『キャンドル』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『キャンドル』
薄暗く静まり返り、
ひんやりとした室内。
月は天頂に近く、
一面の粒子状の星。
窓辺の机には月光が差し込み、
細く、物静かな雰囲気を醸し出す。
取手が付いた金色の燭台。
3.9インチの、上部が溶けた蝋燭。
灯火は、辺りに少しだけ希望を与える。
木製の机と椅子。
腰を掛け、左手元に燭台を置く。
白い羽ペンを右手に持ち、インクに浸す。
そして くすんだ色の羊皮紙に、執筆する。
「キャンドル」
薄暗く静まり返り、
ひんやりとした室内。
月は天頂に近く、
一面の粒子状の星。 …………
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題 キャンドル
灯りが灯るとなんだかそこは幻想的な世界。
いつもの場所なのにいつもの場所じゃない。
ちゃぷん
私はお風呂の湯に身体を沈めながら、お風呂の中のあちこちに置いたキャンドルを見つめる。
色々な色と香りがするキャンドル。
ガラスのキャンドル受けに入ってゆらゆらと炎を揺らす。
あらかじめ電気は消していたから、今感じられるのはほんわりとしたキャンドルの淡い光だけ。
その様子が優しく感じて、私は目が離せない。
お風呂の暖かさが心まで届いていくようで、瞳に映るキャンドルの煌めきがその暖かさを加速してくれるようで。
こんなに癒される事があるんだ、と思わず微笑んでしまう。
今日は少しだけお高めの入浴剤を入れたんだ。
キャンドルに合わせて、虹色にきらめく入浴剤。
今もオーロラのようにキラキラしててキレイなお湯にため息をつく。
(どうしてこんなに癒される事がこの世の中にあるんだろう。私は今、幸せ過ぎて癒し過ぎてこのお風呂ゾーンからぬけられないよ)
電気が消えて天井に水のユラユラが反射している。
そんな癒される光景を見ながら、私はただ、暖かさと優しさに身を委ねていた。
上がらなきゃ、明日はまた仕事なんだから、上がったらネット通販しなきゃ・・・。
そんな煩雑な考えが遠のいていく。
ま、いっか、あと少しだけ・・・。
こんな癒しから抜け出すなんて拷問だもん。
そう思いながら目をつぶった私の入浴タイムはまだまだ続くのであった。
キャンドル 11.20
はーさむ
まだ11月なのに真冬やん
どゆこと?
制服はスカートだからバカ寒いし、ジャージも
薄いから寒いし最悪だよほんと。
おまけに明日は保体
あーしんど
家帰ったらスープでも飲むか
ただいまー
やっぱ家は暖かくていいわ〜
スープうまい
さすがに勉強するか…
テストやばいし
なにこれ
キャンドル?
こんなんあったんや
まぁつけよ
以外に暖かい
うれし
勉強頑張るかー
小さな明かり一つさえ、スマホで事足りてしまう今の時代。現代っ子の私にとって、蝋燭は蚊取り線香と同じくらい縁遠いものだ。
そして、何か特別な日にしか灯らない。
特別の光だった。
例えば、誕生日ケーキに刺さった小さい蝋燭。
今にも消えそうなほど小さいのに、何故かなかなか消えなくて、必死で息を吹き掛けた。
停電の時に引っ張り出されもしたっけか。
普段の食卓なのに明かりだけが違って、揺らめく暖色の光の中、すごく胸がどきどきしたのを覚えている。なんだかちょっとロマンチックだった。
噂には聞く法事なんかとも縁遠いから、蝋燭の灯火を見て瞼の裏をよぎるのは、そういう少し非日常でわくわくしてしまうような想い出ばかり。
だからかな。
小さく揺らめく火の暖かさと、ブルーライトとも別の眩しさが時折恋しくなるのは。
百物語なんかに使われるくらいだから、その寿命が短い、儚ささえ感じさせる光に、きっと昔の人達も何かを感じていたのかな。そうだといいな。
