Open App
4/11/2025, 7:11:20 AM

『夢へ!』

新人が入った。
人の移動がほとんどない職場なので、大変珍しいことだ。
憧れてなる職業でもないし、どういう経緯でやってきたのかは聞かないつもりでいたのだが。

「ずっとこの仕事に憧れてました!夢が叶ってうれしいです!」

驚いたことに、新人は喜色満面の笑みを浮かべて仕事道具を振り回している。

こらこら、やめなさい。危ないから。
それと、まずは刃を研ぐところからだから。
綺麗にスパッと刈り取れるように。
現世の未練を断ち切ってやれるように。

「かっけぇ〜」とか言って決めポーズをとるのは、それ、後で君の黒歴史になるからね。

実際のところ、そんな悠長な時間はないのだ。
この地球上で、日々どれほどの死者を迎えに行かねばならないことか。
1日のノルマを聞いたら腰を抜かすだろうなと思いながら、手にした大鎌を見つめた。

4/4/2025, 1:16:53 PM

『桜』

桜は人の心を狂わせる。
いや、正確に言うなら、日本人の心をざわつかせ惑わせる、か。

なぜ私たちはこんなにも桜の開花に一喜一憂し、はらはらと散る様子を惜しみ愛するのだろう。

狂信にも似たそれは、もはや愛でるというレベルをとうに超えている。
桜の下に屍や鬼の姿を幻視し、そこに張り詰めた虚空を見る。

望月の晩に満開の桜の下で息絶えたいと願った歌人の気持ちがわかってしまう私は、そういった彼らと同類なのだろう。

一輪の桜は可憐でやさしげな花なのに、桜の木を見上げると清々しさと妖しさを感じる。

特別な色をしているわけでもなく、
特別な形をしているわけでもない。
けれど――
ただの花であるはずがない。
ただの花でいさせてはいけない。

そんな気がして、桜に何かを添えたくなるのだ。
例えば、あの淡い薄紅色の花びらに、深紅の血痕がついていたら――とか。

嗚呼、しづ心なく花の散るらむ。

4/3/2025, 8:58:09 AM

『空に向かって』

ラジオ体操は、実に効率の良い有酸素運動だ。
今年に入ってから、毎日ラジオ体操を続けているおかげか、最近は体の痛みや怠さが和らぎ体調が良い。

ところで、ラジオ体操第一の始めの動き、「両手を上にあげて背伸びの運動」は深呼吸と間違えられやすいそうな。

私はいつも顔を上げ、両手をぐうっと出来るだけ上に伸ばしている。
空に向かって。

単純に、気持ちがいい。
よし今日もやるぞーって気になる。

4/2/2025, 9:45:21 AM

『はじめまして』

新入学でも新入社でも、年度頭によくあるのが自己紹介。
あれが苦手で苦手で。

名前言うだけじゃダメなの?
趣味とか好きなものとか、そういうのは日常の会話の中でボチボチ話していけばよくない?

趣味は読書。
好きな作家は○○と○○と○○。よく読むジャンルはミステリ、SF、歴史、怪奇幻想ets. なんでも読みます。雑食です。
あと、散歩するのも好きです。
周りの景色を眺めながら、道端の花の写真を撮ったりしてポテポテ歩いてます。
スーパーに買い物に行くと、なぜかよく人に話しかけられます。見ず知らずのお年寄りや年配のマダムに「ねぇ、これとこれどっちがお得かしら?」なんて聞かれます。
「そうですね、私だったらこっちですかね」と返事して、そこから長話に発展することもあります。
でも、人見知りです。

みたいなことをつらつら喋る。
友人たちには「どこが人見知り?」「自己紹介スラスラ言うじゃん」なんて言われるけど、違うんだ。
緊張MAXで頭真っ白になって、何か言わなきゃとノープランでペラペラ喋りだすだけなんだ。
だから、第一印象はいいのに親しくなるとなんか違うって思われるタイプ。

そんなわけで、はじめましての方も、これまで私の投稿を読んでらした方も、よろしくお願いします。

4/1/2025, 7:59:34 AM

『またね!』

小・中・高と、ずっと一緒だった友達がいた。
私も彼女も、このままずっと一緒にいるものだと思っていた。

けれど、進路を決めるにあたって、彼女の行きたいところと私の希望するところが違うことが判明した。

彼女は、第一志望を私に合わせて変えると言った。
私はそれを拒んだ。
彼女が私に合わせるのも、私が彼女に合わせるのもよくないと、そう言ったのだ。

それからの二人はどこかギクシャクしてしまい、卒業まで元に戻ることはなかった。

卒業式当日も、なにか声をかけたいのに何を言っていいのか分からなかった。
多分、彼女も同じだったのだろう。
式が終わり、みんなと別れの言葉を掛け合い、三々五々に散っていく。
このまま帰ったら、疎遠になってしまうかもしれない。

私は彼女を追いかけた。
駆け寄る足音に彼女が振り向く。
なにも言葉を用意していなかった私は、咄嗟に叫んだ。

「またね!」

目が合った。彼女の唇が動いた。

「うん、また」


それから長い年月が経った。
昔ほど濃密な関係ではないが、今でも数年に一度、会って互いの近況を報告し合っている。

Next