『たとえ間違いだったとしても』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
これが間違いでもまだやり直しはできる
そのうちにそれが少し上向きになっていく
まだ実感はないが必ずよくなっていく
間違いを多少の事でも何か発見がある
そう自分を責めないようにしよう
たとえ『間違いだった』としても、この旅を中断することは絶対にしない。
そう心に誓って、早数ヶ月。
旅というものにはトラブルが当然のようについてくる。 博士は、そのトラブルに慣れているようだった。
「助手くん見たまえ、熱気球だぞ」と、ひび割れた地面を見ることなく歩く。
「上なんか見てられないです」と半ば怒りながら返せば、「ワタシに出来るんだからキミにできないわけがないだろう」とケラケラと笑った。
博士は、僕の尊厳の恩人だ。 生まれた場所で暮らすのにあまりにも向いていなかった僕を、博士は法律やらなんやらを全てさらっとクリアして救い出してくれた。
大きな地鳴りがして、また足元が割れていく。 今は僕の足でまたげる程の亀裂でも、数日も経てば底の無い闇に変わる事は知っている。
「知っているかい、ここに熱気球が多い理由」
「『家』ですよね」
「正解! ……と、言いたいところだけど」
違うのか、と風になびく白衣の裾を見つめた。 顔を見る余裕なんかとっくになくて、それでも視界に入れないと少し不安だったから。
ガイドブックに書いてない真実がある事は知ってるけど、それなら来た直後に見えた大量の熱気球は一体なんなんだろうか。
「アレに住民達が乗っているのは間違いないよ」
「でもね、助手くん」
「世間はそんなに優しくないし、正直でもないんだ」
博士はひょいひょいと亀裂を踏まないように避けながら、事も無げに僕に言葉を伝えてくる。
これは長くなるぞ、と僕は期待を込めて耳を研ぎ澄ませる。
「アレはシェルターだよ」
「シェルター? ……地面が割れるからですか」
「んん、まあそれもあるけど……」
口篭るのは珍しい。 少し思い切って歩を早め、僕は博士の隣に立った。
「政府が騙したのさ、彼らをね。 政府といっても僕らの住む国じゃない、この、亀裂だらけの国の方だけど」
「彼らは『永続的可能な燃料』で浮かされた熱気球に乗っている。 気球とは言うけどあれはもうれっきとした船だ、本物の『熱気球』だらけの国はまた別にあってだね──」
「博士、話逸れてます」
「……まあ、また今度連れてくけど。 ここの熱気球の動力はこの地面だからね。 さらに観光名所として付近の国は爆儲け」
うげ、と声を出しかけた。 博士は身振り手振りを繰り返しながら説明を続ける。
「政府は彼らに『もう地面の亀裂に怯えなくていい家が出来ました』って告知して、ここいらに住む国民達を熱気球……まあ、ほんっとうに、広々として羨ましい家だけどね。 アレに住まわせたのさ」
「熱気球を初めて上げる時にだけ少しの燃料がいるのさ、でもとある高度まで行けばそこからは何をしても下がれなくなる。 亀裂の隙間からよくわからないガスかなんかがちょっとずつ出てるらしくてね」
僕が思わず口元を抑えると、博士はにんまりと(顔が見えなくてもわかる)笑って、「わざと大量に吸ったり亀裂に落ちでもしない限りは大丈夫だよ」と優しい声色で伝えてくれた。
「まあでも、それも『その高度』に行くまでの話だ。 そこに見えない壁でもあるみたいに、ガスの層が出来ているみたいなんだ。 だから誰も彼らを助けない。 大枚払って地面を埋めて、爆発するまでの間に救出するミッションなんてものはほとんど不可能だからだよ」
「でも博士、」と、遮るつもりはなかったのについ口をついて出た言葉に博士が立ち止まる。
気付けばそこは周りより細かいひび割れが多いように見えた。
「言ってみたまえ」
「ガスが溜まってるのはこの地域だけなんですよね」
「そうとも」
「なら、もういくつかそれ用の熱気球を作って横にずらしていけば」
「……」
ひどく悲しそうな顔だった。 まるで昔からの友人が頭上にいるみたいな、そんな顔を一瞬だけして、また歩き出した博士についていく。