それじゃあ私のお話、聞いてくれてありがとう。
ふう、と一つ。私はゆらゆらと煌めく非日常の灯火に息を吹き掛けた。
『キャンドル』
作品No.233【2024/11/19 テーマ:キャンドル】
※半角丸括弧内はルビです。
キャンドルに火を灯す。ほのかな灯りが、卓袱台(ちゃぶだい)の上を照らした。
「ごめんな」
俺がそう言うと、隣に座っていた由里子(ゆりこ)はゆっくりと首を横に振った。
「いいんです。早乙女(さおとめ)さんがそう決めたなら」
「でも——」
「それに」
言い募ろうとする俺の言葉を遮って、
「もう、手遅れですから」
と、少し悲しそうに由里子は言った。その言葉で、ハッとした。
そう、もう手遅れなのだ俺達は。後戻りなどできない。
「やろうか」
「はい」
俺と由里子は、卓袱台に置いていた錠剤を飲み、水で流し込んだ。まだ意識はあるが、少しずつ眠くなってくるはずだ。
「由里子」
俺は、意識をなくす前に訊いておこうと口を開いた。
「忠巳(ただみ)くんは、よかったのか?」
俺のその問いに、由里子は一瞬押し黙った。
「……あの子には、酷なことをしました。母親失格、です、ね……」
そう言って、由里子は俺に身を寄せた。そして、目を閉じると、静かに寝息を立て始める。
「眠った、か」
俺も、眠気に負けそうだった。けれど俺には、その前にやるべきことがある。動かしづらい身体を動かして、キャンドルに手を伸ばす。
この部屋には先ほど、灯油をありったけかけた。この火の点いたキャンドルを倒せば、燃え広がってくれるだろう。
「由里子」
俺に寄り添いながら眠る、由里子を見る。
「忠巳くん」
由里子の膝の上で動かない、忠巳くんを見る。
「ごめん、な……」
その言葉と共に、俺は手で払うようにキャンドルを倒した。
「キャンドル」
小さな火が
灯っていた
誰も気付かなくても
雪の日も
土日祝日も
年中無休で
小さな火だから
時々 忘れそうになるけれど
胸に手をあてると
自分だけの 炎が揺らめく
誰も見向きもしなくても
そこにずっと 燃えていた
キャンドルというと真っ先に出てくるのは
クリスマスだ
ただ人生、一度もクリスマスにキャンドルを灯したことはない。
高級レストランで揺らぐキャンドルとも縁遠い。
どちらかといえば、危ないから早く消せ
それに尽きる。
キャンドルの思い出がたりといえば、
以前安物のアロマキャンドルにハマって買っていたことだろうか。
安物と言っても個人的には三百円代のそれは、お高いものだった。
火をつけても、わずかに香りがするかしないかのレベルで
香りを楽しむというよりただ、明かりを楽しむものだった。
危なくないように、選ばれたのは浴室だった。
それ専用のお皿に風呂の明かりを消して
ぼんやりとその光のゆらめきを、眺めるだけだ。
うっすらと暗い光で
昔の人は、これよりもずっと暗い光で物を読み、思いを馳せたのだと
考える。
知識に食らいつき、思いを巡らせ、
世界を回した。
この世界は便利だ。この世界は明るい。
カッコつけながら自分に酔いしれる晩を繰り返し。
ソレが終わったのは突然だ。
キャンドルを乗せた皿を不注意で落とし割ってしまった。
落とした先は、
洗濯機の中。
まだ洗濯物未のもので先ほど家人たちが脱ぎ散らかした
下着や靴下や服の中心に、皿が粉々になっていた。
必死に一つ一つ下着の中やら靴下を確認しながら
二度とキャンドルをしないことを心に決め
残したキャンドルは非常用にした出来事は
もう十年以上も前の話だ
