作品No.233【2024/11/19 テーマ:キャンドル】
※半角丸括弧内はルビです。
キャンドルに火を灯す。ほのかな灯りが、卓袱台(ちゃぶだい)の上を照らした。
「ごめんな」
俺がそう言うと、隣に座っていた由里子(ゆりこ)はゆっくりと首を横に振った。
「いいんです。早乙女(さおとめ)さんがそう決めたなら」
「でも——」
「それに」
言い募ろうとする俺の言葉を遮って、
「もう、手遅れですから」
と、少し悲しそうに由里子は言った。その言葉で、ハッとした。
そう、もう手遅れなのだ俺達は。後戻りなどできない。
「やろうか」
「はい」
俺と由里子は、卓袱台に置いていた錠剤を飲み、水で流し込んだ。まだ意識はあるが、少しずつ眠くなってくるはずだ。
「由里子」
俺は、意識をなくす前に訊いておこうと口を開いた。
「忠巳(ただみ)くんは、よかったのか?」
俺のその問いに、由里子は一瞬押し黙った。
「……あの子には、酷なことをしました。母親失格、です、ね……」
そう言って、由里子は俺に身を寄せた。そして、目を閉じると、静かに寝息を立て始める。
「眠った、か」
俺も、眠気に負けそうだった。けれど俺には、その前にやるべきことがある。動かしづらい身体を動かして、キャンドルに手を伸ばす。
この部屋には先ほど、灯油をありったけかけた。この火の点いたキャンドルを倒せば、燃え広がってくれるだろう。
「由里子」
俺に寄り添いながら眠る、由里子を見る。
「忠巳くん」
由里子の膝の上で動かない、忠巳くんを見る。
「ごめん、な……」
その言葉と共に、俺は手で払うようにキャンドルを倒した。
11/19/2024, 2:57:19 PM