『ブランコ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「ねぇ、海沿いにあるブランコ乗りにいかない?」
「いいね、行こうか」
わたしがあのブランコが好きな理由。
「わぁ、やっぱりきれい」
波の音
海の匂い
きれいな夕焼け
嫌な事を全部忘れることが出来るここが
わたしの居場所。
『ブランコ』
ブランコ
バレエ教室の帰り、一週間に一度だけ
ブランコを漕いでいたのは昔のこと
もう何年もブランコには乗っていない
今どきは事故の影響ですっかり遊具の撤去された
寂れた公園しかない
楽しかった
何をするでもなく、ゆらゆらと揺れて
ブランコで一週間の区切りをつけていた
車椅子に乗る女性、白い網タイツにニーハイブーツ。
白いキャスケットと赤いメガネ。どっからどう見てもオシャレ。ヨイショと漕ぎ出して足を前に投げ出した。勢いよく漕いだご機嫌なブランコ乗りのようだった。
彼女にはその二本の足で立つ、歩く能力はないようだが、しかし、背中を丸めて、下を向いて歩くわたしより、いやその場にいた誰より、自信に満ちて自分らしさを大切に生きているように見えた。
そうでなければ風景だったはず。いつもの日常だったはず。
とても刺激的な出会いだった、また会えたら声をかけようと思う、素敵ですねなのか、お手伝いしましょうかなのか。その出会いを楽しみに駅前を、少し、顔を上げ歩く。
【ブランコ】
ブランコ
「あれ?珍しいな。」
隣町に赤ちゃんポストができたと言うので、何となく見に行った帰り道、通りかかった公園のブランコが普通と違って見えた。一般的な公園のブランコは2つ並んでいるのに対してこの公園のブランコは3つ並んでいた。
「まぁ、3つあっても問題ないもんな。」
こう見えても小学生の頃はブランコの達人だった。ブランコを立ち漕ぎで思い切り漕いで、頂点に到達する寸前にジャンプし、ブランコが頂点に到達して止まる瞬間に宙返りして座板に着地する。名付けてドラゴンスピンを繰り返していた。
30代を迎えた今、そんなことをしたら怪我をするだけだが、懐かしさから少し座って見ることにした。
「やっぱり真ん中かな。」
真ん中のブランコに座って少し漕いでみる。悪くない。いいブランコだな。自分にもこんな童心が残っていて嬉しかった。最近はスマホゲームでちっぽけな達成感を味わうだけの日々だ。
ゲームのスタミナが気になってスマホをポケットから取り出そうとしていると、若い男女がやってきて、それぞれ右のブランコに男が左のブランコに女が、立ち乗りで漕ぎ出した。
気まずい。普通、他人を挟んでブランコに乗るか?どうしてもブランコに乗りたい訳じゃないだろ?
「これで良かったのかしら?」
「これで良かったんだよ。」
「私は自分の手で育てたかった。」
「僕だってそうだよ、だけどしょうがないじゃないか、俺たちの経済力ではきちんと育てられない。」
おいおい、深刻そうな話をしてんじゃねぇよ。
もう限界だ。俺は立ち去ろうとした。
「待って下さい。僕たちの話を聞いて下さい。」
「えっ?俺?」
「そうです。ブランコに戻ってくれませんか?」
俺は面食らって、思わずブランコに腰掛けた。
「俺なんかが、話を聞いても仕方がないでしょ?」
「僕たち、さっきそこの赤ちゃんポストに子供を預けて来たんです。でもお互い思うところがあって、でもあなたが間に入ってくれたら喧嘩しないで済むかなって。」
「いや、俺は間に入ったんじゃなくて、オタクらが俺を挟んだんだからね。」
「でも、僕たち見たんです。赤ちゃんポストに向かって叫んでらっしゃいましたよね?何か事情があるんじゃないかと思って、話して下さいませんか?」
見られてたか?少しの罪悪感と羞恥心に襲われる。
「別によくある話ですよ。俺の母は、俺のことを産むとさっさと父と別れて出て行ったそうです。今時片親の子なんていくらでもいるし、自分が特別不幸だなんて思ってはいませんよ。でもね、俺はダメですね。自分は必要とされて産まれてこなかったんだという思いが、人生のど真ん中を貫いちゃってる。彼女と付き合ってもそう、会社に勤めてもそう、自信のなさが影響して上手くいかない。いや、ただ単に俺の能力が低いだけなのかもしれないけど、それって同じことだろ?
