『ところにより雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
incendiary ≪焼夷弾≫
かつてどしゃ降りだった日本も
いまはかろうじて晴れだけど、
世界のどこかで今日もざあざあ
この雨がやむことはあるのだろうか。
(ところにより雨)
『続いて関東地方の天気です。午前、午後共に晴れ、ところにより雨が降るでしょう。』
朝のニュースのお天気キャスターがそう告げた。
私は朝食のトーストを齧りながら眉を顰める。
窓の外は青空が広がっている。
雨など降りそうにない。
ところにより、の"ところ"とは一体どこのことを指すのだろう。
そこの"ところ"はっきりしてもらわねば困る。
「嫌だな、この曖昧な感じ。いつも傘持ってくか迷うんだよね」
そう愚痴をこぼす私を横目に、彼がコーヒーの入ったマグカップを片手に窓辺に近づき窓を開けた。
まだ少し冷たい朝の風が吹き込んでカーテンが揺れる。
「今日は雨降るよ。君は今日、傘を持っていくべきだね」
窓から少し顔を出して外を覗いた彼が言う。
「こんなに晴れてるのに?」
「気配がするんだよ」
「気配?」
「雨の気配。匂いとか、風とか、気温とか、そういうの」
彼はそう言って悪戯に笑うとコーヒーを啜った。
そして彼の言う通り、その日は本当に雨が降った。
天気だけではない。
桜の開花宣言、野良猫が現れるタイミング。
彼の日常の何気ない予報は当たることが多かった。
彼の五感と直感で感じ取る繊細で丁寧な生き方に惹かれていた。
彼の見るもの触れるもの全てが愛しく思えた。
彼のことがとても、好きだった。
私もそんな風になりたいと憧れていた。
────
『続いて関東地方の天気です。午前、午後共に晴れ、ところより雨が降るでしょう。』
朝のニュースのお天気キャスターがそう告げた。
私は朝食のトーストを齧りながら眉を顰める。
窓の外は青空が広がっている。
雨など降りそうにない。
そっと窓を開ける。
まだ少し冷たい朝の風が吹き込んでカーテンが揺れた。
彼の居ない部屋で、彼が居た時のことを思い出してみる。
ところにより、の"ところ"とは一体どこのことを指すのだろう。
私と彼の"ところ"に降った雨は、止むことを知らなかった。
今日は傘を持っていこう。
もちろん、私には雨の気配を感じ取ることなんて出来ないけど。
きっと彼ならそうするだろうと思っただけだ。
冷めかけのコーヒーを一気に飲み干して、窓の外に目を向ける。
私の天気、晴れ。
未だに、ところにより雨。
遠くで雷が鳴った気がした。
「君は今日、傘を持っていくべきだね」と幻の彼が微笑んだ。
2024.3.25
「ところにより雨」
お題「ところにより雨 」
ーーーバンッ
銃声が鳴った、俺はそれを何処か遠くに聞いていた。
すぐ近くに何か重いものが地面に叩きつけられる音が響いた、曇天の空が見えてきたそうか俺が撃たれたのか。
ザー
誰かの慟哭をかき消すように雨が降り出した
「天気の嘘吐き野郎、ところにより雨だを忘れてるじゃねぇかよ。」
きっとこれで正解、俺の命でこの悪夢が終わるのならそれでいいのだから。
残業後対話篇 地球は毎日、ところにより雨~不寛容な社会について~
(天気予報が当たらない。)
現在時刻は23時。
会社から出ようとすると、本降りの雨だ。
(昨日見た天気予報アプリでは曇りで降水確率10%だったはずなのに。)
『今は?』
内心で問いかけてくるのはイマジナリーフレンド。
40代独身の悲しい寂しさが生んだ想像上の人格である。
(100%。昼に見たら60%になっていたからいやな予感したんだよね。)
『あー。つまりあれか。昨日の夜時点では降水確率10%だったけど、夜間から朝、昼と時間が経つうちに雲行きがかわって、天気予報アプリもそれに伴ってジワジワと降水確率が上がり、夜には100%になったと。』
(多分そう。)
少しずつ変わる天気予報に何の意味があるのか。
『いや、雲行きがかわっていくのに、かたくなに降水確率10%を維持するのは、そっちの方が問題でしょ。』
(当たれば問題ない。)
そう。天気予報がコロコロと確率を修正していくのが問題なのではなく、当たらないことが問題なのだ。
『何かさ。』
(何さ)
『不寛容じゃない?』
(・・・そうかな。)
言われてみれば、気が短くなっているというか、過激になっているような気もする。
(23時まで残業して、疲れているから。ここで雨にも降られるなんて、さらに気が滅入ることを増やしたくないのかも。)
