『みかん』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
温もり(再投稿)
「進めておけ。いいな?」
「うん、分かった」
私の部屋に訪れ、ヴァシリーは次の任務の資料を渡してから言葉少なにそう言って立ち去った。
机に向かい、資料に目を通す。内容は数日後に、西の国にある背教者たちの拠点一つを殲滅するというものだった。その指揮官にヴァシリーの名前があった。
(そういえば、ヴァシリーとの付き合いは十年くらいになるんだっけ……)
ふと、私は十年前の出来事を思い出す。
私の故郷は、教会と対立している背教者たちによって滅ぼされた。両親は目の前で殺され、私も同様に殺されかけていた。
地に倒れ、抵抗する私に馬乗りになった男が高くナイフを振り翳した時だった。
「邪魔だ」
瞬間、男の胸が細剣に貫かれる。男はナイフを落とし、細剣が引き抜かれるとその身体が横に倒れる。返り血が全身に飛び散り、呆然とする私。
「娘、名は?」
「……ミル」
「そうか」
その人は無表情で剣をしまうと、私のことを抱き上げた。そうして、間近で目を覗き込まれる。その青い瞳は綺麗だったけど、何処までも冷たくて私のことは見えていないような気がした。
私のことを値踏みするように見つめた後、その人は小さく口角をあげた。そうして彼は近くにいた騎士に声をかける。
「先に戻る。後は片付けておけ」
「はっ」
そして、私を抱えたまま彼は歩き出す。殺された両親にお別れも言えないまま。
「ミル。お前は今日から俺が面倒を見てやろう」
「……」
「どうして黙る?嬉しくないのか?」
「保護するなら、別に教会に預けるだけでいいはず。なのに、何であなたが私の面倒を見るの?」
「ほう。俺がただの聖職者だとは思わんのだな」
楽しげに笑うその人を私は静かに見つめる。視線に気づいたのか、青い瞳がこちらを見た。
「思わない。それなら、こうも簡単に人を殺すはずが無いから。仮に聖職者だったとしても、あなたはきっと神様なんて信じていないでしょう?」
すると、それまで笑っていた彼はふっと笑みを消した。そうして、私を抱きかかえる腕に力がこもり、私は彼の胸に頭を密着させる形になる。
「随分と強気だな、ミル。親が殺されて、悲しくないわけでもあるまいに。何故、泣かない?」
「……多分、心が追いついてないから。本当にお父さんとお母さんは死んじゃったんだって……まだ、実感が無いから」
「だが、お前は親を殺したあの男に殺されかけていた」
どくり、と心臓が大きく跳ねる。目の奥が急に熱くなって視界が滲む。今になって死の恐怖がすぐそこにあったことを実感したから。
「……」
「ミル。俺は決して優しくは無い。このような戦いの場を好み、気の向くままに行動する。お前を拾ったのもただの気分だ」
「それでも」
私は涙声になりながら、訴えた。
「あなたは私の命の恩人。だから、着いていく」
その後にヴァシリーから手当を受け、彼が騎士団の中では幹部にあたる執行官の名を持っていることを知るのはすぐだった。
それからというもの、彼の下で武器の扱いを学び、私に合う得物を見繕ってくれた。何やかんやで彼は面倒見の良い人では無いかと思ってしまうのは、私だけかもしれないけど。
(……あの時は本当に気紛れだったのかもしれないけど、本当に感謝しているんだ)
資料に最後まで目を通し、ページを閉じる。そうしてヴァシリーに任された任務に向かうために支度をする。
少しでも彼の役に立てるように。救われた恩返しをするために。
『みかん』
こたつの中でぬくぬくとしている中で、甘いみかんを食べる瞬間が好きだ。ああ、俗っぽいなんて言わないで。確かに私は俗っぽい人だけれど、それで得られる幸せは俗っぽくなんてないの。
こたつの上に置いてあるペンを手に取る。キュッと音を立てながら、みかんに顔を描いていく。
「ね、どう?」
隣で寝ていた彼を起こして、彼の顔を描いたみかんを見せた。彼は寝ぼけたままで言う。
「ぶさいく」
「あなたを描いたんだけど」
「じゃあいけめん」
そして、のそのそとこたつから上半身を出して、彼も同じようにペンを手に取った。真剣な顔つき。私はそれを見られるだけでも満足だった。
「これ、おまえ」
「……意外と似てる」
「まあね、───」
お前のことはよく見てるから。
……いけない、暑くなってきた。そうだ、外に出よう。みかんでも買ってこようか。
みかん
高くてもいいからどうしても食べたい!