この街に赤ちゃんポストができたって言うんでちょっと見に来ただけなんです。だけど、赤ちゃんを置いて行くカップルを見た時につい感情が昂っちゃって。それだけです。」
「すみません、イヤな話しさせちゃって。」
「別にいいですよ。ただね、あなた方が俺に話しかけたのが、少しでも赤ちゃんを置いて来たことを後悔しているからならば、全力で引き留めますよ。あなた方の人生に介入する権利なんてないし、あなた方の幸せを保証できないけど、赤ちゃんを自分たちの手で育てて貰えませんか?俺はね38年間、結婚したら幸せな家庭を築くんだって生きて来たんですが、叶えられていません。その夢をあなた方に託してはいけませんか?」
「健一さん、私、やっぱり、自分で育ててみたい。」
「そうだな、誰に反対されたっていい。もう1度育ててみよう。」
健一と呼ばれた男性はブランコ降りると俺の方を向いた。仕方なく俺もブランコを降りる。
「勝又健一と言います。失礼ですがお名前を聞いても構いませんか?」
「進藤濁美です。赤ちゃんの名前に濁美とは付けないで下さいね。仕事も恋愛も上手く行かない子になっちゃう。」
「進藤さん、それはお約束できないですね。」
カップルは赤ちゃんポストがある方に向かって行く。
「まさか、ブランコに座っただけでこんな事に巻き込まれるとはな。でも何だろう、なんかスッキリしたな。」
それから程なくしてX市Y町Z公園にあるブランコに乗ると悩みが解決されると言う噂が広まった。
【ブランコ】
前に後ろに
高く低く
ブランコは揺れる
慣性のままに
前に後ろに
高く低く
ブランコは揺れる
君を乗せて
いつか空に還るまで
久々に公園に来た。空はどんより曇っている。雨が降る予報なのか、人はほとんどいない。
たった一人、子供がブランコで遊んでいる。
その子はブランコ板に上半身を預け、走り始めた。板が最下点に着くと同時に地から足を離す。ヒーローが飛ぶ姿でもやりたいのかな、と僕は思った。
危ないからやめなよ、と言いかけてやめた。
その子は泣いていたからだ。
家で悲しいことがあったのだろうか。小さいのに親もいないし、寂しいのだろうか。
そのとき、自分自身の記憶が蘇る。
僕はブランコが苦手だった。ブランコ板に腰掛けて足を浮かせるだけで胸の鼓動が激しくなる。友達と二人で公園に遊びに行っても、友達はブランコ、僕は滑り台で遊んでいた。
その友達と離れ離れになって、僕は……。
その子は過去の自分の姿だと気づいた。
「きみを、ほんとうの心の場所に連れて帰ろう」
天気予報は外れたのか、晴れ間がさしてきた。
空中ブランコのような生活が続いていると思う。不安定で刹那的。それでも、全身に風を受けて次の地点を見定め、飛び立つ時は気持ちがいい。
昔学校をサボって、その朝初めて知ったような当てずっぽうな場所へ行ってみたことがある。その日から私の全身が、自分で決めることの楽しさを忘れられずにいるのだ。
元の地面に足をつけられないまま、だからこそ、せめて投げやりになってしまわないように。毎日を丁寧に、不安定に暮らしていきたい。
これを読んでくれた人に、爽やかな1日が訪れますように。
ネクタイ締めた大の男が、公園のブランコひとつ占領して夕飯を食う。
こんな迷惑行為を毎夕続けていたら、そのうち俺は、遠巻きにひそひそ『ブランコの妖精』なんて呼ばれていた。
「何とでも言いやがれ」
今日もブランコを軋ませながら、おにぎり片手に、背中丸めて携帯の画面に集中する。
すっかり日も暮れて、いつもなら公園に誰もいなくなる頃。
ふいに気配を感じて顔を上げると、俺の目の前に、よれよれの服を着たガキがひとり立っていた。
「うわ、びっくりした。何だお前」
「なあ、おっさん」
「おっさんじゃねぇ、まだ20代だ」
「やっぱりおっさんじゃん。おっさん『ブランコの妖精』なんだろ? おれに立ち漕ぎ教えてよ」