「──どうなると思う?」
「え?」
「当時の革新的技術によって、熱気球たちは空へ放たれた。 水も何もかもを上で調達、もしくは確保できると世界が保証したからさ。 でも、」
「でも、『帰り道』だけは用意されてなかったし、今もない」
「あれは何万トンもする構造物だ、ガスで浮いているだけで、ガスがなくなればすぐさま……」
「中の人達は」
「中の人達はどうなるんですか……」
「…………さあ、ね。 そもそも、生きているのかすらわからないから……」
博士はそれきり黙り込んで、僕は、例えそれが嘘でもとても悲しい事だろうと思ってしまった。
騙されて気球に乗った人達は、どんな気持ちで帰れない事を知ったのだろう。
知らないのなら、今はなにを思っているのだろうか。
そして、「ああ、僕も同じなんだ」と気付いた。
いつか博士について行った先で、もう逃げられない場所で、騙されてしまうんじゃないか。
それでも、後悔はない。
僕は他でもない僕で、過去の僕が選択したこの旅がどうなろうと、絶対に悔やむことだけはしちゃならない。
それが『自分自身』に対する、僕なりの礼儀だからだ。
「博士」
「ん?」
「僕、博士の話もっと聞きたいです」
「構わないとも、目的地に着くまで話していてあげようじゃないか。 そもそも気球を発明したのは誰か知っているかい? あれは──」
『たとえ間違いだったとしても』
間違いだってかまわない
別に気にしないから
だから、君が僕を殺したいと言うのなら
僕は頷くよ
だって、君が僕の最期を看取るんだろう?
好きな人と最期を過ごせるんだ
こんなに幸せなことはないよ
一生に一度の素晴らしい経験だ
テーマ : たとえ間違いだったとしても
この言葉って結構、使い勝手が良かったりする
使いやすいんだよね
なんか、ふと過去に目が向いた
誰だって殺したいくらい憎い相手はいるじゃんね
それを実行するか、しないかは置いておいて
僕も1人だけ
たった1人だけ
許されるなら殺したい人がいる
あの時、躊躇ってしまった
今でも後悔してる出来事
自分の人生めちゃくちゃになるぞって言われても
そんなのどうでもいいくらいに憎かったんだ
自分の人生めちゃくちゃになるより
相手が生きてる事の方が僕にとっては嫌だった
だけど、思う
一般的な考えの上だと、殺人って1番やっちゃいけない事
わかってる、十分に理解してるよ
だけど、その考えさえよぎることも悪だとされる時だってあるわけで
なんでって
人間の本能じゃないのって僕は思うんだけど
野生動物は生きてく為に、お互いを殺し合う
生きてく為だから仕方ないよね
生存本能で相手を殺して
人間じゃない動物は、これらを当たり前として行って
それを見てる人間の僕らも、これらを当たり前として
でも、僕ら人間同士でこれらを行った場合
「狂ってる」の評価が飛んでくる
だって、人間は殺し合っちゃいけないんだから
とすると、戦争は何だよって思っちゃうけど
お互い平和に暮らすための条件を紙の上で行って
時には裏切って、裏切られて
普通という概念から一般的って言う言葉を作り出して
なら僕は、まだこんなのより本能的な野生動物の方が
生きてる物としては普通な気がして
ただ、他の動物より
少し器用で、喋れるだけの人間という動物だろ
人間より頭いい動物たくさんいるし
ただ、その動物たちは喋るという事ができないだけで
だから
「こいつがいたら僕は生きていけない」って
思う事は何もおかしくないし
ある意味、生存本能が働いてるだけな気がするんだ
現実問題
やっちゃダメ
思っちゃダメ
…まじ、うるせぇって思って
さて、テーマに戻るよ
僕ね、本当に後悔してるんだ
あの時、実行しなかったおかげで今でも被害こうむってるから
過去の自分には頼まないよ
今の僕が、あの時に戻れるんだとしたら
今度こそ、必ず
その行動が一般的には【たとえ間違いだったとしても】
僕は正しい行動だと思うから
次こそ、必ず
―たとえ間違いだったとしても―
茶道歴約20年になっても間違える事はある。
そういう時、つい手が止まったり、慌てたりしてしまう。
間違えても気にせず続けて、丁度良いところで直せるようになりたい。