『異常気象は近年言われていることだし、予想が難しくなっているんでしょ。そして、何より。君はいつもカバンに折りたたみ傘を入れてるでしょ。』
(そうだったね。)
カバンから傘を出す。
(心の余裕がないと、不寛容になる、か。)
余裕のないときに寛容であろうとすることが難しいことがよく分かった。
(仕事が詰まってプライベートがないから、これ以上わずかな不幸も許せそうにない。)
『自分がわずかなミスも許されないから、相手のミスを許したくないとかね。』
そういうことも、あるかもしれない。
不寛容さは、自らの不幸と比例する。
『ところにより雨』
「ただいま戻りました、、、」
悠人さんの声。
なんだか声に元気がない。
振り向こうとして別の驚く声に驚いた。
「雪村!?」
「あーーうん、急な雨で濡れちゃって、、、」
は?
勢いをつけて振り向く。
いつもセットしている髪の毛と、ジャケットは着ていないので、その下のベストとYシャツがずぶ濡れだ。
おそらく、もうすぐ会社に着くからって、面倒くさがって、コンビニで傘を買わなかったパターンだ。
天気が怪しい時は折りたたみ傘を持ち歩けって言ってるのに。
そう思う僕の顔は険しくなっていたらしい。
「なんとか会社までは持つって思ったんだけど。
会社前の横断歩道で待ってたら、ホントにすごいスコールでしょうがなかったんだよ、、、」
驚いた声をあげた同期の桜井さんに向けてではなく、これは明らかに僕に向けてのセリフだ。
現に横目でチラチラこっちを見ている。
「にしても、ずぶ濡れすぎるだろ、、、。
あーえーっと、、、」
桜井さんはそう言いつつ、周りを見渡した。
そして、僕に気づいて、苦笑いをした。
正式には、『険しい顔』の僕にだ。
「夏目。休憩室一緒に行ってやってよ。
ついでにさっきの資料も資料室で探してきてもらえたら助かる」
「、、、了解」
返事の声が思っていたより低い声だったせいか、雪村さんの肩が少しビクッと動いた。
「行きましょうか、雪村さん」
「は、はい、、、」
退屈な小学校の授業がおわり、俺は祐樹と二人一緒に帰っていた。
いつものようにくだらない事を話しながら、家に向かって歩く。
「『ところにより』ってわけわかんねーよな、祐樹」
「突然、何さ?」
「朝の天気予報見ててさ。
『本日のお天気は曇り、ところにより雨』みたいなこと言ってさ。」
「ああ。そういう事ね。康太も変なところ気にするね」
「母ちゃんが言ってたんだよ。TV局の責任逃れだって――どうした?」
祐樹が急にソワソワし始め、周りを気にし始めた。
「他の人がいると困るから」
困る?何に困るんだろう?
「……うん、いないね。
じゃあ、教えてあげる。
それは、符牒《ふちょう》なんだよ」
突然、祐樹が難しい言葉を使う。
頭がいいからなのか、俺が知らない言葉を使うことがよくある。
「フチョウ……って何?暗号?」
「うーん、まあ暗号みたいなものかな。
例えば、警察物で言ったら『犯人』のことを『ホシ』。
『被害者』の事を『ガイシャ』って言ってみたり。
これは有名なヤツだけど、普通の人には分かんない符牒を使って、仲間で会話するんだ」
「全部理解したわ。で、なんで符牒使うの?」
「分かってないじゃんか……簡単に言えば会話の中身を知られないためだね」
「知られないため?」
「うん、困るから」
また困る。なんでだろう。
「じゃあさ、今朝の天気予報の、フチョウだっけ?あれどういう意味」
「言ってもいいけど、皆には内緒だよ」
「分かってる。俺と祐樹だけの約束」
「じゃあ、指切りげんまんね」
あまりに慎重な祐樹に少し戸惑いつつも、指切りげんまんをする。
コホン、と祐樹は咳払いする。
「天気予報の『ところにより雨』っていうのはね……
『雨が降っている場所から、あの世に行けますよ』って意味」
「はい?」
まったく意味が分からない。
「あはは、全く分からないって顔をしてる」
「そりゃそうだよ。急にあの世って言われても」
そういうと、祐樹はニヤリと笑った。
「本当だって、死んだ人たちはそこから来て、そこに帰るんだよ」
「その死んだ人、何しに来てるんだよ」
「友達と遊ぶため?」
「おい、急に適当かよ。絶対嘘だろ」
「あ、バレた?」
「途中まで信じかけたのに、急に雑になったぞ」
「ゴメンゴメン」
祐樹は笑いながら謝ってくる。
と、ふいに祐樹は立ち止まった。
「あ、僕はこっちだから」
祐樹は脇道を指さす。
「え?お前の家って、もうちょい先だったろ」
「ううん、こっちで合ってる」
引っ越したのか?