「いやいや、もう夜遅いから家に帰れよ。お母さんが待ってるだろ」
「かーちゃんならさっきまた仕事行った。なあ、教えてくれよ」
「……」
気まぐれだった。
運動神経にはそこそこ自信があるから、ガキにそれを自慢したかったというのもある。
その日から、こいつは毎晩遊びに来た。立ち漕ぎができるようになっても、何かと理由をつけてここに来続けた。
◇
ある日のことだった。
「なあおっさん、おれ、じいちゃんちに引っ越すことになった」
「……そうか」
「かーちゃん、もうかけもち? しなくていいんだって」
「そりゃよかったな。元気でやれよ」
それから別れ際、俺はこう付け加えた。
「俺みたいに、迷惑な大人にはなるなよ」
ガキは、にかっと笑った。
「やだね、おれもいつか『ブランコの妖精』になるんだ」
『ブランコ』
最近同じ夢を見る。
夢はいつもブランコを漕いでいるところから始まる。
隣には白いワンピースを着た少女。
いつも向きが揃わないから
顔を見ることは無いんだけど
そしていつも俺は声をかけようとする。
でも声が出せないんだ。
自分の夢の中なのに
そのあとは場所が変わるんだ。
ここは前と変わってたりするから
ランダムで変わるのかもしれない。
でも場所が変わっても白いワンピースの少女はいつも
俺の前にいて追い越そうとしても出来ない
この夢からどう脱出できるのだろうか
─────『ブランコ』
いったりきたり
ずっと同じ場所でよろこんだりさみしくなったり
「立ち漕ぎできる?」
「できるでしょ」
「ふたりのり」
「制服汚れるぞ」
「踏むなよ」
冷たい金属を握りしめる愚行。
でも近づけるなら。
「ケツでけぇ。踏みそう」
「ぶっとばすよ」
「俺が座った方がいんじゃね?」
「ぶっとばすよ」
これでいい これがいい
もう一歩踏み出すのが怖いからずっといっしょに揺れていたい
2024/02/01 ブランコ
ぶらぶらと揺れ動く私の心はいつになったら止まるのだろう
もしも太陽がなかったら生物が生きることができない。また陽を浴びないことでビタミンを得られず風邪などひきやすくなる。だから太陽は我々の生活を支えており必要不可欠な物である。
お話シリーズNo.1
美しい乙女は青いブランコを漕ぎ続けていました。
空に届こうとして、いつまでもいつまでも百年千年と漕ぎ続けたのです。
全てを忘れ漕ぎ続けました。
それでも空には届きません。
神々は乙女のそんな姿を見て、乙女を空へと放ち星座にしました。
乙女はブランコの星座として夜空を輝かせているのです。
題 「ブランコ」
récit œuvre originale
☆ブランコノセイザハタブンアリマセン、ソウサクデス
小学生の頃、昼休みになれば毎日学年問わず取り合いになってたブランコ。私もブランコは大好きだった。ブランコを高くあげて、そこから落ちる時の浮遊感とか乗って揺らすことしかできないけれど、そこから発展する変な遊びが楽しかったから。もう一回小学生に戻って思いっきり遊びたい。
「ブラコンが欲しい」
息子がそう言った。
ブラコン?
ブラザーコンプレックス?
いや、さすがにわかってますよ。
ブラコンじゃなくてブランコね。子供特有の言い間違いね。
一生懸命作ったよ。
庭にある木に、ロープと板を括り付けて。パンダが遊ぶようなあんなものじゃない。ちゃんとした、立派なブランコだ。
息子に自慢気に見せた。
どうだ。これがお父さんが作ったブランコだ。君の為に作ったブランコだ!
「違う! ブラコンなの!」
違う!? ブラコンなの!?
あれか? 兄弟が欲しい的なことだったのか!?
よくよく話を聞いてみれば、ブラックコンテンポラリーという音楽のジャンルがあるらしく、その音楽が聴きたい。という意味だったらしい。どこで知ったんだそれ。
わかるかぁー!!