いつの間に灯った心の中の小さな小さな想いは、私の心をゆっくり溶かしていくように少しずつ、少しずつ燃えていく。焦がれるような、激しいものではなく、本当にぽつりと小さな、今にも消えてしまいそうなほど弱く揺れる想い。ゆらゆらとくすぐったく揺れる、私の想いは。私の心を溶かしきったら、ひそかに消えてしまうのでしょうか。
#キャンドル
ウクレレと、腰掛けられる椅子と、夜を照らす少しの灯りがあれば、きっとこれ以上何もいらないのでしょう。
「な、見て見て」
佐藤くんが得意げに見せてきたのは、赤鼻が光るトナカイだ。おお、と男子たちからは低いどよめきが起こり、女子たちからは高い歓声が上がった。
「褒めて褒めて」
ドヤ顔がちょっと憎たらしいけど、上手いのは事実だ。思う存分得意になってもらおう。完成度の高さに気を良くした私は、改めて周囲を見回した。幸い、飽きた様子の人はいない。
「なあ、決勝どこ?」
「3年だろ、どうせ」
たまに繰り広げられる、クラスマッチについての会話。でも誰も大した熱意はもっていないらしい。それもそのはず、1年生はどこもさっさと負けてしまったから、おかげで皆が暇を持て余している。よほどの理由がなければ、混み合うギャラリーで先輩達を押しのけて観戦しようとは思わない。教室でお菓子をかじりながら適当に過ごすほうが、よほど気持ちいい。
「うわ、足立、エグ!」
誰かが私の手元を覗き込んで声を上げた。それが合図だったかのようにワッと近くの人が集まり、それにまた惹きつけられて人の輪が厚くなる。
「なにこれ、なんで3次元?」
「ああ、これ?簡単だよ。組み立てるだけだから」
私はパーツを1つ外してみせた。へえー、とか、おおー、とか、思い思いに感嘆の声を上げるクラスメイト達。今度は私が得意げになりながら胸を張る。と、1人だけ自分の席から離れない、筋肉質な背中を見つけた。皆がお互いの作品を見せ合う中から抜け出し、後ろから覗き込んでみる。
「……鉛筆?」
「うぉ!」
気配に気づかないほど集中していたのか、筋肉質な背中はビクッと揺れた。その拍子に、手元のピンセットがつかみ損ねたビーズが机にコロリと転がる。
「ちげーよ」
間違えられたのに、なぜか白井は少し嬉しそうに笑った。
「……なに?」
問いかけながら考える。形は、鉛筆と言うよりはガラスペンに近い。でも、白井がガラスペンを知っているとは思えない。……フードを被った人、とか……?いやいや、それじゃ不審者っぽい。……なんだ?
「まだ完成してねーから」
白井はまた作業に戻った。なんとなく後ろから見守っていると、ぽつり、ぽつり、人が集まり始める。
「なんじゃこりゃ」
「あれじゃね?秘密結社の人」
「あれ、白くないっけ?」
サッカー部の仲間は容赦ない。斜め上の予想をしてケラケラ笑っている。
白井は適当に相手をしながら、赤一色の本体からビーズを抜き始めた。崩すのかと思っていたら、抜いたところに透明のラメのビーズを選んで埋め込んでいく。なるほど、文字を入れたわけか。でも、それ……。
「HB?鉛筆?クリスマス関係ねーじゃん!」
どっと笑いが起きた。さっき鉛筆じゃないと言った白井は、完成したのか、細心の注意を払ってプレートを持ち上げた。
「あ、アイロンする?」
教室の隅のアイロンコーナーと化した机に目を向けると、白井は嬉しそうにプレートを持っていった。サッカー部がそれに続き、皆でワイワイ楽しそうにアイロンをかけていく。私はそれを見ながら、やれやれ、と心の中で呟いた。
保健室前に飾るクリスマスの飾りなんだけど……。でも、皆も面白半分で乗り気だとは言え、委員会の仕事を手伝ってもらってる形になるわけだし、まぁいいか、鉛筆でも。プレゼントで鉛筆をもらう子だって、世界中にはたくさんいるはずだ。
「沙希、見て見てー、サンタ!」
不意に呼ばれて振り返る。友達が捧げ持つサンタは後ろ姿で白い袋を担いだ力作だった。私はすぐに心惹かれ、そのまま友達の輪に戻っていった。
