『こぼれたアイスクリーム』
覆水盆に返らず。
そんな言葉を思い出してしまうのも無理ないと思う。
たった今、買ったばかりのアイスクリームがぺちゃりと間抜けな音を立てて地面に落下した。
咄嗟に手を出すこともできなかった。
ただ、周りの音が消えて、やけにゆっくりと落ちていくのを見ていただけだ。
私が余所見をしてたから。
反対側の通りを、私の彼と私の友達が仲よさげに腕を絡めて歩いていたから。
だから――
彼らの姿が向かいのテナントビルに消えていくのを見届けてから、足元を見る。
あんなに美味しそうだったのに、いまや地面を汚すべちゃべちゃした気持ち悪いナニカだ。
あーあ、もったいない。
でも、もう一度買い直そうとは思わなかった。
「もう、いらないな」
気晴らしに、誰かを誘って映画でも観に行こう。
8/12/2025, 9:00:35 AM