仕事終わりに買うと決めてあったのでスーパーの果物コーナーに直行した。
案の定、500円超えだ…。
少し悩んだが背に腹はかえられない。
なんとなく美味しそうなイメージの熊本県産を購入。
食後に夫と1個ずつ食べてみる。
甘さと酸味のバランスがドンピシャ。
溢れる果汁がウォータースライダーのように喉に流れ込む。
美味しい。買ってよかった…!!
みかん農家さん、いつもありがとう。
炬燵の上にカゴに入れて置いてあるみずみずしいオレンジ色のみかん。
炬燵に足を入れ、みかんのカゴに手を伸ばす。
テレビを見ながら、カゴの中身だけが減っていく。
いつの間にか黄色くなった手を見つめながら後悔をする。
また、食べすぎた。
酸っぱいけど、甘いこの味が好きだから。
やめられない。
また明日買ってこよう。
2024/12/29 みかん
生きている理由がわからないと言って
じゃあどうして死なないのと言われた深夜。
お題「みかん」(雑記・途中投稿)
海外産より日本産が美味しい代表例。オレンジより断然みかん派。
でも買うならりんご。
一人暮らししていた友人が一箱買おうか悩んでいて、そんなに食べるのか? と毎年思い出しては首傾げちゃう。まあ当時は漫画家志望で在宅だからかもしれないけど。
今はもう結婚したから買ってんだろうな。毎年ほぼ帰省しないって言っていたし。フルデジタルに移行したって聞いたし。液タブなら手を汚しても原稿には飛ばないし。
……ギャグ四コマ漫画家の津山ちなみ先生が原稿めちゃくちゃ汚くなるって書いていたけど、友人は多分原稿綺麗な人だと思う。まあそんな辺りが漫画家として成功出来なかった一因なんだろうなとは勝手に思うんだけど。
あったら食べるけどなかったら買うほどではない代表例……と言いつつ、一昨年は静岡県にいたから三日日みかんをちょくちょく安くて買っていたわ。
机の上に
甘い蜜柑がいくつか乗っていた
それは確かに甘かったが
同時に酸味を感じた
橙の皮の中にある
橙の実は
柔らかい食感で
甘味であり酸味もあった
この丸い球体が
もはや日本の冬になくてはならない
果実になっていたことに
最近気づいた
気がつけば冬にその果実を食い
年を越すことが
毎年欠かさぬ行為になっていた
気がつけばそうなっていたので
何時からそうなっていたのか
全くわからない
そのせいなのかもしれぬが
蜜柑を食うことにより
一年が終わる
悲しさと
寂しさを感じるようになった
これも毎年年末に
蜜柑を食うようになったせいだろう
だがその悲しさと寂しさを含む甘露と酸は
毎年私を救う味となった
これも気づけばそうなっていた
具体的にどうなるとか
そういうことは分からないが
その実を味わうときに
私は何故か
救われる気分になるのだ
机の上のいくつかの蜜柑
私はそれを黙って食う
そして黙って
年を越すのだ
※創作百合
「いっ······!」
がちり。というしっかりと明確な音を認識すると同時に、口内の一箇所を襲う燃やされているかのような激しい痛み。ああ、またやってしまった。そう理解するまでに要した時間はきっと一秒にも満ちていない。
「······ったぁあ······」
右手に持っていた箸を反射的に弁当箱の上に乗せ、今しがた大層な傷を負ってしまった右頬を両の掌で覆う。しかし勿論そんな行動には何の意味も無くて、ジンジンと尾を引く痛みの中に微かな鉄味を感じ取りながら、私は暴れ出したい衝動を必死に堪えながらただひたすら痛みが何処かへ去っていくのを待ち、耐え忍ぶ。
そんな私の挙動の一部始終を真正面という特等席で全て見ていた友人──美柑(みかん)は、心配をするどころか呆れたような眼差しで、まるでつまらない映画を鑑賞させられたとばかりの態度で机に片肘を置き、至極どうでもよさそうに口を開く。
「まぁたやってるよ。流石に見飽きたわ」
「〜っ、うるさいなぁ······!」
私だって好き好んでこんなことをしているわけじゃない。でも、自分の意思でどうこう出来るものでもなかった。
「な〜にが悪いんだろうねぇ? どうにかなんないの? その変な噛み癖」
「今回は、その······二日ぐらい前から左側に口内炎が出来ててぇ······だから右側で噛んで食べてたら······」
「いつも通り“がぶり”、ってわけねー。ていうか、その左側の口内炎の話、あたし聞いてないんですけど?」
「う······、だって······」
今まで必死に美柑から逸らしていた目を、ほんの少ぅし、そちらへ向ける。向かい合わせてくっつけている美柑の机の上。弁当箱の横に、まるで威圧感を放つかのごとく堂々と鎮座しているソレ。
