『たそがれ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「君の表情が見えなくても」
太陽が沈みかけて濃い紺色の空。
雲の隙間から漏れる光。
山の上に建つ電波塔のシルエット。
まるで異世界のような風景を見たくて、車で山道を昇る。
日本で一番標高の高い場所にある道の駅。
駐車場に着く頃には、だいぶ陽が傾いていた。
「結構、人が多いね」
標高二千メートルからの夜景でも見るためなのか、満天の星空を見るためなのか、若い男女が多い気がする。
異世界めいた画像を撮りたいからと言う彼女みたいな人は少数派かもしれない、などと思いながら木道を歩く。
どんどん暗くなっていき、そろそろ携帯ライトを用意しておいた方がいいだろうかと思い始めた頃、ふと顔を上げてみると、そこには『壮観』という言葉が相応しい風景が広がっていた。
「これこれ。この風景よ」
彼女はそう言ってカメラを取り出している。
互いの表情は、もう見えないはずだ。
それなのに、彼女がどんな表情をしているのか、わかる。
夢中でシャッターを切る彼女にカメラを向けた。
────たそがれ
たそがれ時に君が地面に
寝転がって喉をならす
私はしゃがみこんで君をなでる
冷たくないの?汚れてしまうよ?
君はいつもおかまいなし
ゴロゴロと気持ちよさそう
私もそんな君が気持ちいい
黄昏
黄昏てるね
そんな言葉をよく耳にする
秋の夕暮れ、お似合いのことば
今までのことを思い出す
懐かしい匂い
乾いた風が鼻をかすめる
あの時楽しかったな、
あの時辛かったな、
好きだったあの人はどうしてるのかな
なんて、古い思い出を
またこの季節がやってきたのかと
夕陽に照らされながら、風を感じながら思ふ
戻らないからこそ
この思いに耽るときがどこか愛おしい
#27 たそがれ
清々しい青空が次第に茜色に染まっていく。
黄昏時だ。
金木犀香るこの時期の夕焼けはどこか懐かしく儚い気持ちになる。
仕事でも休日でもやることもなくダラダラと過ごした1日を忘れられるこの時間。
窓の外を見て1人想いに浸っていた。
「**君。またたそがれているのか」
太く低い落ち着きのある声。
「部長」
片手はポケットに手を入れて、もう一方の手にはコーヒーを持って立っていた。
「この時間になると何もかもがどうでも良くなってしまうんですよね…」
この人だけには本音を話せる。そんな人だった。
「どうでもいい…か…。君は今の人生をどう思っている?」
「どうって…?」
「私は必死に生きてきた。嫌いな先輩がいてね。その人には負けたくないと必死に足掻いてここまで来たんだ。もうその先輩は辞めていってしまったけどね。見返すことはできたんじゃないかな?」
「部長にもそんなことがあったんですね…」
「そうなんだ…でもどうだろう。その先輩を見返すために必死になって働いてきたけど、部長になった今は守るものも背負うものも多くなっただけで、あの頃のように必死になることは出来ない」
そう言って部長は持っていたコーヒーをゆっくりとひとくち飲み込んだ。
「だから**君。君には必死になれる何かを見つけて欲しいんだ。人生が黄昏れる前にね」
しぐれ
「たそがれ」
朝からぼうっとしていた。頭がゆらゆらで、水道水に触れると変にあったかいような冷たいような感じがした。
どうして今日に限って、あの人の授業が午後なんだ。それまで耐えないといけないじゃないか。
文句が浮かんでも、心は変わらない。私を動かすのはいつだってそうーー……。
すでに脳みそががんがんに揺れていて、身体が鉄骨みたいに重かった。ストーブの上で温めたような血が全身を巡るせいで、もう秋なのに暑かった。なのに容赦なく吹く風のせいで、寒気が背筋を駆けのぼった。
ようやく帰れると思った放課後、委員会に呼ばれた。会議室へ向かう階段の踊り場に、あの人が立っていた。
2階に吹き抜けのその空間はオレンジ色に染まっていた。その人は窓の外にいる生徒と話しているらしい。いつもの調子で明るい声で、ふと、上ってきた私に気がついた。