クラスマッチが私達の知らぬ間に終わった頃、作品の山を1つ作って作業は終了した。
「皆、ありがとうー!保健室前に下げるから、見に来てね!」
空き箱に収納しながら、白井の鉛筆がないことに気がついた。もしかしたら気に入って自分でもらったのかもしれないし、クリスマスの雰囲気に合わないことがわかって取り下げたのかもしれない。あるいは、アイロンが上手くいかなくて潰れてしまったのかも。大して気にすることなく箱の蓋を閉じた。
ホームルームは簡単に済んだけれど、飾り付けをするほどの時間はない。せめて借りた道具だけでも返そうと荷物をまとめていると、ロッカーに私物を取りに来たらしい白井が、なあ、と声をかけてきた。
「なに?」
「手伝うよ、それ」
アイロンビーズセットのプラケースが1つと、アイロン、アイロン台、作品が入った箱。移動距離は大したことがないけれど、1人で運ぶのは確かにちょっと大変だ。ありがたくお言葉に甘えることにし、私と白井は保健室まで斜め前後に並びながら歩いた。2人きりになったことはない気がするから、なんだか少し緊張する。こんなに肩幅広かったっけ。背も意外と高いんだ。髪、くせっ毛でちょっと可愛いかも。密かに観察してほくそ笑む。それにしても、あの鉛筆どうしたんだろう。2人きりだと無性に気になる……。
「あー、ありがとう。この辺でいいよ」
保健室横の掃除用具室に荷物を並べ、私はそのまま部屋を出ようとした。
「足立」
背後から呼び止める、白井の声。ギュッと胸の辺りが反応する。え、なに、……。
ゆっくり振り返ると、白井はウィンドブレーカーのポケットに手を突っ込み、あの鉛筆を取り出した。
「これ、もらって」
「え?」
あまりに思いがけない展開に、瞬きを連打した気がする。どういうこと?戸惑う私に、白井は鉛筆を押し付けてくる。
「あげる」
いりません、って言ったら失礼かな。豹変して怒り始めるかもしれないし、ここはおとなしくもらっといたほうがいい感じ?あ、それとも、私個人にと言うより委員会にくれるつもりなのかも。さっき入れ忘れたから、とかで。
頭の中でいろいろ考えていたら、白井はポンと鉛筆を投げてよこした。反射的に受け取ってしまい、妙に失敗した気持ちになる。
でも白井は、無邪気な笑顔で私の手の中の鉛筆を指さした。
「なんだと思う?」
「……鉛筆」
「だからぁー、違うって。形が違うじゃん」
「いや、だって、HBって」
白井にも見えるように持ち直すと、白井はドヤ顔になった。
「それ、キャンドル」
……あ、あー。なるほど。
言われてみれば。キャンドルも炎も赤だから、わからなかった。でも。
「え、じゃあ、HBは?」
素直な疑問をぶつける。白井はさらにドヤ顔になった。
「ハピバ」
……あ、あー。なるほど。なんでDを略したかな。教えてあげたい、けど、まぁいいか。
「キリストの誕生日だから?」
呆れた声にならないように気を付けた。白井は頷き、じゃあ、と唐突に別れの挨拶をした。
「あ、うん。じゃあね」
変なやつ。
手の中の鉛筆……じゃなくてキャンドルの扱いに少し困り、飾りの箱の中にしまおうかと考えていると、部屋を出ていきかけた白井が引き戸に手をかけたまま振り返った。平静を装ってるのが伝わってくる。なんなら、心臓の音まで聞こえそうだ。いや待って。どうしたの、白井。だって今まで私達、そんなにしゃべったことすらなかったじゃん。いやいやいやいや、ないでしょ。それはないから。
パニクる私に構わず、……違うな、きっと白井は白井でそんな余裕はなく、ただものすごく早口に、
「あ、そう言えばさ、足立ってクリスマスが誕生日なんだろ?じゃあそれ、足立にハピバってことで」
と言った。