「言ってくれればさぁ、ほら。あたしいつだって分けてあげるって言ってんじゃん」
私の顔を下から覗き込むようにして見上げてくる美柑の瞳は綺麗な三日月の形で笑んでいて、ドラマの悪役もビックリな悪人顔で弁当箱の横のソレを人差し指で艶めかしく一撫でする。あまりの悍ましさについ「ヒッ」と恐怖に引き攣った情けない声が飛び出た。
「やめてぇ······! それだけは、それだけはぁ······!!」
座っている椅子をガタガタと喧しく鳴らしながら背後へ後退し物理的に距離を取る私を胡乱げにジッと見つめ、次いでその視線を例のブツ──みかんへと移し暫し見つめた後······美柑は「ハァーー······」と深々と溜め息を吐いた。
「ったく······なぁんでそんなに毛嫌いするかなぁ? みかん」
美味しいのに、とみかんを見遣りながらどこか寂しげに零す彼女の様子を観察しながら、ジリジリと椅子ごと元の位置へと時間を掛けてゆっくり戻る。
そう、私は大のみかん嫌いだ。幼い頃、気付いた時にはもう既に手遅れなほどに苦手意識が染み付いてしまっていた。少し厚い皮を指で剥く感触とか、実にくっついている白い部分とか、口に入れた時に甘さよりも先に来る酸っぱさだとか······もうとにかく、何もかもが苦手でしょうがない。それに輪をかけて私のみかん嫌いに拍車をかけたのは、頻繁に作ってしまう口内炎の存在だった。「みかんは口内炎に効くからねぇ」なんて言いながら、同居していた祖母に半ば無理矢理馬鹿みたいな量を手ずから食べさせられたのだ。それが私にとって決定的なトラウマとなってしまったのは言うまでもない。
そう、私はみかんが嫌いだ。みかんのことが大嫌いだ。そのはず、だったのに。
「じっちゃんばっちゃんが農家やっててさぁ、この時期になると大量に送り付けてくんの」
いつのことだったか、今日みたいに昼休みに一緒にご飯を食べていた時。毎回デザートとしてみかんを必ず持参してきていた彼女に理由を聞けば、そんな答えが返ってきた。「好きだから全然いいんだけどね〜」と笑いながら、みかんの皮に親指を突き立て、濃いオレンジ色を丁寧に剥いていく細くて白い綺麗な指。手元に視線を落としていることで伏し目になったその瞼から伸びる、黒々とした長い睫毛。食べるのが余程楽しみなのであろう、ゆるやかに弧を描く口元はほんのりとリップで淡く色付いていて。本人曰く天然らしい、太陽の光を受けた少し明るい茶色の髪には、天使の輪が神々しく乗せられていた。
あの時、私は思ってしまった。考えてしまった。彼女に愛されるみかんが羨ましくて、憎らしくて。みかんなんかよりも彼女の方がずっとずっと美味しいに決まっている、なんて。
そんな、馬鹿げた、戯言を──。
「ほれ、あーん!」
「むゥ!?」
不意を突かれた唇はあっさりと開かれ、押し付けられた“何か”を何の抵抗もせず口内へと受け入れてしまう。鼻で感じる匂い、舌で確かめる感触、ゆっくりと慎重に歯を立て破いた薄皮。瞬間、中の果肉が“ぐちゅり”と果汁と共に飛び出る。ああ、酸っぱいよ。さっき噛んだところに染みて痛いよ、馬鹿。馬鹿、馬鹿、馬鹿。
「この美柑様のみかんが食えぬと申すかー! なんちゃって〜」
文句の一つ、いや二つでも三つでも言ってやりたいところだったけど、今はまだ口の中に憎きアイツが居らっしゃるので。食べ物を口に入れたまま喋るのはマナーとしてどうかと思うし? 仕方なく、本当に仕方なく、抗議をすることは我慢したけど。
「早く治せよ〜、口内炎」
ニッといたずらっ子みたいな表情で笑う美柑を見たら、例え口のなかに何も入っていなくても、きっと私はどんな言葉も紡げやしなかった。
ああ、もう、本当に。
憎いよ、みかん。
狡いよ、みかん。
みかん
みかんって美味しい
甘酸っぱいのが好きだからいっぱい食べる
親指の爪がみかん色になるまで食べる
なんだ、なんだと猫が近づいてきて親指を差し出した
くんくんと匂いを嗅いで、まん丸なお目がしょぼしょぼになって渋い顔になっていく
騙されたーなんて捨て台詞を吐くように、そそくさと去っていく猫を眺めながら新たなみかんに手を伸ばした
幼い頃食べ過ぎて手指だけでなく視界まで黄色くなったと母
廊下に置かれた段ボールに納得する年末
「みかん」
2024年11月3日から何となく思いついた事をメモのように書き始めました
500いいね ありがとうございます
みーちゃんは
かんぺき可愛い
ん( -_・)?
