『好きじゃないのに』
好きなことと向いていることは違う。
好きなのに上手くできないことよりも、好きじゃないのに上手く出来てしまうことを仕事にしたほうがいい、と聞いたことがある。
それが自分に向いていることなのだと。
特に好きでもないのに、何故か縁がある物事もある。
選ばずにいた道に誘導されているような。
まるで誰かにお膳立てされているような。
それを好きになれたら、良い方向に向かうのだろうか。
それとも、好きになった瞬間に上手くいかなくなるのだろうか。
難しいなぁ。
『ところにより雨』
今日の天気予報は「ところにより雨」。
曖昧だなぁと思いながら、折りたたみの傘を2本用意した。
自分の分と恋人の分。
あの人は少しズボラなところがあるから、きっと天気予報も見ていないだろう。本人に持たせても、すぐに失くすかどこかに置き忘れる。
だから自分で持つことにした。
最近の折りたたみ傘はとても軽くて、2本バッグに入れていてもそれほど負担にならない。
まさか、それをきっかけにして
「押しつけがましい」
「母親みたいで鬱陶しい」
となぜか責められ、文句を言われ、挙句の果てに別れを告げられるなんて思わなかった。
そっかぁ、押しつけがましいかぁ……
せっかく持ってきた傘も開かず、少し前に降り出した雨に頬を濡らされるまま、しばらくそこに佇んでいた。
『バカみたい』
鏡の中にいる女は、真っ赤な口紅を引き直していた。
「バカみたい。あんな男、どこが良かったのかしら」
自分に言い聞かせるように呟き、派手なイヤリングを揺らす。裏切られた夜、泣き腫らした目は冷たい化粧で完璧に隠した。
彼女は夜の街へ踏み出した。ハイヒールの音が、静かな路地に鋭く響く。
自由になったのだ。もう誰の顔色を伺う必要もない。
彼女は心からの解放感に浸り、ふっと口角を上げた。
その時、背後から聞き慣れた足音が近づいてきた。
「……ごめん。やっぱり君じゃなきゃダメなんだ」
情けない声が鼓膜を震わせる。
彼女はゆっくりと振り返った。冷ややかに突き放す言葉を、喉の奥まで用意して。
けれど、視界に入った彼のひどくやつれた顔を見た瞬間。
「……本当に、バカみたい」
彼女の唇から零れたのは、自分でも驚くほど甘く、柔らかな声だった。
差し出された手を、彼女は無意識に握り返していた。
『二人ぼっち』
このお題を見て最初に頭に浮かんだのは、サイボーグ009のラストシーンだ。
宇宙空間に一人取り残された009を
、002が助けに行くが燃料が尽きてしまい、二人は地球の成層圏に突入する。
流星のように燃え尽きてしまうふたり。
この時002のジェットが009ジョーに言うのだ。
「ジョー、きみはどこにおちたい?」
あれは、何度も思い出す名シーンだ。
『夢が醒める前に』
ねえ、どうしてそんなことを言うの。
どうしてそんな態度を取るの。
不満そうに。
つまらなそうに。
舌打ちなんかして。
そして時には、こちらを無視して。
私が淹れた淹れたコーヒー、そんなに不味いかしら。
ちょっとした隠し味を加えたのだけれど、気がついた?
ああ、もう潮時なのかもしれない。
恋って、大いなる勘違いから生まれるんだって、母方の叔母さんが言ってた。
大事なのは、それを本物に変えられるかどうかなんだって。
それじゃあ、これは偽物なのね。
勘違いで始まって、偽物のまま終わるのね。
――なら、片付けないと。
紛い物を手にしたままじゃ、本物を手に入れられないもの。
儚い夢だったわ。ほんの束の間、幸せな瞬間もあったけど。
完全にこの夢が醒める前に、不要なモノは処分しなくちゃ。手の中の薬包と一緒に。
もうすぐ、ただのゴミになるのだから。