『凍てつく鏡』
最低気温が、氷点下にまで下がることが増えた。
朝、道のくぼみに僅かに溜まった水が薄く張った氷になっているのを、パリパリと踏んで通る。
子供の頃はそれが楽しかったが、大人になると滑らないか転ばないかと、恐々渡るようになった。
たまに水の量が少し多めで、厚い氷が出来ていることがある。
みんなが通ったことで表面が磨かれ、鏡のようになっているものも。
周りに人がいない時、そっとしゃがんで覗き込む。
クリアには見えないけれど、薄ぼんやりと影が映る。
昔の銅鏡とかも、こんな感じだったのかなぁ。
『雪明かりの夜』
雨がいつしか雪に変わった。
寒波がきて冷え込んだせいだろう。
夜中トイレに起きて、戻りがてらふとベランダのカーテンの隙間から外を覗いた。
いつもなら、真っ暗な中に街灯の光が何かの光線のようにくっきりと放射状に差しているのに、今夜は少しぼんやりと、薄いベールを一枚掛けたようにやわらかな光が辺りを包んでいた。
視界全体が薄っすら白い。
街灯の当たるところだけ、ひらひらと舞い落ちる雪の欠片が照らし出されている。
雪の降る描写に、「しんしんと」という擬音はなんてしっくりくるのだろう。
しんしんと、雪が降る。
辺りを白く照らして。
『祈りを捧げて』
去年の今頃は、インフルエンザに罹患してウンウン唸りながら寝て過ごした。
今年も気をつけてはいたのだけれど、なんだかここ数日頭痛がする。
熱はないし、喉や鼻はなんともないので、このまま年末年始を乗り切りたい所存。
仕事納めが終わったら、ずっと寝てますので、どうか!
こういう時ばかり神頼みするのは気が引けるのだけど、ついつい心の中で祈ってしまう。
『手のひらの贈り物』
あの子は、孤独な子だった。
親しいものもおらず、やさしくしてくれるものも居なかった。
だから毎日ひとりであちこちほっつき歩き、人々に悪戯をしてはその無聊を慰めていたのだ。
それを知る人間は、いなかったけれど。
ある時、あの子は自分のした悪戯を酷く後悔した。
罪滅ぼしとばかりに、小さな手でせっせと貢ぎ物を贈るようになった。
そんなことをしても、相手はあの子を見直すこともなければ、態度を変えることもなかった。
なぜなら、相手はあの子のしていることに気づいていなかったから。
もう、こんなことはやめたら?と、一度だけ私はあの子に言った。
あの子は黙って首を振るだけだった。
そして――あの日、あの子は撃たれた。
火縄銃を持った男が、あの子がせっせと運んだものを見て呆然と呟くのを、私は森の木立のずっと上から見ていた。
「ごん、お前だったのか、いつもくりをくれたのは」
私は空の上から、あの子の体を覆うようにできるだけやさしく、月の光を降らせることしかできなかった。
『心の片隅で』
年末業務
大掃除
年賀状
新年の準備
ets...
週末に返却予定の図書館本が10冊あるのに、読み終わったのは1冊だけ。
うん、借りる時にうっすら心の片隅で思ってた。
――これ、読み切れるのか?って。