嘘でしょ。告るにも、もうちょいマシなシチュがあるでしょ。くれるものだって、こんな中途半端な……引くでしょこれじゃ。これで喜ぶと思われてたとしたら、ちょっとなんていうか……。いやでも待って。別に告られてはないか。じゃあこれは、ただ単にお近づきの印、的な?え、どういうこと。どうしたら。
「じゃ!」
白井は全てをぶったぎるように去っていった。ぽかん、というオノマトペが頭に浮かぶ。
普通に考えたらあり得ない。だけどなぜか脳内に流れ始めるクリスマスソング。これは何かの魔法かもしれない。正気の沙汰じゃない。なのに、はっきり感じる啓示のような予感。私はきっと、白井を好きになる。もうすでに、運命は動き出している。好みのタイプでもなんでもないのに。話したこともほとんどないのに。でもわかるんだ。私はきっと、白井を……。
気がつくと私は、白井お手製のキャンドルを包む手を胸に当てていた。メリークリスマス。少し早いプレゼントをありがとう。今年のサンタからのプレゼントは、過去一不思議なものになりそうです。
※クリスマスはキリストの誕生日ではありません。
《キャンドル》
少女がマッチの火の中にみたクリスマスツリーの枝枝には、美しいキャンドルが飾られていたらしい。
マッチ売りの哀れな少女が見たという、巨大なクリスマスツリーを橙色の暖かな光に包んで描いた挿絵のページをぽっかりと開いたままの絵本が、無造作に置かれていた。
白髪の混じった小柄な蝋細工師は、ふしくれだった手を夢中で動かしていた。
熱で撓み、ひび割れた作業机の上で、彼は夢中で、固まった蝋に、絵の具とニスを塗りたくった。
文字盤のひび割れた時計が、一つ鐘を打った。
壁掛けのカレンダーがすっかり厚みをなくし、窓の風で揺らめくようになるこの時期は、彼の一番好きな季節だった。
クリスマスが近いからだ。
この時期こそ、彼の寂れた場末の蝋細工屋が、ぼかぼかと原色の明るい蝋燭やら蝋細工やらを拵えることができる唯一の時期だったからだ。
都会からの観光客もなかなか訪れないこの町では、緻密な蝋細工や、丹精を込めて華やかに拵えられた蝋燭はなかなか買い手がつかなかった。
普段出るものといえば、もっぱら、法事や仏壇に使われる、安価な剥き身の白い一本立の蝋燭か、誰かの誕生日に使われる、プラスチック玩具のようにビカビカと頼りなく細い量産型のキャンドルだった。
この蝋細工屋はそれなりに、時勢の変化や流行に、それなりの興味を持っていたので、アロマキャンドルなどという洒落たものも作ってはいたけれども、片田舎のこの町ではそれを定期的に買うものも少なかった。
だから、彼が工夫を凝らして緻密に作り上げた彼の職業矜持に見合うような“作品”は、平時の彼の店ではなかなか作れなかった。
しかし、その薄ぺらい平時も、この時期には一掃、報われる。
クリスマスという行事が台頭したからだ。
年末が近づき、クリスマスの浮ついた空気が世間を包むようになると、流石のこの町も、良きクリスマスを過ごそうと、いろいろ奔走するようになるからだ。
かくして、その時分には例外的に、この蝋細工屋でも、たくさんのものが売れていく。
蝋がぎっしり詰まった細々とした蝋細工や、趣向を凝らした洒落たキャンドルなどが、飛ぶように出ていく。
彼の“作品”が、名実共に顧客の正当な評価を受ける時期。
それが11月から12月という一ヶ月なのだった。
そのため、彼は、この時期を何より楽しみに、何より生き甲斐として、熱心に仕事に取り組んでいた。
この一ヶ月という短い時期に、彼は、寝食を惜しんで作業机に向かい、たくさんのキャンドルを生み出し、納得ができるまで作り上げるのだ。
彼は、この楽しみのために、一年をやりくりした。
この一ヶ月は、彼の職業人生のほぼ全てだった。
