作品No.234【2024/11/20 テーマ:宝物】
どれも大切だと思うから
手放せないものばかり
ここに残って増えていく
作品No.233【2024/11/19 テーマ:キャンドル】
※半角丸括弧内はルビです。
キャンドルに火を灯す。ほのかな灯りが、卓袱台(ちゃぶだい)の上を照らした。
「ごめんな」
俺がそう言うと、隣に座っていた由里子(ゆりこ)はゆっくりと首を横に振った。
「いいんです。早乙女(さおとめ)さんがそう決めたなら」
「でも——」
「それに」
言い募ろうとする俺の言葉を遮って、
「もう、手遅れですから」
と、少し悲しそうに由里子は言った。その言葉で、ハッとした。
そう、もう手遅れなのだ俺達は。後戻りなどできない。
「やろうか」
「はい」
俺と由里子は、卓袱台に置いていた錠剤を飲み、水で流し込んだ。まだ意識はあるが、少しずつ眠くなってくるはずだ。
「由里子」
俺は、意識をなくす前に訊いておこうと口を開いた。
「忠巳(ただみ)くんは、よかったのか?」
俺のその問いに、由里子は一瞬押し黙った。
「……あの子には、酷なことをしました。母親失格、です、ね……」
そう言って、由里子は俺に身を寄せた。そして、目を閉じると、静かに寝息を立て始める。
「眠った、か」
俺も、眠気に負けそうだった。けれど俺には、その前にやるべきことがある。動かしづらい身体を動かして、キャンドルに手を伸ばす。
この部屋には先ほど、灯油をありったけかけた。この火の点いたキャンドルを倒せば、燃え広がってくれるだろう。
「由里子」
俺に寄り添いながら眠る、由里子を見る。
「忠巳くん」
由里子の膝の上で動かない、忠巳くんを見る。
「ごめん、な……」
その言葉と共に、俺は手で払うようにキャンドルを倒した。
作品No.232【2024/11/18 テーマ:たくさんの想い出】
いいことよりも
悪いというかよくないことばかりが
ここに残っている
もっと
楽しい思い出とか
ほしいな
作品No.231【2024/11/17 テーマ:冬になったら】
冬になったら
もこもこパジャマ着たいし
もこもこ靴下履きたいし
布団にくるまって
ごろんごろんしたい
冬の方が 多分まだ平気
作品No.230【2024/11/16 テーマ:はなればなれ】
※半角丸括弧内はルビです。
「ボクと離れ離れになっていいって言うの⁉︎」
ちょうど一年前の今日から付き合い始めた盛田(もりた)が、涙で顔をグチョグチョにして言う。正直、デブで不細工の男にそれをされても、ただ萎えるだけだ。無意味な努力としか思えない。
「うん。さっきから、そう言ってるじゃん」
そしてアタシは、直視したくもない盛田の顔を見て、もう一度言ってあげる。
「別れよ、アタシ達」
「なんで⁉︎」
そういうのが嫌いだからだよ——と、言いたい気持ちを飲み込む。そうしたら、この男はよけいに不細工になるのが、容易に想像できるから。
「とにかく、アタシはもうアンタとは他人になりたいの。だから、もう終わり」
そう言って、席を立つ。伝票立てから伝票を抜き取って、
「最後だし、ここはアタシが払うよ。……ああ、違うか」
と、途中で言葉を止めた。そして、息を吸う。
「いつも、アタシが払ってたっけ? アンタ、食事奢るどころか、アタシと遊ぶ金すら無いもんね?」
わざと、周りに聞こえるくらいの大きさで言う私は、性格悪い女に映るかもしれないけど。それでもいい。どうでもいい。
こんな男と一緒に一年過ごしたことに比べたら、大したことない。
「じゃーね。……今後、アタシの前に現れたり、連絡したりしてきたら、アンタの身体を離れ離れにしてあげるわ」
脅し文句をその場に置いて、アタシは盛田から完全に背を向ける。
後悔なんて、全くなかった。