俺が好きな人は、決して望む場所まで招き入れてくれない。
「あの、俺、もう少し一緒にいたいです」
「だめよ。ご両親が心配するでしょう?」
「今日はいないんです。明後日まで帰ってきません」
「うん、それでもだめ。あなたは未成年なんだから」
通っている塾の講師だ。初めて見たときから好きだった。彼女に褒められたくて、少しでも印象をよくしたくて、勉強もテストも頑張っているようなものだ。
もうすぐ、目標の大学入試がやってくる。つまり、塾に通う理由がなくなる。
彼女に会えなくなってしまう。
「……べつに、先生は、学校の先生じゃないじゃん」
ジュースの入ったままのグラスを握りしめながらこぼれた台詞は、しっかり彼女の耳に入ったらしい。眉間にはっきりと皺が刻まれる。
「関係ありません」
「未成年だから? だったらなんで俺とこうして会ってくれるの」
「君がわからないところがあると言うからよ」
「何回もやってたら、それが口実だって先生ならわかるでしょ?」
彼女の口が閉ざされた。違う、こんな言い合いみたいなのをしたいわけじゃない。けれど勢いが止まらない。
「先生ずるいよ。俺の気持ち知ってるくせに、誘ったら乗ってくれるんだもん。期待するなって言う方が無理じゃん」
頑張って声を抑えているこの努力を褒めて欲しい。俺だって下手な騒ぎにするのは本意じゃない。
「……そうね。それは、私が悪いわね」
本当にそう思っている口振りと表情だった。ずるい、そんなふうにされたら下手な反論ができない。
「私、付き合ってる人がいるの」
思わず立ち上がってしまった。なんとか今いる場所を思い出して、すぐに腰を下ろす。
「だから、悪いのは先生。君は優秀な生徒だし、気に入っていたのはうそじゃないから、本当に申し訳ないことをしたわ」
うそだ。今までそんなそぶり、一度も見せなかった。諦めさせようとして、下手な芝居を打っているだけだ。
でも、仮に本当だとしても――
「俺、諦めないよ」
テーブルの上にあった彼女の手を取る。一瞬震えはしたものの、振り払われはしなかった。場所のせいかもしれない。
「先生には悪いけど、未成年なんて関係ない。先生が誰かのものになるのを待ってるつもりなんてない」
たとえルールに反していたとしても、目的が永遠にかなわないとわかってしまったら、「いい子」のレッテルなんていらない。
「全力であなたを奪いにいくから、覚悟しててね」
お題:たとえ間違いだったとしても
【たとえ間違いだったとしても】
大雨が降りしきっている。夕暮れ時の薄暗い景色の中を、衛兵たちの掲げるトーチの橙色の光が忙しなく横切っていた。
狭い洞穴の中に君と二人で身を寄せ合い、必死に息を殺す。ドクンドクンと煩い心音は、僕のものなのか君のものなのか。それすらももはや分からなかった。
やがて、トーチの灯火が遠ざかっていく。どうやら離れていったらしい。ホッと息を吐いた君が、それでも警戒心を残したまま洞穴から身を乗り出した。打ちつける雨が、君の全身をしとどに濡らす。
「大丈夫そうだよ。早く国境を越えよう」
君は軽やかに僕へと手を差し出す。けれど僕は、動けなかった。
手入れの行き届いた庭園で薔薇の花を愛でながら、シンプルだけど良い生地で仕立てられたドレスを纏い、穏やかにティーカップを傾ける君の微笑みを思い出す。……髪も服もびしゃびしゃにして、腕に擦り傷をつくり、泥に汚れたこんな姿、君には似合わない。君はもっと、幸福でいられた人のはずなのに。
「……何で、僕を助けたの」
両親をこの手で殺した。衛兵たちに追われるだけの罪を、僕は確かに犯した。炎に包まれた僕の屋敷で、タイミング悪くマドレーヌを届けに訪れた君も、それは目にしている。それなのに、どうして。
「助けてほしく、なかったの?」
「当たり前だろっ……! 僕は別に、死罪で良かったのに!」
全身で叫んだ声が、雨音にかき消される。そうだ、それで良かった。両親の統治のせいで酷い目に遭っていた領民たちは、これで救われる。僕が黙って死ねば、両親の所業は公にはならず、弟は問題なく家を継げる。これで全て上手くいくはず、だったのに。