「おお、福井」
さよならと会釈をして顔を上げたとき、その瞳に捕えられた。
「きれい」
茶色い目が、長いまつげが、めがねのレンズが、たそがれ。
「……せんせい」
口が勝手に動いていた。
「好きですか、それとも嫌いですか」
とたん、足ががくんと折れた。リュックサックの重さに、身体が後ろに傾く。
先生の困惑した表情が一気に青ざめたのがわかった。手が伸びてきた。届かなかった。
視界がぐるんと上に回って高い天井が見えたあと、私の意識は途絶えた。
『彼女と先生』
夕方の終わり頃の写真を撮るのが好きだ。写真を撮るのが好きと言うと少し違うが、その風景を収めることが好きと言えばしっくりくる。
時にオレンジ、時に青、時にピンク、時に緑。その色達をどのように、どの角度から収めるか、考える。
写真を撮り終えると少しだけ、物思いにふける。
黄昏れる、などと表現する事があるが、多分それをしている。
こんなことをしていると、人生のたそがれを進んでいるようで少し気が引けるが、この歳ですべきでは無いことをしている私は、ある意味人生のたそがれを歩んでいるのかもしれない。
今日、久しぶりに綺麗な風景を撮ってみようかと思ったが、外は土砂降りの雨だった。
たそがれ
お久しぶりです、最近急に寒くなり始めましたので、体調管理にお気を付けてください
私はお腹を壊しました
たそがれ
たそがれどき
彼の者は誰か、と尋ねるほどに暗くなりつつある
あの仄暗さは、人を不安にさせる、と思う
足元が見えない、自分という存在がぐらつく感覚
こうなると、かえって自分の中の思いは、ちっぽけなものだと思えてくる
たとえ、此処で溶けても、誰も気にしない
そう思えると、ふっと軽くなる
それを人は「たそがれる」と言うのかもしれない
如何せん厨二病ちっくな表現だが、息抜きとしては有効ではなかろうか。
窓から外を見遣ると、空はもう黄昏れている。はー、やってしまったなー。やんなきゃだよなー。頭の中では文字だけがぐるぐる回っているが、体はずっと外を眺めてたそがれている。
あー、今日の夕ご飯、私が担当じゃん。ダメだ、絶対買い物行けない。この部屋では在宅ワークの人が夕飯を作るルールになっている。パートナーに謝罪のメッセージを送り、買い物を頼むことにした。
コルトレーンを聴きながら描いたイラストは上司の意見とは全く別のデザインになり、とりあえず提出してみたらあえなく却下を食らった。
ですよねー、さすがにあれだけ細かく指示もらってて、全然反映されてなかったら、そりゃ怒りますよねー。こう見えてもプロとしてちゃんと反省はしている。
落ち着け。設計図はもらっているようなもの。私のセンスなら1時間もあれば片はつく。今度は音楽も聴かず、集中して一気に仕上げる。ワタシ、ヤレバデキルコ。
クラウドに上げて上司に電話をかける。会社のコアタイムはもう過ぎている。私の不手際で上司を待たせるのも申し訳ない。
「おう、おつかれさま、もう仕上げたのか?」
電話に出た上司は上機嫌だった。
「はい!遅くなりました、クラウドにアップしてます」
「了解、明日確認するよ、遅くまでありがとうな」
今日中に、とは言われたけど、今日確認する、とは言われてない。まあ、そうだよね。
「はい、おつかれさまでした」
「あ、ちゃんと退勤押しとけよ」
急いでがんばったのに、ちょっと拍子抜けした。この緩さに助けられてもいるからなぁ。電話を切った画面を見つめたまま、勤怠アプリを起動して退勤ボタンを押す。
椅子にどんと深く腰を落とし、PC画面を見つめる。外は暗くなったが、いま作ったイラストの背景は黄昏ていた。
そのとき、カチッと部屋の鍵を開ける音がした。パートナーが帰ってきた。
「たそがれ」
湯船に浸かりながら、ここに今日は何を書こうと物思いに耽る
バスタブに背をもたれ足を伸ばし、肘置きに肘をつき無意識のうちにゲンドウポーズをとる
少しぼんやりして、ふと気付く
今の私、"世界で一番お姫様"なんじゃない?