そう言おうとして、言葉が出てこなかった。
祐樹の指を差している脇道にだけ、雨が降っていたからだ。
雲が出ていないのに雨粒が落ちて、道路が黒く塗れている。
「えっと、そっち雨降ってるぞ」
「うん、《《雨が降ってるから》》こっちなんだ」
言うべきか迷った上での言葉も、あっさりと答えが返ってくる。
「バイバイ、またね」
「ああ」
祐樹は何事もなかったかの様に、手を大きく振りながら雨の中を歩いていく。
と、ふと急に祐樹の姿が消える。
隠れる場所なんて無いのに、どこにも祐樹の姿は無かった。
急に涙が出てきた。
なんで忘れていたんだろう。
祐樹はもう死んでいるのに。
一年前のこの日、暴走する車に轢かれて死んだアイツ。
『友だちと遊ぶため?』
祐樹はそう言った。
俺に会いに来てくれたのか……
俺は今はいない友に思いながら、雨に濡れた道路を見つめたのだった
こころの予報はあてにならない
降水確率はゼロとか言ったくせに
大雨じゃんか……
『ところにより雨』2024,03,25
頭に感じた硬くもべとりとした感覚。
反射的に空を見上げれば、一面のカラフルに思わず舌打ちした。
こっち、と呼ぶ声のまま潜った軒の上、がらがらべたべたと騒がしく。
「今日は一日晴れじゃあなかったか」
「その筈。通り飴だといいんだけどね……」
まだ硬い内の破片を払う横、重く粘る甘さに早々拭うのは諦めて、せめてと髪を解きながら。
「うわ、家の方チョコボンボン降ったって」
「は?チビ共庭遊びの日だったろ」
「チョコの時点で屋内に間に合ったみたい。でもやっぱりアルコール臭やばくて、みんな寝かせたらしいよ」
「また拗ねるな……。次の雨は?」
「予報通りなら明日。チビちゃん達のご飯が終わる頃には」
「はー……了解」
がらりがらりと飴が降る。
硬いままに転がり積もればまだ良いものを、地上にぶつかる度べたりべたりと溶けていく。
日頃は鬱陶しい雨も、コレを洗い流してくれるなら待ち遠しいばかりだが。
「どうしよっか、傘と靴買ってく?」
「……いや」
差し出されたハンカチを押し返して、少し先の自動ドアへ視線を向けた。
「明日に帰ると連絡しといてくれ」
「それは、」
ひとつ、ふたつ、息をする間。赤らんで見える耳。
「……そういう言葉は、期待、しちゃうよ?」
「は、抜かせ」
喫茶店も商店も、東屋だって近くにあったくせに。
「『この軒』を選んだのはお前だろ。なあ?」
つり上がった口許を、隠せても居ない癖に。
<ところにより雨>
「ところにより」
全てじゃない一部地域、ってところがなんかいい。
灰色の雲が太陽の光を遮る。
どうやら天気予報との賭けは自分の負けらしい。
やがてポツリと、雨粒が落ちてきた。
バタバタバタバタ──
おいおい、ここまで降るだなんて聞いてないって……
彼は駆け足でコンビニに向かった。
ところにより雨
天気予報は曇りだけど、私の住んでいるところは山だから、ところにより雨の確率が高い。
山に住んでるあるあるだと思う。
雲が流れて
晴れたり曇ったり
厚い雲が現れて
雨が降り出す 人が走る
傘が開く 窓が閉まる
稲妻が走る 人影が消える
地球上のあちこちで今日も
雲が流れて ところにより雨
「ところにより雨」
#371
私の心はいつも雨が降っている。
大粒の雨がドシャドシャと降ることもあれば、静かにシトシトと降ることもあるのです。
けれど、いつも雨が降り止むことはありませんでした。
晴れやかに笑う誰かを見ると、どうしてそんなにしあわそうなの、って嫉妬して
もっと強く雨が降ってくるものですから、私はどうしたらいいのかわからなくって、傘もさせないまま蹲るしかしなかったのです。
ある時、雨は雪になりました。
真っ暗闇のなか、白い雪が轟々と吹雪いて私の頬を切り裂きました。