なのに君が僕を、助けてしまった。衛兵たちに剣を向けてまで、僕を連れて逃げてしまった。もう、僕は捕まるわけにはいかない。捕まれば幇助罪を問われて、君までギロチンで首を落とされてしまう。
君は真っ直ぐに、僕を見つめていた。アイスブルーの瞳に、ちっぽけな僕の姿が反射している。肩を震わせるばかりの僕の手を強引に引いて、君は僕を雨空の下へと連れ出した。
「貴方が嫌だって言っても。たとえこの選択が、間違いだったとしても。それでも私は何度でも、貴方を助けるよ」
力強く誇り高い声だった。雨が体温を奪っていく。ああ、早く行かなければ。国境を越えて、安全な場所に辿り着かなければ。一ヶ所に留まるのが危険な以上、この国では雨宿りすら満足にできやしない。こんな環境、僕はともかく君の身体には害でしかないのだから。
羽織っていたボロボロの外套を、君の頭に被せた。こんなのでも、ないよりはマシなはずだ。
「ありがとう」
外套をそっと手で抑えてはにかんだ君の笑顔を、消させるわけには絶対にいかない。僕なんかどうなったって良いから、君のことだけは守ってみせる。だって君を巻き込んでしまったのは、全部僕の責任なんだから。
君と二人、手を取り合って。僕らは音を立てて降る豪雨の中を、国境へと向けて再び歩き始めた。
ヨネリは赤い魔法瓶を、頬杖をついてじっと見つめていた。
「ヨネリ。パンとスープを机に運んでおくれ」
キッチンから、母の声がヨネリを呼ぶのが聞こえた。魔法瓶から目を離し、椅子を降りてキッチンへと向かう。ふわり、と焼きたてのパンの香りがヨネリの鼻腔をくすぐり、パンを皿に乗せた母がこちらを振り返った。
「熱いから気をつけるんだよ」
「うん。わかった」
差し出されたトレーの上には、美味しそうな朝食がいっぱいに乗せられている。一気に眠気が吹き飛んだヨネリは、うきうきとした様子でトレーを机の上に運んだ。
机上には、二つのトレーが向かい合わせに並んでいる。母とヨネリは、いただきますと手の平を合わせ、パンをちぎって口に放り込んだ。まだ温かいパンは幼いヨネリには少し熱かったのか、口をはふはふとさせながら食べている。美味しそうにパンをほお張るヨネリの姿に、母は小さく微笑んだ。
「ねえ、お母さん。魔法瓶はどうして魔法っていうの」
パンを飲み込んだヨネリが、母に尋ねた。一見ただの瓶に見えるが、何か不思議なマホウがかけられているのだろうか。
「これの事かい。魔法瓶はねえ、中の温度を一定に保つことができるんだよ。昔の人には、それが魔法みたいに思えたんだろうね。それだから、魔法瓶と呼ばれているのさ」
母は赤い魔法瓶を撫でながら、ヨネリに話して聞かせた。ヨネリはなーんだ、とつまらなそうにパンを齧る。魔法って、案外つまんないものなんだな。ヨネリは胡乱な目で魔法瓶を見つめた。昨日、寝る前に読んだ児童書に書かれていた魔法は、あんなにもわくわくするものだったのに。赤い魔法瓶には、やっぱり魔法なんてかけられていないように思える。ヨネリは、人差し指でこつんと魔法瓶をつっついてみた。魔法瓶からは小気味の良い音が僅かに返ってくるだけで、ヨネリの期待には応えてくれない。
くすくすと笑う母をむっと睨んで、口の中に残ったパンくずを、ヨネリはまだ温かいスープで喉の奥に流し込んだ。そうして中身を飲み終えたスープボウルを、机にことりと置く。温かいスープを飲んだ後は、身体がぽかぽかする。そしてなんだか、幸せな気持ちになるのだ。先ほどの母の言葉を思い出し、ヨネリはもう一度赤い魔法瓶を見た。このスープの温かさをいつまでも保ち続ける事ができるのなら、それもマホウなのかも。
ごちそうさまでした、と二人で手を合わせて、食器を乗せたトレーをキッチンへ運ぶ。流し台に食器を置くと、ヨネリは台の上に乗って、食器を洗う母の手伝いを始めた。キッチンからは、仲良く談笑する親子の声と、食器を洗う水の音が聞こえてくる。そんな幸せな様子を、赤い魔法瓶は静かに見守っていた。
「たとえ間違いだったとしても」
その選択がいいと思った
けれど結果はいつも悔やむことになる
その繰り返しが死ぬときまで続くんだろう
そもそも間違いで生まれた?