顧客が本当に必要だったもの。
その通りのものを用意するのって、本当に難しい……。
『ブランコ』
ブランコ…
ブランコにさよならをして去ってゆく
愛してるってきっと言えずに
【ブランコ】※親分子分二次創作
それは傾いた日を受けて地面に影を落としていた。
公園の隅で軋んだ音をたて、わずかに前後に揺れるブランコはあたりに人が見受けられず、公園の物悲しい雰囲気を作ることに一役買っていた。
ロマーノは公園に足を踏み入れた。土がざくざくと鳴るが、ロマーノはそれすらも鬱陶しく思えた。うるさいのは好きじゃない。
青年はブランコに腰を下ろした。膝を直角に保つには座席が低すぎる。
もう子供ではない。
未完
『ブランコ』
あの青く広大な空が
手が届くくらいに近くに感じた
目の前には夢と希望が溢れていて
いつの日が高く遠く
羽ばたいていけるような気がしてた
あの頃に
貴方がそうやって背中を強く押してくれていたから
僕は高い空を何の疑いもなく
届く場所にあると思えていたんだね
ありがとう
背中を押す手はもうないけど
今度は僕がこの足で
高く遠く
どこまでもこいで行くよ
ブランコ
山際の小さな公園にブランコがあった。
二ヶ月前にペンキの塗り直しをして見た目だけ新しくなったが、中々の年代物だ。
小さな子供にとっては、生まれる前からあり、初めて遊んだときから鎖はキイキイと音を立てていたし、腰掛け部分はミシミシ言っていた。
その公園しか知らない子どもは、何ならブランコとは「そういうものだ」とすら思っていた。
小学生低学年までの子どもはルールに沿って楽しむ。
それ以上の子ども達は、ブランコを危ない遊びに使いはじめる。
一つ。靴飛ばし。
深くこぎ、ちょうどいい時点で履いている靴を片方飛ばし、どこまで飛ぶか競う。飛ばす際に片足立ちになり、勢いをつけて蹴るような形になるため、そのままの勢いで踏み台を踏み外して転落する事故が起きやすい。
一つ。ブランコで一回転。深く漕ぎ、そのまま支柱を中心に一回転する。転落事故の元であるし、一回転すると鎖も一回り支柱に巻き付き、安定性も極端に悪くなる。そもそも一回転できずに失速して転落するリスクもある。
一つ。ブランコから飛び降り。深く漕ぎ、靴飛ばしの要領で「自分が飛ぶ」。もはや転落のリスクどころの話ではなく、自分から飛び降りる。着地に失敗すると、もちろん怪我をする。
今回の話は、飛び降りの話。
*
その日、小学校中学年の数人の男子が、度胸試しで順番にブランコから飛び降りをすることになった。
理由はわからない。
誰かが言い出し、度胸試しが故に「やめよう」と言えない。
あとから聞いた大人にしてみれば、「『臆病だ』と言われても「やめよう」という勇気があることこそ本当の度胸なんだ。」とでも説教するところだが、そんな高尚なことは誰も思いつきもしない。
ただ、断れば勇気がないと言われるのが怖い。
あるいは、そうやって「つまらない空気を作ったから」グループから外されるのが怖い。
今回、気弱で鈍いコタロウが断りきれなかった理由は、結局、「度胸がなかった」からであった。
コタロウは気は優しかったが、同時に気弱で、運動神経も良くなかった。
運動神経も気も強い「友人」たちが順番に飛んでいき、着地していく。
終わった「友人」から「思い切りだ」と言われ、コタロウは言われるがまま、なんの心の準備もしないまま、飛んだ。
この極めて危険な「遊び」は、危険な運動であるからして、怪我をせずに乗り切るにはある種の対応が必要だ。
それは、言葉にするなら、「放物線はなるべく高くせず」「枠に足を取られないように」「足から着地する」といったところか。
コタロウは何も考えず、思い切りだけで飛んだ。
結果、飛び降りた際に腕を体の一番下にした体勢にしてしまい、左手から接地した。
「痛い」
飛んだことでグループから一定の評価は得たが、失敗である。
そのまま次の子の番になっていた。
コタロウはあまりの腕の痛みに、途中で家に帰ることにした。