Kiss Me please…
……
Kiss again
甘えたつもり…
欲しいと思った
貴方を…
貴方の大翔を飛びたい
誰より高く飛びたい
抱きしめて…
高橋真梨子
みかんっていいよね。
美味しいだけじゃなくて食べやすいし。
だってまず皮。手で簡単に剥けちゃいます。包丁を用意する必要なし。
さらに皮を剥いた後はこれまた簡単に一口サイズにすることが出来ます。そしてそのままパクッと。美味しい。
人間が食べるのに都合が良すぎる果物ではないでしょうか。
でもたまに皮が剥きにくいみかんあるよね。あれなんでなんだろう……。
みかんは、美味しい。
みなさんすっぱいみかんとあまいみかん、どちらが好きですか?
僕はすっぱいみかんが好きです。
いちごもすっぱい方が好きです。
蜜柑といえば,やはりこたつのイメージでしょうか
テレビを見ながらこたつに入り,家族団欒でみかんを食べるが一般的かもしれませんが,私は深夜遅くの風呂上がりに、冷えた蜜柑をちまちま一人で食べるのが好きです
【みかん】
冬になると食べたくなる、みかん
こたつで暖まりながら
一房一房食べる、みかん
みかんを食べると冬になったなと感じる
そうして、またこたつにこもる
こたつむりの増える、この季節
しっかりと暖かくして過ごすとしよう
みかん
冬のある夜。こたつに入って彼氏の康太君とテレビを見ていた。
「なあ。これからもずっと俺とみかん食べてもらえないか。」
あまりに突然で何を言われたのか理解できなかった。
「どういうこと?」
「どういうことって、お前なぁ。プ、プロポーズに決まってるだろ。」
康太君は顔を真っ赤にしながらちょっと怒っていたが、今のはプロポーズだったのか。私は急に顔やら耳が熱くなるのを感じた。
プロポーズって言ったよね。
「俺はみかん農家だからな。そういうことだよ。」
そういことって。うん。そういうことだ。
私はみかん農家の嫁になった。
みかん畑は斜面にあり、作業をするたびに登ったり降りたりするのが大変だ。
でも、晴れた日にはみかん畑から見える青い海と空は太陽に照らされキラキラと輝き、疲れを忘れさせてくれる。
これからも康太君と一緒に美味しいみかんを作っていきたい。
実家はみかんの一大産地で、私が小さな頃、自宅で内職をしていた母親は、毎年、冬の早朝に「みかんきり」に行っていた。急斜面に植えてある数多のみかんの木からみかんを収穫するバイトである。お土産は「くずみかん」。主に規格外の大きさのみかんのことを「くずみかん」と呼び、毎日、スーパーの袋いっぱいに詰められた物を持ち帰って来た。
我が家はたくさんのみかんを勝手口のダンボールの中に入れていた。勝手口は外気温と同じく寒い。風が吹かないだけマシという寒さで、貯蔵するにはちょうど良かった。毎日持ち帰って来るから消費が追いつかない。ご近所さんに配りたくても、どの家庭でも同じような状況で、くずみかんは無限に増殖するばかり。
冬休み中、勝手口がみかんの香りで充満する、私はそれが好きだった。
そして、みかんは勝手口ばかりではなかった。台所にも居間にも仏壇にもあった。みかんが余りに増殖すると、母親は自分の車にもみかんを持ち込んだ。みかんが車内のおやつだったのは、今考えると笑ってしまう。
そう言えば、みかんを揉むと甘くなると気づいて、みかんを揉み出したのはいつの頃か。小さな頃から酸っぱいのは苦手だったから、もしかしたら小さな頃から揉んでいた?