いや そうではないと誰かに否定して欲しい
傘を盗られた。
コンビニで買い直すと700円くらいかかった。
しがない学生には痛かった。
雨の中を歩いていると、やがて怒りは収まってきた。
雨が傘を打つ音は、人を空想の世界へ誘うらしい。
私は私の傘を手にした人物を想像する。
罪悪感とか、ないのかな。
少しくらいあるんじゃないかな、と考えてみる。
そして私はこんな空想をする。
パラパラと傘が音を立てて、
ふと、傘立ての前で立ちすくむ誰かを想像する。
悪いことをしたのはわかってる。
でも、雨降るとか知らなかったし。
どうしても濡れたくなかったし。
言い訳がましく思いながら家に着く。
玄関に残される傘。
それを見るたびにチクチクと小さな罪悪感が積もる。
ある日、軒先で立ちすくむ人を見かける。
咄嗟に傘を差し出す。
手放すにはちょうどいい、と。
渡した人は感謝され、なんだか悪くないと思う。
もう次は盗む気も起こらない。
貰った人は感謝し、親切な人について想像する。
いつかこの傘を誰かに譲ろうと心に決める。
なんて。できすぎた話。
だけど、そんな空想がたとえ間違いだったとしても、
腹を立てるだけよりはずっといい。
手から手へ。あの傘は今日、空想を運ぶ旅に出たのだ。
そういうことに、しておこう。
あいつは必ず、俺に向かって「背中に触れてくれ」という。
そう言われて背中に触れる。服越しから手を当てているのに、骨の形がはっきりと伝わってくる。その骨も折れそうなほど細い。体温も低い。いつ死んでしまってもおかしくない、枯れ木のような頼りない背中。
その背中に触れるたび、いつも「明日死ぬかもな」と想像してしまう。明日にはもう触れることができないかも思ってしまう。気分が悪い。
そもそも人の手が触れること自体、今のあいつには堪えるはずなんだ。死にゆく人間は生きている人間の刺激に弱い。耐えられない。本当は声を聞くのも、衣服に触れられるのも辛い。誰かが自分の背中に触れるだなんてまっぴらごめんだ。あついし、骨が立って痛む。いつだったかあいつがそう言っていた。
それなのに、あいつは俺に触れるようにとせがむ。背中に手を置いて欲しいという。
「君が自分の背中に触れてきた時、じんわりと触れてもらったところから、あたたかくなるのが好きだ。自分の身を案じてそっと大事に触れてくるところが好きだ。それだけで、自分は生きていてよかったと思えるよ」
あいつの肩から力が抜ける。ふっと、どこかへ消えていくような力ない後ろ姿が見えた。
「たとえ、これが生きるためには間違いであったとしても、明日死んでしまったとしても、それでいい。それがいいんだ」
あいつは勝手なやつだと思う。
抱きとめられず、添えるしかできない、それ以上はいけないと思っている俺の気持ちなんかちっとも知らないで、この世の誰よりも幸せなんだとあいつは小さく笑うのだから。
身分違いの恋って大変だね、と思った。今読んでる漫画の話。私は恋愛なぞ出来ないので、恋愛漫画で十分である。独身生活を謳歌するぞ〜!と決心を固めたところで話を戻す。
自分の判断に確証が持てないことが多いだろうに、御曹司が庶民の子と生きていくことを選び、生家を去っていった。これからは君と一緒にいるよ、って感じで話は締めくくられた。ハッピーエンドのように見えるが、これから二人は波乱万丈の人生を送りそうで恐ろしい。
御曹司、働けるか?もし庶民の子に捨てられたら生きていけるのか?って心配しちゃう。
だから、誰でもいいからこの二人の話の続きを書いてくれ。ハッピーエンドというのなら、二人が幸せに暮らし、相手を案じながら死にゆく時まで。
たとえ間違いだったとしても
「たとえ間違いだったとしても」
誤解だったと
理解はしても
好きと言われりゃ
気にもなる
陰で見守り
数日過ぎて
咲いた笑顔に
ほっとして
失敗と感じる
境界線は、どこだろう。
それが、過ちであったんだと
時が経つにつれ自分の中で
染み入るように気付く時もあれば
その場で、分かる事もある。
そして時には…
時には、たとえ間違いだったとしても
間違いだという自覚があったとしても