どうしてこんなに辛いの どうしてこんな思いをしないといけないの。私なんて死んでしまえと思いながら眠る日が続いて、何もかもが憎くって、私の心はもうボロボロに砕けてしまっていました。
いつも思考を駆け巡るのは、晴れだった昔のことばかり。雪の今も、少し前の雨も、見たくなかったのです。
周りばかり晴れの日で、私にはその日は来ないのだと思っていたら、その日は突然来ました。
ふと、思い立ったことだったのに、それが私の心を晴らした。
ただの思いつきが一気に私の心を整理して、雲の切れ目から光が差したのです。
怖いことも悲しいことも全て、飲み込んでいかなければいけなかったのに、私はずっと目を逸らし続けてきました。愚かだったでしょうね。惨めだったでしょうね。
でも私は、その全てが無駄だったとは思わないのです。
寒い日々が続いたから、太陽の温もりに幸せを感じられるのですから。
この先も不安や恐怖が付き纏うだろうけれど、
少しだけ、たった一欠片でも生きた理由を見つけられるように、私は今日も水溜りを踏み越えて進むのです。
【ところにより雨】
他人事に聞き流したお天気お姉さんの言葉
耳だけ覚えてて
よりによってここかと思い出す
私の頭の上にだけ雨雲があって
どこに行っても引っ付いてくる
そんなアナ雪みたいな世界線を彷彿させる
それくらい私が居るところはいつも晴れなくて
お天道様とは目が合わない
きっと誰もがどこかの誰かの他人事で
「ところ」の私なんて見えてない
ちっぽけな私の雨雲に気づくのは
衛星画面を目を凝らして見てくれた
今朝のお天気お姉さんだけ
そんなつもりなくても
いい加減冷えきってしまうから
どうか芯まで心まで冷える前に
目には見えないどこかの
あなたの温もりを感じたい
まさかあなたも
「ところ」ではないことを願って
「明日、雨降ると思うよ」
人気のない錆び付いた遊具が、並ぶ小さな公園のベンチに座っていると急に鈴の音のような声が聞こえた。
その声を辿ると目の前に見慣れない制服を着た私より年上だろうか…凛とした顔で空を見ている女性がいた。
「えっ……と…」
「雨降ると思うよ。だから帰った方がいいかも」
綺麗な瞳の中に無機質な表情が見える女性を私は3度見してしまった。
「あっ…私に言ってるんですね…」
「……」
不気味すぎる。
この一言に尽きた。
知らない女性に話しかけられているだけでも、頭の中にクエスチョンマークが浮かぶのに、それ以上女性が喋ることはなかった。
気まずくてなり何か会話を…と思ったが話のネタなど持ち合わせていない。
「えっと…私…帰ります。ありがとうございました」
そそくさと荷物を持ち公演を出ていく。
今日は、1人になりたくて公園に来たのに変な人に会ってしまった。
その後の天気は曇りのままだった。
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教室は今日も騒がしい。
1つの机を囲んでカースト上位…所謂派手目な子達は、メイクに自分磨きにと忙しそうにしている。
教室の隅の方では、静かに本や勉強をする子もいれば、好きなんテレビの話に花を咲かせている子もいる。
どこに属さない…いや属せないのが私だ。
教室の後ろの隅で小さく息を潜めて今日も過ごしている。
昔から苦手だった。人付き合いというものが。
楽しそうに話す事に強く憧れを持ってはいるが、行動に移せない。
「一言、勇気を出すだけで世界は変わる」らしいが現実はそうじゃない。
一言を発するだけがどれだけ難しいかを世界はわかってくれないみたいだ。
「今日も…一人になりたいなぁ」
教室は私、一人置いて今日も騒がしい。
「あっ…」
放課後、また一人になりたくて来た昨日の公園に先客がいた。
私を見るなりその人は興味無し。…といった風にそっぽを向いた。
昨日の人だ。瞬時に脳が判断する。
頭の中でぐるぐると闇鍋のように色々な感情が混ざっていく。
この公園が悪い。ベンチがここだけにしかないことが悪い。