「たそがれ」
秋=たそがれ
そんなイメージがあるけど
たそがれより食欲の秋でいたい
でも痩せたいw
#たそがれ
たそがれ
たそがれ、ねぇ。黄昏、黄昏時、黄昏れる。言い換えて誰そ彼時とか逢魔が時、古風な感じで暮れ六つとか。風景的な意味で使うか、本来の意味で使うか。いっそのことテーマの文言を使わずにテーマを表現するとか。
「見たことないぐらい難しい顔してる」
今日のテーマを見て、ぶつぶつと独り言を言っていたようで。そういえば君のリクエストで近所のファミレスに来ていたなと現実に意識を戻す。君は別に怒った風もなく「そんな難しい顔出来たんだね」と何やら失礼な評価をくれていた。
「そんなことある?難しい顔してることあるでしょ」
「ないよ、いっつもぽや〜ってのほほ~んってしてる」
「そうなのか……」
言われて少し考えてみたけれど、そもそも好意を持っている相手と一緒にいて、そんなに気難しい顔をする人も珍しいのでは。きっとその人はとんでもなく照れ屋さんで表情筋を一所懸命引き締めてるだけの人だったりしない?しないか。でもそう言われると何だか自分が締まりのない顔をしていると言われているみたいで不服です。
「締まりはないんじゃない?幸せそうな顔しやがってとか最近よく言われてるし」
「言われるけどしょうがないね、幸せだもん」
「そういうとこじゃない?」
元々飲み屋というか、君とはバーで知り合った。自分はアレルギーがあってお酒は飲めないけれど、キャストの人達が面白くてお客さん達がいい人達で、気付いたら通い始めて数年は経っている。知り合ったのは4年ぐらい前だけど連絡先を交換したのは今年の4月だと言うのは掴みとして最高で、その間に3回フラれたけど結婚予定です付き合ってはないですけどねという鉄板ネタが完成して今に至る。変なの。
「今日のテーマが『たそがれ』なんだよねぇ」
「書けないなら書かなきゃよくない?」
「書きたいじゃん、自分じゃ考えないテーマだし」
君は創作を生業にしていて、この手の話には理解が深い。自分はただの趣味でやっているだけだから、そうなるのは必然なんだけど。結局ファミレスでは『たそがれ』というテーマで筆が乗ることはなかった。
ぼーっとした感じで権力者が地面に座っていた。周りにベンチがあるわけではないけれど、地面に座ってると少し不安になってくる。
「権力者」
「…………ん?」
隣に座りながら話しかけると少しだけぽやぽやしたような顔でこちらを向いた彼女は頭にはてなマークを浮かべている。
「……大丈夫かい? 何か、疲れていたりするのかい」
「……んーん、へーき」
言葉と裏腹に発言が全部ひらがなのような気がする。ふわふわしすぎじゃないか。
「…………本当に大丈夫かい?」
「ちょっとつかれちゃっただけ」
「疲れてるじゃないか」
「…………え〜?」
本格的にダメそうだった。
「こんな場所でたそがれてないで家に戻った方がいいんじゃないか」
「いえにいるとばれちゃう。ここならね、わかんないんだ」
何の話だ、バレるとは。住人に意思なんかないだろう。ほかの場所は他の人が管轄してると言っていたしそういうことか、他の人にバレるってことなのか。
「…………せめて横になれるところにいたらどうだい」
「わかった」
大きく、大袈裟に頷いたと思ったらこちらに思い切り倒れ込んできた。意図せず膝枕の状態になる。
「……な!?」
「ちょっとだけだからね?」
「なんでそっちが『やってあげてる感』を出してるんだ」
僕の声に彼女は返事しなかった。目をつぶっているから寝てしまったかもしれないし、正気を取り戻してどうやってここから挽回しようかと思考を巡らせてるのかもしれない。
まぁ、甘えてくるのは珍しいからと少しの間こうしてあげることにした。
「たそがれ」
毎日公園に通った。
落ち葉やどんぐりで料理を作ったり、
かくれんぼやおにごっこ、シャボン玉に砂遊び。
滑り台やブランコ、次から次へとやりたい事が出てくる。
いつもの遊び友達も、はじめてと子も一緒に遊ぶ。
けんかもあるし、けがもする。
それでも、毎日公園に通った。
「もう帰るよ」「まだ帰りたくない」
何度かの攻防のすえ、ようやく帰途に着く。
どこからか漂う夕食のにおい。
「お腹減った」「今日の晩ごはん、何?」
毎日同じやりとり。
満足そうな笑顔。
ぎゅっと握られた温かな手の感触。
永遠に続くように思われた日々も振り返ればほんの一瞬。
幸せな一瞬。
たそがれる、と言う言葉がある
物思いに耽るとか、誰かのことを考えて、ぼーっとしているとか、そんな意味があるらしい
でも、正直いって、たそがれてるのか、ただただぼーっとしてるのか、わからない
だから、すぐに「なにたそがれてんの?誰のこと考えてたん?」とか言ってくるの、やめてほしい
まぁ、たそがれてはいるんだけども、それを周りに言ったら、めんどくさいから
あの子は今、幸せなのかなとか
