く思えて、天文学部ももう活動するのも無理そうだな、と諦めたような感想が広がる。
「じゃあ、頑張ってくださいね」
「はーい、ありがとばいばい」
その感想をいつも通りの笑顔に押し隠して、軽く頭を下げると彼女も逆光で顔が見えないまま、その輪郭が手をこちらに振りかえした。
「んで、お前あれどうなったんだ」
あー聞こえない聞こえない、と耳を両手で防ぎ聞こえないふりをした加菜瀬をじとりとした目で見つめる。…その数秒後。諦めたように目の前のアイスココアをストローでつーと口をつけた。
「安心して! 中間までの提出物は出し終わった!」
「どこが安心できると?」
全く安心できない。今は期末が終わったばかりで、本来期末までの提出物も出し終わっているはずだし、留年はしたくないとぼやいていたくせに。
そう告げると彼は笑いながらまあまあ、とこちらを落ち着くように宥めた。
「言うてあんまり留年せずに済む気もしないけど、七夕の短冊にも留年しないようにって書いといたし、こうして波多に手伝ってもらってるんだからきっとなんとかなるよー」
ほら、と加菜瀬の手が指し示したのは、目の前のカフェの机に散らばった提出物の山で。今からこれを片付けるのか、と思うと気が滅入ってはあ、と俺はため息をついた。
『……そう言う訳で、今年でおそらく廃部になる気がします。新入部員が入らなければ、ですが、現状一人も入っていませんし厳しいでしょうね…。夜分に失礼いたしました。具体的な話はまた明日に。』
伝達事項を一通り書き終えると、ふう、と息をついて、手元に淹れておいたコーヒーを飲む。夏らしく暑い昼とは違って、夜はやや蒸し暑いが、昼ほどではない。椅子の背もたれをあー、と倒しながら上の天窓を見上げる。
深夜11時の夜空は、どこか麻痺したような紺の色で覆われている。そのことになんとなく、今日が七夕だということと、昼や放課後の会話を思い出した。…受験シーズンが迫っていて、部活どころではない部長に、提出物に追われている加菜瀬。学校の短冊の、幼い頃にきらきらと目を輝かせながら書かれた浮世離れた願い事とはとは違い、どこか諦めと希望を持ちながら現実的な願い事たち。
来年は俺も部活やら受験はどうなるかな、とぼんやりと思う。どんどん大人になっていってるな、と冷静に思いながら、みんなの願い事が叶いますように、そして部活に新入部員が入りますように…と願う。目を閉じると、何も視界には見えなくて、それがどこか安心してほっと気が抜けた。どうか彦星と織姫が出会えますように。そう願った口元にはいつの間にか小さな笑みが浮かんでいた。
七夕
「ニャーン」
「おっクロ!元気だったかあ」
近所に、たまに出会う黒猫がいる。
名前はクロ(安直)。
黒猫は嫌がる人もいるが、俺は好き。
あの黒い毛並みを撫でまくって、
艶々のキューティクルクル(?)に
してやるのだ。
クロは人懐こくて、
かなりクルクルに近づいてきた。
そんな楽しい日々。
だったのに。
…最近見かけない。
ゴールデンウィーク頃から。
テリトリーを変えたのか、
はたまた追い出されたのか。
もしかして暑いし、衰弱して…。
いやいや!クロに限ってそんなことは!
そんなことは…。
スーパーや駅などで、
笹と短冊のコーナーが
設けられる時期になっても、
クロに会えない。
おっさんは悲しい。クロに会いたい。
そんな気分を誤魔化すために、
今日もコンビニで酎ハイを、
プシュッと開けて、呑みながらの帰り道。
「クロ!」
なんとクロが道の真ん中でお座りして
俺を待っている。せっかくの酎ハイが
ごろごろとアスファルトに転がる。
「良かった。良かったなあ、クロ」
しかしクロはつれなく道の傍らの
古びた物置小屋に入ってゆく。そして。
子猫を1匹ずつ咥えてきて
俺に見せてくれた。全部で4匹。
柄は様々。黒猫もいる。
「…」俺は言葉にならない感動で
いっぱいだった。
そして以前から調べていた保護猫団体に
その場で電話を入れたのだった。
もちろん、俺が引き取るつもりで。
これが七夕の神様(?)の
引き合わせってやつかあ。
俺は電話の後、パンパンと天の川に向かって
柏手(かしわで)を打つのだった。
合ってるのかどうかは知らない。
仕事上関係のあった人が、七夕を待つようにして亡くなった。
もう高齢だったし、病気もあって前から徐々に弱ってきてはいたけど、思ったより早く彼方に往ってしまって驚いた。
まあでも、七夕の日を選んで亡くなったってことは、星の世界に待っている人がいたのかもしれないね。
(七夕)
七夕
昨日は七夕でしたね
みんなコミュで投稿してました
私も投稿しました
「誰かの幸せが続きますように ハス」と
「嫌いな人がくそになりますように ハス」とね
短冊書きました?
どんな事書きました?
気になるなぁ
【星に願いを】
願いごとを書いた短冊が
ぬるい夜風に揺れている
闇を忘れたアーケード街のきらめきが
天の川の星々を残らず喰ってしまった
そんな、都会の空に、
何の期待もしてないのに
ふと手渡されてしまった短冊に
ぽつんとした願いごとをしたためた_
/七夕
笹の葉 短冊 願い事
この時期の空にはきれいな星
なんて楽しかったのも 楽しみにしていたのもきっと子どもの頃だけ
いつからかこの時期はまだ梅雨があけないジメジメした暑さと夏本番への準備期間になった
何時からだろう 空を見上げなくなったのは
何時からだろう この日を特別視しなくなったのは
何時からだろう 短冊に願い事を書かなくなったのは
幼い頃 七夕祭りだ とはしゃいだ子供はいつしか大人になり騒がなくなった
織姫様と彦星様はね~ とキラキラと目を輝かせながら話す子供はいつしか大人になりおとぎ話をしなくなった
今年はどんなお願い事をしましたか?
願い事を「ただの祈り」として目を背けていた
純粋に願い事を短冊に書いたあの頃に戻りたいと思ってしまう これもまた「願い事」なのだろうか
#七夕
七夕_63
キミが彦星で
ワタシが織姫なのは少し違う気がする。
だって、一年に一度しか会えない
っていう縛りを無造作に付けられて、
知りもしない人の願いを叶えられるのを
見送りながらキミと会う時間は
ほんのわずかしかないんでしょ?
意味がわからないわ。
それに短冊に書かれる願いなんて
半分くらい恋愛ものでしょう。
それならばワタシは来年から、
下の世界でもいいから短冊に願いを書いて
夏らしいことをして、のんびり暮らしたいわ。