『七夕』
深い紺色の空を、無数のカササギが飛んでくる。白と黒に分かれた翼に瑠璃色の尾羽。
やがてそれは列となり、一本の細い橋となった。煌めく星々の中でも、くっきりと浮かび上がる。
――今年は晴れているから、橋はかからないと思っていたのに……
天の川の水が溢れずとも、必ず渡れと言うことか。
一歩、踏み出す。
その美しい羽根に足を乗せる。
一歩、また一歩。
もう、こんなことをしなくてもよいのに。おまえたちの翼を差し出さなくてもよいのに。
健気なカササギたちは、踏まれてもなお「ウレシイウレシイ」と羽根を震わせる。
これは紛れもない罰なのだ。
それに気づいたのは、どれほど経った頃だろう。
長い年月をかけてゆっくりと変貌する自分たちの有り様を、こうして確認させているのだ。
側に居れば、愛を育めた。
会わずに居れば、思い切れた。
そのどちらでもない自分たちは、この関係に倦んでいくだけ。
彼は気づいているのだろうか。
かつて愛した、あの男は……
7/8/2024, 9:01:13 AM