SAKU

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笹の葉が揺れた。さらさら、しゃらしゃらと擬音の表現一つにも夏の夜に求める涼やかさが現れている。
ふ、と夏の夜というものに六月にあった夏至を思い出した。夏至の日の前夜、ミッドサマーイヴ。恋人たちのから騒ぎ。
ハロウィンと並び、隣の世界との境界が曖昧になる日だ。
四葉のクローバー、銀のコイン、まぶたに乗せて隣人を目にする、というのは今も神秘が眠る竜の国の話だったか。
目の前で、足を組んで行儀悪く、それでも指先の所作は優雅に紅茶をすする人物を見やる。不機嫌そうな割に唇を吊り上げて見返されたので、考えてもいなかった日本の七夕伝説の話を振った。
運命の人がいるというのはどういう感覚なんだろうと。
ぱちり、と長いうわまつ毛を上下させてカップをソーサーに置いてみせる目の前の人物に、地雷だろうとなんだろうとずけずけ聞ける間柄というのは心に負担がなくていいなぁと、今度は自分がカップの中身をすする。
親しき仲にも礼儀ありなんていうのは、互いの中には何もない。傷つけあっての今がある。
自分にそれを聞くのは、生まれた時から親がいる子供に、親がいるってどんな気持ちと聞くようなものだと答えられた。
なるほど、それはどちらにしろ理解できない。

現代人は織姫と彦星はただの恋に熱をあげ、責任を放棄したなどというが、それだけ運命が遠ざかっているのかもしれない。
未来のことも目に入らず、お互いのことしか考えられないのは運命なのだろうか。何千年経っても一夜の逢瀬のため一年待つ夫婦星なんて物語にしか夢みれないのか。
恋でお互いに身を滅ぼすってどんな気持ちだろうな。

さらさらと、コーラスというには静かすぎる葉擦れの音にのせて有名なオペラの歌詞を、知っている部分だけ口ずさむ。
このポットを空にしたら、嫉妬や独占欲なんていう激しい感情を起こさせる恋がどんなものか、目の前の捻くれ者に聞いてみよう。


7/8/2024, 9:52:08 AM