実家はみかんの一大産地で、私が小さな頃、自宅で内職をしていた母親は、毎年、冬の早朝に「みかんきり」に行っていた。急斜面に植えてある数多のみかんの木からみかんを収穫するバイトである。お土産は「くずみかん」。主に規格外の大きさのみかんのことを「くずみかん」と呼び、毎日、スーパーの袋いっぱいに詰められた物を持ち帰って来た。
我が家はたくさんのみかんを勝手口のダンボールの中に入れていた。勝手口は外気温と同じく寒い。風が吹かないだけマシという寒さで、貯蔵するにはちょうど良かった。毎日持ち帰って来るから消費が追いつかない。ご近所さんに配りたくても、どの家庭でも同じような状況で、くずみかんは無限に増殖するばかり。
冬休み中、勝手口がみかんの香りで充満する、私はそれが好きだった。
そして、みかんは勝手口ばかりではなかった。台所にも居間にも仏壇にもあった。みかんが余りに増殖すると、母親は自分の車にもみかんを持ち込んだ。みかんが車内のおやつだったのは、今考えると笑ってしまう。
そう言えば、みかんを揉むと甘くなると気づいて、みかんを揉み出したのはいつの頃か。小さな頃から酸っぱいのは苦手だったから、もしかしたら小さな頃から揉んでいた?
実家から送られてきたみかんのダンボールを開封する。みかんの香りが、あの寒すぎる勝手口を思い起こさせる。
「箱の下の方にあるみかんから食べてよ。みかんの重みで下の方が傷みやすいから」
みかんの香りに釣られてやってきた子どもたちに急いで伝える。
カビる前に食べ切らなきゃ、と妙な使命感に駆られるのは、母親譲りなのか。
揉んで甘くして、皮を剥く。白いスジを可能な限り全滅させるのは子どもの頃から。
一房ひとふさ口に入れるのも子どもの頃から。
小ちゃい房のみかんを「あかちゃんみかん」と誰かに伝えたくなるのも子どもの頃から。
私は、我が子が小さな頃、みかんがカタツムリに見えるように皮を剥いていた。皮の端っこにペンで目と口を控えめに描くと本当に可愛くて、私のお気に入りの剥き方だった。
大きくなった子どもたちに「またお母さんがカタツムリを作ってる」と毎年言われている。
ああ、今日は作り忘れたから、明日カタツムリを作ろう。とびきり可愛いにっこり笑顔のカタツムリを。
我が家の冬休みの風物詩になると良いな。
私はみかんを一房づつ口に放り込みながら、香りと甘さに「美味しいね」と子どもに笑いかけた。
みかん&冬休み
12/29/2024, 12:38:42 PM