『きらめく街並み』
十二月に入ると、街のあちこちが美しく飾りつけられる。
眼福眼福と歩きながら眺めているけれど、そういった派手さのない、ささやかに飾りつけられた民家も好きだ。
住人の為人が見えるような気がする。
見て!見て!と強く自己主張しているもの。
あの、えっと、そういうつもりはないんです、ただちょっと、いつもより少しだけオシャレにしたいなって
という感じのもの。
特にはそういうのに興味はないんですけどね、まあ、強いて言えば、ここのところね、ココ、これがちょっとしたこだわりでね、と一点に絞ったもの。などなど。
そんな街並みが微笑ましい時期。
『秘密の手紙』
秘かに仕舞われていた
密書に認められたソレ
のぞまぬ内容に腹立ち
手でカサリと握り潰す
紙の古びた匂いがした
『冬の足音』
師走に入ってもまだ少し暖かかったのが、昨日今日とで急に寒くなった。
昨夜は雹が降った。
カタンコトン、パラパラパラ。
雨予報が出ていたけれど、これは雨の音じゃないなと外に出てみたら、黒い道路に白い真珠みたいなものが無数に転がっていた。
手のひらに乗せても、ちっとも溶けない。
豆撒きみたいに道路に投げて、また部屋に戻った。
カタンコトン、パラパラパラ。
雨音よりも硬質で、冷えた音がした。
『霜降る朝』
霜柱が立つにはまだ早い。
けれどそろそろ朝がつらい。
湯沸かし器のスイッチを入れないと、顔を洗う水が冷たい。
窓にはうっすらと結露がつき始めた。
家を出ると、自転車のサドルが白くモヤって見える。
――霜かぁ。
カゴに入れてあるタオルで拭くけれど、座ると冷たくてお尻のあたりがしっとり湿るんだよなぁ。
今日は帰りに綿入りのサドルカバーを探しに行くかな。
『心の深呼吸』
今日もまた、締め切りに追われている。
スマートフォンの通知を切って、キーボードに向かうけれど、何も出てこない。
家の電話が留守番音声を流している。担当者がメッセージを吹き込む声が途切れ途切れに聞こえる。
ごめんよ、編集さん。
でも、まだデッドラインじゃないと知ってるんだ。
この原稿を渡さないと、後の作業にシワ寄せが行くのも分かってる。
校正さん、印刷所さん、ごめんよ。
作業が徹夜になるかもしれないよね。本当にごめん。
でも、本当に、なんにも出てこない。
焦っちゃダメだ。追い込まれて本領を発揮するタイプじゃないし。
どうしよう、今度こそ本当にダメかもしれない。
いろんな人に迷惑かけちゃう。
どうしようどうしようどうしよう。
ギュッと目を閉じ、体を丸める。
手のひらの汗が凄い。
ダメだダメだダメだダメだ。
どうしようどうしようどうしよう。
息を吸って、吐いて、吸って、吐いて。
嗚呼――もう、どうにでもなーれ!
目を開けても、世界は変わっていない。
だけど、何かのスイッチは入った。
実は逆ギレするタイプ。
ふざけんなって思う。
やってやんよ!ぶっ飛ばしてやんよ!
そんな脈絡のない闘志を纏って、キーボードに指を乗せた。