ひび割れ、インクの薄汚れた時計盤は、11時30分を指していた。
店の外は夜闇が降りて、この店の作業室だけが、煌々と電気と蝋燭の明るい光を放っていた。
彼は、深みのある緑の蝋の上に、白くもったりと蝋をしなだれかけた。
そして、その上に、たっぷり油の染みた芯を取り付けた。
それから、僅かに金ラメの入ったニスを選び取り、丁寧に塗りつけた。
完成したキャンドルは、仄かに葉の匂いを漂わせ、雪にかかられたモミの木のひと枝のように思われた。
彼は満足気に頷き、それからううん、と、四肢を突っ張った。
キャンドル作りのために、丸い猫背で固まっていた彼の背は、ぽきぽきと小気味いい音を立てて、弓形に伸び上がった。
それから彼は、満ち足りた様子で、キャンドルを横に避け、それから新しい型を手に取った。
キャンドルと電燈に囲まれて、彼は自分の仕事と人生の喜びを噛み締めていた。
今年が終わることを感謝した。
そして、来年の年末が早くくれば良いのに、と、子どもじみたことまで思った。
彼は満足だった。
しかし、彼は知らなかった。この小さな町の巨大な空き地を、全国区のキャンドル小売業社が買い取ったことを。
来年には、巨大なキャンドル工場が、この町にもできるということを。
彼はまた、せっせと仕事に取り掛かった。
どこからか、そよ風が迷い込んできた。
電燈は、それにも靡かず、変わらず彼の手元を照らしていた。
しかし、キャンドルの火は、風に靡かれて頼りなく揺れ、彼の預かり知らぬ間に、フッと音もなく消えてしまった。
キャンドル
久しぶりに灯した蝋燭…
子供の頃は、台風の度に停電があり、ガタガタなる雨戸や突風でミシミシ揺れる家の音が怖かった…そんな中で、薄暗く、ゆらゆらしている、蝋燭の明かりが、少しだけ、心が休めてくれた…
また、夏祭りの時に飾られた手作りの灯籠も、蝋燭の明かりだった…四角の木枠に、和紙に好きな絵を描いたものを貼り付けて、ピンと張った縄にぶら下げて、足元を照らしていた…
そんな遠い故郷の景色が、目の前の揺らめく蝋燭の炎に浮かんでくる…
チェッカーズ全盛期に私が生まれていたら、間違いなく狂っていたと思う。
自分たちをアイドルだと強く認識していて、あんなにバチバチに音楽やって。
藤井フミヤと結婚したいとか絶対言ってたと思う。
私に無いものを持ってる人のことを好きになりがちだし、そんな人と自分の共通点を見つけたらすぐ沸くし、そのまま憧れになって、その人になりたくなる。
これが私の推し増しパターン。
強くてかっこいい女の人が好き。自分の信念を持ってる人が好き。あざとくてカワイイ男の子が好き。頭の回転が早い人が好き。自分の好きをめいっぱい表現してる人が好き。
みんなに好かれてる人が好き。
これ全部、私のなりたい私なんだろうなって気づいたのは割と最近なんだよね。
自分のこと大切だけど好きになれなくて、だから誰かには好きでいてもらいたいし、その誰かは多ければ多いほどいいと思っちゃう。
普通でいなければいけないと思うと同時に、なにか特別なものがないといけないと思う。
人の目なんて気にしなくていいとか、誰だって誰かの特別だとか、オンリーワンとか、そういう事じゃなくてさ~
穴の空いた器が心の中にあって、貰った言葉とか気持ちとか思い出とか全部全部詰めていくんだけど、このままだと一生満たされない気がしてる。
そんな私は普通じゃないから、能天気で明るい元気な人を演じて、またその穴を大きくするんだよね。
別にそれを満たすことが人生のゴールや目的じゃないかもしれないけど。
しかしながら、そんな器のこともすっかり忘れて楽しめるのが好きな人を見て憧れてる時間なんだよね。
その人になりたいと思うことが多いから、感受性豊かなのかな?