*
コタロウは腕を抱えたまま玄関の扉を開けた。
腕の痛みに耐えかねて、そのまま玄関に座り込む。
「あんた、帰ってくるの夕方じゃなかったの。部屋、まだ使ってるんだけど。」
3つ年上の姉からこちらを見ずに言われる。
コタロウと姉は同じ子ども部屋を共有しており、姉が友達を呼んだときは、コタロウはよく家を出ていた。
今日は友だちを連れてきていたようだ。
子ども部屋は姉と友達の空間として占拠しているので、居間でテレビでも見ていろ、という意であったが、そもそもコタロウは腕の痛みでそれどころではない。
玄関先で腕を抱えて声なく泣くだけであった。
「こんなんで泣くなんて今日は特に弱いわね。」
いつも嫌なことがあると、気弱な弟に嫌味や口撃をする姉だが、今日は姉的にはそんな事は言っていない。
繰り返すが、コタロウは腕の痛みで姉の心持ちなど考える余裕はない。
「?母さーん。コタロウがおかしい。」
不審に思った姉が母を呼び、母は台所から手を拭きながら玄関に来る。
「コタロウどうしたの」
「腕が痛い」
母は、コタロウの腫れた左手を見て顔色を変える。
「何があったの」
「ブランコから落ちた。手が痛い。」
コタロウは病院へ行った。
*
すぐ近くの外科に駆け込み、医者は腕をひと目見て言った。
「ああ、折れているね。」
レントゲンをとり、シンプルな骨折であることがわかってからは、淡々とギプスをつくった。
「まあ骨がくっつくまで二ヶ月くらいだろう」との診断であった。
コタロウは生まれて初めての骨折で、この後の手が使えない不便が続く生活を想像できず、単に多少マシになった痛みに一息ついただけであった。
コタロウは気弱だけでなく鈍い子どもであった。
一方母は、今後の2ヶ月の間、息子をどうフォローしたらいいか、頭を回転させていた。
*
次の日、学校に腕を吊って現れたコタロウに教室はざわついた。
特に度胸試しをしたグループの男子達は、自分たちがやったことで気まずい空気になる。
しかし、当のコタロウは気にせずグループに混ざった。
「いや、腕折れちゃってたよ。ノート書きにくくって。」
コタロウは鈍かったっが、今は鈍さが幸いして、気弱だが、呑気で明るい状態に戻っていた。
鈍さも武器だし、喉元過ぎれば熱さを忘れるのだ。
骨折するより、いじめられたり、無視されたりするほうがこの年代ではつらいのだ。
男子グループも、数分は気まずかったが、やがて好奇心からギプスの硬さを触ってみたりしているうちに、誰も気にしなくなった。
公園のブランコは特にその後も変わりなく使われ続けていたが、数年後になにか別の事件でもあったか、老朽化のせいか、別の遊具と一緒に撤去されてしまった。
昭和の時代の、放任の空気の中の話である。
ブランコ
挨拶にも応じない。自分の名前も住所も答えない。貝のように口を閉ざす。完全黙秘の容疑者。
もし僕が名刑事だったら。
固いパイプ椅子じゃなくて、公園のブランコに座らせよう。
最初は地面に足を着けて、じっと座っているだけかもしれない。でもきっとそのうち、膝を伸ばしたり戻したりをし始めるはずだ。だってブランコに座っているんだから。
次の日には、ちょっとだけ鎖を短くしちゃおう。足が地面にくっついているより、ちょっと離れそうなくらいのほうが、ゆらゆらしたい気持ちになりやすいはず。
その次の日には、僕も隣のブランコに座っちゃおう。本気を出せば、高くまで漕げるけど、そこまでは必要ない。のんびり、リラックス。ゆらゆら、ゆらゆら。きっと容疑者もつられてゆらゆら、ゆらゆら。
その次の次の日くらいには、岩のように固まった体が、足元からゆらゆら、ゆらゆら、ほぐれてく。コンクリートでできていた口元も、プリンのようにゆらゆら、ゆらゆら、柔らかくなっているはず。
その次の次の次の日くらいになったら、沈む夕日を並んで見ながら、刑事さん、自分がやりました、ってなるはず。よし。
身心一如。心と体は表裏一体。心が揺れづらいなら、体から揺らそう。悪者は絶対許さないぞ。