あの子は、後悔していないかなとか
あの子は、なんでいなくなってしまったのかなとか
もう会うことのない君を、今でも想っていて、
それでたそがれてました、なんて、言える訳ないし
「ただ、ぼーっとしてただけだよ。たそがれてなんか、ないよ」
残暑の昼も過ぎ、太陽が西に沈まんと傾いていた。それにつれて周囲の色も明るさをなくしてゆき、目はだんだんと物の境界を見失っていった。
いよいよ空も暗くなり、空に少し残った雲に、波長の長い赤を中心とした色が映っていた。
たそがれどき。他は誰そ。彼は誰そ。
「そちらに行くと危ないよ」男の声に引き止められた。
川の土手、誰もいないはずだった。
声の方に目を向けると、丁度沈みかけた太陽の方向だった。逆光で容貌がわからない。若い男のようだが、どうか。
「蟹でも捕るの?あっちの橋桁の方が良さそうだけど」
「べつになにも……」洋子は俯いて答えていた。「なにもかも、もういいかな、って」
終わらない家事、考え続けなければならない献立、パートでは最初の話とは違う仕事もさせられていた。疲れているのに家では何もしない夫と子供が、やりきれなかった家の管理に文句を言う。洋子の疲労は察してくれない様子だった。自分の現状を伝えようにも、家族の役割を変革する過程で起こる面倒に、洋子の気力は耐えられなさそうだった。
「このまま川に入れば、楽になるかなって」
虚ろな眼差しで川を見る。2キロほど下れば海に届くこの川は、川幅が広く流れも緩やかだった。川面を魚が跳ねる。
「ふぅん、楽にはなれないと思うけど」
声をかけられたせいで、先ほどまで僅かにあった気力も失われていた。近くの大石に腰を掛ける。空は黒さを含み始めていた。
「あれ、入らないの?」なんてとぼけたことを言う。
「その気も無くなっちゃった」と呟く。
遅かれ早かれこの世を去るだろう。今回は止められてしまったけど、また気力が増えた時に誰もいなかったら、わからない。
「寿命の前に死んじゃうとさ、どうなるか知ってる?」
え、と顔を上げる。角度の下がった太陽はもう彼を照らさず、闇が落ちかけているのでやはり顔は判然としない。
「そんなこと考えたこともなかった…どうなるの?」とにかく目の前から逃れたい、その一心だった。
「漂うのさ、その辺に。誰にも気づかれずにいつまでも」
ざあ、と風が木を揺らす。昼の暑さが幻だったかと思うような冷たい風。
「自分が知ってる誰か、そうだな、例えば君の息子とかが、なにかに挫折して川に来る。でも漂う君がそれを見つけたとしても、彼は君には気付かないし、君だって何一つしてやれない」
ああ、そうか。助けてあげられないんだ。そう思うと、ふいに家に帰りたくなった。
「例えば君の夫が洗濯物を取り込まないうちに雨が降っても、君は取り込めないし」
そうだね、私がいないとあの家は滅茶苦茶になるだろう。これまで必死に維持していたあの秩序が、易易と崩壊してしまうのは悔しい。
「ありがとう、少し落ち着いた」
「それは良かった。和史くんと大和くんにも話をするといいよ。君の負担を少しでも減らすんだ」
え、なぜ夫と子供の名前が、それよりも私、この男に息子がいるなんて話をしたっけ、とハッとして顔を上げると、そこには誰もいなかった。
すっかり日が暮れて、あたりにはまだ少し明るさが残っている。彼のいたところには窪みすらない。
そうだ、あの話し方。大事な時に限って茶化すような話し方をする。覚えがある。あの日は大雨だった。
「兄さん……」洋子が呆然と呟き、やがてどっぷりと日が暮れ光が差さなくなった川面から腰をあげた。
・3『たそがれ』
リビングの窓から入る夕暮れの光が逆光になり
おかんは真っ黒でよくわからない。
電気を付けてない。
「おかん?」と声をかけると抱いていた猫が腕から逃れてオカンに向かった。
電気を付けるとオカンじゃない女がそこにいた。
「は?」
俺は頭が真っ白になった。
【続く】
黄昏色に染まる貴方を見ていると
ふと隣にいるはずなのに遠く感じる時がある。
何を考えて何を想っているのか
距離は近いはずなのに心が遠い。
そんな気持ちになる。
過去のあれこれに
まだ憧れ
もう一度と心焦がれ
気づけば夕暮れ
たそがれ時に君の最後の声を聞いた。
今どこで何をしているのだろうか。
元気でいてくれたらと思う。
誰そ彼時、貴方が誰か私は知らない。
何だかとっても懐かしいような、それでも私は貴方を知らない。
嗚呼、お隣のタケ爺ちゃんか。
何だか早く家に帰りたいなあなあんて思う。
「お家に帰らないと」
「何言ってるんだ、お前の家はここじゃないか」
タケ爺ちゃんは眉を顰めて私を諌める。
私の家はここじゃない、山向こうのもっと緑の深まった所。
「母さんが待ってるの」
「お前の母さんはとっくになしになってるだろう」
タケ爺ちゃん、何でこんなに意地悪言うの。
誰そ彼時、貴方が誰か私は知らない。