手相占いでだいたい言われるんだそういえば。
人前で明るく振る舞うとこういうところで暗い部分めっちゃ出して均衡保とうとしてるわねといった23:41
【キャンドル】
『和ろうそくは、つなぐ(大西暢夫 著 アリス館)』という児童書を読んだ。
職人たちの仕事の様子を写した写真に必要最小限の言葉が綴られ、ページをめくるたび、材料が別の職人に受け渡され、次々と循環していく。
50ページにも満たない薄い写真絵本なのだが、読み終わった瞬間、日本の伝統文化ってすごい、と。素直に思える本だ。
まずこの本は写真がとても美しい。
更に児童書なので、わかりやすくやさしい日本語。
勿論漢字にはふりがなも付いているからとても読みやすい。
子どもの頃にこういう本に出会っておきたかった(笑)。
この本を読み終えたあと、ティーキャンドルよりも和ろうそくを買って、まず芯の部分をじっくり観察してから、大事に灯してみたくなるのは、きっと私だけではないと思う。
【11/19お題:キャンドル】
いっその事死んだ方が楽なんじゃないかって
悩んで悩んで悩みまくるくらいなら
死ぬほうがって
また考えるようになった
お題『キャンドル』
真っ暗な宇宙に放り出されたような部屋。
まろやかな霧が、時を止めるように固められた蝋。ほんのり、クリーム色のそれが、テーブルに居座っていた。
君に魔法をかけてあげる。
しゅっ、と小気味のいい音と感触がして
じゅわわ、と音を立てながら、一つの星が爆発する時みたいに、木の棒の先端が眩く光った。
慎重に、しかし早く灯れ、と急かしながら真っ白な芯へと火を近づける。
静かにその光は、芯へと居場所を移した。
魔法の木の棒へと風を送れば、星がひとつ消えるように、ふっと静かに息を潜めた。
小さな灯りは、頼りなさげに、しかし確かに、私の顔を暴き立てる。
きみはどんな形?きみの大きさは?きみの好きな形は何?きみは今どんな顔?どこを向いてるの?
さあ、息を吸って。ありのままに、答えて。沈黙もまた、答え。
きみは今、どんな気持ち?
#キャンドル
マグカップを両手で包みこみ、甘い煙がぽかぽかのぼってゆくのを眺める。
目線を下に向けると膝の上で愛猫がゴロゴロと喉を鳴らしている。愛おしくて、私は思わずそのふくふくの愛猫の顔に手をうずめた。この子は元々野良猫で、ある日うっかりうちに迷い込んで来た。誰かの飼い猫という訳でもなかったので、晴れてうちの子となったのである。
愛猫は撫でられているうちにとろとろと溶け、段々と体の輪郭が曖昧になり、ついに液体となった。私は慣れた手つきで猫をふわっと上に舞い上げ、猫もまた慣れたようにそのままふよふよ浮かんで私の顔の周りをぐるぐると回る。
しばらく漂うのを見届けたあと、私は目を見つめながら「お願い」と優しく微笑んだ。すると猫は私の目の前で止まり、目の前にあるキャンドルへと向かっていく。
ぽっ。と音が鳴って暖かい炎が灯った。
疲れた時にアロマキャンドルで
癒されて、嫌なことを忘れて、リラックスして、
今日の疲れを取って
【キャンドル】
キャンドルをともす習慣がない。
そういう文化に育っていない。
素敵だなと思うことはある。
憧れて買ったこともある。
探せば家のどこかに
きっとある。
『キャンドル』
キャンドル。
僕は、それを命の灯りと同じだと思う。
人の、命の灯りが燃えれば燃えるほど、
寿命が縮んでいくように、キャンドルも灯り続けると
溶けて縮んでいく。
キャンドルに灯された灯りが尽きるときは、
人で言う、寿命が尽きるとき。
キャンドルの灯りと、命の灯りは、同じなんだ。