進まねばならない、道もある。
全て捨ててしまえと。
【お題:たとえ間違いだったとしても】
たとえば、本当に押したかったボタンよりもひとつズレた結果の自販機ジュース。連続購読中の新刊を買って帰ったら、本棚に並んでいた同じ背表紙。人間である以上誰しも一度は体験した事があるのではないだろうか。……いや、少し主語が大きすぎた。自分の現状を憂うあまりセンチメンタルになってしまっている。それは認めよう。
そこでわたしは漸く、スマートフォンの画面から顔を上げた。陽当たりのいいキッチンで動く広い背中を見ると、童話のキリギリスが思い起こされた。対してわたしは怠惰なアリである。視線を下げてもまだ寝巻きで、今日も寝癖が元気に頬へ下りてきてる。
「ねぇ、フレンチトーストはメープルでいい?」
思考に沈みきっていた間に、彼は調理を終えていたらしい。ほかほかと湯気を上げる黄金色のモーニングメニューに、思わず顔が綻んだ。
「ありがと。……」
彼がわたしを選んだことが、未だ何かの手違いだと思う時がある。というか、度々ある。
「もう。また悩んでるの?」
「! ……だってあなた、あの人の事好きだったじゃん」
自分でもわかるくらい拗ねた声が出た。どうやら思う以上に拗らせていたらしい。あまり目を合わせたくなくて、逃げるようにオレンジジュースの入ったコップを手にする。見かねたのか彼がやんわりと持ち上げようとする手を制した。
「きみを選んだことが間違いなんて、思った事ないよ。誰よりも心動かされるひとだって気付けた後から僕は、誰よりも幸せなんだから」
『それは消せない』
哀しみの毛布の中 心だけが泣いている 羽根を広げるのは今じゃない 鶫が私にそう告げた 消しゴムの消しかすばかりが増えてくよ 消えない消えない消えない 消えないじゃなくて消せないんだ そう気づいた朝 鶫は既にいなかった もう春なのにあの子は口を噤んだままだ
誰かにとっては正しくて、誰かにとっては間違い。
正義を貫こうとすることは、誰かを悪とすること。
苦しいことは無限にあるのだろう。
昔ほど視野は狭くない。だからこそ、見たくないものも見えてしまう。知りたくないことも知ってしまう。
正しいか間違いかの基準で判断出来るのは、実はほんの僅かで、
見えないところに、見たくない隠されたところに、間違いを一応良しとするものが押し込まれている。
誰かにとっての間違いを貫くことが、大切な人にとって正しいのなら、最後までやり抜くしかない。
一応良しとされているのなら尚の事。
苦しいことは逃げ道がないこと。
けれど、孤独ではない。
大切な存在がいることが幸せだと思う。
そのためにまだ頑張れると思えるなら。
たとえ間違いだったとしても
君と2人で生きること死ぬこと
それを否定されたくはない
7 たとえ間違いだったとしても
うさぎ「追いし」かの山、って歌、てっきりうさぎが「美味しい」んだと思ってた。そう言ったら「実際においしいよ。学生のころメキシコで食べた」と夫に言われた。私はメキシコのうさぎを食べたことのある人と結婚したのか、と思ったら、なんだか面白くて笑ってしまった。夫は不思議そうな顔をしている。その日のアボカドサラダはなんとなく、メキシコの味がした。
あいつがこいつの事を好きってことはわかっていても
俺は恋のキューピットになることは無かった。
あいつは俺の親友でこいつは俺の幼馴染だ。
キューピットになることは無かったって言うか
ならなかった。
あいつも俺も好きだったから
でも俺は彼女に告白することも、
手助けすることもなかった。
告白なんてしたら関係が崩れていくような気がして
あいつは彼女に告ったらしいが振られてしまったらしい
俺はあいつが振られるなんて驚いた。
勉強も運動も気づかいも出来るあいつを振るなんて
ありえなかったから。
心の中では、少しホッとした自分もいた。
それでも俺は彼女に告白することは無かった。
この選択が
たとえ間違いだったとしても
俺は彼女とのこの関係からの
終わりを告げることは無い。
それは、今もこの先も変わらないと思う
─────『たとえ間違いだったとしても』