実家から送られてきたみかんのダンボールを開封する。みかんの香りが、あの寒すぎる勝手口を思い起こさせる。
「箱の下の方にあるみかんから食べてよ。みかんの重みで下の方が傷みやすいから」
みかんの香りに釣られてやってきた子どもたちに急いで伝える。
カビる前に食べ切らなきゃ、と妙な使命感に駆られるのは、母親譲りなのか。
揉んで甘くして、皮を剥く。白いスジを可能な限り全滅させるのは子どもの頃から。
一房ひとふさ口に入れるのも子どもの頃から。
小ちゃい房のみかんを「あかちゃんみかん」と誰かに伝えたくなるのも子どもの頃から。
私は、我が子が小さな頃、みかんがカタツムリに見えるように皮を剥いていた。皮の端っこにペンで目と口を控えめに描くと本当に可愛くて、私のお気に入りの剥き方だった。
大きくなった子どもたちに「またお母さんがカタツムリを作ってる」と毎年言われている。
ああ、今日は作り忘れたから、明日カタツムリを作ろう。とびきり可愛いにっこり笑顔のカタツムリを。
我が家の冬休みの風物詩になると良いな。
私はみかんを一房づつ口に放り込みながら、香りと甘さに「美味しいね」と子どもに笑いかけた。
みかん&冬休み
昨日、こちらの世界には"フユヤスミ"というものがあるとyから教えて貰った。
最近は支部にほとんどの人間が集まっていて、それぞれが鍛錬をしたり料理をしたりして自由に過ごしている。聞くと、皆その"フユヤスミ"を楽しんでいるらしい。
だが…
「s、jは何処に居る?」
とオレは菓子作りをしているsに尋ねた。
『あぁ、jさん、確かにみんな冬休みなのに帰ってこないね…なんでだろう』
不思議そうにsは返す。
『jさんはしょうがないわよ、あの人は暗躍が趣味なんだから。』
とsと一緒に菓子を作っていたkが割って入った。
「暗躍………」
押し黙ってしまったオレにsが声をかけた。
『hくんが良かったらだけど…jさんにメールしようか?』
「!!……すまない。頼む。」
sは流石オペレーターと言ったところか。いつも気を利かせてくれる。礼をしなければならない、と強く思った。
ー暫くして、玄関の方でガタガタと騒がしい音がしたかと思うと、jが勢いよく部屋に入り込んできた。
『hは…?』
息を荒げて辺りを見回す。ソファでホットココアを飲んでいるオレと目が合うと、jの顔が輝いた。
『h〜、sから聞いたぞ〜』
言われてsの方を見やると、sはにやにやしながらこちらにピースを向けていた。これは…礼をする必要はないみたいだ。
「………」
『おいおい、そんな嫌そうな顔するなって』
「…オレは、"フユヤスミ"がしたいだけだ。別にjに特別な用事があった訳では無い。」
『え〜でもsが〜…』
非常に五月蝿い。
「言葉の綾だ。」
『はは、…いや〜そうか、冬休みか…学生時代以来だな〜』
しみじみとしているjを睨む形で見る。
『まあまあ、そんな顔するなって。うーーーん、冬休み…よし、じゃあ行こうか』
「何処にだ?」
『それは行ってからのお楽しみってことで』
思い切り嫌そうな顔をしてみせたが、jはお構い無しにオレの背中を押し、半ば強制的に連れ出した。
ー外出の内容がいつもと何も変わらなかったのにオレが腹を立てるのと、オレが"フユヤスミ''の意味を知るのは同時だった。
〜〜〜
From:s To:j
件名:hくんが!!
内容:hくんがjさんに会いたくて寂しそうにしてるよ!
ほら、早く帰って来て!!
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冬休み
J × H
(視点 : 右)
いつも親が冬になると二箱のミカンを買ってくれて、大好きなもの。今日もたくさん食べています。果物の中でも1番好きなもので、これから一生冬になると暖かい部屋で家族みんなで食べていきたいな
去年の今頃、両親が務めている会社のお客さんから、日頃のお礼にとみかんを箱いっぱいに貰った。いくらなんでも多すぎるだろと思うくらいの量で、食べ切れるか心配だった。いくつか傷んでいるものを取り除き、早速食べることに。私はみかんを始め果物があまり得意ではない。しかしそれ以上に生物が腐っていく過程を見るのが大嫌いだ。1日2、3個食べていた記憶がある。数週間かけて家族みんなで食べきった。美味しかった。でも箱いっぱいはちょっとキツかったな…。もちろんそのお客さんにはお礼を言いたい。