たそがれ
たそがれ、ねぇ。黄昏、黄昏時、黄昏れる。言い換えて誰そ彼時とか逢魔が時、古風な感じで暮れ六つとか。風景的な意味で使うか、本来の意味で使うか。いっそのことテーマの文言を使わずにテーマを表現するとか。
「見たことないぐらい難しい顔してる」
今日のテーマを見て、ぶつぶつと独り言を言っていたようで。そういえば君のリクエストで近所のファミレスに来ていたなと現実に意識を戻す。君は別に怒った風もなく「そんな難しい顔出来たんだね」と何やら失礼な評価をくれていた。
「そんなことある?難しい顔してることあるでしょ」
「ないよ、いっつもぽや〜ってのほほ~んってしてる」
「そうなのか……」
言われて少し考えてみたけれど、そもそも好意を持っている相手と一緒にいて、そんなに気難しい顔をする人も珍しいのでは。きっとその人はとんでもなく照れ屋さんで表情筋を一所懸命引き締めてるだけの人だったりしない?しないか。でもそう言われると何だか自分が締まりのない顔をしていると言われているみたいで不服です。
「締まりはないんじゃない?幸せそうな顔しやがってとか最近よく言われてるし」
「言われるけどしょうがないね、幸せだもん」
「そういうとこじゃない?」
元々飲み屋というか、君とはバーで知り合った。自分はアレルギーがあってお酒は飲めないけれど、キャストの人達が面白くてお客さん達がいい人達で、気付いたら通い始めて数年は経っている。知り合ったのは4年ぐらい前だけど連絡先を交換したのは今年の4月だと言うのは掴みとして最高で、その間に3回フラれたけど結婚予定です付き合ってはないですけどねという鉄板ネタが完成して今に至る。変なの。
「今日のテーマが『たそがれ』なんだよねぇ」
「書けないなら書かなきゃよくない?」
「書きたいじゃん、自分じゃ考えないテーマだし」
君は創作を生業にしていて、この手の話には理解が深い。自分はただの趣味でやっているだけだから、そうなるのは必然なんだけど。結局ファミレスでは『たそがれ』というテーマで筆が乗ることはなかった。
10/2/2024, 12:24:00 AM