「座れば…いいのに…」
「へっ…!あ、ありがとうございます…」
久しぶりに誰かに言った感謝の言葉は薄く消えていった。
この人の隣に座るとふわっ…といい香りが漂った。
美人は、香りまでいいのか。と変態じみた考えを消すように私は地面を見続ける。
「あ……雨が降る…」
「えっ…雨ですか…」
彼女は雨が降ると昨日も言っていたが曇りのままだった。
小学校や中学の時にいた「私、幽霊が見えるの…霊感があるの」と言っていた胡散臭い同級生を思い出してしまった。
もしかしてこの人もその類なのでは?と考えてしまう。
「昨日…雨降ってないですよ?天気予報の勘違いですよ」
「天気予報は見てないよ。私は雨の音がわかるの」
にわかには信じ難いその発言に私は、どう返答をすればいいか迷ってしまう。
「何も言わなくていいよ。私は人と違うってわかってるから。みんなと同じになれないってわかってる。だから気付けば一人を選んでる」
「あっ……そ、その気持ち私も何となくわかります!クラスにいる時に特に…。私もメイクの話ししてみたいし、ドラマとかアニメの話しをして盛り上がりたいなって思ってて…でもやっぱりひとりがいいなぁって思っちゃって1人を選んで…」
「そう。あなたもそうなのね」
私の顔など一切見ずにその人はただ空を見ているだけだった。
「あの…よければ…またここで会いませんか?」
隣を見れば、驚いたように見開く綺麗な瞳と目が合った。
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「今日の天気はまた曇りか……」
下校途中、スマホの天気予報アプリが知らせるのは朝から変わらずの曇り。
「今日も先輩は「雨が…降る…」って言うのかな〜」
錆び付いた遊具が並ぶ小さな公園で出会ったあの人はどうやら2つ上の3年生だった。
あの日から先輩に会うのが恒例行事になりつつある。
いつもじっと空を眺めては「雨が…降る…」という発言をするものの雨が降る気配は微塵もない。
でも、その台詞を聞かないと一日が始まり終わったと実感しなくなってきた。
なんだかんだ私は先輩と会うのを楽しみにしている。
友達と言われればなんだが違う気がして否定したくなるが、私と先輩はそもそも友達ですらないのかもしれない。
「あ…先輩!」
公園の入口から見えるいつものベンチに先輩は座っていた。
相変わらず見た事のないセーラー服を見に纏い、長く綺麗な黒髪の毛先を指に絡めては解いてを繰り返している。
こんなに綺麗な人は私の学校にもいない。
綺麗な人をみた反射なのか胸が少しざわめいた。
「今日もいたんですね」
「家には帰りたくないから…」
「えっ!?何かあったんですか?」
「多分…もう私はここに来ることは出来ない」
「えっ……」
「だから…最後に会えてよかった」
まだ出会って1週間ほどしか経っていないのに。
この瞬間、私は先輩の綺麗な笑顔見た。
この笑顔が最後なんて…。
「嫌です!!私はまだ色々話したいことがあるのでっ!だってまだ…まだ…」
気付けば目から涙が零れていた。
何を喋っているのか自分でもわからなくなるが、先輩に伝えないといけない…そんな気持ちが先走っていく。
「まだ…出会ったばかりですよ?もうさよなら…なんて…」
「はい…」
「えっ…か…さ…?」
「じゃ…ね。これから雨降るから」
先輩は泣きじゃくる私を置いて行ってしまう。
その後ろを姿が頭から焼き付いて離れなかった。
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教室は今日も騒がしい。
私、一人残して。
あれから先輩とは会っていない。
あの公園にいない。
毎日毎日、あの公園に足を運ぶが先輩はいない。
本当に世界から外されみたいだ。
「あー!ここの制服可愛いよね」
「隣町の南高でしょ?セーラー服いいなぁ」
「えっ!?ごめん!ちょっと見せて!」
いつもならBGMのようなクラスメイトの声も今日は鮮明に聞こえた。
「えっ!あなたも興味あるの?可愛いよね!ここの制服」
「隣町の南高よ!私の従兄弟が通いたいって」
クラスメイトの子がみていた学校の紹介雑誌を見てみれば、先輩の制服が見える。
セーラー服。やっぱり先輩が来ていた制服だ。
「あの…ここに行きたいんだけど…」
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バスから降りてみれば、南高校と書かれたバス停とでかでかと立派な校舎が見えた。
ここに先輩がいるはず。
他校な事もあり中までは入れないが…外から校舎を見てみる。傍から見れば怪しさ満点だがそんな事言ってる場合じゃない。
「先輩に会わなきゃ…」
「なんで……ここにいるの…?」
「せ、先輩…」
セーラー服を見に纏いこちらを見つめる先輩がいた。
「先輩!私、その先輩に会いたくて…その…!」
私が声をあげると先輩はなぜか俯いている。
「あの…これ返します。あのあと…とんでもなく雨が降ってその…」
「雨が降るって音がしたから」
「あれ…でも天気予報は曇りって」
「今日も…雨…降るから」
いつものように天気予報アプリを開けば、曇り…ところにより雨だった。
「ところにより雨?」
「降るから」
そう先輩が言った瞬間雨がポツポツと降り出した。
先輩は静かに私が返した傘をさした。
その姿すらも綺麗だ。
「入らないの?」
「えっ!?あ、ハイリマス」
いつもより近い距離にいるせいか胸がドキドキする。
先輩の息遣いや香りが近い。
「なにか…言いたいことあったんでしょ?」
「えっあ!?そう…でしたね。これからも…その…会って欲しいです!…って事を伝えたくて」
「どうして…?」
「いや!それはやっぱり…先輩とはなんか気が合うと言うか…ほら先輩の天気予報当たるし」
「また明日降るから」
「えっ!?明日は晴れですよ?」
「ううん。降るから。また明日も聞いてね」
そう言って先輩はいつもと同じように空を見上げた。
私も同じように天気予報のアプリを見てみた。
「明日は晴れで……ところにより雨」
先輩の天気予報は最初から当たっていたのか。
ところにより雨。
それは、予報発表区域の半分より狭い範囲で雨が降ることを意味する、らしい。
半分より少ないってことは、
四捨五入したら切り捨て、
多数決でも負けるってことだ。
でもどこかで雨に濡れている人がいるのは事実で、
それをないものにはしない、天気予報の姿勢が好きだ。
ところにより雨_37
この季節に雨は降らないでほしかった。
水溜まりには桜の花びら。
それは透明になりつつある。
雨の日は傘を差す。
だが 今日は差したくないと思った。
いつもは濡れる左肩も
しっかりと
傘におさまってしまうだろうから。
ところにより雨
無駄で無意味で完全にバカみたいなことばかり書きたいけど
もう少し日が差して気持ちが明るくならないと
必要なことしか出てこない
ところにより雨
私の心はいつも
晴れていても晴れきらない
楽しいのに楽しみきれない
嬉しいのに喜びきれない
自分で自分を遠くから見てる感じ
遠くで見ている自分はいつも雨
いつも見られている感じがして
緊張感が抜けない
いつまでこれが続くのだろう?
何もかも
自分の気持ちのまま行動できたらいいのに…
今日も私は
ところにより雨
雨は嫌いではない。
何せ家に引きこもる理由になるからだ。
ただ、「ところにより雨」とかいう曖昧な天気は好きでは無い。
外に出るべきなのか、このまま家に居続けて良いのか、複雑な気持ちになるからだ。
ただ、心情的には晴れてくれた方が実は良い。
空が雲れば心も曇る。
雨が降れば、しんみりと。
登場人物の心情が、その時の情景に照らし合わせられるように。
とりあえず今日は雨だから、ずっと家に居ようかな。